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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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292/370

290. 疲労の夜(後)

 



「サクラ。それはそれとして、ひとつお願いがあるのだけれど……」

「はい、主君。もちろんどのような御下知でも、喜んで遂行させて頂きますが」

「じゃあちょっと、抱き枕になって貰っても構わないかしら?」

「……はい?」


 ユリとサクラの2人だけをそのままに、周囲の景色が一瞬で変化する。

 別に大したことではない。転移魔法を行使して、自分の寝室に移動しただけだ。


「え? え?」

「サクラ。―――おいで」

「あ、は、はい。主君……」


 混乱している様子ながらも。サクラがユリの求めを拒否することはない。

 先にベッド脇に腰掛けたユリは。求められるままに近寄ってきたサクラの身体を受け止めるようにしながら、そのまま柔らかなベッドに倒れ込んで背中を預けた。


 小柄なサクラの身体はとても軽いので、受け止めても苦はないけれど。お互いが身に付けている衣服の感触や、何よりサクラが腰に差している大小―――本差と脇差の固い感触は、ベッドに持ち込むには無粋過ぎる。

 そう思ったユリは、視界内に装備品を変更するウィンドウを展開する。

 意識することでゲームの時と同様に操作できるウィンドウの、右上にある『全装備解除』のボタンを選択すると。ユリが身に付けている装備品が、防具も衣服も装身具も全て一括で解除された。


「し、主君!? き、今日はなさらない(・・・・・)のでは、無かったのですか!?」


 一瞬のうちに生まれた儘の姿へと変わったユリを見て、サクラが酷く狼狽する。

 その様子があまりに可愛らしかったものだから。思わず、くすりと無意識の内に笑みが零れていた。


「えっちなことはしないわよ? でも、折角サクラを抱き枕にできるのだからね。お互いの間で邪魔になるものは、全て取り払う方が都合が良いでしょう?」


 続けてユリは、サクラの装備ウィンドウも視界に表示させる。

 サクラを始めとした『百合帝国』の子達は全員がユリの『配下NPC』なので、当然彼女達の装備品などは、主人であるユリがいつでも自由に変更できる。

 同様に『全装備解除』のボタン操作を意識すると、ユリの腕の中にあるサクラが身に付けていた、あらゆる邪魔な物が一瞬のうちに消え失せた。

 無論サクラが腰に差していた二本の刀も消滅する。消滅と言ってもただの装備解除なので、サクラの〈インベントリ〉に移動しただけだろうけれど。


「は、はわわわ……」

「サクラの体温は、とても温かいわね。私の湯たんぽになって頂戴?」


 今は『夏月』なので、季節外れにも程がある要求なわけだけれど。

 それでもサクラは、ベッドの中でユリが掻き抱く両手の中に、何ひとつ抵抗せずに収まっていてくれた。


 ―――小さな女の子の体温というのは、抱き締めているだけで幸せになれる。

 ユリは女の子であれば、老若を問わず好きになってしまう性分なわけだけれど。サクラのようなまだ稚い女の子と夜を共にする際には、今みたいに肌と肌とを直に触れ合わせて、その心地良い体温を分けて貰うのが殊更に好きだった。


(……今夜は、ちゃんと『眠る』つもりでいたのだけれどね)


 倖せの酩酊に包まれていると、眠ってしまうのが惜しくなる。

 予定を変更して。今夜は朝までずっと、サクラの温もりに感じ入っていたい。


「わ、私だけがこんなに良い待遇を頂いてしまうと、仲間に妬まれそうです……」

「あら。では今夜のことは、2人だけの秘密ね?」


 耳元でそう囁いた後に、ユリはサクラの耳朶に唇を落とす。

 緊張にか、恥ずかしさにか。サクラの身体がふるっと僅かに震えた。


 続けて頬にも、そして瞼の上にも。優しく触れるだけのキスを落としていく。

 ―――唇にはしない。唇同士を触れ合わせれば、すぐに舌先をサクラの口の中に押し込んで、もっと濃密な口吻けを求めずにはいられなくなる自分の性分を、よく理解しているから。

 そうなればきっと、情欲が溢れて―――私は疲れた身体を押してでも、サクラの身体を求めずにはいられなくなるだろう。

 それでは『寵愛当番』を明日に延期して貰った意味が無くなってしまう。


「愛しているわ、サクラ」

「……はい。存じ上げております、主君。もちろん私もまた、心より主君のことを敬愛申し上げておりますし、そして深い思慕の念も抱いております」


 サクラの言葉に答えるように、ユリはサクラの首にも唇を宛がう。

 喉の辺りにも吸い付くようにキスをすると、サクラの唇から喘ぎにも似た、微かな声が漏れ出たのが判った。


 そういえば―――キスは確か、する箇所に応じて意味があるのだっただろうか。

 どこにするキスが、どんな意味を持っているのか。残念ながら覚えていないし、もう今となっては調べようもない情報だけれど。


 サクラの鼻頭にも、ユリは口吻けをする。

 何にしても―――様々な箇所に沢山のキスの雨を降らせていけば、そのどれかは自分がサクラに抱く感情に添うものがあるだろうと。そう思いながら。



 

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お読み下さりありがとうございました。

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