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現代ダンジョンで吸血鬼と共に  作者: kurobusi
闇の中で生きる者

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the arrival of a monster その1



あれはそうだな。海外でダンジョンの出現が確認されてからちょっと経ったくらいの……日本でもダンジョンがチラチラ出てきた頃の話だ。

あの時期は警察がダンジョンだの魔物だの異世界人だのの対応で忙しくてたから、こっち(ヤクザ)としては動きやすかったぜ。


まぁ、つまりだ。絡まれることが少なくて仕事とか……入院してる組長(オヤジ)の世話とかがな。やりやすかった。

例の日も着替え持って病院に行ってたんだ。


『何だ黒田ぁお前も来たんかよ』


『あぁ……綱張(つなはり)のカシラ。お疲れ様です』


病室には綱張っていう、元相撲取りの若頭が先に来てた。暇そうに窓際に座ってた。

ん?あぁ、傷害起こして部屋から追い出されたんだと。しごいてもらってた先輩の頭ビール瓶でかち割って、割れた瓶で腹をグサリ。新聞にも載ったって武勇伝を耳にタコができるくらい聞かされた。わざわざスクラップしてんだぜ?記事。

まぁ良い兄貴分ではないわな。性格も頭も。


……そうそう。何でそんなのが殊勝にも見舞いに来てんのかって話だよな。

多少なり子分としての義理とかはギリギリあったんかもしれねぇけど。あっ義理だけに?

……………まぁ一番はアレだな。組長(オヤジ)が死んだら、イの一番に一次団体へ知らせるためだ。そうすりゃご褒美も貰えるしそれが目当てだったんだろ。うん。

牛尾組はオヤジから眼を離さないために作られたようなモンだからな。おっちんだら上の人もやっと重荷を下ろせるわけだから心待ちにしてたんだろうな。


ん-?ああ、さっきも言ったけど、オヤジは昭和の頃から筋金入りの悪党で、戦地から帰ってきた後もその気性に任せて暴れ回ってたトコを戦後のヤクザに引っ張り込まれた。鉄砲玉としてな。


で、そっからの活躍なんだけど……鉄砲玉って呼ばれる意味は知ってる?

そうそう、さっき言ってた通り殺し屋の隠語なんだけどよ。鉄砲の球は撃ったら戻ってこねぇだろ?つまり、生きて帰ってこれねぇ修羅場に撃ち込まれる奴って認識でもあるんだよ。

実際、オヤジを拾った組、西龍会(せいりゅうかい)はそうしていつかは使い潰す腹づもりだったみたいだな。


でも、組長……牛尾源一郎(うしおげんいちろう)はどんな場所に撃ち込まれても、どんな奴にけしかけられても帰ってきた。

ナワバリで好き勝手するチンピラ程度はモチロン、組のシマに手を伸ばした他所の組員共。

自分の組員がやられた報復合戦の末に起きた抗争でも、死屍累々の現場で牛尾のオヤジだけがピンピンして敵を細切れにしてたらしい。


そうなってくると組の中でもかなり名前が売れてくる。ハクがついてくるんだな。

んだが、組の上層部はそれを良く思わなかった。

どっかで死ぬことを前提に使ってたから、色んな仕事をさせてたんだ。


例えば、内容を他所にタレこめば組の地盤を揺るがすような仕事もな。とある政治家からの、邪魔な人間を“どうにかする”秘密裏の依頼とか。

つまり、牛尾源一郎は殺し屋として優秀過ぎて組の弱みをガッツリ握り込んじまったんだな。


そうなってくるともう組としては死んでもらった方が助かる。でも体面上、組に貢献してる人間を直接殺ろうなんてのはメンツに関わる。

だから、ある命令をオヤジに下した。

抗争の発端になったオヤジにケジメを取らせるって名目で、敵対する組員が百人単位で詰め込まれてる事務所に突っ込んでボスの首取ってこいってな。要するに死んで来いってことだな。

で、結果は分かってる通り五体満足で戻ってきた。しっかり仕事を果たして。


その後も色々工作はしてたみたいだけど、全部失敗。一次団体の西龍会は悩みのタネを抱え続けるハメになりましたとさ。

で、そんなオヤジをせめて監視するために作られたんが牛尾組だ。本人は組持たされんの嫌がったらしいけど功績上断れなかったんだと。何となく意図は理解してたみたいだな。

まぁ結局そのタネが弾けることはなかったんだけど。タイミングが無かっただけなのか元々その気がなかったのかは組長(オヤジ)に聞いてみねぇと分かんねぇけどな。個人的に推測するなら多分後者な気はするなァ。性格的に。


で、まぁそんな組長(オヤジ)も寄る年波には勝てなかったみたいで、ある日事務所で酒飲んでたら急にぶっ倒れた。受け入れ先の病院探すの大変だったぜマジで。

入院してからも苦労したけど。

病院に担ぎ込んだ段階では、ガンの病巣はまだ外科手術に踏み切ればなんとかなるかもって話だったんだがそれを組長は意地でも了承しなかったんだよ。


『この“墨”に手ェ出したら蟹の餌にしてやる』って。助けてくれようとしてる先生になんて言い草だよなホント。先生ちびりそうな顔してたよカワイソウに。


結局首を縦に振らなかった。おかげで順調に弱っていってな。オレと綱張のカシラが見舞いに行ってたこの日に至ってはもう自力で喋ることもできなくなってた。眼も開かなくてヤニだらけよ。


『もうよ、切っちまいてぇなぁ』


『何をです?』


『なんかこの、チューブが繋がってるよく分かんねぇ機械の電源をよぉパチッと切っちまいてぇ。組長(オヤジ)は楽になる。オレぁ牛尾組の跡をやっとこさ継げる。いいことずくめじゃねぇか』


『……まぁまぁまぁ、気持ちはよーく分かりますけど。あんまり証拠が残るようなマネしない方がいいですって。後々マズイことになりますよ』


『なんだよ。お前だって出世できるんだぞ?』


今思い出すと、こん時の自分を褒めてやりてぇ。“アンタの元で出世してもたかがしてれるだろ”を顔に出さない様によく頑張ったなって。そもそも、目的がアレだから組長(オヤジ)が弱るにつれて人員も削られてた組引き継いでも仕方なくね?って言うのもこらえてエラかったな。


『もしそうしても病院の奴らも証拠探しなんてするかね?厄介払いができて助かるんじゃねぇか?』


『ちょっとカシラ……』


『このジジイが長生きして誰が喜ぶってんだ。誰にも望まれてねぇ。誰も望んじゃいねぇ。当の本人すらそうじゃねぇか?何のために管だらけになって苦しんでただ生きて──』



もう聞こえてないだろうからって綱張のカシラが好き放題ぬかしてた頃だったな。

──足元がおぼつかなくなるくらいのでっかい地震が起きたのは。


『お?お!?おお!!?』


ガッシャンガッシャンと棚が揺れて中の瓶とかが割れたのよく覚えてる。一瞬電気が消えて、すぐに点いたのも。

“あ、マジで病院って予備電源あんだな”って変な感心したのも覚えてる。


『おいおいおいおい黒田!?おい!?なんだ!?──ああ!?なんだコレ!?なんだアレ!?』


『いや地震でしょ!?非常口に急がなきゃっ』


『ちげェわバカ!外見ろ!──なんだよあの、バカでかい建物!?』


そこでやっと気づいたんだが、地震のせいで窓ガラスが枠ごと取れちまって外が丸見えになってた。そっから見えたのが──


『……ええ?なにアレ?クッソでかいラブホ?』


『んなワケあるかバカかお前!無かっただろうがよあんなの!?』


……しょうがねぇだろあんな洋風でデカい建物ラブホ以外であんま見なかったんだから。


とにかく、そこにあったのは洋館だった。ラブホ以外で例えるなら、ホラー映画で主人公がキモダメシか雨宿りの名目で入り込む感じの、横に広くてデカくて、そのくせ人の気配を感じない……だけどそれ自体が生きてるみたいな空気を出す、不気味な屋敷だった。


鬼月でも流石に知ってるだろ。吐叶市に出てきた三大大規模ダンジョンの一つ、幽霊屋敷の庭泥亭(ていでいてい)だ。


そん時はワケも分からずただボーっと突然生えてきたお屋敷を眺めてた。そしたら──


『……あ?おい。なんか出てきた──く、クマ?灰色のクマ?』


『いや熊……熊じゃないっすよ。鼠?アレもしかって魔物ってヤツじゃないすか!?』


『マジで!?クマ位でっけえぞ!?──うわっ、え?人間?違う!何かマネキンみたいなのと……ガイコツ?ガイコツも出てきた!歩いてんぞ!』


お前も覚えてんだろ?鬼月。異常繁殖(スタンピード)の第一波だ。

当たり前だけど焦ったぜ。すぐ傍に化け物の大群が押し寄せてきてんだから。


でも、こっからだった。本番は。


現実離れした光景に脳ミソがパンクしかかってたが、そこでやっと組長(オヤジ)のことを思い出してな。振り向いて様子を見た。

地震の影響でベッドからほっそい腕がずり落ちて転落防止用の柵の間に嵌ってた。チューブも変に曲がって呼吸器もズレて外れてた。

こりゃまずいとナースコールを押そうとしたんだ。


けどよ。


『──あ?』


腕が動いたんだ。もう反射でも動くことが無かった腕が。

しかも、だ。


『…………綱張の、カシラ?組長(オヤジ)……』


『なんだよオイ!?もうそのジジイがなんだって──』


組長(オヤジ)、なんか膨らんでません?』


『は?』


メキメキ、メキメキってベッド柵がひん曲がる音が聞こえるんだ。筋肉が盛り上がる組長(オヤジ)の腕に負けて。

点滴の管を止めるテープがハリを取り戻していく皮膚に負けてバリバリはがれてく。チューブが弾けて外れてく。

すっかり細くなった組長(オヤジ)の身体に合わせた服が、肉に押されてサナギの殻よろしく破けていく。


──そんで、最後に、もう長いこと開かなかった眼が、バッチリと開いた。


組長は、ぶっとくなった腕で身体にくっついた管を引き千切って、上裸のまま起き上がった。まるで今の今までの死に掛けだったことなんて忘れちまったみてぇな力強い動きで。



『黒田ァ。(おれ)の着替えを寄こしやがれ』



オレはよく覚えてるよ。

その時、組長(オヤジ)の入れ墨がぼんやり光ってたのを。



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