表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/109

アーサー・ストロイエという男


 死の間際だからか、昔の事が思い出される。


私には可愛い息子がいる。小さい頃のステファンは素直で優しくて少し引っ込み思案で、自慢の息子だ。

あの子が幼い頃に妻を亡くした。あの子のためには母という存在を作った方が良かったのだろうが私は妻を愛していた。再婚など考えられない位に。


私には領地経営の他に大事な役割がある。魔の森の管理だ。広大な森に入り魔獣を討伐していくのだ。可愛い息子を危険な目に合わせない為と思えば何日にも渡る野営生活や命をかけての魔獣討伐も苦ではない。むしろやればやるだけあの子が安全でいられると思えば進んで森へと入るだろう。


しかし私が森に入っている間、あの子には寂しい思いをさせている。使用人には気にかけるよう話しているが元来優しい子だ。迷惑をかけたくないと甘えることはしないだろう。

何度か夜中にあの子の部屋へと入った事がある。嵐の夜や怖い夢でも見た後なのだろう。ベッドの上で縮こまり布団に包まって1人で寝ていたのだ。たまに魘されたりしながら…。それ以降、たまに私は嵐の夜等、ステファンの元へ行き、ステファンの手を握り頭を撫で小さく子守唄を歌った。


 この子が怖いものから守られますように。



 この優しい子が幸せな人生を歩める様にと私はステファンに親友のリリカル公爵の娘との婚約を頼んだ。娘のマリア嬢には見過ごせない欠点があったがそれ以上にこの婚約には利点があった。

ステファンは魔法も剣術も人並み以上だ。しかし元来の優しい性格から魔獣討伐を不得手をしていた。

魔獣討伐とは討伐するだけではない。必ず誰かが怪我をするし、死ぬことだってある。そういう事に慣れていかなければならない。

そこで私は私が動けるうちは私が魔獣討伐を、私が動けなくなった時には同じく魔の森の管理をしているリリカル公爵が魔獣討伐の手助けをしてくれる事となっていた。

魔の森の管理者として甘やかすべきではないと思っているが私はあの子に幸せになってもらいたいのだ。魔獣に怯えず健やかに。

マリア嬢の事は私が目を光らせ教育していくつもりだ。公爵令嬢としては些か下品で節操がなく低俗な人間だ。ステファンが愛せないと言うのならば子を設けた後離婚しても良いのだ。


しかし何故あんなに立派なリリカル公爵にあんな娘が出来たのか、さっぱり謎だ…。



 

 私の計画に狂いが生じたのはリリカル公爵が病魔に襲われた頃からだ。息子の次期当主もマリア嬢と同じく俗物だ。ステファンの助けにはならないかも知れない。しかし婚約は後に引けない状況となってしまった為、私が目を光らせて行くしかあるまい。



 最初は小さな違和感だった。咳が止まらないとか、少し動いただけで息が切れるとか。

まさかと思いながら魔獣討伐を進めていると、ある日血を吐いて倒れた。診断の結果呼吸器の病だった。それも治らない。あの子を残して逝くのか?あんな節操のない女を残して…。ステファンに申し訳ない思いでいっぱいだ。

あの子は婚約を解消したいと訴えてきたのに。私が自分を過信してあの子意見を退けたのだ。


案の定、第一子となった子に疑惑が生じた。しかし私には分かる。あの子にはストロイエ家の魔力がある。今までにもストロイエ家には黒髪の者も黒目の者もいたのだ。あの子はステファンの子に間違いはない。


しかしステファンに聞く耳を持ってもらえない。

当たり前だ、あんなに反対した原因がこれだったのだから。私がいくら言ってもステファンの耳には入らない。魔力鑑定の結果、間違いなくステファンの子供だった。しかし頑なになった心にはもう届かない。



 仕方なくジルに後の事を頼んだ。私はもう永くない。話をするだけでも苦しくなり、力が入らない。


あぁ…、ステファン…、わたしの可愛い息子よ。

私がお前を不幸にしてしまった。

笑顔を曇らせてしまった。

それでも、どうか、どうか幸せになっておくれ。

またあの優しい笑顔で過ごしておくれ。

この先誰かがあの子と共にいてれくれますように。


私の愛する妻と愛する息子よ。どうか幸せに…。


 ステファン、愛しているよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ