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さて、突然ですが問題です。
良く時代劇の武家屋敷の庭とかにある”アレ”
竹が良い音を出す”アレ”だ。
斜めに切った竹の中に水が入って傾いて水が捨てられて竹が戻ってカコンって奴だ。
【注意:やめて! 晶ちゃんの語彙力を責めないで!】
作者のいらんフォローが入ったが、実は私も答えは知らない。
今私は、それの名前を模索するという崇高な試みに没している。
まあ、要は暇なんだが。
今私が居るのは大垣市にある料亭。
えらい豪華な店で、庭もデカイ。そして全ての部屋から庭の様子が伺えるのだ。
何故にそんな所に居るのか。答えは簡単だ。兄貴の見合いに着いてきたってだけだ。
「お客様、宜しければ別室に……」
「あぁ、いえ、大丈夫ッス」
丁寧な態度で仲居さんが話しかけてくる。
私は縁側で一人、ボーっと庭を眺めていたのだ。
店員さんからしてみれば「アイツ何してんの?」って感じだろう。
何してんのって……私が聞きたいわ。何で私まで着いてくる必要があるんだ。兄貴の見合いだろうに。
「よろしければどうぞ」
むむっ、店員さんが緑茶と和菓子をくれた!
なんて良い人だ!
ぁ、そうだ。この店員さんに聞いてみようかな……。
「あの、すみません。あの”カコン”って奴……何て言うんですか?」
「……カコン? あぁ、”ししおどし”の事ですか?」
ん?! なんかアッサリ答えが分かったぞ!
”ししおどし”って言うのか。さっぱり意味が分からんが。
「昔の農家の方が作った……鳥や鹿を追い払う為の物らしいですよ。音を鳴らして人の気配を漂わせるのだとか……ではごゆっくり、ご堪能下さい」
そのまま去っていく店員さん。
後ろ姿にアザーッス! とお礼を言いつつ、緑茶を啜る。
むむ、程よい苦さで美味しい。あぁ、なんかいいな、こういうの……。
縁側でお茶啜るとか……お婆ちゃんになった気分だわ。
現在、大垣市の空は快晴。十二月だと言うのにポカポカ陽気。
ちなみに時刻は午前十一時。時折肌寒い風が吹くが、この陽気だと逆に気持ちいくらいだ。
「晶ー、そろそろ見えるから。あんたも最終チェックしなー」
母から声が掛かる。
最終チェックとな。そんなん家で何度もしたわ。
緑茶と和菓子を両手に持ちつつ、和室に入ると……緊張でガッチガチの兄貴がそこにいた。
まるで子猫に睨まれた成犬だ。
「兄貴、ほら茶。そんなガタガタ震えてたら……インフルにかかってると思われるよ」
「あ、あぁ、すまん……」
そのまま緑茶を一気飲みする兄貴。
しかし震えは収まらない。むぅ、なにかリラックスさせるいい方法は無いものか。
「ほら、大地。アンタも服装チェックしな。ネクタイ曲がってない?」
母と共に入念に兄貴の服装をチェック。
紺のストライプスーツに、ドットの入ったネクタイ。ちなみに私が選んだ奴だ。
そして私と母もスーツに身を包んでいる。
「あ、晶……い、今何時?」
「いや、兄ちゃん……良い時計してるんだし、それ見なさいよ」
兄貴は左手にはオメガのカッコイイ時計。
これも私が買わせた。時計だけで十八万円なり。
なんせ、兄貴の持っている腕時計は千円くらいの……メーカーすら良く分からん物ばかりだった。
これじゃあアカン! とスーツと一緒に購入してきた。
あぁ、本当は私が欲しいんだけど……男物のカッコイイ時計……。
「え、えっと……11時半だっけ? あ、あと20分くらいか……」
うむ。あと20分で澤田さん来るぞよ。
そう、澤田さん……私はずっと引っかかっている。
最近どこかで澤田って名字聞いたな……と。まあ良くある名字だし、そこまで気にするのはどうかと思うが……あのお見合い写真に写っていた女性に見覚えがあったのだ。
何処かで会ったような気がする。だがいくら思いだそうとしても分からない。
(まあ……気のせいだろ。世の中には三人くらいソックリさんが居るって言うし……)
私のソックリさんは何処に居るんだろ……と思いつつ再び庭へと出る。
冷たい風が頬を撫で、庭の池で泳ぐ鯉が跳ねる。
ここで……おでん食べながらワンカップ飲んだら最高だろうな……。
そんな事を考えていると、和室の中に店員さんが入ってきた。
「失礼します。お連れ様がお着きになられました」
お、来た来た。まっておったぞ。
「ひっぃぃぃ! こ、こられなさりました?! ど、どどうしよう! 晶!」
いや、落ちつけ。何をそんなに怯えてんだ。
別に取って食われるわけじゃないだろうに……。
「はーはー……ヒッヒ……フー……」
あんた……何を産むつもりだ。
「兄ちゃん、あれだ。手の平に人って三回書いて飲みこむんだ」
「三回? あれ、四回じゃない?」
んなもんどっちでもいいわ! いいから早く飲みこめ!
「ひ、人……人……人……」
いや、今君、入るって字を三回書いたよな。
まあどっちでもいいか。結局は自己暗示なんだし……。
「よし。なんだか落ち着いてきた。ありがとう、晶」
うぁぁぁ! 噓つけ! そんな急に?! そんなに変わるの?!
なんか気持ち悪い!
と、その時スタスタと足音が!
むむ、複数人居るぞ。二人……いや、三人か。
「ほら、いらしたわよ。大地」
心なしか母の口調もいつもと違う。
いつもはバリバリ美濃弁なのに……。
いや、母も手が震えている。
緊張しているのは兄貴だけじゃない、母もだ。
そりゃそうだよな……私達は母の苦労を知っている。
昼夜問わず働き、一人で私達を育ててくれた。
兄貴が高校の時など、母はぶっ倒れて入院したのだ。
しかも……父を奪った病と同じ……くも膜下出血で。
(それがあるから……兄貴は……)
彼女なんぞ作っている暇など無い、と働き続けたんだろう。
そんな兄と母に、私は未だに甘え続けている。
せめてもの恩返しでは無いが、ここは私が一肌脱ごう。
「兄ちゃん、カッコいいよ。頑張って」
兄貴は無言で私にGJサイン。
さあ、兄貴の人生初のお見合いが始まる。
私の姉になるかもしれない人物が、すぐそこまで来ていた。




