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 皆さんはサッカーの試合が何故、前半後半に分けて行われるかご存知だろうか。

私が聞いた話では、太陽の光や風向きなどで有利不利が出ないように、前半と後半でコートチェンジを行う為……らしい。

 ならば……お見合いも同じ事だ。

有利不利が出ないように、前半はここらで切ってトイレ休憩すべきだ。意味が分からんが。


 そんなこんなで私と兄貴は、突然二人で「トイレに行ってくる」と紅葉さんに言い放ち、母親が待機する部屋へと直行していた。


「お袋さんよぉ! どういうこったい!」


どこぞの江戸っ子のような口調で襖を開ける兄貴。

中には、ウチの母と紅葉さんの母が楽しそうに談笑していた。


「ん? どうしたん、大地」


「どうしたもこうしたも……紅葉さん、俺の事知ってたぞ?! しかも義龍村って何処よ! 俺と紅葉さんは昔一緒の村に住んでたのか?!」


うむぅ、私もそれを母に問いただしたい!

この見合いは一体何なのだ! 母の陰謀か?!


「あぁ、言わんかったっけ?」


「1ナノセカンドも聞いてないわ! 一体何なんだ、義龍村って……」


「アンタ……自分が昔住んでた村の事も覚えてないんけ? ほら、アンタ山で迷子になって……足の骨も折ったやろ?」


何っ、兄貴……足の骨折ったのか!

それで覚えてないってどういう事だ。


「覚えてねえ……全くこれっぽちも……というか、紅葉さんと俺は過去に……け、結婚の約束をしていたらしいぞ!」


「あらー、よかったやん。あんたもこれで所帯持ちやなぁ……」


ちっがーう! と兄貴は荒ぶる!

当然だ! そんな小さい頃の話持ち出されても困るのよ!

あっちが覚えていようと、兄貴は完全に忘れてるんだ! 本当にそんな事実があったのかも……


「大地、なんやったら村行くか? 確かタイプカプセル埋めたやろ?」


た、タイムカプセル?! そういえば私も中学の頃やったような……完全に忘れてる。

何処に埋めたっけ……。


「そんなん……場所覚えてないわ! 今更タイムカプセルなんぞ……」


「大地さん、行きましょう」


その時、いつの間にか背後に紅葉さんが!

び、びびったでござるよ!


「驚かせてごめんなさい……でも大地さんが覚えてないというのなら……行くしかないと思うんです。そうでしょう? 大地さん」


「え? え、えーっと……」


ジ……っと兄貴の視線が私に……。

いや、私にフラれても困るのよ、お兄様。

ここは貴方がビシっと言うところよ! 

紅葉さんと結婚するならするで……


「わ、ワカリマシタ。イキマショウ……」


ってー! なんでカタコトなん!

しかも行く必要あるのか?! 結婚の約束をしてようが、してまいが……最終的に決めるのはアンタよ!


「その代わり、条件があります。晶も一緒に……」


「なんでやねん」



 ※



 お見合いから、ちょうど一週間後の日曜日。

今私はJR高山線の特急列車に乗っていた。なんで私まで……。


 窓の外には雪化粧した山々。吐く息は電車の中でも真っ白で、私はコートを着込んでいる。


「晶さん……なんで僕まで……」


そう嘆くのは私の隣りに座る拓也君。

道連れとして拉致ってきたのだ。そしてついでに女装もさせてきた。

 

「うぅ……寒い……」


「仕方ないな……」


着ているコートを広げ、女装した拓也……貴子ちゃんを抱き寄せつつコートをかけてやる。

むふふ、こうすると私もあったかい……


「わ、わわわっ! あ、晶さん! 色々当たってる! ま、不味いですよ!」


「良いではないか、どうせ私の胸は薄いんだ……当たってようが当たってまいが……」


里桜の妹、涼ちゃんが私の胸が薄いせいで大泣きしてしまった事を思い出した。

なんか悔しい。ここは拓也をからかいつつ、女としての自信を取り戻さなくては……。


「と、ところで晶さん……お兄さん……大丈夫ですかね」


「大丈夫大丈夫。私達は私達でイチャイチャして楽しもうぜ」


「ひ、ひぃ!」


貴子ちゃんの頭を撫でまわしつつ、チラっと離れた席に座る兄貴を確認。

紅葉さんはニコニコと楽しそうだが、兄貴は今にも吐きそうな顔をしている。

別に電車に酔ったわけでは無い。女性と二人で電車に乗るシチュに恐怖しているだけだ。


「ところで……なんで僕、女装しなきゃ……」


「いや、だってクオリティ上がってるじゃん。カミングアウトして正解だったな」


そう、琴音さんに女装癖をカミングアウトした事で、拓也の女装は確実にレベルアップしていた。

今までもレベル高かったが、拓也をもっと可愛く! と琴音さんが張り切ってしまったらしい。

そういえば、拓也のウィッグ……いつものと違うよな?


「あぁ、はい……なんか姉さんが……いつのまにか通販で購入してて……。前のより少し茶髪だけど……」


ふむ。今流行りの透明感カラー的なアレか。


「なんですか? それ……」


「いや、日本人の髪質って硬くて太いからさ。ブリーチしてもノルウェーの方のように綺麗にならんのよ。でも最近透明感を意識した……」


「いや、その透明感って……なんですか?」


ふむ、勉強不足よ! 私も詳しく知ってるわけじゃないけども。


「まあ、ようするに黒髪を生かして染め上げる? 的な……。確か2017年のトレンドなんたらってやってたような……」


「晶さんも良く分かって無いじゃないですか」


っぐ……ま、まあとにかく! 琴音さんのチョイスは流行りを抑えてるって事よ!

分かったか少年!


「良くわかりました……」


もっと言うと茶髪っていうより……なんかピンク系だな。

ふむぅ、可愛いチョイスでござる。


 そんなこんなで電車に揺られる事三時間。

ようやく高山が近くなってきた。次が終点、高山駅だ。


「ところで……その義龍村って今でもあるんですか?」


「あぁ、私もそれ思った。ネットで調べても出てこないんだよな、そんな村……」


しかし母が言うには健在らしい。

今でも古い知人から年賀状やら何やらが届くのだ。


「そこでタイムカプセルを見つけるんですね。姉さんも来たがってましたけど……」


あぁ、琴音さんか。

そういえば……


「琴音さん、リハビリは順調?」


「あぁ、はい。須川さんって言う先生が凄い厳しいらしいですけど……」


須川……?

あぁ、琴音さんの後輩の人か。確か下の名前は明正とかって言ってたな。

琴音さんに対しては暴言吐きまくりの……不良整体師とか呼ばれてたな。


「なんか……あの二人怪しいんですよね。もしかして姉さん……須川先生と昔付き合ってたんじゃ……」


な、なにぃ!

確かに仲よさげだったな。い、いかん。琴音さんは兄貴の数少ない嫁候補なんだ!

他の男に取られてなるものか!


「いや、お兄さん……紅葉さんが居るじゃないですか……」


「いやぁ、まあ……そうなんだけども……」


私の勝手な妄想だが、なんか紅葉さん……裏があるような気がする。

小さい頃に約束してたから兄貴と結婚したい、という事だったが、それ以前に紅葉さん自身は今まで結構な数の男と関わりがあるのだ。


私には……兄貴が滑り止めにされているような気がしてならなかった。



 ※



 高山駅に無事到着し、荷物を降ろしつつ駅へと降り立つ。

ふふぅ、寒っ! さすがにこっちの方は既に雪結構積もってるな……。


「晶、とりあえず飯でも食いがてら……今後の方針決めるか」


「押忍、兄ちゃん」


そっと拓也の手を取り、指を絡ませるようにカップル繋ぎする私。


「ふわぁ! 晶さん……」


「良いではないか。女子同士なんだし……ねえ、紅葉さん」


兄貴の隣りに立つ紅葉さん。

相変わらず上品にニコニコしつつ、重そうな鞄を抱えている。

ちなみに紅葉さんには勿論、拓也ではなく貴子ちゃんとして紹介している。

つまり……完全に拓也の事は女の子として認識している。


 兄貴はチラチラ紅葉さんの持つ重そうな旅行鞄を見ていた。

持ってあげたいんだろうか。持つなら今よ! とアイコンタクト。


「も、紅葉さん、荷物持ちますよ」


「えっ? いや、悪いですよ、大地さん自分の荷物も有るのに……」


「大丈夫ですから」


言いつつ両手に旅行鞄を下げる兄貴。

流石……趣味が筋トレなだけある。

ちなみに私の荷物はトラベルバック。キャスター付きのアレだ。コロコロと転がすだけなので大変ラクチンである。貴子ちゃんの荷物も一緒に纏めてある。


「晶さん、僕持ちましょうか?」


「いや、いいよ。私より背の低い貴子ちゃんに持たせる訳には……」


と、冗談半分で言い放つ私。

だがその時、拓也もとい貴子ちゃんが涙目に!


「ううぅぅぅ……ぼ、僕成長期なんですから! 絶対追い抜かしますから!」


いや、私身長178cmだぞ。今君……170無いだろ。どんなに頑張っても……。


「抜かすったら抜かすんです! そ、それで……」


それで?


「な、なんでもないです……」


プイっとソッポを向いてしまう貴子ちゃん。

うへへ、なんか萌え。


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