第11話 邂逅1
「さて、あなた方の調査は、どこまで進みましたか」
「はい、まだ地図を漸く入手したくらいなものでして、それで図書館で西条先生の
『郷土史・万象綺譚』を見つけまして今回お邪魔したという感じで、まだ何も調べは進んでいません」
「そうですか、それは貴方達にとっては大変良いところに、いらっしゃっていると思いますよ、ははは、
しかし何ですな時代の進歩、地図もこんなに簡単に写真で撮りさえすれば良いのですなぁ・・・
私も息子や孫にスマホンの一つも教えてもらわなければなりませんねぇ・・・」
サイコパス尾形君が余計な発言をした。
「先生、スマホンじゃなくてスマホと呼ぶんですよ」
式は焦りました。
「こらっスマホンだって間違いじゃないよ、ねぇ西条先生」
「はは漫才みたいですな、あなた方、ははは、ところで尾形さん、その顔一体何があったんですか・・・」
生傷とまだ少しパンダ顔の尾形君だった。
「あ、これは・・チョット貧血で倒れまして」
「元々そのような体質でらっしゃるのですか?」
「いいえ」
「いや随分昔になりますが、あの土地を調べていた友人が、やっぱりそんな顔で過ごしていた時が、ありましたよ・・・最初に言っておきますが、まぁもうすでに色々体験されているようですので単刀直入に言いますと、あそこは呪われた土地です」
「はぁ…」式と尾形は顔を見合わせた。
「あそこに出入りすると良くないことがあります。
しかも、それは伝染し亡くなる人間も出ます。
私は最初、興味本位であそこに出入りしたのですが親友を亡くしています。
そして、東京の民俗学・学会に出かけた時…今、思えば運が良かったのですが偶然その場に居た霊能者の方に呼び止められましてな
『私に良くないものが憑いている』と忠告いただきまして、
その後、函館に数人の方を御呼びして、
私や妻と子供のお祓いをしていただき、
その後さらに家の間取り等も忠告いただき、それを信じた私は家の改装を行い、紹介いただいた名も無き修験道の方々に来ていただいて、この家に結界を張りました。
つまり
あの場所に居る、あやかしたちは生易しいものではありません。
私がそこまで確信的に目に見えぬものを信じるようになったのは、それなりの出来事が本当にあったのです。
ですので、この家はいまだに結界に守られ、私の家族も守っていただいているので…現在もこうして生きています、信じられますか、この話」
式も尾形も信じられないものを見てきた、西条先生の眼差しには真実味があった。
「はい」
「ハイ」
緊張気味の二人を見た西条先生は
「ははは、少し脅しが過ぎましたかな、ハハハハハハッ」
西条先生は順を追って話を始めてくださった。
若き日の先生は将来、大学の教授になるのが夢だった。
「ところが東京の大学に通うほどの学力も財もありませんでなぁ、そんな矢先、若気の至といいますか、ある美しい方に恋をしまして・・・」
「ひょっとして、それが今の奥様でらっしゃいますか?」
「ははは、お恥ずかしい・・・」
一人娘の奥様の家に婿養子となって入籍し流れもあって高校の教師になられたという。
そして当時、学校の同僚に美術を教えていた
民谷文貴という先生がいたそうだ。
民谷先生は趣味で狐狸妖怪話が大好きだったそうで当時そういう世界に疎かった西条先生は
彼に妖怪のことや柳田国男の民俗学考察・泉鏡花・内田百間・岡本綺堂・ラフカディオハーンの文芸作品を勧められて、
すっかり影響を受けてしまったのだった。
そして、あのアパートのある土地について最初に色々聞き込んで調べだしたのは
その民谷先生が最初だったという。
1969年 西条先生は高校の教師になって同時期に民谷先生も就任。
同期ということだけでなく馬が合った二人は急速に親しくなっていき
西条先生が結婚されてからも民谷先生は良く家には出入りしていて、まるで家族の一員のように、付き合いをしていた。
「おーい、こんにちわぁー」
「あら、いらっしゃいませ、主人が、お待ちかねですよ」
「あはは、これ奥さん」
「まぁ立派な鮭、いいんですかあ?あら、お菓子まで」
「はい今晩これで焼き魚や、お握り、お願いできますか?」
「あら、泊まっていくつもりですね、もう・・・」
「はぁ、いつもすいません、お二人の邪魔をしまして、ただ、これでもマダ遠慮している方ですがね」
「まぁ!あはははは」
「いやー、ははははは」
「おーい何やってるー?早く上がれータミヤぁー」
西条先生は懐かしそうに話します。
「なんて感じでね、もう昔の事ですが・・・」
民谷先生は流石に日曜日などは遠慮していたようですが週末や学校が休みの時は子供達みんなも含めて一緒に出かけたり、
お互いどちらかの家にこもって酒を飲みながら新しく入手した怪談物の本について語り合ったりして過ごしていた。




