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【コミカライズ2巻2/16】辺境領主令嬢の白い結婚 〜殿下の命をお守りするために結婚しましたが、夫は毎日楽しそうにお過ごしです〜【書籍全2巻】  作者: 藍野ナナカ
番外編

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コドルと人間の歴史(前)

WEB版本編の後の、結婚2年目の日常。コミカライズ2巻発売記念ということでクレイド君が増量中。


 辺境地区には様々な魔獣が生息する。

 王都周辺の人々は魔獣と聞くだけで恐怖に震えるが、実際の魔獣には無害なものもいるし、人間と関わることを好まないものも少なくない。

 そういう魔獣でも、偶発的に遭遇した場合は人間にとって悲劇的な結果になることはある。

 人間はあまりにも非力なのだ。

 それゆえに、人間を「獲物」と認識する魔獣はいる。

 そして、その逆の認識をする魔獣も存在するのが、辺境地区なのである。



     ◇



「……あの丈夫な青い革はないんだね」


 専用の飛行服を仕立てることになったトゥライビス王子だが、様々な革を並べて選んでいる最中に、ふとぐるりと見回してつぶやいた。

 すぐ横で、飛行服に向いている革を選んでいたクレイドは首を傾げた。


「あれ? トゥル殿下はコドルを見たことはありましたか?」

「実物は見たことはないが、馬車の内側に張っていたものは見たよ」

「あー、そういえば使っているらしいですね。俺はほとんど馬車に乗ったことないんですが」


 クレイドは別のテーブルから小さな革片を持ってきた。


「コドルはいい革なんですが、この厚さなんで飛行服には向いてないんですよ」


 そう言って、革片の切り口を見せる。

 大人の指の太さよりも明らかに分厚い。トゥライビスは目を丸くした。


「こんなに厚みがあるんだね。防御性能が高いと聞いたが、ここまで厚かったとは知らなかった」

「この厚さの革にしては柔らかいんで、椅子や内装にはいいんですよ。表側からナイフで刺しても小さな穴しか開かないですが、やっぱり重くて。戦闘用の防具として部分的に使ったりはします」

「そうなると、裁断はどうやっているのだろう?」

「裏側から切るんです。まあ、裁断道具もいろいろ独自のがあるんで、工房に見に行くと面白いですよ!」


 これからすぐに見に行こう、と誘いそうな勢いだ。

 もちろんそれは現状では不可能なこと。護衛として控えている騎士のグレムはため息をつき、話に割り込むように咳払いをした。


「クレイド。オルテンシアお嬢様から遠出の許可が出ると思っているのか? コドルの革の工房は牧場の近くにしかないのだぞ」

「えっ、ダメですかね? ……うん、ダメな気がしてきた。やっぱりダメかぁ……」


 少ししょぼんとしたものの、クレイドはすぐに顔を上げた。


「でも、殿下には近いうちに護衛魔獣がつくはずですし、そうなればもうちょっと遠出ができると思います! コドルの牧場、絶対おすすめなんで俺がご案内しますよ!」

「そうだね。もし遠出ができるようになったら、その時はクレイド君に案内を頼もうかな」


 命を狙われ続けているために、コドルの牧場へ赴く機会はない。それでも今は「不可能」とは思っていない。

 ブライトルの人々が辺境地区に入植していった苦労に比べれば、手段があるだけまだ可能性はあるのだ。


「しばらくは大人しくしておくよ。……そういえば、コドルという魔獣は、大型だと聞いたんだが」

「大きいですよ。翼竜を見慣れている俺たちでも、あの大きさは驚きます。性格はのんびりしているんですがね」

「シアが、コドルは飼育されるのが好きだと言っていたよ。人間に敵意を持たないということなのだろうか」

「敵意どころか、めちゃくちゃ人懐っこいです。あいつらの外皮はこの通り、恐ろしく丈夫なんで、成体になったコドルを襲う魔獣は滅多にいません。だから本当にのんびりした魔獣なんですが、人間を見つけるとすぐに寄ってくるんです」


 寄ってくると聞いて、トゥライビスはどういう状況なのか少し悩んでから質問した。


「鳥たちのような感じなのかな?」

「うーん、どちらかといえば犬たちに近いかな?」

「……犬?」


 そう言われて、巨大だという魔獣ではますます想像できなくなった。

 トゥライビス王子は考え込みながら首を傾げる。今までほとんど口を挟まなかった騎士のグレムは、苦笑を浮かべつつも頷いた。


「犬に例えるのはなかなか適切です。我々も馬での移動中に遭遇することがあります。幸い、馬はそれほど怯えませんが、新入りの兵士はだいたい動揺してしまいます」

「あー、あれは慣れないと怖がると思いますよ。大型魔獣に慣れる訓練にはちょうどいいんですけど」

「訓練とは、どのような……あ、もし秘密事項なら伏せたままで構わないよ」

「全然問題ないです! 新兵訓練は、周辺の村から見に集まるくらいの恒例行事ですから! 簡単に言うとコドル牧場に行くんですが、平和なんだけどかなりきついんです。デッキブラシでコドルたちを擦るだけなんですがね!」


 クレイドが擦る仕草をして見せると、トゥライビスはじっと見つめて小さく首を傾げてつぶやいた。


「……デッキブラシというのは、棒の先にブラシがついているものだと思うのだが」

「そうそう、それです! それでコドルの表皮を思いっきり擦るんです!」


 コドルの放牧場では、擦られたがるコドルが多い上に、力を込めて擦らないと満足してくれないらしい。

 結果として大型魔獣に慣れて、体力もつく。もちろん外皮の状態が良くなるから、脱皮後の革としての品質も上がっていいことばかり。

 ちなみに、クレイドは領主一族ということで今も必ず参加させられるのだとか。

 クレイドは花形ともいうべき翼竜騎士。若く明るく、見栄えもなかなかに良い。彼をはじめとした若者たちが必死に大型魔獣に挑んでいる姿は、確かに人気の催し物になるのだろう。

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