ダンジョン探索部、爆誕す 11
その後も現れるゴーレムどもを倒しながら進む。
そして一番奥にあったのは寝所であった。と言っても豪奢なベッドとふかふかの布団があるわけではない。彫刻が施された華美な壁に囲まれた広い部屋の中心にあるのは、棺である。
なんかすごく嫌なことに、棺にも壁にも風や翼をイメージした装飾がたくさんある。
「うーん……なんか嫌な予感がするのう」
「あ、あはは……」
「二人ともどうしたんだ?」
ブレイズくんが不思議そうに尋ねた。
「風にまつわる精霊とか邪神が眠ってたら厄介なことになりそうだなって……」
「そんなの、棺を見ればわかるだろう。鎧兜や埋葬品はあるが人骨や死体はないぞ」
その言葉通り、棺の中には物が溢れつつも死体はない。
何かが目覚めた後なのか、それとも信仰の象徴やモニュメントとしての役割があるだけなのか、判別はつかぬ。
「しかし誰も眠っておらぬのに埋葬品があるとなると……何のための棺なのであろう? そもそも無貌の女神とは果たして誰のことなのであろうか」
「学園長の推測にはなるのですが……この地を救った女神ではないかと仰っていました」
と、シャーロットちゃんが言った。
「この地を救う?」
「干ばつや盗賊、魔物などによって田畑が荒らされ、飢饉に喘いでいた民を救うために身を捧げて豊穣がもたらされた……という話です」
「なるほどのう……」
エアリアルは夫に頼まれたら嫌とは言わぬ性格だが、豊穣をもたらす程度で死にはせぬ。
どうやら杞憂であったか。
「それよりも……」
シャーロットちゃんが棍を構えて警戒を露わにする。
ここは洞窟の最下層。
鬼が出るか蛇が出るか……と言いたいところだが、ボスが何者なのかはすでに知っておる。黒い靄のようなものが部屋に立ち込めたかと思うと、棺の前に集まり、より濃密な形となっていく。
いや、棺の上、などという曖昧な場所ではない。
棺の中ある何かが、力を放って黒い靄を集めている。
「これは……永劫の金剛石か……?」
棺の中に死体はないが、埋葬品らしきものがある。
そこをよく見ればそこにひときわ大きな宝石が見える。
まるで宝石そのものが意志を持っているかのような振る舞いだ。
「宝石そのものがトラップでありボスということか」
と、ブレイズくんが言った。
我とトリアナイトちゃんは無言のまま達成感を味わっていた。
(こやつを捕獲すれば、アーガイラムが治せるぞ……!)
(そうだね、ソルちゃん!)
そうこうするうちに、黒い靄が力強い物質になっていく。
その物質が四肢を持つ肉体となり、鎧を身に纏い、棺の蓋を盾とし、さらに蓋の裏側にあった剣を引き抜く。
ずしんと大地が揺れる。
巨大なゴーレムが瞬く間に生れ落ちた。
「ジュエルゴーレム。なぜそういう名前なのか不思議でしたが……ブレイズの言う通り、宝石が核のようですね」
「かなり強そうだな。だが弱点はわかりやすい」
「ええ、核を破壊すれば問題ないでしょう」
「ナヌ!?」
ブレイズくんとシャーロットちゃんの言葉に、聞き捨てならぬものがあった。
「ど、どうしましたソルちゃん?」
「え? あ、いや……」
このゴーレムの本体、つまり宝石は確保したいのだが、上手い言い訳が思いつかぬ。
上手いこと何か言えと我はトリアナイトちゃんに視線を送る。
頼む、トリアナイトちゃん!
「ええー! 宝石ほしいよぉ! おじいちゃんを助けるのに必要なのに……!」
我の視線を受けたトリアナイトちゃんは、けっこうわざとらしく叫んだ。
「永劫の金剛石が?」
シャーロットちゃんが困惑する。
そしてトリアナイトちゃんがチラッチラッとこちらを見る。
合わせろということなのはわかるが、通るか……?
「そ、そういえば、人里に隠れ住む師匠がいると言っておったな。巨人は病を治すのに宝石や魔力の帯びた鉱石が必要だと聞いたことがある」
ちょっと白々しい解説かもしれぬが、嘘は言っておらぬ。
トリアナイトちゃんの言葉を信じてくれ……頼むのじゃ……!
「事情があるのはわかったが、このまま様子を見てたってこっちがピンチになるだけだ。まずは切り抜けるべきだろう」
「そうですね」
「そ、そうじゃな。まずは倒してからの話じゃ」
「う、うん! わかった!」
「わぉん!」
ひとまずの話し合いが終わる頃に、敵も準備が整ったようだ。
「うぉぉぉおおおおおああぁぁ!」
凄まじい咆哮が響き渡った。
どこから発しているのかわからぬが、それでも凄まじい想念がこもっている。
ゴースト系のような恨みがましい声とも、アーマードビートルのような戦意の籠もった雄たけびとも違う、怒りのような悲しみのような生々しさがある。
「めがみよ……いずこに……!」
大人でも持ち上げられぬような大剣を振りかざし、重く鋭い一閃を放ってくる。
「うわっと! こやつ……大きいがノロマではないな……!」
ジュエルゴーレムは今までのゴーレムとは違って俊敏だ。
自分の重さに振り回されることなく、的確な動き、スマートな剣さばきで我らを攻撃してくる。槍でジュエルゴーレムの剣を受け止めようにも、体重差が大きすぎて吹き飛ばされてしまう。
二倍や三倍、十倍くらいの重さの違いであれば跳ね返せるが、それは技量差があってこその話。そこそこの技量を持っている以上、体重差が響く。
「ソルちゃん! 無理に受け止めようとしないで!」
「わかっておる!」
「援護するよ、【硬質化】! 【破砕力付与】!」
ジュエルゴーレムはシンプルに強い。
装備となる鎧や剣が強力なだけではない。その魔力によって形作られた肉体は刃を跳ね返し、炎を弾く。とにかく持ちうる限りの高火力の攻撃で戦うしかない。ある意味やりやすいとも言えるが……。
「めがみを……ねらうかぁ……!」
敵意に満ちた目で我らを睥睨する。
まさに墓を守る守護者だ。
「女神を守ってる、というわけか?」
我の疑問の呟きに、ブレイズくんが端的に答えた。
「こいつは怒りを感じてるわけじゃないし、感情や意思があるわけじゃない。創造者が刻み込んだ言葉を言ってるだけで特に意味はないぞ」
「にしては感情が乗ってるように見えるが」
「会話したいならするがいい。墓暴きに来たと思われてしつこくターゲットされるだけだがな」
「ブレイズくんはそういう言い方がよくないのじゃ」
ジュエルゴーレムは、こやつを作った命令によって女神を守っているらしい。
だがその棺の中に女神はいない。
「女神と讃えられた女性の死体は、もう風化してどこにもありません。何も無いここを守るだけの、悲しい魔物です……。ですので、躊躇してはいけません。むしろとどめを刺し、埋葬することこそ温情でしょう」
シャーロットちゃんが棍を構えて気息を整え突きを放つ。
だがジュエルゴーレムの防御を突破するほどではない。
それでも、ブレイズくんが魔法を撃つための隙を作るには十分であった。
「喰らえ……【火神槍】!」
スライムを一斉に倒しのけたブレイズくんの必殺技だ。
数十体倒してのけた炎の槍を、ジュエルゴーレム一体に集中して放つ。
詠唱時間が足りてないのか前回より数は少ないが、それでも強烈な打撃となってジュエルゴーレムの体が燃え上がる。
「うぉおおおおおお!」
苦悶の叫びが響き渡る。
だがジュエルゴーレムは体を燃やしながらも反撃に出た。
「うわっ、熱っ!?」
燃え盛る体で襲いかかってきた。
こちらに伸びる手を槍で斬りつけながら距離を取る。。
幸い、炎を食らったが故にスピードは落ちた。末端部位を狙って斬撃を放つ。シャーロットちゃんとミカヅキも、我の思惑に気付いて同様に攻撃を始めた。
「うぉぉああああ!」
叫び声がまた響く。
ジュエルゴーレムは確実に痛みを感じておりダメージは発生しているが、問題はそれを超える体力と再生力がある。切り傷も、噛み傷も、打撃を受けた箇所も、すぐに治っていく。
「こうなったら……【鉱石弾】!」
トリアナイトちゃんが攻撃魔法を放った。
鏃のように黒く鋭い石が高速で放たれてジュエルゴーレムの鎧を突き破って刺さった。
地味だがめちゃめちゃ痛そうだ。
ますます苦悶の声を上げる……が、しばらくすれば刺さった石の鏃が抜けて落ちた。
どうも内側から肉が盛り上がって傷が塞がったようだ。
「くっ、足止めにしかならぬか……ならば傷が塞がる前に叩き切ってくれよう! ミカヅキ! シャーロットちゃん!」
「わぉん!」
「はい!」
もう一度攻撃を仕掛ける。
傷が治るのであれば何度も攻撃を仕掛ければよい……と思うて斬撃や打撃を食らわせていく。
「ぅおおああ!」
「きゃっ!?」
だが、手数を優先して何度も攻撃を仕掛けていればどうしても精度は落ちる。
更にジュエルゴーレムの体を焼く炎も収まり、動きが俊敏になっていく。
狙いすましたジュエルゴーレムの斬撃はかろうじてシャーロットちゃんの棍で防げたが、それでもこの重量差を受け止めるには至らなかった。軽々と吹き飛ばされて壁に激突する。
「シャーロットちゃん!」
「くぅっ……大丈夫です……【治癒】……!」
自らを魔法で治し、すぐに戦線に復帰する。凄い。
流石はシャーロットちゃんである。
壁は衝撃で爆発したかのような円形の陥没ができておるというのに、すぐさま復帰してきた。
えっ……いや、凄すぎないか?
背骨が折れて指一本動かせない状態になっていてもおかしくない衝撃だったと思うのだが、なんであれですぐさま自己回復できるのだろう。他人から助けてもらわねば普通はどうにもならぬ。
「と、ともかく守らねば……でえい!」
復帰してきたシャーロットちゃんにジュエルゴーレムが追い打ちを掛けようとする。
そこに我が割り込んだ。
だがそのままでは我もまた吹き飛ばされかねぬ。
「【竜身顕現】……! 竜の力よ、我の血と脚に宿れ……!」
部分的に竜の力を使い、重量級の斬撃に耐える。
ソルフレアの血を巡らせた体は見た目ではわからぬ重さと力を持つ。ゴブリンどもにしがみつかれたところで問題もなかったように、重量級の剣を受けても揺るがぬ力を発揮できる。
「どっせーい!」
大地と一体となるかのように踏みしめ、槍を振るう。
ジュエルゴーレムの剣は剛の剣だ。その威力や重さを存分に利用して破壊力を繰り出し、敵を寄せ付けない。魔法によって攻撃されても有り余る再生力によってものともしない。自分の体の合理的な使い方をわからぬゴーレムとは一味も二味も違う。作り手の執念、あるいは怨念のような何かが宿っているようだ。
「ソルちゃん、危ない……!」
「なんのぉ……!」
渾身の力を込めて踏ん張りながらも、ジュエルゴーレムの剣の軌跡を予測する。
そして刃と刃が交錯する一瞬に竜の力を解放する。
これで完全な【竜身顕現】をせずとも数倍の敵に対抗できる。
魔力を節約できるのでむしろ完全な変身よりも強いかもしれぬ。
問題は、めちゃめちゃ疲れることだ。
体よりも精神が疲れる。このままでは息切れして倒れかねない。
「ソルちゃん……その力は……?」
「姉さん、今はまず敵を倒さないと……【火神砲】!」
我らが戦っている隙に、ブレイズくんが強力な魔法の準備をしていたようだ。
先程の炎の槍よりも更に細く、鋭く、一点に集中する炎を放った。
「おあああああああ!?」
ジュエルゴーレムの肩のあたりが炎によって貫通する。その穴は小さいが、穴の周囲は焼け焦げ、魔法が終わった今も嫌な臭いの煙をぶすぶすとくゆらせている。
「くっ……これでも倒せないか……」
ブレイズくんが悔しそうに呻いて膝をつく。
魔力が減って疲労が出ているのだろう。
「【輝石の壁】!」
トリアナイトちゃんがステッキを振るって魔法を唱えると、鉱石の壁が生まれてブレイズくんを囲う。ジュエルゴーレムの攻撃に何度も耐えられそうにはないが、休憩はできるであろう。
「……消耗戦になればこちらが不利じゃの」
「そうですね……ここは撤退を考えたほうがよいかも……」
「ええっ、ここまで来たのに!?」




