ダンジョン探索部、爆誕す 12
「だったらお前はあいつに勝てるか?」
「勝て……るかどうかはちょっと……」
トリアナイトちゃんが答えを窮している。
無力であるから言葉に詰まったのではない。本気を出せばなんとかできるがゆえに言葉に詰まったのであろう。
トリアナイトちゃんは巨人族。どんなに可愛らしく振舞っておったとしても暗黒領域における最強の種族だ。
我とて同じである。ソルフレアの力を全身に漲らせて本気の炎を放てば、ちまちまと魔法で焼かずとも一瞬で倒せるであろう。その後は力尽きてしまうが。
そしておそらく、シャーロットちゃんも同じだ。もしかしたらブレイズくんも。
「トリアナイトちゃん、ちょっと時間を稼いでくれるか!」
「ええー!? ヤダー!」
「ヤダーではない! 永劫の金剛石が欲しいのじゃろう!」
「わ、わかったよぉ……でもピンチになったら助けてよ!? 絶対助けてよ!?」
「わかっておる! そこは任せよ!」
ピンチになったら助けるというのは、我も本気を出すという意味と、バレそうになったらうまく誤魔化してくれというSOSだ。目くらましのような技など我はあまり持っておらぬが、やるしかあるまい。
「じゃあいっくよー! 【石礫】!」
杖の先から鉱石を生み出す……だけではない。この部屋の地中に埋まっている硬い石を探し当てて魔力で掘り出し、弾丸に変換して射出する。
これも巨人族の得意技だ。【鉱石弾】であると呪文を唱えているがカムフラージュにすぎぬ。【石礫】というなんか弱そうな名前の特技だ。
だがそれはそこらの魔法などより遥かに強力である。人間が戦争で使うような落石を実現させるようなもので、これを浴びせられたらひとたまりもない。
「お前、本気出してなかったのか!」
ブレイズくんがトリアナイトちゃんに怒る。
が、それは筋違いと言うものだ。
「それはおぬしらもであろう」
「なっ……」
絶句するブレイズくんを横に、我はシャーロットちゃんのすぐ隣まで後退した。
「シャーロットちゃん。なぜ力を出し惜しみするか理由は聞かぬ」
「ソルちゃん……」
シャーロットちゃんが我の名を呼び、そして口を固く結んだ。
「我も出し惜しみしている。色々と事情はあるが……もっとも大きな理由は大事な人との約束であり、我を慕う者を守るためじゃ。だがここを切り抜けるためには約束を破らねばならぬ」
我の言葉に、シャーロットちゃんが悲しく目を伏せる。
それはつまり、秘密の存在を何よりも雄弁に語っていた。
「……私とブレイズには秘密があります。それを話すことはできません。ソルちゃん、あなたであったとしても」
「……うむ」
「ですが……私も、皆を守るためであれば……」
シャーロットちゃんが覚悟したように我の目を見た。
だがそれを遮る大きな、だが可愛らしい声が響いた。
「もういい! やめよう!」
トリアナイトちゃんだ。
「む……その姿は……?」
しかも少し様子がおかしい。
色艶の良い生身の肌がそこにあったはずなのに、今は金属のような黒い光沢となっている。
これはまるで、体そのものが宝石であるかのようだ。
「【重力操作】!」
石で穿たれたジュエルゴーレムの体はしぶとく再生しようとしている。
だが追い打ちをかけるように、ジュエルゴーレムの体がぺしゃんこになった。まるで巨大な金槌で押しつぶされたかのようだ。
「この魔法は……」
ブレイズくんが、眼の前の光景に呆気にとられた。
「間違いなく、重力魔法じゃな……いや……じゃが……その姿は」
どこからどう見ても人間の姿のトリアナイトちゃんが重力魔法を使うのは、言い訳ができた。
だが今のトリアナイトちゃんの姿は、まさに風聞で語られている巨人だ。
人間体で活動しているはずなのに、巨人本体のような姿になっているのは我にもわけがわからぬ。
「自分の本体の一部を召喚して、ほんのちょっとだけ本体の力を出せるんだ。この魔法も、さっきより強いでしょ?」
我の疑問に答えるように、トリアナイトちゃんが語る。
それはつまり、暴露だ。
「……ていうか、ごめん。わたし、巨人族なんだ。大事な人を助けるために永劫の金剛石を探してた」
漆黒の宝石の体はどこまでも光が吸い込まれる。
暗い部屋の中、わずかな照り返しがトリアナイトちゃんの美しい貌を浮き立たせた。
「学校のみんなには隠しておきたかったけど……ごめんね……!」
「どうして、人間の中に混ざってたんだ……?」
ブレイズくんは相当衝撃だったのか、わなわなと震えながら尋ねた。
「それは……」
「永劫の金剛石を手に入れるために、侵入していたのか。どうして学生になってまで」
「学生になったのは純粋に趣味だけど」
「趣味!?」
トリアナイトちゃんはここでこういうことを言うやつである。
不謹慎なやつじゃと思っていたが、不謹慎なことを語りながら自分の身を危険に晒してまで皆を守ってくれる。こやつのこと、嫌いではない。
「あー、あと一応、服装も趣味だよ。巨人族はどっちかっていうと『強くあれ、男らしくあれ
』みたいな感性の人多くて疲れるんだよねー」
「……姉さん、僕、巨人族のことがちょっとわからない」
ブレイズくんがカルチャーショックを受けている。
女装して通学しているのみならず人間でさえないトリアナイトちゃんは、ブレイズくんの常識の枠外の存在なのであろう。
「ええい、そんなことを言ってる場合ではない! 今が好機じゃ!」
我の言葉に、ブレイズくんもシャーロットちゃんもはっとしてジュエルゴーレムを見る。
強い重力によって押しつぶされ、圧縮されているジュエルゴーレムは、今までのように思うように傷を癒せず、身動きも取れない。
「……わかった。最大火力を叩き込む。力を使う」
「ブレイズ!」
ブレイズくんが右手を突き出し、力を込め始めた。
今までとは違って杖を使っておらぬ。というか魔力も込められておらぬ。
どういうことかと思ったが、部屋の中の空気が揺れ始めた。
今までとは何かが違う。
「やめなさいブレイズ」
静かな声とともに、シャーロットちゃんが肩を叩いた。
びくりとブレイズが震え、何かの詠唱を止めた。
「ね、姉さん」
「あなたが本気を出せばここにいる者は全員生きてはいませんよ。肺が焼かれて呼吸さえできなくなるでしょうから。熱くなってはいけません」
「……はい」
「ジュエルゴーレムは瀕死です。あなたが魔力を高めてもう一度穿ちぬけば倒せるはず」
ブレイズくんが静かに頷き、詠唱を始めた。
そして、一条の光がジュエルゴーレムを貫く。
「おおああああ……めがみよぉ……いずこ……いずこに……」
ジュエルゴーレムの断末魔だけが響き、消えていった。




