240. 隣国との交易路接続
*
「百合帝国の『蓬莱』と、当国の悪地にある『ハラキオ』と『サイオン』の都市を接続する交易路の敷設を行う……ですか?」
―――アネカ共和国の総督府、その中にある応接室にて。
突然の訪問にも拘わらず、嫌な顔ひとつすることなく面会に応じてくれたフルール総督は。ユリからの提案を受けて、驚きを露わにしてみせた。
鸚鵡返しに問い返された言葉に、ユリは頷く。
「ええ。試験的に『百合帝国』の子達に任せて、挑戦してみようと思うのだけれど構わないかしら? もちろん費用は当国側で全て持たせて頂くつもりだけれど」
「お断りする理由はありませんが―――。可能、なのですか? 悪地での交易路の敷設は、多分ユリ陛下が思っていらっしゃる以上に大変な作業ですよ?」
フルール総督はユリの申し出を快諾しながらも、やや心配そうに口にした。
百合帝国とアネカ共和国とは国境を接しているが、この国境から最も近い位置にあるのが、百合帝国は『蓬莱』の都市であり、アネカ共和国の側では『ハラキオ』か『サイオン』の都市になる。
今まで存在しなかったこれらの都市を接続する交易路を、今回ユリは『紅薔薇』と『黄薔薇』、『青薔薇』の子達に任せ、新たに敷設してみたいと考えていた。
「可能かどうかは、正直判らないわね。でも、だからこそ『百合帝国』の子達に挑戦させてみたいと思っている、というのが正直な所かしら」
「ふむ……? 何か、成功の見込みをお持ちのようですね」
「ええ、それなりには自信があるわ」
悪路での交易路敷設が難しいと言うのは、あくまで普通のやり方での話だろう。 『薔薇』の名を冠する3部隊の子達は、いずれも精霊魔法や魔術に長けており、交易路を造る際にその能力をフル活用している。
彼女達が十全に力を振るえば、敷設予定地の地質そのものを変化させることさえ可能なので、案外上手く行くのではないかとユリは期待していた。
「交易路の敷設には、とにかくお金が掛かります。それを百合帝国の負担で行ってくれるというのであれば、当国には利しか無い話です。
ですから、もちろん拒否など致しませんが―――確かハラキオとサイオンの都市には、竜を利用した『交易』を行う予定だったのでは?」
「もちろんそちらも行うわ。でも、陸路でも輸送できる方が良いでしょう?」
折角アネカ共和国と国境を接する位置関係にあるというのに、交易路が繋がっていないというのは、ユリからすると残念に思えてならない。
それに荷馬車を用いた『陸運』と、ロフスドレイクを用いた『空輸』。2国間で荷を運送するための手段が複数あれば、交易の安定化にも寄与するだろう。
「……まあ、そうですね。では、百合帝国の軍隊が当国の悪地へ自由に出入りし、交易路の敷設作業を許可している旨を、各所に通達しておきましょう」
「ありがとう、助かるわ。……まあ、敷設に失敗する可能性も充分にあるでしょうから、成果にはあまり期待しないで頂けると嬉しいかしら」
「ふふ。残念ながらもう、期待はしています。頑張って下さいね」
フルール総督はそう告げて、にこりと微笑んでみせた。
そう望まれれば、無論ユリとしても否やは無い。
交易路敷設の許可を得たことで、ユリはギルドチャットを通じて『薔薇』の名を冠する3部隊の子達へ、『蓬莱』と『ハラキオ』、及び『蓬莱』と『サイオン』の都市間を繋ぐ交易路の敷設を依頼する。
国家を股に掛けた交易路の敷設を任されるというのは、それだけ自分たちが上げた成果にユリが満足している証左でもある。3部隊の隊長を務めるプリムラとヘンルーダ、ミザールの3人は、ユリからの要請をそれぞれに快諾した。
ユリからの信任は『百合帝国』の子達にとって最大の活力源となる。
神域都市『蓬莱』と悪地都市の『ハラキオ』及び『サイオン』を接続する交易路の敷設は急ピッチで進められ、僅か1週間でおおよその完成を見た。
―――これは、かなり凄いことだ。
これまでに3部隊が担当した経路のように、もともと踏み慣らされた道があった場所に交易路を敷設するのとは異なり、今回は『道無き場所に新たに道を造る』作業なのだ。
また百合帝国側の土地が普通の高原草地であるのに対し、アネカ共和国側の土地は急峻にして荒涼な悪地。環境が安定しない土地間を結ぶ交易路の敷設には、おそらくユリの想像にも及ばない苦労や課題も伴った筈だ。
にも拘わらず―――建造に要した期間は、僅か1週間。
この成果には流石にユリも驚かされた。
道路の敷設自体は、それなりの確率で上手く行くだろうと期待していたけれど。期間的にはどんなに早くても、1ヶ月弱は掛かるだろうと見込んでいたのだ。
耐久性のテストとして、ユリは今日までに使役獣にしている133体の泥土狼を全て召喚して、急造された交易路を何往復も疾走させてみたけれど。それでも路面には何の問題も生じなかった。
泥土狼は『狼』と名前にありながら、実際には『猪』のそれに近い体躯を持つ。身体全体が通常の猪より2回り以上大きく、また胴体部が大きめの体形をしているため、おそらく1体あたり150~200kg程度の重量はあるだろうか。
かなりの速度で疾駆することが可能な脚力も持つため、133体の泥土狼が一斉に駆ければ、それだけで路面にかなりの負荷を掛ける筈だが。それでも何の問題も生じないというのだから、大したものだ。
「姫。宜しければ交易路の仕上げに冠しては『桔梗』に任せたいのですが」
「え?」
交易路の出来を確認したユリが、満足げに頷いていると。
不意に『紅薔薇』隊長のプリムラが、ユリにそんなことを言ってみせる。
正直を言って―――それは意外な提案だった。
「……それは、どうして? 折角あなた達の手だけで造る交易路なのだから、最後まで『桔梗』に頼らず完成させる方が誇れるのではないかしら?」
「もちろん、そうしたい気持ちもありますが……。やはり道の敷設というものは、付け焼き刃の知識や技術だけで行うには限界があります。
この交易路はきっと、アネカ共和国の国民もよく利用するものになるでしょう。両国の民から優れた交易路として評価されれば、それが百合帝国の評価にも繋がります。見栄えに優れ、また馬車での走行にも適した路面として完成させる為には、やはり専門家である『桔梗』の手を頼るのが最良かと」
つまり彼女達は自分たちの手だけで完成させることよりも、専門家を頼ってより上質の交易路として完成させることを望んでいるわけだ。
自分たちの手だけで完成させたいだろうに……。百合帝国の評価を上げる為に、自身の欲求よりも国益を重視してくれる姿勢は、とても嬉しいものだった。
「判ったわ、『桔梗』隊長のメテオラには私から話を通しておきましょう。
代わりに―――あなた達3部隊の献身は、私がしかと覚えておきます」
「ありがとうございます、姫。それは我々にとって、何よりの報酬です」
ユリの言葉を受けて、プリムラが深々と頭を下げる。
むしろ彼女達の気遣いに、ユリの方こそ頭が下がる思いだった。
-
お読み下さりありがとうございました。




