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現代ダンジョンで吸血鬼と共に  作者: kurobusi
闇の中で生きる者

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the arrival of a monster その2


あの日は自分の眼を何回疑ったか分かんねぇなぁ。


突然の地震。急に生えてきた幽霊屋敷。そこから這い出てくる動く死体とデカ鼠、錆びた武器を持った泥人形の群れ。

そんな異常事態に見舞われた市民の皆様は金切り声をあげて、住処のマンホールに殺虫剤ぶちこまれたゴキみてぇにパニクりながら市民の皆様は必死に逃げてた。病院の近くにいた人らは中に逃げ込もうとしてたな。まぁ当たり前だわな。オレも当時は建物の中にいた方が安全だよなと判断してたしそうしたかった。


おう。できなかったのよ。組長(オヤジ)がさぁ、病院になだれ込んでくる人の波に逆らって外に出て、ズンズンと化け物屋敷の方角に歩いてくんだもの。


いや止めたよ?そりゃあな。


組長(オヤジ)!?なんで!?こんな時になんで外にでっ……ていうか何でよりによってバケモンの方に行くんですか聞いてますか組長(オヤジ)!?危ないですよ!?』


五月蠅(うるせ)ぇ』


全く聞く耳を持ってくれなかったんだよな。いや入院する前からガッチガチの頑固者ではあったけど……その日は輪をかけてそうだったのよ。

さっきまであの世に肩まで使ってたような爺さんだからボケてんじゃねぇかと思ったんだよな。そうじゃなきゃあんな有様になってる外に出ていく理由が無いし。

でもそれにしちゃ足取りやら目線が異様にしっかりしてるし、何かそっちの方角に切羽詰まった用事でもあんのか、それは今じゃねぇといけねぇのかとか色々考えてた。


『……いい加減にしろよジジイ……!!』


病院のやたら広い駐車場を抜けて、逃げる人混みも抜けてまだ比較的人気のない細道にさしかかった時位だったな。もう二人がかりで無理やり引き摺っていくしかないかと考えてたら、後ろからドスの効いた太い声が聞こえてきたのは。

すぐにウチの若頭の声だっていうのは分かった。マジで切れてるっていうのもな。


振り返ると、どこに隠し持ってたのか刃渡りのごつい……狩猟用のナイフだったかあれは。猟師が仕留めた獣バラす時に使うような奴。

確か、いつだったか牛尾組の若いバカが手柄を上げてやろうと、独断で手間暇かけて猟師をカタに嵌めてよ。猟銃を頂こうとしたら罠専門で銃持ってなかったから“せめてこれだけでも取ってきました!”って持ってきたやつだったな。滅茶苦茶シバかれてたな懐かしい。


とにかく、綱張のカシラはそういう刃物の柄を握りしめて、広いデコに血管を浮かべてた。


『やっとくたばんのかと思ったら、なんか急に立ち上がって、なんなんだよマジで。なんなんだよこの状況よぉ』


オレ達(ヤクザ)がこういうの持ってたらあっという間にしょっ引かれるから普段は持ち歩かない様にしてたんだけど、それでもわざわざ病院に持ち込んだ理由は……組を欲しがってたカシラのことを知ってりゃ察するのは難しくなかった。短絡的だよな。


『ちょ……マジで?今?待ってくださいよ』


いやもう、マジでこの言葉に尽きるね。異常な環境で色々抱えてたもんが弾けたんだろうけど今爆発する?やめて?って感じだった。

奇跡的に逃げまどう人の波が途切れて周りに目撃者がいなかったのは不幸中の幸いだったよ。


とにかく、全く意図してた形じゃなかったけど組長(オヤジ)の足は止まった。振り返ってカシラの方を見てた。そんで、ゆっくり自分に向かってナイフを突きつけるカシラの方に歩いてきた。

……でも、今思うとカシラ自身は眼中になかったんだろうなぁ。多分“丁度いい”くらいにしか思ってなかったんだろうぜ。



『ジジイ……オレはなずーっと我慢してきたんだ。テメェのワガママにも──無能な下っ端にも金を出し渋るっうぇ”っ』


『……えっ?』


多分、最後の方は一次団体の文句をぶちまけたかったのかな。言い切れなかったけど。

その前に組長(オヤジ)の方に突きつけてたナイフが顔面にぶっ刺さって頭の後ろまで突き抜けたから。


とんでもない早業で、組長(オヤジ)が突きつけられたナイフの切っ先をカシラの手首ごと曲げて突き刺したってのを理解するまで時間が掛かったぜ。



組長(オヤジ)はそのまま血塗れのナイフを抜き取って──自分の方に倒れ掛かってくるカシラの太い身体を邪魔くさそうに蹴っ飛ばした。魂の抜けたカシラの身体は空気の抜けたゴムマリみてぇにちょっと転がって、止まった。


『いや……組長(オヤジ)……』


オレの言葉なんてまるで届いてる風じゃなかった。

ただ、これからやろうとしてることに“丁度いい”と判断して取ったナイフと、返り血塗れになった自分の服を交互に見て『チッ』って一回だけ舌打ちをして──


『黒田ァ』


オレの名前を呼ぶと“近くに寄れ”ってクイクイ手招きしてきた。


『…………組長(オヤジ)。待ってください。カシラが今やらかしたことにオレは全く関与してません。誓って──』


『殺すぞ。早く来やがれ』


あんな……なんのシャレにもなってない“殺すぞ”は久しぶりに聞いたぜ。説得力が無限にあった。

一線を超えた暴力に何の躊躇いも無いってのを目の前で見せつけられてるワケだからな。

戦争から生きて帰ってきた身で長年ヤクザやってるだけはあるわ。


逃げられる気もしなかった。もうそうなると覚悟を決めるしかない。

震えを何とか隠しながら、おずおずと歩いて、オレは組長(オヤジ)の傍に立った。背中にいやな汗が伝うのを感じながら。


組長(オヤジ)は……そんなオレに向かって、カシラの血と脳漿らしきモンが滴るナイフの腹を向けて、オレの腹に押し当てて──


オレのシャツを捲り上げると、それで血に染まったナイフをぬぐった。拭く場所を変えて何回も。

そうして白いカッターシャツに真っ赤なラインを四本くらい作ると、手を離した。


『しゃあねぇな』


その時は何がしゃあねぇのか、仕方ねぇのか分からなかったけど、多分拭き上がりにちょっと納得がいってなかったんだろうな。

せっかく返り血だらけになった自分の服じゃなくて新しい布使ったのにイマイチだって。


ボーセンとするオレを尻目に、組長(オヤジ)はまたズンズンと歩いていった。

いつの間にか再開してた、逃げる市民とそれを襲う化け物共が混ざってできた津波の方に。


頭の整理がつくまでちっと掛かったけど、オレも急いで組長(オヤジ)の後を追いかけた。




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