表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/73

(28)

 11月23日 (木)


 本日、琴音さんと例の少年が退院する。

少年の方が早いと思っていたが、それだけ琴音さんの回復が早いという事だろうか。


というわけで、私は今琴音さんの身支度を手伝っている。

退院出来ると言っても、まだ歩けるわけでは無い。

まだ車椅子に頼らなければならない。


「ごめんね、晶ちゃん……お使いさせて……」


「いえいえ、お安い御用っすよ」


私は琴音さんの家……即ち拓也の家にお邪魔して服やら下着やらを見繕ってきた。

拓也じゃ下着とか気まずいだろから……と琴音さんは言っていたが……。


(やばいな……私の下着を拓也に献上したってウソ……まだ覚えてるのかな……)


そりゃ覚えているだろう。

このままでは拓也はヘンタイにされてしまう。

どこかで「あれはドッキリでしたー!」とか言う機会があればいいのだが。


 一通り琴音さんの身支度を終え、いざ病室に別れを告げようとした時、例の少年がやって来た。

むむ、見知らぬお姉さんが車椅子を押している。看護師……では無さそうだ。


「琴音お姉さん……今日でお別れだね……」


しょんぼりする少年。実はこの少年、琴音さんに結婚の申し込みをしたらしい。

だが琴音さんの答えは……


『ごめんね……私は光くんの事好きだよ。でも……光君の好きとは違うみたい……』


という、小学生が理解できるのか怪しい断り方をしたらしい。

だが光くんは琴音さんをお嫁さんにするのは諦めたようだ。

ん? ということは……もしかして車椅子押してるお姉さんが新しいお嫁さん候補?!


 そのお姉さんは、マジマジと見つめる私の熱い視線に気が付いたようだ。

会釈され、思わず返す私。


「光くん……そちらの方は?」


琴音さんも疑問に思ったようで、光くんの車椅子を押している女性が誰だと尋ねる。

女性は笑顔で琴音さんにも会釈しつつ


「始めまして、入院中は色々とお世話になったみたいで……私はこの子の親戚に当たる者です」


むむっ、なんだかこの小説には珍しく礼儀正しい人だな。

やっとマトモな人が出てきたような気がする。


 そのまま四人で一緒にエレベーターに乗り、病院の正門へ。

むむ、見送りは……居ないか。

なんかドラマとかでは花束もった看護師さんが居たりするのに……


「晶ちゃんったら。仕方ないって、看護師さんも先生も忙しいんだし」


うむぅ……それはそうだけど……と、その時勢いよく走ってくるワンボックスカーが。

おおぅ、ナイスタイミング。


「ご、ごめん晶……ちょっと遅れちゃった……」


助手席から顔を出したのは里桜。運転席には春日さん。

今日の為に車を出して貰えるように頼んでおいたのだ。


「琴音お姉さん……」


その時、光少年が涙を拭いながら話しかけてきた。

むむ、泣いているのか。

まあ仕方ないな。というか、この子の場合ここまで元気になれたのが不思議なくらいだ。

両親が無理心中を図って……結局この子だけが生き残ってしまったのだから。

私だったら発狂してる。


「んー? どうしたの、光くん……こらこら、約束忘れたの? 私達はもう……」


「不幸にはならない……」


言いながら再び指切りする二人。

うむぅ、なんか私まで泣いてしまいそうだ!


「北海道、いつか遊びに行くね。蟹とウニ沢山食べさせてね」


琴音さん……もっと何か別れの言葉なかったんですか。


「うん……絶対だよ、絶対来てね……メール送るね」


そのまま指切りをして手を離す……かと思いきや、琴音さんが身を乗り出して抱き付いた!

光少年も、その親戚のお姉さんもびっくりしている。

琴音さんの方がリハビリ始めるのは遅かったのに関わらず、まだ光少年は車椅子から自力で立つ事すら出来ないのだ。


「またね。蟹とウニ、忘れないでね」


そこ念押ししますか、アンタ。


「うん……待ってる……またね」


そのまま少年は別の所に迎えが来ているらしく、その場から去って行った。

見えなくなるまで手を振りながら。


 琴音さんもいつまでも手を振りつつ、今更になって涙を拭っていた。


「琴音さん……寂しいですね」


「そうだね……でも……これで目標が出来たね。晶ちゃん、一緒に行こうね、北海道!」


おおぅ、蟹とウニを食いにですな。お供しますぜ。


「いやいや、光君に会いにだよ?」


貴様!




 そんなこんなで春日さんが運転するワンボックスカーで帰宅する私達。

途中、何処かに寄って昼ごはんを食べようという事になった。

まあ……最初から手筈は整っていたんだが。


「琴音さん、なに食べたいですか?」


「え? んー……じゃあラーメンとか……入院中食べれなかったしーっ」


「却下。琴音さん、何食べたいですか?」


「え? いや、ラーメン……」


「却下。琴音さん、何食べたいですか?」


「え、えっと……カレー……?」


むむ、カレーか。

確か執事喫茶にカレーあったな。


「そんなにカレーがいいんですか? 仕方ないなぁー、春日さん、執事喫茶にしましょう」


「え? え? ココ○チとかじゃないの?」


そのやり取りを見て、里桜は溜息を吐きながら……


「晶……あんた、もっと上手くやりなさいよ……」


五月蝿い! 里桜うるさい!

バレちゃうだろ! サプライズするんだから!


 そのまま何やら不安毛な琴音さんと共に執事喫茶へ。

入り口には、予約様貸し切りの札が。


「あれ? 貸し切りになってるけど……入っていいの?」


「いいですよ。予約してますから」


さらに首を傾げる琴音さん。

ふふふ、とても自然な流れで執事喫茶に来る事になったからな。

予約されている事が不思議なんだろう。


「どこが……とても自然な流れよ」


里桜のツッコミをスルーしつつ、中へと入ると三人の執事がお出迎えする。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


一人は拓也

二人目は央昌さん


そして三人目は……


「お、おか、おかえりなさいませ……お、お嬢様?」



何を隠そう、私の兄……真田大地だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ