150. アマテラス(前)
所用のため本日投稿分は短いです。(ごめんなさい)
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翌日―――『夏月33日』の早朝。
建造中の『神域都市』に、想定していた通りアマテラスが顕現したことは、予め【空間把握】の魔法を行使しておいたこともあり、すぐにユリの知る所となった。
ユリはホタルと共に早めの朝食だけを済ませてから。普段は午前中に行っている執務仕事を放置して、転移魔法で建造中の『神域都市』を再訪する。
今回お迎えしたアマテラスは、ホタルの身体に宿していた御霊から分けたものなので、おそらくは既にこちらの事情を察しているとは思うけれど。それでも相手は『神様』なのだから、無為に放置して良い相手ではない。
「………!! あ、あるじ様、これは……」
「これは、なかなかね……!」
まだ『桔梗』の子達も来ていない、早朝の『神域都市』へ転移したあと。ユリとホタルの2人は、すぐ近くにかなり強大な気配があることを即座に知覚する。
考えるまでも無く―――この色濃い気配は、顕現したアマテラスのものだろう。
「気配の強大さから察するに、少なくとも『レベル1000』は軽く超えていますね。下手なレイドボスなんかより、遙かに強そうですが」
「ラドラグルフと良い勝負……。いえ、それ以上かもしれないわね」
覇竜ラドラグルフのレベルは『1850』であり、『アトロス・オンライン』のゲーム中に登場するレイドボスの中でも、屈指のレベルの高さを誇る。
もしそれを超えていると仮定するなら。アマテラスのレベルが『2000』以上に達していることさえ、充分に有り得るように思えた。
「やはり気配が感じられるのは正宮がある方向からみたいね、行きましょう」
「はい、あるじ様」
実を言えば『アマテラスが強化される』という事態そのものは、ユリも内心にて期待していたことではあった。
『神域都市』を建造すること―――つまり『八百万の神々が住まう温泉都市を作る』という計画は、『アトロス・オンライン』のゲーム内世界『リーンガルド』に於ける、神々が住まう街『高天原』を、この異世界に再現する計画に等しい。
となれば当然、高天原の主宰神であるアマテラスには、この都市にてお迎えする神々を統括して貰う必要があるわけだけれど。『リーンガルド』の神々の中には、須佐之男命を筆頭に粗暴な性格を持つ者も多い。
なのでユリからすると、この都市を管理するアマテラスが『粗暴な神を抑えられるだけの力を有している』方が望ましいわけだ。
以前お迎えしたカナヤマヒコが、ユリが期待した以上の権能を有していたこと。その理由が、御神体に『天之御影鎚』という強力なアイテムを用いたからであることは、最早疑いようも無い事実だ。
御神体に強力なアイテムを用いれば、それに応じて顕現する神様の力もまた強力なものとなる。―――そのことがカナヤマヒコという先例から、既に明らかだったわけだ。
だからユリはその先例に倣い、御神体に『八咫鏡+10』という更に輪を掛けて強力な『神器』を惜しみなく用いることで、アマテラスの力がより顕著に強化されるのを期待していた。
現時点で非常に強大な気配が確認できることから察するに。そのユリの目論見は果たして狙い通りに、上手く行った可能性が高そうにも思えるけれども。
しかし、ある意味では―――『狙い通りに行き過ぎた』せいで、却って困った状況になってしまっているようにも思えた。
アマテラスは温厚にして篤実な神ではあるけれど、決して戦いを忌避するような弱腰の神ではない。
なので自身に充分な力があることを正しく認識すれば、都市の支配権を主張するユリに対して膝を折らず、抵抗することも充分に考えられた。
レベルが『2000』を超えているかもしれない相手を、力によってねじ伏せるのは容易なことでは無い。
……まあ、決して不可能でも無いのだけれど。とはいえ、戦闘の余波で建造中の建物などに甚大な被害が出るだろうことを思えば、あまりアマテラスと戦いたくは無いというのが本音だった。
(可能な限り、話し合いでの解決を試みたいわね……)
折角『桔梗』の子達が頑張って作っている都市を、粗雑に扱いたくはない。
どうしても戦うなら―――上手く転移魔法を成功させて、この『神域都市』から充分に離れた位置にまで、アマテラスを引きずり出したい所だ。
「ホタル。もし戦闘になる場合には、転移魔法で一旦引くからそのつもりでね」
「承知しました~」
予め詠唱だけを済ませておき、転移魔法を『発動遅延』の状態にする。
こうすることで、いつでも任意のタイミングで魔法を発動させることが可能だ。
昨日も来た正宮の建物へ近寄ると、より一層濃厚な『力の気配』が感じられた。
強者を前にしたときに感じる程良い緊張感が、身体の内から溢れてくる。
(考えてみれば―――私も『百合帝国』の子達も、強者相手の戦闘は長らくやっていないのよね)
それを思うと、久しぶりに(全力で戦ってみたい)という気持ちも少し湧いてくるけれど。……今回は我慢すべきだろう。
ホタルと共に正宮の建物内に入ると、果たして目的の人物はすぐに見つかった。
白を基調にした和装を身に纏い、艶やかな長い黒髪を持つお姉さん風の女性。
薄暗い正宮の建物の中で、女性の双眸だけが鮮やかな紅い光を帯びていた。
〈鑑定〉で視てみると、この女性が『アマテラス』であることが確認できた。
そのレベルは『2520』と想像以上に高い。倒すのは容易では無いだろう。
「―――ようこそお越し下さいました、主様」
目の前の和装の女性は、すらりとした長身を曲げて床に屈み込むと。
即座にユリとホタルの2人に向けて叩頭しながら、そんな言葉を述べてみせた。
「………!? あ、頭を上げて下さい!!」
アマテラスから土下座されてしまったことに、狼狽したのはユリのほうだった。
いまユリの目の前に居る女性は、あくまでも『アトロス・オンライン』のゲームに登場している『アマテラス』であって、間違っても古事記や日本書紀に登場する『アマテラス』そのものではない。
そう、頭の中で判ってはいるのだけれど―――。
それでも日本人としての心が残るユリとしては。日本神話の中で最も著名な神であるアマテラスに目の前で平伏されてしまうというのは、最早居心地が悪いなんてレベルの話では無かった。
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