108. 元公爵令嬢で女帝相談役の自称奴隷なギルマス側室候補(前)
多忙のため本日投稿分は推敲が出来ておりません。読み辛い文章になっておりましたら、申し訳ない限りです。
帰宅後か翌朝に推敲したいと思います……。
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王国の王女2人との話し合いが概ね決着した、その翌日の『冬月20日』。
この日ユリは、各都市から『転移門』を利用して来る訪問者達により『迷都』の愛称で親しまれるようになったユリシスの都市の、中央に建つ『探索者ギルド』の8階、その最奥にある一室を訪ねていた。
ここは『探索者ギルド』のギルドマスターを務める、ソフィア・テオドールの為に用意された部屋だ。トイレと風呂、書庫と寝室まで兼ね備えたこの部屋の中で、基本的にソフィアは暮らしている。
今日ユリがこの部屋を訪ねたのは、王国に関する諸々のことをソフィアにも相談するためだ。
ソフィアは幼い少女の容貌をしている割に大変聡明な人物であり、そして『百合帝国』の皆と違って、主であるユリを『重視し過ぎない』視点からの意見をくれる貴重な人物だ。
また、もともとこの世界の住人であり、しかも公爵家の令嬢であったことから、ソフィアは実に様々な知見を備えた人物でもある。お陰でユリは、すっかり彼女を便利な『相談役』と見なし、何かにつけて相談事を持ち込むようになっていた。
「忙しい所を度々訪問してしまって、申し訳無いわね」
「私はご主人様の『奴隷』ですから。頼りにして頂けるのは喜ばしいことです」
部屋に設置された対面式ソファの、ユリと逆の側に腰掛けたソフィアが、今日もにこりと優美に微笑んだ。
同じ笑顔でも、最初の頃に見たソフィアの笑顔と最近のソフィアの笑顔とでは、全く別物のようにユリには見えた。
今の笑顔の方が、より自然なものであるように見える。少しはソフィアと、気が置けない関係を築けている証左だと思っても良いだろうか。
「あなたは何故か、自分を『奴隷』だと自称しているけれどね。私はあなたのことを『側室』として迎えようと思っているのだけれど?」
「ふむ……? もしかして、王国のリゼリア王女とロゼロッテ王女を、ご主人様の側室として迎えようという判断をされましたか?」
「………………なぜ、今の情報だけで、そこまで判るのよ」
「勘ですね。ご主人様の『奴隷』としての勘です」
朗らかに微笑むだけで、それ以上は何も語らないソフィア。
一体この子はどこまで情報を掴んでいるのだろう―――と、ユリは今更ながらに彼女のことを少し畏怖の目で見てしまう。
「王女であるお二方を側室として迎えるのは、良い判断だと思います。嘗ては私もそうでしたが、公爵や侯爵の家柄に生まれた令嬢は誰でも、国と国との結びつきを深める目的でいつか他国へ『嫁ぐ』未来を覚悟し、受け容れているもの。
まあ―――女性であるご主人様から『妾になれ』と言われれば、きっとリゼリア王女もロゼロッテ王女も大層驚かれたことでしょうけれど。おそらく、その提案自体はすんなりと受け容れて貰えたのでは無いでしょうか?」
「……概ねソフィアの推察通りよ。本当にあなたは、恐ろしい子ね」
「恐れ入ります。すると本日ここへ来て下さったのは、王国に関する諸々を相談する目的もあるのでしょうが、一番の理由は私を『第一側室』として指名して下さるということでしょうか?」
「………………そうよ」
本当に、何もかもが見透かされているものだから、恐ろしい。
まあ―――その分、説明要らずに話が進むのは有難くもあるけれど。
「有難いお話ではありますが……もう少し『ニムン聖国』に配慮をなさる方が、より良い結果が得られるかもしれませんね」
「ふむ……? 詳しく聞かせて頂戴」
「では先に、お茶の用意を致しましょうか」
そう告げるとソフィアは、どこからともなく湯気を湛えたティーポットと2つのカップを取り出し、手際良くテーブルの上に並べていく。
彼女は〈侍女〉の職業を有しているので、淹れたてのお茶を〈侍女の鞄〉に収納して、状態を固定したまま保管することができるのだ。
「まあ―――割と単純な話なのですが。言うまでもなく、ご主人様の『正室』の枠は既に完全に埋まっていて、余人が入る隙間など皆無なわけではないですか」
「当然ね」
カップにお茶を注ぎながらソフィアが告げる言葉に、ユリは頷く。
ユリの正室―――『嫁』の枠は、ユリ自身を除く『百合帝国』の総勢359名の子達で埋まっている。そこに他の誰かを加えるという考えは全く無い。
「なので、ご主人様が誰かを娶ることがあるなら、それは必然的に『側室』という扱いになるわけです。つまり、他国が百合帝国との結びつきを強化しようと考える場合、ご主人様の『側室』に自国ゆかりの誰かを送り込むことは、一般的な君主の『正室』に送り込むことと、ほぼ同じ意味を持つわけですね」
「そう……とも言える、のかしらね……?」
「で、仮に私がご主人様の『第一側室』となり、リゼリア王女とロゼロッテ王女がそれぞれ『第二側室』と『第三側室』になったとしましょう。
この場合、当然ながら公国と王国は―――まあ、王国は殆ど亡国のようなものですが―――百合帝国との結びつきがより強くなるわけですね」
「ふむ。違いないでしょう」
「そうなると、たぶんニムン聖国の方々は結構気にすると思いますよ? 『我々は常に百合帝国の良き友人であったのに、どうしてユリ陛下の第一側室の座に聖国にゆかりある者が納まることができなかったのか』とね」
「多分、アルトリウスはそんなこと、気にしないと思うけれど?」
「アルトリウス聖王はそうかもしれませんが、ニムン聖国にも『貴族』は沢山いますから。貴族の面々の中には『自国が蔑ろにされている』と考えて、アルトリウス聖王に向けて『どうなってるんだ!』と憤慨する方も居るかもしれませんね」
「ええ……?」
随分と理不尽なことのようにも思えるが。
でも―――ソフィアが言うのなら、おそらくはそれが真実なのだろう。
ニムン聖国は最初の頃から一貫して、常に百合帝国に『味方』という立場を表明してくれている、貴重な同盟国だ。
それを蔑ろにするつもりなど、もちろんユリには毛頭ないのだが。
「なるべくご主人様の『第一側室』の席には、ニムン聖国の方を誘われるのが良いかと思われます。―――ご主人様のことですから『第一側室』にお誘いする相手はすぐに思いつくのではないでしょうか?」
「………」
ソフィアからそう言われれば。当然ユリの頭に思い浮かぶのは、ユリの『聖女』にもなってくれているエシュトアの顔だ。
「お心当たりが在られるようですね。その相手を『第一側室』の席にお誘いして、私が『第二側室』に、リゼリア王女とロゼロッテ王女を『第三・四側室』にお迎えするのが、各国との結びつきを強固にしつつ最も丸く収まりますかと」
「……誘うのは構わないけれど。引き受けて貰えるかは判らないわよ?」
「ちゃんと誘ったという事実さえあれば、断られても別に構わないのでは? 蔑ろにしたわけで無いことだけは、相手にも伝わるでしょうし」
「言われてみれば、そうね」
エシュトアを自身の『側室』に誘う―――というのは、真面目に考えようとすればする程に、随分と気恥ずかしいことのように思えた。
こういうのを後回しにすると、話を切り出しにくくなることは目に見えている。だからユリは目の前のソフィアに断った上で、即座に行動に移した。
エシュトアには『念話の腕輪』を渡してあるので、いつでも自由に話しかけることができる。躊躇うことなくユリは腕輪を起動し、エシュトアに連絡を取った。
王国の王女2人と、公国の公爵令嬢―――いや、今は同じく『王女』と呼んでも間違いでは無いソフィアを、自身の『側室』として迎えること。また、それに関する一連の経緯をエシュトアに説明した上で、
『良ければエシュトアのことも、私の側室として迎えたいのだけれど?』
そのように、ユリが半ば要請に近い形で問いかけると。
エシュトアは殆ど迷うことさえ無く、即答に近い速さで回答してくれた。
『ご迷惑でなければ、謹んでお受けさせて頂きたいと思います』
―――斯くして、ユリは合計4名の『側室』を持つことになったのだ。
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