第10話 カオス・カオス・カオス5
式が動けなくなって恐怖に慄いていた時、刑事の二人が事務所に入ってきた。
―バンッ!とドアが勢いよく開いた。
すると照明は唐突に明滅をやめて正常に戻った。
鈴木が先頭で入ってきました。
「こんばんは式さん、今、電気おかしくなかったですか?」
「あぁ、良いところに来てくれた」
『こ、声が出た、良かったー・・・』
金縛りで茫然としていた式は動けるようになって席を立ち奥さんから距離を取った。
女刑事、小辻は奥さんの正面に回り込んだ。
奥さんは座ったまま顔が作り物のように表情が固くなって目に心が無い。
小辻が奥さんに話しかけた。
「奥さん、急ですが今一度、色々と事情を伺いたいので署に、ご同行いただけないでしょうか」
「嫌です疲れてますので」
式は何も知らない。
『えっ?どうなってんの奥さんに何か容疑でもかかってのかな』
「それでは大変恐縮ですが持ち物検査させていただいて、よろしいでしょうか」
「嫌です何ですか?私が何をしたっていうんですか」
奥さんが小辻刑事を、ものすごい形相で睨みつけた。
鈴木は奥さんの後ろで黙って話を聞いており
式は落ち着くために奥の洗面台の所で電子タバコを吸っていた。
まずい空気を察し確認はしていなかったが奥さんは凶器を隠し持っている危険があった。
「刑事さん、あんまりそばに寄っちゃだめだ奥さんは凶器を持っているかもしれませんよ」
「えっ!」
小辻は一瞬、少し下がった。
奥さんは大声で狂ったように笑い出した。
「はははーあーっ!ははははははは」
危険を察知した式はスグに紐で壁にぶら下がっている
自分の木刀を持ちながら奥さんに寄って歩いて行った。
その時、ガタガタと鉄製のロッカーが音を立てて振動をはじめ
窓ガラスもガリゴリと鳴り始めました。
そして事務所内に、あの忌まわしい、お経と呪文の声が
大きく響き渡り出した。
【あーざー・・・じい・・ぜくしゃく・・たぁらぁー・・・】
【イーア サダル イーア マクダ イアッ!イアッ!・・・】
二人の若き刑事は驚いてキョロキョロした。
「なにっ?!」
「なんだこれはっ!」
―ドンッ!と音がしてデスクのパソコンが破裂したように煙を上げた。
『え?』皆が一瞬そっちに気を取られた時!
【あーざー・・・じい・・ぜくしゃく・・たぁらぁーー・・・】
【イーア サダル イーア マクダ イア!イア!・・・】
「ギイッーーヤアアアーーッ!うあっーーーーっ!」と奥さんが叫び声をあげながら立ち上がったかと思うと
バックから大型の包丁を取り出し小辻に斬りかかって行った。
「あっ」
驚いた小辻は下がって踵でつまづき転びそうになったところを切りかかられ
咄嗟に出した右手のひらをザックリと切られた。
「ああっ!」
鮮血が飛び散り下手すると手首の内側もいかれてる可能性があった。
血の勢いがすごい。
「ああぁーっ」小辻が腕を押さえて尻もちをついた。
そして大きな包丁を持った奥さんは、なおも小辻に襲いかかろうとした。
「小辻ぃー逃げろぉーっ!」鈴木が奥さんに飛びかかった。
【あーざー・・・じい・・ぜくしゃく・・たぁらぁーー・・・】
【イーア サダル イーア マクダ イア!イア!・・・】
その時、式は急に現場の音が何も聞こえなくなり、みんなの動きがスローモーションになった。
鈴木に羽交い締めにされている奥さんは持ってきた包丁を上下左右に振り回し、めちゃくちゃに暴れ近づく事も危険だった。
「うっ!ぎゃああああああーっぎゃぁああああーーーーっ!」
奥さんは小辻に覆いかかろうとするのをやめなかった。
「ぎゃぁーーーーっ!ぎゃぎゃぎゃあーーーーーっ!」
狂った奥さんは、ものすごい形相で叫びながら包丁を持った腕を激しく振り回し
女とは思えないすごい力で暴れて肘鉄を鈴木に食らわしたり
無理やり腕をまげ、すごい速さで、
あっという間に後ろにいる鈴木さんの顔、腕、脇腹、太もも、股間、頭、首とめちゃくちゃに包丁で切りつけザクザクと刺した。
「ああっ!あう、あう、ああっ!・・・」
痛さで鈴木さんの口から声が出ていた。
傷口から出血が始まり、あっという間に鈴木の衣服は全身
真っ赤に血で染まった。
小辻は悲鳴を上げた。
「キャアーーーキャァーーーッ!!!」
鈴木は暴れる奥さんから小辻を守ろうと、ただ奥さんを羽交い締めにして刺されるままになっていた。
「スズキぃーっ!!!」
式は急いで木刀を振り下ろした。
血を見たせいでしょう
式は擬似性の貧血でめまいがしながらも走って行き奥さんの包丁を持つ腕、背中や顔面を木刀で殴打した。
―ガツンッ!バンッ!ガツンッ!
すべてが、ゆっくりとしたスローモーションに見えた。
式は涙が出た・・・式は・・・奥さんを木刀で殴打した・・・
凶器を持つ手を・・・顔面・・・腕・・・肩・・・背中・・・
めちゃくちゃに・・・
「やめろーおっーーっ!!」
奥さんは凶器の包丁を床に落とし気を失い、鈴木刑事は出血性ショック状態か失神して倒れた。
小辻は動くことができず目からは涙が流れ必死に自分で出血を抑えている。
「ひっくっ!あっうっうぅぅ・・・」
式は、すぐに救急車を呼んだ。
会話はスピーカーにしたまま住所を告げた。
会話しながらヨロヨロと机の上にあった布製のガムテープを持つと小辻さんの手首をぐるぐる巻きにし
さらに手のひらなどもぐるぐる巻きにして止血をした。
小辻は、うめき声を少しあげたが意識が朦朧としていた。
「うぅ・・・」
次に鈴木の首や腕、太ももを必死にガムテープで巻いた。
でも・・・出血で、うまくガムテープがくっつきません・・・
彼は苦しそうに倒れたまま気絶していた。
血が・・・どんどん流れて・・・床に、みるみる広がっていった。
『あぁ神様っ!』
「スズキぃーっ!」
式はガクガクと震える足でまた暴れだすかも知れない倒れた奥さんの背中を抑えつけながら
震える手で、まだ繋がっているスマホを持ち叫んだ。
「出血が、ひどい人が二人います包丁で滅多刺しされてます急いでください早くっ!!」
「はい、すぐに救急車が向かいます。なるべく傷口を塞いで押さえ止血願います」
床一面が血の海になった頃、遅くなった武藤さんが事務所に入ってきた。
「な、なんじゃぁー!こりゃぁーーーーーあっーああああー!」
式は・・・
鈴木の傷口を手で押さえながら涙がこらえきれず・・・・
武藤の顔を見ながら自分の膝下で呻いている奥さんに手錠をはめるように頼んだ。
「手錠をしてください・・・おく・・・奥さんが・・・あばれました」
武藤が何か叫びながら鈴木さんを介抱した。
式は小辻の腕を、またテープで巻いたりしながら武藤に言った。
「武藤さん・・・救急車すぐに来ますから・・・」
あの・・・成田の悪夢がよみがえる。
違うのは場所が式の事務所で床一面に血の海があった。
『また、こんな事に・・・静華さん、ひどいよ守ってくれるんじゃなかったの?
なんでぇ・・・ウッ・・なんでまたこんなひどいことになるんだよ・・・・』
「なんでだよぉおおおーーーーっ!」
式の顔面は涙で、ぐちゃぐちゃだった。
生まれて初めて
人前で大声を上げ泣き崩れた。
「ああっ!げふっ!あ、あ、あ、うあああああーっあっあっー!
うあーーん、ああーーーっうあっあっあっ・・・」
式は気分が悪くなり血の海になった床にヘタリ込むと何も聞こえなくなっていた音が聞こえ始めた。
遠くに救急車のサイレン・・・パトカーのサイレンが聞こえて・・・
また続々と・・・集まって来た・・・・




