193. 主戦論
今回も短め&無推敲です。ごめんなさい。
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ユリがヴォルミシア帝国の『宣戦布告』を受け取った、翌日の『冬月23日』。
ユリタニア宮殿の二階にある、やや小さめの会議室には、いつかの日の再現のように各国の要人達が集まっていた。
ニムン聖国の聖王で『八神教』の教皇でもあるアルトリウス、シュレジア公国の君主カダイン・テオドール、レイピア王国の王レイヴン・レイピア。そして今回はそれに加えて、癒神リュディナと楽神アルカナの姿もある。
もちろんユリも同席しているので、総勢6名の会議室は国主が3人に主神が3柱という、異様な状況となっていた。
(ああ―――いえ、違うわね。国主は『4人』か)
『主神』であると同時に『国主』でもあるユリは、どちらの側としてもカウントすることができるだろう。―――どちらにしても異様な状況であることは、やはり何一つ変わらないわけだけれど。
「ユリ、此度のことは真に申し訳ありませんでした」
場に最初の会話を切り出したのは、リュディナだった。ユリに向けて深々と頭を下げながら、リュディナは心底申し訳なさそうな表情で謝罪の言葉を紡ぐ。
「……うん? それは何に対する謝罪?」
「もちろん、ユリを危険な目に遭わせてしまったことです」
「危険な目? そんな目に、いつ遭っていたかしら……?」
ユリは思わず、素でそう問い返してしまう。
リュディナから『ヴォルミシア帝国の騎士や貴族から刃を向けられたこと』だと具体的に教えられて、ようやくユリは彼女が言わんとしていることを理解した。
「ああ、なるほど……。ごめんなさいね、リュディナ。私にとってはあの程度なら危険の内には入らないのよ」
「……そう、なのですか?」
「ええ。レベル30程度の騎士が、普通の鍛造鉄の剣を得物にした所で、私に与えられるダメージなんて高が知れているからね」
課金アイテム等で大幅なブーストを得ているユリの最大HPは、レベル200のキャラクターが魔剣を手に滅多斬りしても、そう簡単に削りきれる量ではない。
レベル30程度の騎士達の攻撃など、最早考慮する必要さえ無かった。ユリが身に付けている『罪業のドレス』が『被ダメージが3倍になる』という効果を持っていることを加味しても尚、騎士の集団が与えられるダメージ量より、ユリが自然に回復するHP量の方が圧倒的に上なのは間違いないからだ。
「だからリュディナが気に病む必要は無いわ。そもそも、もし私が『危険な目』に遭うようであれば、リンドヴルムが黙っていなかったでしょうしね」
リンドヴルムは契約している使役獣の中でも、特にユリに対する忠誠心が高い。
もしユリの身に危険が迫っていたなら、リンドヴルムもわざわざ『もうよろしいですよね?』と確認を取ったりせず、躊躇無くヴォルミシア帝国の騎士や貴族達を薙ぎ払っていた筈だ。
「―――ユリ様」
「何かしら、アルトリウス」
「今回ヴォルミシア帝国がユリ様に向けて行った、大変暴力的で愚かな振る舞い、流石に『八神教』の教皇として看過できません。なので早速、私は彼の帝国に対して『破門』を宣告しようと思うのですが」
「………!」
アルトリウスの言葉に、カダインが僅かに顔を青ざめた。
一度『破門』を宣告されたことがあるシュレジア公国の者として、その恐ろしさが身に染みているからだろう。
「アルトリウス、悪いけれどそれは少し待って貰えないかしら?」
「……それは、何故でしょう?」
「あなたが『破門』を宣告すれば、ヴォルミシア帝国各都市の神殿施設から司祭や神官といった人達が一斉に手を引くことになる。それは相手にとって、かなり嫌なことでしょうし、一定の効果は見込めるでしょう。
けれど現在、ヴォルミシア帝国に住む民達は『飢餓』に苦しめられ、かなり身体を弱らせた状態にある。その状態にある国から無闇に治療魔法の使い手を奪えば、それは民の苦痛をより拡大させる一因になりかねないわ」
『飢餓』に苦しんでいる人達は当然、例外なく『栄養失調』の状態にもある。
人間は水さえ飲めるなら、食べ物が不足していてもそう簡単に死ぬことは無いわけだけれど。飢餓により栄養失調の状態にある人達は常に、些細なことでも怪我をし易く、また身体が疾病に冒されやすい状態となっており、普段以上に治療魔法の世話になる機会が多くなっていることは想像に難くない。
そんな状態の都市に『破門』を出せば、お金があっても神殿施設で治療魔法を受けることは叶わなくなり、犠牲者がより増えることは目に見えていた。
「ですが、ユリ様に危害を加えようとしたヴォルミシア帝国に対して、民の誰もが怒りを露わにしており、国内は主戦論に沸いています。国主である私が、このまま何もしないというわけにも……」
「……それについては、非常に申し訳なく思っているわ。ごめんなさい」
アルトリウスにだけでなく、カダインとレイヴン公に向けても、ユリは深く頭を下げて陳謝する。
ユリが一部始終を『放送』していたことで、ヴォルミシア帝国の蛮行は百合帝国とその同盟国に住む国民達の全てが、仔細を知ることになってしまった。
その結果―――各国では俄に『主戦論』が巻き起こり、民達のヴォルミシア帝国に対する怒りが相当なレベルにまで達していて。特にシュレジア公国では、ヴォルミシア帝国とも商売をしている商人達が、早くも糾弾されつつあるという。
―――こうした状況があまり長く続くのは、好ましいことではない。
「アルトリウス。私はヴォルミシア帝国を奪るわ」
「……何か私にお手伝いできることはありますか?」
「戦争自体には無いわね。怒りを募らせているのは民だけでなく、私の愛する子達にも全く同じことが言えるから……」
もちろんユリが行っていた『放送』は、『百合帝国』の子達も視聴していた。
言うまでもなく誰もが怒り心頭となり、その影響で現在のユリタニア宮殿の中には非常に殺伐とした空気ばかりが流れている。
性向が『極善』の『白百合』や『睡蓮』の子達でさえ、今はヴォルミシア帝国に対する明確な殺意を露わにしているというのだから、相当なものだ。
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