第3話 祭師との対話
「ねぇ武藤さん」
「なんだ」
「さっきから俺たち、いったい何見てるんでしょうか…」
「んーわからん」
マジックミラー越しに武藤刑事と小林刑事が不思議そうに
静華と犯人のいる取調室を観察していた。
逮捕された例の奥さんは
飲まず食わず、もう48時間が過ぎていた。
暴れる危険性があるため、きつい拘束帯が体に巻かれていた。
それは祭師の用意していたもので内側には悪魔封じの呪文が刺繍されている特殊な拘束帯だった。
取り憑かれた者が暴れる。
こういう事は時々ある事だ。
少し前に係官が奥さんを検察庁舎に連行し検察官と面談はしたが
奥さんは、うめき声をあげたりするだけで調書には
「面談、取調べ不可、精神鑑定必須」とだけ書かれ昼前には留置場に戻ってきた。
昼飯のサバ弁当と、お茶は奥さんに食べられることもなく
畳にぶちまけられており
留置場の担当警察官は後片付けの心配をしていた。
「ウゥウウー、ウワァウーガウッグルルゥゥゥゥ・・・」
目をギラつかせ、どんどん痩せてゆく奥さんは再度、病院にて健康状態保全のため専門のドクターに問診の要請が出ていた。
例の鬼屋アパートの現場は仮設のブルーシート目隠しと足場が撤去されて高さ2メートルの鉄板フェンスを周囲、結界刀に沿って、ぐるりと囲む作業に移っていた。
その時、現場の作業員たちの安全を守るため、遠く三重県の山村にいる
祭師・榊原政一郎は現場に出向くため、『咲』と呼ばれる仲間の祭師に守護の法の行を引き継ぎ、鬼屋の現場に総勢40余名が出向くための支度を始めていた。
現場での作業は昼間に行われており細かい指導は和華さんが行っていましたが彼女はサングラスをしていたので、ひょっとしたら所々、霊体の榊原剣一郎様が、やっているのかもしれなかった。
もちろんサポートには尾形と、お父さんの社長、時折、西条先生・警察の茂木も加わり、特に西条先生と祭師・剣一郎さんの二人は随分と交流を深めていらっしゃるようだった。
傍目には小学生の女の子と、おじいさんが会話しているようにしか見えません。
「それは難儀な話ですな、ハハハッ」
「全くです、もう腹も立ちませんわ、ハイ、ハハハッ」
式と静華は警察に出向きました。
例の奥さんと話をするためです。
いつまでも正気に戻らない奥さんを案じた静華が警察に面談を申し込んだのです。
それと、あの土地と三本松ノ木の根元に埋められたという
「金魂様」について調べたいこともあるらしく
式は助手といいますか、静華の部下として同行した。
奥さんは取調室に、式は静華さんの指示で部屋の壁に護符を貼って窓を開けた。
静華が上着のコートを脱ぐと神官の白装束を身につけておられた。
右肩に「不動明王尊」
左肩に「鬼子母尊神」
背中に「素戔嗚尊王」と金色の糸で刺繍が施されている。
蛍光灯の光が反射しているのか
静華さんの装束が発光しているように見えて眩しく感じた。
奥さんは、ずっと椅子に座り唸り声をあげていた。
「アキラ、水と食料テーブルに並べて」
「はい」
テーブルの前に座り拘束帯を付けられた犯人の奥さんは、これから何が始まるのかと不安気な表情で見ていた。
「グルゥルル・・・・」
取調室の机に買ってきた水・お茶、おにぎりや団子、サンドウィッチを並べた。
「アキラ、ティッシュないわ、もらってきて」
「あー、はい、すいません」
「アキラァッ!」
「はい」
「いちいち謝るな、うざい!」綺麗な静華さんの怒った顔が・・・
「あ、はい、スイマセン」『あっ!』
「おいっ!」
「あっ、すいません、あっまた・・あれぇーあっとティッシューっ」
「バカ」
式の気が、そぞろだった理由は数日前
この奥さんを木刀で殴打するという暴力をふるってしまった事への罪悪感があり、自分がどう思われているのか・・・
恨まれているのだろうな・・・と考えていたからだった。
あの生々しい惨劇のトラウマもあって不安だった。
そうして静華は奥さんの前に立ち対話が始まった。




