第3話 心霊相談
その後、式にとって印象深い取材があった。
その日、ローカル雑誌の編集部からの取材依頼があった。
「すぐにでも取材して欲しいそうです」
「はぁ何か変ですねぇ、すぐにでもなんて…」
「そうですか?ありがたい事じゃないですかあ」
「えぇそれは、そうなんですけど何か急ぐ理由でも、あるんじゃないですか」
怖い話を急いでしたいなんてワケありか、ちょっと変わった人か、どちらにしても普通じゃないと式は感じた。
「シキさん今から連絡できますか?えっと電話番号は…」
編集は他人事で事務的だった。
式は、前年暮れに隣家のアパートからの出火が原因で実家が半分焼けてしまい、もらい火の被害者になっていた。
これも怪談蒐集のツケなのか、呪い祟りだと自負があった。
家の電気は点くようには工事していたが、まだ壁にブルーシートを釘で打ち付けてもらい応急処置しただけの家に寝泊まりした。
真冬に家の壁が焼け落ちている状態で
帰ってくると部屋に置いてあった飲みかけのペットボトルが凍っていた。
普通の人は寒くて寝泊りなんて無理だろう。
取材の日、式は精神不安定で夢見も悪かったのを憶えていた。
その時、唯一の家族であった母親は急な体調不良で施設から救急車で担ぎ込まれ市立病院の特別室、集中治療室に多臓器不全で透析などの延命治療を施して入院していた。
高額医療費請求で1日で15万円以上かかり、式は支払いが一割負担+その他実費になった。
何かあると呼び出しが来たり支払いもひっきりなしでストレスを溜める本当に過酷な日々だった。
「病院はボランティアではないので、すぐに、お支払い願います」
「はぁ週明けにも全額支払いますので、ちょっと待ってください」
『あのー俺、家、火事で焼けてんですけど…』
「待てません可能な分だけでも先に、おねがいします」
『何の呪いだよ』
「わかりました、じゃコレ・・5万」マジきつい、でも病院だって大変です。
「不足分は、いつになりますか?」
「月曜日の午前中には持ってきます」わかっててもキツイ…
「わかりました、よろしくお願いいたします」
今思うと、この頃から式は躁鬱が激しくなり病んでいた。
さて『すぐにでも』という取材依頼者様の要望に応えて、すぐに連絡した。
お互いの都合に良いファーストフード店で待ち合わせをして取材が始まりました。
依頼者は、お母さんと娘さんの二人で娘さんは高校三年生だった。
娘さんが言いました。
「本当は父も来たがっていたんですが仕事でして」
「ああ、そうですか、で、どのようなお話でしょうか」
お二人は顔を見合わせて娘さんが口を開きました。
お話は高校生の娘さんが帰宅しようと夜7時頃、川沿いにある件のアパート前の通りを歩いていた時の事だという。
式は心の中で
『ゲッ!またあのアパートか・・・』と思ったが
顔には出さなかった。
ある日の日没直後、娘さんは視力が低く普段メガネをしているのですがメガネをカバンに入れたまま家路を急いでいた。
件のアパートがある通りは公園があり、ついで空き地があり草むらとアパートがあったが夜になると街灯は離れたところにあるだけで暗い気味の悪い通りで人通りも無くなる。
娘さんがアパートの前まで来るとアパート一階の玄関ドアに何かが
『ヒラヒラ』とはためいているのが見えました。
娘さんはアパートが無人だということは認知していたが
事件のことや噂のことは知らなかった。
ドアの郵便受けあたりに見える『ソレ』を娘さんは
『貼り紙か何かが風でなびいているのかな?』と歩きながら思った。
だんだんと近づいていきメガネをしていなかった娘さんは敷地内に入り
ヒラヒラと風になびいている『ソレ』を近くでよく見た。
「あっ!」息を呑んだ。
それは貼り紙などではなくドアの郵便受け口から飛び出ている
『人間の手首』だった。
自分の目の前で郵便受け口の大きさを無視してドアから生えているように
手首は手招きしている。
『男の人の手だ』と直感的に思った。
娘さんはゾッとして走って家まで帰った。
その日、彼女は先ほど見た『ソレ』の事は家族に話さず眠りに就いた。
翌朝ひどい頭痛で目を覚ますと体が重く起きられない。
すると、お母さんが部屋にやってきた。
「ちょっと、この、お酒、朝テーブルに出てたんだけど…あんた?どうしたの具合悪いの?」
娘さんから強い酒の匂いがした。
飲まないはずの娘さんは自分も知らないうちに家にあったウイスキーを夜中にガブ飲みしていたようだった。
頭痛薬と水をたくさん飲んで横になり、その間に前夜の手首の目撃談を娘さんは、お母さんに話した。
『おかしい』そう思った、お母さんはローカル冊子で
式の連載を、よく読んでいて取材というよりも娘さんが心配で学校を休ませ、式に、どうしたらいいのか相談に来たのだった。
式が一番苦手で恐れるタイプの心霊相談だ。




