146. 砲艦外交
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ユベルから『脅威の排除』を引き受けたその日、ユリは早速行動を起こした。
まず『撫子』の子達に、ラザール王子の手駒として暗躍している『オラン・ストルガ』なる騎士の捕縛を命じる。
彼の騎士はヴォルミシア帝国やシュレジア公国のあたりで非合法組織と接触し、ユベルの命を狙っている。
現在どこに潜伏しているかが絞れないため、捜索は大変だろうけれど。それでも諜報活動に長けた『撫子』の子達なら、無事に完遂してくれると信じている。
ユリの使役獣である覇竜ラドラグルフが登録したと思われる『転移ポイント』の1つがレイピア王国に存在していたため、ユリは『撫子』の子達を転移魔法で送り込んだ。
ユベル王女からは『可能であれば、正当な手段でラザール王子が王位継承者から除かれることが望ましい』と言われている。
ならば、ラザール王子がレイピア王国の現王レイヴン・レイピアから裁かれて、その地位を失うという顛末が、最も理想的だろう。
その為には、今後レイピア王国に国家として干渉していく必要がある。
密偵を送り込み、相手国の情報を得ることは必要不可欠なことだと言えた。
ユリは神域の庭園を訪れ、リュディナとアルカナにも助力を仰ぐ。
立場でもコネでもアイテムでも、ユリは使えるものは何でも惜しみなく使う性分だ。必要であれば自身が持つ『神』の立場を利用することも厭わないし、同じ立場にあるリュディナやアルカナに協力を求めることも躊躇はしない。
更に、ニムン聖国を訪問してアルトリウスの助力も取り付ける。
こちらは『リュディナとアルカナは協力してくれるから、アルトリウスにも是非手伝って欲しい』と告げれば、ほぼ即答で快諾して貰えた。
ユリから一通りの流れを説明された後には「それは面白そうですね」と、愉快そうに笑っていた辺り、何気に良い性格をしていると思う。
―――翌日の『夏月21日』。
メキア大陸全土にある神殿に『愛神ユリ』からの神託が下った。
『私の庇護下にあるレイピア王国の第一王女ユベル・レイピアの命を狙う、同国の第二王子ラザール・レイピアの蛮行を強く非難する。
彼の王子は手駒の近衛騎士オラン・ストルガを暗躍させ、複数の非合法な組織に接触を図り、ユベル・レイピアが滞在する私の国に犯罪者達を嗾けている。当国は大変な迷惑を被っており、レイヴン王から本件についての充分な説明が得られない限り、当国は本件をレイピア王国からの『宣戦布告』と見做す―――』
最近主神の末席に加わった『愛の女神ユリ』が、神でありながら現界しており、百合帝国なる国家を営んでいること。
その国家が非常に強力な軍事力を有しており、戦争を吹っ掛けてきたエルダード王国の大軍勢をあっさり撃退し、逆に王国領の全土を併呑したこと。
同じく宣戦布告を行ったシュレジア公国をあっさり服従させ、属国化したこと。
それらの偉業は、大陸内の事情通には割と良く知られた事実となっている。
エルダード王国とシュレジア公国は、どちらともメキア大陸の中では『大国』と評して良いだけの、充分な国土を有する国家だった。それを鎧袖一触にねじ伏せてしまえる程の軍事力を有する百合帝国に睨まれれば、小さな山岳国土しか持たないレイピア王国など一溜まりもない。
しかも、レイピア王国はニムン聖国と国境を接している。ニムン聖国は百合帝国の同盟国であるため、もし開戦に至ったなら、即座に国境から軍隊が送り込まれてくることさえ考えられた。
レイピア王国に潜入させた『撫子』の子達から早速届けられた情報によると、ユリが下した神託は同国の首脳陣を瞬く間に恐慌状態へと陥れたそうだ。
その日のうちにラザール王子が城へと召喚され、レイヴン王や大臣、貴族達から随分と問い詰められることになったらしい。
ラザール王子は全てを知らぬ存ぜぬで貫き通したようだが、主神の神託には疑いを掛けられないことや、神託内にて言及されていたラザール王子の腹心である近衛騎士オラン・ストルガが不在にしていることなどを理由に、周囲からは大いに不信を持たれる結果に終わったようだ。
―――翌日の『夏月22日』には、癒神リュディナと楽神アルカナからも、レイピア王国とラザール第二王子を非難する神託が下される。
1柱の主神から非難の神託が下されるだけでも前代未聞だというのに。3柱もの主神から同時に非難されるなど、レイピア王国の王侯貴族からすれば不名誉極まりない事態に他ならなかった。
やはりラザール王子は知らぬ存ぜぬで責から逃れようとするも、3柱の主神より名指しで非難されたことで、国威に大きな瑕疵が付いたのは疑いようも無い事実。
レイヴン王から命じられ、ラザール第二王子は謹慎を命じられた。
―――翌日の『夏月23日』。八神教の教皇であり、ニムン聖国の聖王でもあるアルトリウスが、事前通達無しに百余名の近衛騎士を伴ってレイピア王国を訪問。
王国の宮殿内にて子息の不法を声高に糾弾した上に『破門』の行使までちらつかせたため、レイピア王国の王侯貴族に激震が走る。
更に翌日の『夏月24日』には、無事に『撫子』の手により確保されたラザール第二王子の腹心騎士オラン・ストルガを連行した上で、ユリ自身もまたレイピア王国の宮殿を転移魔法を用いて訪問。
滞在中のアルトリウスとも合流してレイヴン王と鼎談の場を持ち、子息と近衛騎士が及んだ凶行の責を厳しく詰問した。
ユリとアルトリウスには『開戦』と『破門』という、2枚の極めて強力な手札があったこともあり、レイヴン王の心が折れて屈服するのは早かった。
近衛騎士オラン・ストルガを暗躍させ、ユリの庇護下にあるユベル・レイピアの命を狙ったラザール第二王子からは、王位継承権の褫奪が決定される。
命こそ奪われないものの、現在の地位と財産の全てを没収され、その身は平民と同等に落とされるそうだ。平民の立場ではユベルやレクマー第一王子に対し何の干渉も出来る筈が無く、もはや彼は完全に無力化されたと言って良いだろう。
斯くして―――ユベルから頼まれた『脅威の排除』という依頼は、僅か4日間のうちに、呆気なく完遂されたのだった。
全てが片付いた翌日の『夏月25日』には、再び愛神ユリ・癒神リュディナ・楽神アルカナの3柱から『実の息子であるラザール王子にも厳しく対処し、継承権の褫奪を躊躇無く実行せしめた、レイピア王国の賢王レイヴン・レイピアの迅速且つ公正な対応に心より感謝を申し上げる』という旨の神託を下した。
この神託は、ここまでの過程で毀損してしまったレイピア王国の国家信用性や国威を回復させる目的で下したものだ。レイピア王国が徒に貶められることはユベルも望まないだろうから、こうした事後のサポートも必要だろう。
レイピア王国からすれば、継承権3位の王子が非難されることで失うものより、現王レイヴン・レイピアが高く評価されて得られるもののほうが圧倒的に多い。
数日後にはレイヴン王より、神託に感謝する旨の親書が届けられる。
その手紙を機に、百合帝国とレイピア王国の間で国交も始まったのだった。
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