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凛とした女性……という言葉はよく聞くが、私は意味を調べた事は無い。
恐らくカッコイイ女の人の事を言うのだろう、とずっと思っていた。
そして今、目の前に正に「凛とした女性」が座っていた。
ヤバイ、私でも見惚れてしまう程だ! 兄貴は正気を保っているのか?!
「は、初めまして……真田 大地と申します……よろしくお願い致します」
おぉ! 兄貴が普通に挨拶している!
よし、これなら上手くすれば結婚までとは行かないまでも、お付き合いくらいなら……
「趣味は妹を愛でる事。最近の妹は得に可愛く……」
って……何言ってん!!
私も母も、兄貴の事を此の世の物では無いような目で見つめる。
ま、まさか……兄貴、正気など既に失っているのか?! 写真で見るよりも綺麗な人が目の前に来たから……。
「ちょ、兄ちゃん……何いってんの?」
小声で兄貴に話しかける私。
だが兄貴は止まらない。
「ん? どうした晶。まったく……もしかしてヤキモチか?」
こいつぅ、とオデコをデコピンされる。
な、なんだコイツ……不味い、兄貴が緊張のあまり混乱している!
混乱を治療する薬草でもあれば……!
その時、クスクスと笑い声が。
むむ、お見合い相手の女の人がお上品に笑ってる……。
「兄妹仲がよろしいのですね……羨ましいですわ。私にも兄が一人居るのですが……最近は会ってさえ居なくて……」
むむ、なんか引かれてなさそう?
しかし……ホント何処かで会ったような気がするんだけど……。
兄貴が余計な事を喋る前に、オカンが澤田さんへと質問する。
出身地は何処ですか? 的な感じに。
「出身は新潟です。家族三人で岐阜に……兄は既に一人暮らしで別々に暮らしています。父は三年前に癌で……」
むむ、お父さん亡くなってるのか。
いや、それよりも……新潟出身の澤田さん?
待て、すっごい聞き覚えがあるぞ。最近どこかで……
『俺、新潟出身だから……』
『ありがとうねぇ、澤田さん……』
その時、私の脳裏に二人の会話する姿が浮かぶ。
そして思わず目の前に座る女性の顔を凝視。
に、似てる……そうだ、この人……もしかして……
「あ、あの……お兄さんって、もしかして岐阜駅あたりのマンションに……」
思わず質問してしまう私。
女性は首を傾げつつ
「あ、はい。ご存知なんですか? 兄の事」
ぎゃあぁぁぁー!
や、やっぱり! この人……あの澤田さん……雪かきの上手いチャラ男の妹か!
顔の雰囲気がなんとなく……いや、ソックリだ!
も、もしかして……
「兄と私は双子なんです。凄い偶然ですね、兄の事をご存知だなんて……」
コクコク頷く私。
偶然っていうか……なんてこった!
あのチャラ男の妹がこんな美人! しかも双子?!
ソックリだけど全然似てねえ!
その時、母は兄貴が会話出来ていない事に気を使ったのか、後は若い二人だけで……というお決まりのセリフを言いつつ席を立つ。私も席を立とうとしたが……
「あ、晶……」
なんか私のタイトスカートを鷲掴みにする兄貴。
子供か! っていうかシワになっちゃうだろうが! 離すでござるよ!
「あらあら、妹さんの事が大好きなんですね、大地さん」
ニコニコと微笑む澤田さん。っていうか、すんなりと兄貴の事名前で呼んでるし……
もしかして好みのタイプなのか? 兄貴の事……
母とアイコンタクトを取りつつ、その場に残る事にする私。
まあ、フォローを入れるくらいなら……
「晶……吐きそう……」
そんな事を耳打ちしてくる兄貴。
うぉぉぉい! フォローどころじゃねえ! もうダメだ! ど、どうすればいい?!
仕方ない、ここは……
「あの、お姉さんのお名前は何て……おっしゃるんですか?」
微妙な敬語で質問する私。
澤田お姉さんは優しい笑顔で答えてくれる。
「私は紅葉といいます。覚えやすい名前でしょう? 秋になると自分の名前があちこちから呼ばれて……思わず振り返ってしまいますが……」
今のはジョークなんだろうか……笑ったほうがいいのか?!
「あぁー……紅葉さんだから……ははっ、それは確かに大変ですね」
爽やかな笑顔で返す大地お兄様。ヤヴァイ、兄貴がいよいよヤヴァイ。
本格的に正気を失いかけてる。こんな綺麗な人と爽やかな笑顔で話せるなんて……兄貴じゃない!
「ちなみに、兄の名前は桜なんです。可愛い名前でしょう?」
うぅ、チャラ男がチャラくなってしまった理由が分かる気がする……。
女の子で桜なら可愛いが……男で桜……いや、いいかも。
あのチャラ男だって、スーツを着ればそれなりに見えるんじゃないか?
誠実な男の人が「桜」って呼ばれてたら……なんか合う気がする。
「ところで大地さん、単刀直入にお伺いしてもよろしいでしょうか……」
ん? なんじゃ、いきなり。
今の兄貴に何を言うつもりだ! 兄貴のHPはもうゼロよ!
「私と……少しでも結婚してもいいと思っていますか?」
ぎゃー! 来たよ! 必死すぎだよ紅葉さん!
あんたならもっと居るだろ! もっといい男見つかるって!
しかし兄貴は少し間を置き……
「俺は……紅葉さんの事はとても綺麗な方だと思いますし……誠実な方だとも思っています……でも正直、結婚となると……実感が沸かなくて……」
あ、兄貴! 正気なのか?! 正気じゃないのか?! どっちだ!
そんなマトモな事を言えるなんて……
「結婚する気が無いって訳じゃないんです。母を安心させてやりたいとも思ってますし……でも、それ以上に……俺は紅葉さんを幸せに出来るかどうか……」
い、いかん! 兄貴、そんな弱気じゃ!
もっと自信を持て! 兄貴はその辺の男よりよっぽど……
「私が幸せかどうかなんて……死ぬ間際にしか分かりませんよ。人は死ぬ直前の表情で……それまでの人生が幸せだったのか……分かるんですから」
な、なんだと。
えらくディープな会話になってきたな。下手に口出しできぬ。
死ぬ直前って……じゃあ父の時はどうだったんだろう……。
「俺は……煙草吸うし、酒も飲みます。恐らく紅葉さんより早く死ぬかと……」
ってー! 兄貴! そう思うなら煙草やめよ!
というか何?! この重い会話! 本当にお見合いか?!
「それなら……私と結婚したとしたら……大地さんが幸せだったかどうか、私は確かめる事が出来ますね」
笑顔で言い放つ紅葉さん。
む、むぅ、なんか……この人、兄貴と結婚する気満々だぞ?
あとは兄貴の覚悟次第だ、とか言わんばかりだ!
その時ふいに……琴音さんの顔が私の脳裏に浮かんだ。
なんでこんな時にっ! 兄貴と琴音さんが結婚してくれたら……って勝手に思ってしまう自分が腹立たしい。
決めるのは兄貴だ。
私が……口出ししていい事じゃ……
「大地さん、貴方に恥をかかせるような事を言って……申し訳ありません。実は……貴方の事は私は以前から知っていました。レクセクォーツの開発部に勤めていらっしゃいますよね?」
「え? あ、はい……どうして……」
むむ、紅葉さんは兄貴の事知ってるのか?
なんで……
「義龍村を……御存じですよね」
ん? どこじゃそれ。
聞いた事もないが……。
兄貴も首を傾げている。
「大地さんは、小学生に上がるかどうかくらいまで……そこに住んでいた筈です」
ン? と言う事は飛騨の何処か……の村って事か?
たしか私が生まれる前は……両親と兄貴は飛騨に住んでた筈だ。村の名前までは知らんが。
「そ、そうでしたっけ……昔の事はあまり覚えて無くて……それで、なんでそんな事を……」
「私は……新潟出身と言いましたが、実は生まれてすぐに義龍村へ母と一緒に移り住みました。その時、山で行方不明になった二人の子供……その片方が大地さんだった筈です」
山で行方不明……?
ん? なんか似たような話聞いた事あるな。
っていうか琴音さんだ。
たしか琴音さんが子供の時、山で迷っちゃって……その時に私の父親に助けられたって……あの写真を貰った時に聞いたような……
ん? ちょっと待て。今、兄貴もって……
そ、そうだ、なんで気づかなかったんだ?
琴音さんを助けたのが私の父なら……当然、兄貴も昔は琴音さんと同じ所に住んでたって事に……
「い、いやぁ……あまり良く覚えて無い……」
「大地さん、子供の頃の約束を持ちだすなんて……どうかと思いますが……私は忘れられないんです……。貴方が……私と結婚してくれるって言ってくれた事を……」
……え?
な、なんじゃと!?




