表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/73

(44)

 凛とした女性……という言葉はよく聞くが、私は意味を調べた事は無い。

恐らくカッコイイ女の人の事を言うのだろう、とずっと思っていた。


 そして今、目の前に正に「凛とした女性」が座っていた。

ヤバイ、私でも見惚れてしまう程だ! 兄貴は正気を保っているのか?!


「は、初めまして……真田 大地と申します……よろしくお願い致します」


おぉ! 兄貴が普通に挨拶している!

よし、これなら上手くすれば結婚までとは行かないまでも、お付き合いくらいなら……


「趣味は妹を愛でる事。最近の妹は得に可愛く……」


って……何言ってん!!

私も母も、兄貴の事を此の世の物では無いような目で見つめる。

ま、まさか……兄貴、正気など既に失っているのか?! 写真で見るよりも綺麗な人が目の前に来たから……。


「ちょ、兄ちゃん……何いってんの?」


小声で兄貴に話しかける私。

だが兄貴は止まらない。


「ん? どうした晶。まったく……もしかしてヤキモチか?」


こいつぅ、とオデコをデコピンされる。

な、なんだコイツ……不味い、兄貴が緊張のあまり混乱している!

混乱を治療する薬草でもあれば……!


 その時、クスクスと笑い声が。

むむ、お見合い相手の女の人がお上品に笑ってる……。


「兄妹仲がよろしいのですね……羨ましいですわ。私にも兄が一人居るのですが……最近は会ってさえ居なくて……」


むむ、なんか引かれてなさそう?

しかし……ホント何処かで会ったような気がするんだけど……。


 兄貴が余計な事を喋る前に、オカンが澤田さんへと質問する。

出身地は何処ですか? 的な感じに。


「出身は新潟です。家族三人で岐阜に……兄は既に一人暮らしで別々に暮らしています。父は三年前に癌で……」


むむ、お父さん亡くなってるのか。

いや、それよりも……新潟出身の澤田さん?

待て、すっごい聞き覚えがあるぞ。最近どこかで……


『俺、新潟出身だから……』


『ありがとうねぇ、澤田さん……』


その時、私の脳裏に二人の会話する姿が浮かぶ。

そして思わず目の前に座る女性の顔を凝視。


に、似てる……そうだ、この人……もしかして……


「あ、あの……お兄さんって、もしかして岐阜駅あたりのマンションに……」


思わず質問してしまう私。

女性は首を傾げつつ


「あ、はい。ご存知なんですか? 兄の事」


ぎゃあぁぁぁー!

や、やっぱり! この人……あの澤田さん……雪かきの上手いチャラ男の妹か!

顔の雰囲気がなんとなく……いや、ソックリだ!

も、もしかして……


「兄と私は双子なんです。凄い偶然ですね、兄の事をご存知だなんて……」


コクコク頷く私。

偶然っていうか……なんてこった!

あのチャラ男の妹がこんな美人! しかも双子?!

ソックリだけど全然似てねえ!


 その時、母は兄貴が会話出来ていない事に気を使ったのか、後は若い二人だけで……というお決まりのセリフを言いつつ席を立つ。私も席を立とうとしたが……


「あ、晶……」


なんか私のタイトスカートを鷲掴みにする兄貴。

子供か! っていうかシワになっちゃうだろうが! 離すでござるよ!


「あらあら、妹さんの事が大好きなんですね、大地さん」


ニコニコと微笑む澤田さん。っていうか、すんなりと兄貴の事名前で呼んでるし……

もしかして好みのタイプなのか? 兄貴の事……


 母とアイコンタクトを取りつつ、その場に残る事にする私。

まあ、フォローを入れるくらいなら……


「晶……吐きそう……」


そんな事を耳打ちしてくる兄貴。

うぉぉぉい! フォローどころじゃねえ! もうダメだ! ど、どうすればいい?!

仕方ない、ここは……


「あの、お姉さんのお名前は何て……おっしゃるんですか?」


微妙な敬語で質問する私。

澤田お姉さんは優しい笑顔で答えてくれる。


「私は紅葉(もみじ)といいます。覚えやすい名前でしょう? 秋になると自分の名前があちこちから呼ばれて……思わず振り返ってしまいますが……」


今のはジョークなんだろうか……笑ったほうがいいのか?!


「あぁー……紅葉さんだから……ははっ、それは確かに大変ですね」


爽やかな笑顔で返す大地お兄様。ヤヴァイ、兄貴がいよいよヤヴァイ。

本格的に正気を失いかけてる。こんな綺麗な人と爽やかな笑顔で話せるなんて……兄貴じゃない!


「ちなみに、兄の名前は(さくら)なんです。可愛い名前でしょう?」


うぅ、チャラ男がチャラくなってしまった理由が分かる気がする……。

女の子で桜なら可愛いが……男で桜……いや、いいかも。


あのチャラ男だって、スーツを着ればそれなりに見えるんじゃないか?

誠実な男の人が「桜」って呼ばれてたら……なんか合う気がする。


「ところで大地さん、単刀直入にお伺いしてもよろしいでしょうか……」


ん? なんじゃ、いきなり。

今の兄貴に何を言うつもりだ! 兄貴のHPはもうゼロよ!


「私と……少しでも結婚してもいいと思っていますか?」


ぎゃー! 来たよ! 必死すぎだよ紅葉さん!

あんたならもっと居るだろ! もっといい男見つかるって!


しかし兄貴は少し間を置き……


「俺は……紅葉さんの事はとても綺麗な方だと思いますし……誠実な方だとも思っています……でも正直、結婚となると……実感が沸かなくて……」


あ、兄貴! 正気なのか?! 正気じゃないのか?! どっちだ!

そんなマトモな事を言えるなんて……


「結婚する気が無いって訳じゃないんです。母を安心させてやりたいとも思ってますし……でも、それ以上に……俺は紅葉さんを幸せに出来るかどうか……」


い、いかん! 兄貴、そんな弱気じゃ!

もっと自信を持て! 兄貴はその辺の男よりよっぽど……


「私が幸せかどうかなんて……死ぬ間際にしか分かりませんよ。人は死ぬ直前の表情で……それまでの人生が幸せだったのか……分かるんですから」


な、なんだと。

えらくディープな会話になってきたな。下手に口出しできぬ。

死ぬ直前って……じゃあ父の時はどうだったんだろう……。


「俺は……煙草吸うし、酒も飲みます。恐らく紅葉さんより早く死ぬかと……」


ってー! 兄貴! そう思うなら煙草やめよ!

というか何?! この重い会話! 本当にお見合いか?!


「それなら……私と結婚したとしたら……大地さんが幸せだったかどうか、私は確かめる事が出来ますね」


笑顔で言い放つ紅葉さん。

む、むぅ、なんか……この人、兄貴と結婚する気満々だぞ?

あとは兄貴の覚悟次第だ、とか言わんばかりだ!


その時ふいに……琴音さんの顔が私の脳裏に浮かんだ。

なんでこんな時にっ! 兄貴と琴音さんが結婚してくれたら……って勝手に思ってしまう自分が腹立たしい。


決めるのは兄貴だ。

私が……口出ししていい事じゃ……


「大地さん、貴方に恥をかかせるような事を言って……申し訳ありません。実は……貴方の事は私は以前から知っていました。レクセクォーツの開発部に勤めていらっしゃいますよね?」


「え? あ、はい……どうして……」


むむ、紅葉さんは兄貴の事知ってるのか?

なんで……


「義龍村を……御存じですよね」


ん? どこじゃそれ。

聞いた事もないが……。


兄貴も首を傾げている。


「大地さんは、小学生に上がるかどうかくらいまで……そこに住んでいた筈です」


ン? と言う事は飛騨の何処か……の村って事か?

たしか私が生まれる前は……両親と兄貴は飛騨に住んでた筈だ。村の名前までは知らんが。


「そ、そうでしたっけ……昔の事はあまり覚えて無くて……それで、なんでそんな事を……」


「私は……新潟出身と言いましたが、実は生まれてすぐに義龍村へ母と一緒に移り住みました。その時、山で行方不明になった二人の子供……その片方が大地さんだった筈です」


山で行方不明……?

ん? なんか似たような話聞いた事あるな。

っていうか琴音さんだ。

たしか琴音さんが子供の時、山で迷っちゃって……その時に私の父親に助けられたって……あの写真を貰った時に聞いたような……


ん? ちょっと待て。今、兄貴もって……


そ、そうだ、なんで気づかなかったんだ?


琴音さんを助けたのが私の父なら……当然、兄貴も昔は琴音さんと同じ所に住んでたって事に……


「い、いやぁ……あまり良く覚えて無い……」


「大地さん、子供の頃の約束を持ちだすなんて……どうかと思いますが……私は忘れられないんです……。貴方が……私と結婚してくれるって言ってくれた事を……」


……え?


な、なんじゃと!?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ