301. 交易交渉
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それからユリはアルトリウスの助言も受けながら、ジュレミー総長と2時間近くに渡って、百合帝国とアガット騎士団領の間で行う、国交を始めとした様々な事柄について話し合う。
竜と騎士隊を戦わせる『試合』に関しては、これまでアガット騎士団領がヴォルミシア帝国と行っていた『戦争』と同じく、秋期の―――つまり来月の4~5週目辺りに行うことに決まった。
アガット騎士団領では『騎士』は全員が職業軍人だけれど、その騎士隊の運用を支える兵士隊に関しては、その大半を農民兵が占める。
なので秋期の収穫が終わった後の農閑期に行う方が、先方の都合が良いそうだ。
ちなみに百合帝国からは3体の竜を出し、アガット騎士団領の第1~3騎士団がそれぞれの竜に挑む、という形式になる予定だ。
実際には第1聖騎士団という、治療魔法が使える騎士だけで構成された部隊も、3分割した上で第1~3騎士団に加勢する形になる。
大体竜1体に対して、160名程度の騎士が挑むことになるようだ。
言うまでもなく、数の優位は大きな力になる。アガット騎士団領の騎士達は充分な精強さを備えているようだし、良い勝負が成立しそうで今から楽しみだ。
交易面に関しては、ジュレミー総長からの要請により当面は互いに税を取らず、国境を開放することになった。
アガット騎士団領ではおよそ1年近くの間、国土に出現した泥土狼への対策の為に、都市を封鎖し他国との交易を断っていた。
その為、現状では国内で不足している物資の品目がとにかく多いらしく、当面は商業を活性化させる政策を採り、その補填を速やかに行いたい意向があるようだ。
交易の活性化はユリとしても望ましいことなので、もちろん快諾した。
ロフスドレイクを利用した『空輸』についても話を通しておいたので、不足中の物資はすぐにでも補填に協力出来ることだろう。
ちなみにアガット騎士団領で現在、最も物資不足が深刻なのは『鉄』と『薬草』の2つらしい。
アガット騎士団領には鉱山が殆ど無いため、鉄に関してはこれまでもヴォルミシア帝国からの輸入に頼っていたらしく。その為、交易が途絶えていた1年の間に、鉄不足がかなり深刻化しているそうだ。
また薬草に関しては、採取地の一部を泥土狼に荒らされてしまっていた為に、都市封鎖を解除しても以前ほどの自領内での産出が見込めず、今後は他国からの輸入にも頼る必要があるようだ。
鉄に関してはユリーカの『迷宮地』から常に安定した産出が行われているので、幾らでも提供することができる。
薬草に関しては『蓬莱』の都市で栽培している品種が幾つかあるので、こちらも輸出に協力できるだろう。もちろんアネカ共和国から輸入しているロエス草についても、必要な数だけ『空輸』で届けることが可能だ。
代わりにアガット騎士団領からは『果実酒』や『ジャム』、『山羊』、『漆』、『綿花』、『綿実油』といった交易品を提供して貰えるようだ。
品目から察せる通り、どうやらアガット騎士団領は果物と綿花の栽培に強い国であるらしい。
綿花に関しては降水量が多い土地でなければ栽培が難しいと、以前に誰かから聞いたことがあるけれど。アガット騎士団領は雨の多い地域なのだろうか。
―――個人的には、綿実油を出して貰えるというのが嬉しい所だ。
百合帝国では食文化が大きな盛り上がりをみせている関係で、最近は植物油などの消費量が著しく増加傾向にある。
主に『蓬莱』の都市などで生産の拡大を急がせてはいるのだけれど……。正直、消費量の増大が早すぎて、あまり追い付けていない。
なので、それを他国からの輸入で補えるというのは、とても有難い話だ。
綿実油は揚げ物の調理に適した油で、海外ではスナック菓子にもよく使われている―――という話を、嘗て日本で住んでいた頃に聞いたことがある。
ポテトチップなどが美味しく作れそうなので、輸入が開始した際には、早速自分でも試してみたい所だ。
「……のう、ユリよ。まだ話は掛かるのか?」
不意に、国交に関して話を詰める3人に、割って入る声があった。
ラドラグルフが発した声だ。その声色は明らかに『退屈』だと訴えかけている。
「ふふ……ごめんなさいね、ラドラグルフ。もう大体の話は終わったわよ」
「そ、そうか! ではそろそろ何か楽しい所にでも―――痛ッ!?」
「このポンコツ竜! 護衛役が主人の話を遮ってどうするのです!」
ラドラグルフの頭を、その隣に立つリンドヴルムがぴしゃりと叩く。
そのリンドヴルムの言い分はもっともだろう。とはいえ、大体の交渉が終わったタイミングではあったので、丁度良いと言えなくも無かった。
「そういえば、ユリ陛下。宜しければ是非、皆様が人から竜に変身するところを、この目で拝見させて頂けませんでしょうか」
「ああ、そういえばそういう話だったわね。構わないけれど……竜の姿になると、かなりの巨体になってしまうから。ある程度広いスペースが必要になるわよ?」
「それでしたら、当国の練兵場へ移動しましょう。あそこは騎士隊が全員騎乗して訓練を行えるだけの広さがありますので、問題無いと思います」
騎馬兵が訓練できるだけのスペースがあるなら、確かに充分だろう。
ジュレミー総長の提案に、ユリは頷く。
「なるほど、ではそうしましょう。―――ラドラグルフ、あなたの凛々しくて素敵な竜としての姿を、後で彼らに見せてあげて頂戴ね」
「おお、承知した! 何なら背に乗せて空を飛んでも良いぞ!」
「優しいのね。では是非、そうしてあげて頂戴?」
ラドラグルフが嬉しそうに答えた言葉に、ユリは微笑みながら頷く。
何と言うか―――色々とポンコツな分だけ、操作しやすい子でもあるのだ。
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