ダンジョン探索部、爆誕す 13
ジュエルゴーレムとの戦いが終わった。
宝石の魔力が生み出した仮初の肉体は消えて、輝かしい大粒の宝石だけが残された。
永劫の金剛石。
鉱脈に眠り、山の魔力をたっぷりと浴びてきたダイヤモンドだ。
我らが探し求めていた宝物の入手を喜ぶより先に、重苦しい問題を解決しなければいけなかった。
「言っておくけど、わたしは永劫の金剛石を探すことが目的で暗黒領域から出てきたわけじゃないし、人間の学校とか国を攻撃するためにいるわけでもない。そこは信じてほしいんだ」
トリアナイトちゃんが自分の来歴を話す。
と言っても、父親が国王アーガイラムであることや、我がソルフレアの生まれ変わりと気付いたことなど、要所要所は隠している。
「ええと……歌って踊れる男の子をしているのは完全に趣味なんですか?」
シャーロットちゃんが困惑しながら尋ねた。
そこから聞くんだと笑いそうになるのを堪える。
「最初は旅人をしてても怪しまれないカムフラージュのつもりだったんだけどね」
「いや、怪しいのじゃが?」
「そんなことないよぉ! みんな可愛いって言ってくれるもん!」
可愛くて怪しいは両立すると思うのだが、トリアナイトちゃんには譲れぬ一線のようだ。
「……人間を害するつもりは……本当にないのですね」
シャーロットちゃんが真面目な表情で問い糾した。
「ないない! 絶対ない! 人間好きだもん! ていうか巨人とか魔物のほうが野蛮だしぃ……できればずっとこっちで暮らしたいくらいだしぃ……」
トリアナイトちゃんが慌てて首を横に振る。
「あなたの美声と美貌で人間を籠絡するというつもりもないと」
「ええー、わたしがサキュバスとかセイレーンに見えるのぉ?」
なんかげんなりしておる。
例えられて嬉しいところではないのであろうか。
「可愛い振る舞いをしておいて、一緒に見られたくないのじゃな」
「全然違うし! えっちなことなんでもして気を引くようなのと一緒にしないでよね!」
けっこう本気で怒った。
「確かに……そういうものとは違う類に見えますが……ですけど、私たちがイメージする魔物とは、その、趣が違っていてどうにも」
シャーロットちゃんが困惑している。
魔物とこうして膝を突き合わせて語り合うなど、初めての経験であろう。
ブレイズくんなど何をどう言えばいいかわからず固まっている。
「あの、ソルちゃんは……どう思いますか?」
うーむ……シャーロットちゃんの問いかけに、どう答えるべきか悩む。
我は今、人間として魔物をどう思うかを問われているが、曲がりなりにも今の我は死体啜りの森の主だ。どうあっても庇うような物言いになるし怪しまれかねぬ。
「……我の実家、アップルファーム開拓村は暗黒領域に近い。魔物もよく出る。基本的にはパパを中心とした自警団が討伐しておったのだが」
「確かに、結界のすぐ近くでしたね」
「魔物は危険であることには変わらぬ。牙と爪をもち、争い、競い合う」
トリアナイトちゃんが「えっ、裏切る気!?」みたいな目で見てくる。
どうどう、落ち着くが良い。
「だが人間もまた武器を手に取り、争い、競い合う。少しばかり形が違うだけではなかろうか。人とか魔物とかよりも……その者が何を考え、何を思っているかが大事ではないかと思う」
「……その少しの違いが大事なんじゃないか。確かに一人一人は善良かもしれないが、巨人は暗黒領域の巨人国の国民のはずだ。よからぬ企みをもって人間の国に入り込んできたと思われても仕方ないんじゃないか」
ブレイズくんが厳しい言葉を放つ。
「おぬし妙に詳しいの?」
「そ、それはお前こそだろ!」
こやつは暗黒領域マニアなのであろうか。意外と魔物の社会情勢とか好きな子もおるっぽいし、ブレイズくんもその仲間なのやもしれぬ。
「おぬしの言うこともわかる。しかし……」
「しかし、なんだ?」
「魔物というものは……都会の人間が思っているほど、賢くはなかろう」
「なんかいきなりディスられてるんだけど」
「おぬしとて野蛮とか言っておったじゃろ」
トリアナイトちゃんが文句を言う。
我はそれを聞き流しつつ話を進めた。
「魔物は、人に比べたら阿呆じゃろう。人の世にあるような学園や学び舎など普通の魔物は興味もなかろうし、そもそも会話できる魔物もそんなにおらぬであろう。日々を楽しく過ごすことや、強さを競い合うことを是とする者共に比べたら、未来を夢見て勉学に励む子らの方が遥かに賢いと思う」
「う、うーん、あまり侮るような言い方もどうかと思いますが」
「そうかもしれぬ。魔物には賢い者もおるであろう。だがトリアナイトちゃんは、その……陰謀を企むほど賢くはない」
「言い方!」
トリアナイトちゃんが抗議する。
ええいうるさい、良い話をしておるのだ今は。
「だってそうじゃろがい! 歌って踊って日々を楽しむ者が、勉学をしないかと誘われて学び舎に来た! それは……よいことなのではないか? シャーロットちゃんが村々を回って子供らを勧誘してくれたとき、我は嫌がりもしたが憧れも抱いた。魔物にとってもきっと、そう思ったのではないか?」
シャーロットちゃんは我の言葉を静かに聞いてくれた。
「今ここに至ってはトリアナイトちゃんは学園の生徒で、クラスメイトで、パーティーの仲間ではないか。絆を結べと学園長も言っておったであろう」
「だとしても……その理屈が通じるのは僕らだけだ」
ブレイズくんが静かに反論した。
「むぅ……」
「……街の中で暮らしているだけならともかく、ここは教師たちはベテランの冒険者であったり、学問として魔法を修めたプロであったり、それなりに実績を積んでいる人が多いんだ。仮に誤魔化せたとしても学園長の眼力をいつまでも騙しおおせると思うな」
「確かに……学園長は何とも不思議な雰囲気がある」
思えば、ディルック先生とユフィー先生もどこか学園長を警戒する素振りがあったように思う。
あの人の底知れなさにどこか気付いているのやもしれぬ。
「しかしそれを気にするということは、トリアナイトちゃんの身を守ることに異存はないのだな?」
「馬鹿にするな。僕だって、一緒に戦った仲間を売りたいとは思わない」
ふん、とブレイズくんは荒っぽく言葉を放ちながら視線を逸らす。ういやつよ。
「……変な顔でこっちを見るな」
「しておらぬ、しておらぬ。ところで……」
問題は、シャーロットちゃんがどう考えておるかだ。
シャーロットちゃんは自分に視線が集まったことに気付き、口を開いた。
「尋ねますが……ソルちゃんはどうしてトリアナイトちゃんを守ろうとするのですか? 結界に阻まれているとはいえ、暗黒領域のすぐ近くに実家があるのでしょう?」
「友を守るのにいちいち理由など考えたりはせぬ」
「……それが魔物を利することとなり、人を……つまりソルちゃん、あなたのご両親や村人たちを脅かすことになるかもしれません。それでもよいのですね?」
シャーロットちゃんの厳しい問いかけは、トリアナイトちゃんの件に限った話ではない。
我は、魔物のために行動している。
それが果たしてパパとママのためになるかというと、ならぬであろう。
でもこれだけは譲れぬ。
「暗黒領域には結界がある。難攻不落の壁であり、外側からも内側からも破られたことはない。だが……それが永遠に続くとも限らぬ」
「ええ、未来はわかりません」
「それに、暗黒領域の匂いに惹かれて人間の世界の魔物が近辺に集まってくることも事実じゃ。パパも村人もやたら強いので大きな被害はないが、無論、それも永遠ではなかろう」
「でしたら」
「であれば」
我とシャーロットちゃんの言葉が重なる。
「我が強ければよいのだ。村を守る大人たちのように。いや、村を守る大人よりも。今まで誰もなしえなかったことや、過去の自分にはなしえなかったことをなすために我らは学び舎におるのではないか?」
「過去の自分にはなしえなかったことを、なす……」
シャーロットちゃんが我の言葉を繰り返し、どこか感慨深そうにしていた。
「それに大事になりそうならば、そうなる前にディルック先生とユフィ―先生に相談すればよいと思う。あの二人に下駄を預けるなら我も異存はない。これでどうじゃろうか?」
(ちょ、ちょっとちょっと! 先生に話しちゃうの!?)
トリアナイトちゃんが我の裾を引っ張って念話を送ってきた。
(大丈夫じゃ。あの二人には我の素性はバレておる。何とかなる)
(えっ、ソルちゃんがソルフレアの生まれ変わりって信じたの? それはそれで凄いね)
(なんか引っかかる物言いじゃのう)
そんな会話をしている横で、シャーロットちゃんの中で結論が出た様子だった。
「……わかりました。そこまで考えているならば、私からは何も言いません」
「姉さん!?」
シャーロットちゃんの表情が緩み、ブレイズくんが驚いた。
「ごめんなさい、トリアナイトさん。あなたを責めるような言い方になってしまって」
「ううん。嘘を吐いてたわたしが悪いんだから。それに……」
「それに?」
「ううん、なんでもないです。ありがとうございます」
シャーロットちゃんが厳しい問いかけをした理由は、「魔物は殺します」みたいな死刑宣告をするためではない。
逃げるならば今のうちだと言いたかったのであろう。
厳しくもあるが優しくもある。
なんというか、我らより大人なのだなとしみじみ思う。
「わぉん!」
「おう、どうしたミカヅキ。いい感じに話がまとまったところで……」
『おいおい、大事なことを決めてないだろ』
ミカヅキが頭突きをして念話を飛ばしてきた。
言われてみれば、すっかり忘れていたことがある。
「皆の者。そういうわけで永劫の金剛石はトリアナイトちゃんの物とすることに異存はあるじゃろうか」
「今更そこに文句を言うわけないだろう」
「まあ……ちゃんと言葉に出して決めなければいけないことではありますね」
ブレイズくんとシャーロットちゃんは異存無さそうであった。
「ええー? いいのぉ~? なんか悪いなー。でもわたし可愛いし、もらっておくものはもらっておくのがみんなも喜ぶっていうかぁ」
照れながらも妙に高慢なことを抜かしおる。
トリアナイトちゃんの悪いところである。
「こういうときこそ謙虚に振る舞うものじゃろがい」
「まあ、トリアナイトさんらしくはありますが……」
シャーロットちゃんがトリアナイトちゃんの様子を見て苦笑する。
「ところで、そのかわりと言ってはなんですが……他の物はもらってもいいですか?」
「副葬品? 何かあったかの」
ジュエルゴーレムが眠っていた棺を見るが、そこには特に何もない。
……あ、いや、あることはあるか。
「もしかして、あの棺か? 我は全然構わぬが」
細かい装飾や煌びやかな石がはめ込まれており、高い価値があるであろう。
宝と言うには少々不吉な気もするが。
「……ぐるるる」
「ん? ミカヅキ、なんぞ気になるところでもあったか?」
『いや……何もねえ。何もねえとは思うんだが……妙な匂いがするような』
「なんか臭うかの? まあ、棺だし臭いのもしかたなかろう。よく洗った方がよいであろうな」
『お前がいいならいいんだが』
ミカヅキがくぅんと鳴き、渋々と言った様子で引き下がる。
「ミカヅキちゃん、何か気になるのかしら?」
シャーロットちゃんが心配そうに尋ねた。
「臭いが気にかかるようだが……うーむ……」
「まあ、誰の死体が眠ってたかよくわからないしね。伝説は華々しいけど、実は眠ってるのは悪党だったとか、封印したほうがいいやつだったとかもありえるだろうし」
「それもありえよう。だが我は、構わぬと思う。むしろ棺を外に出してやるべきだろう」
「どうして?」
「あのジュエルゴーレムは女神とやらに会いたがっていた。聖か邪かはわからぬにしても、惜しまれる者ではあったのだろう」
「……うん」
「そのような者が眠るにしては、ここは少し、寂しい」
こうして、我らは永劫の金剛石と、それが眠っている棺を運び出すこととなった。
ここに無貌の女神神殿の探索は終了した。




