第1話 痛恨
探偵、 式 亮は件の失踪事件の現場を興味本位で視察したあたりから頻繁に怖い夢を見るようになっていた。
金縛りになりながら夜中に怖い夢を見ては目が覚める。
それは自分のベットの足元に死体が転がっていて、どうやって処理したらいいのか悩んでいる。
そして自分がいつの間にか鬼に変身していて人々を殺していたり…
そんな夢だった。
ある日は体が動かず金縛り状態で苦しんでいると足元から誰かが這い上がってきて襲いかかってきたり、叫び声をあげて目が覚めるたびに
『あー夢か…』と朝からぐったりしている。
『なんか連れてきちゃったかもな、ヤバイなあそこ』
そんなある日、式の事務所にネットで動画をあげたりしている彼の知人、成田という男が遊びに来た。
成田は『金がない』と言うのが口癖で、ご飯時を狙ってくる彼に良い印象は無く会うたびに意見がコロコロ変わるのも問題で実は式の一番嫌いなタイプの人間だった。
「なんだよ、またタカリにきたのか?」式はあいさつ代わりの嫌味を言った。
「なかなか再生数は上がらないです」彼は嘆きながら唐突に件の事故物件アパートの話をしてきた。
「夏の特別編なんて感じでさ定点ライブなんかしたら、どうかなと思ってさ」
式は驚いて咄嗟に何も知らないふりした。
成田は誰から聞いたのか得意になって件のアパートの噂について語りだした。
先刻の尾形さん取材の結果は、どこにも発表せず置いたままになっており、あまりに生々しいのとコンプライアンスの問題で雑誌掲載も難しい、
アパートのオーナーさんなどが出て来て提訴などされたりしたら堪ったものではない。
まして死者、行方不明者など関係者さんたちの心情を思うと、いかにも他人の不幸を面白がっているように思われるのも本意ではないので『ボツ』扱いにしていたからだった。
「やめろバカ、空家や廃墟じゃないんだぞ訴えらるぞ大家さんに、それに街中なんだから不審者扱いで職質されたり私有地に一歩でも入ってみろ、ヘタすると住居不法侵入で捕まるぞ、やめろ」
「あれ、なんか知ってんの式さん?大丈夫だってぇー、怖い話のプロだもんな、やっぱ何かあるんだアソコ?」
「知らん」
式は、またこの言葉を聞いた。
『大丈夫だってぇー』先のことを考えもしない無責任な言葉だ。
「嘘だね、だって空家や廃墟じゃないって今、言ったでしょ場所知ってんジャン」
「知らん帰れ、もう二度と来なくていいからな」
「うわ冷たい、怖い話、教えたでしょう?」
「悪いけど、お前から聞いた話なんて嘘臭くて全部ボツだよ」
「・・・・・」成田は妙な目つきで式を見つめる。
「なに」
「飯おごってください…」
「あーこの貧乏神っ!」
これが式の短所で、すぐ貧乏人に同情してしまう。
自分も貧乏なのに…
この同情心が、やがて式の墓穴を掘ってしまう事になるとは思っていなかった。




