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幕間 聖樹王国 2

 

 ベリオン聖樹王国王城 聖騎士団訓練場


 訓練場では召喚された異世界人の少年少女達がベリオン聖騎士団の団員に見守られながら訓練を行っていた。


「ファイアーランス!」


 ナナは学園の制服姿のまま聖騎士団に所属する魔法使いから渡された木製の杖を構え、魔法名を叫ぶ。

 

 すると、杖の先から業火の槍が生まれて目標である案山子へと飛んで行く。


 案山子に直撃した業火の槍は爆発と共に火柱を発生させて、木製の案山子を灰へと変える。


「アイスランス!」


 ナナの隣に立つローリエも続けて魔法を放つ。適正検査通り、彼女は鋭利な氷の槍を飛ばして案山子の胴体部分へと着弾させる。


 他にも魔法使いとしての適正があるシズルとサチコも自身の適正に沿った魔法を放ってみせると指導員である聖騎士団員から「素晴らしい」と拍手を受けた。


「皆様、さすがですね。私が教える事はもう無いように思えます。後は自身のイメージトレーニングと魔力操作の反復練習でしょうか。少々地味ですが、怠らずに」


「はい! 先生!」


 ナナが元気良く胸の前でガッツポーズをキメながら笑顔を浮かべた。彼女に釣られて指導員からお墨付きをもらった少女達はお互いに顔を合わせて満足気な笑みを浮かべる。


 だが、そんな中でもサチコ1人だけは浮かない表情で呟く。


「先生達は大丈夫かしら……」


 サチコの言う先生とは目の前にいる指導員ではなく、同じ世界から召喚された教師2人の事だ。


 クリスティーナから教師2人はミナトを連れ去った魔族を追って国を出たと言われている。


 当然、生徒であるサチコ達は「何故2人だけ」と声を上げたが、クリスティーナ曰く教師としての責任を感じてサチコ達には黙って旅立っていったと告げられている。


 正義感溢れるユウキは教師2人を追いかけようとしたが、訓練を終えてしっかり戦えるようになってからでなければ足手まといになってしまうと言われ、周囲の説得もあって思い留まった。


 しかし、思い留まってはいるが焦りはあるようだ。


 その証拠に指導員からアドバイスを受けていた少女達の隣――剣術試合用の訓練場から絶え間なく剣撃や金属が打ち合わされる音が鳴り響いている。


 少女達が顔をそちらに向けると聖騎士団と組み手をする2人の少年。


 1人はゴロー。彼は鋼属性の魔法で作った手甲を装着し、聖騎士の振り下ろす剣へ拳を繰り出す。


 剣と打ち合った手甲はキンと甲高い音を鳴らして刃を受け止める。受け止めるだけどころか、弾き返してがら空きになっている腹へ一撃を見舞う。


 脇腹に一撃を食らった聖騎士は大きく後方へと吹き飛び、片足をついて苦悶の表情を浮かべた。


 その様子を離れた場所で見つめるリョウジの顔は険しい。


 彼も聖騎士と戦って膝をつかせる事に成功はしたがリョウジ自身も疲労困憊になってしまう程。所謂、無駄な動きが多いといったところだろう。


 対し、ゴローはまだまだ余裕の表情を見せ付け、連戦も可能といった具合。


「ゴロー君、すごいね」


「うん。本当にね。でも……」


 ナナとシズルは現役聖騎士に膝をつかせながらも余裕を見せるゴローに感嘆の声を上げる。だが、彼女達が更に気になるのはゴローの隣にいるユウキだ。 


 ユウキはゴローと同じく聖騎士を相手に訓練を行っていた。


 ただ、肉弾戦を行うゴローとは違ってユウキは剣と魔法を織り交ぜた魔法剣士のような戦いぶりを見せる。


「ホーリーセイバー!」


 ユウキが自分で考えたワザの名を叫ぶと彼の握る剣の刀身が白いオーラに包まれる。


 オーラを纏った剣を振り下ろすと斬撃の刃が相手に向かって飛んで行く。聖騎士はたまらず持っていた盾を構えてガードした。


「まだまだッ! ファイアランス! ウィンドカッター!」


 一撃目をガードした聖騎士に連続で遠距離魔法を見舞う。盾を構えた聖騎士は亀のように防御体勢を取り続ける。


 それを見たユウキは放った魔法に続いて走って接近。


「シャイニングブレイド!」


 最初に放った光魔法と同じく、剣に光のオーラが纏う。だが、斬撃を飛ばすのではなくこちらは剣の一撃を強化――切れ味を強化させるワザであった。


 防御体勢を取っていた聖騎士の盾へ剣を振り下ろすと、聖騎士の持っていた金属製の盾はスパッと綺麗に切断されてしまった。


 相手が驚いている今がチャンス。そう思い、剣を再び構えて突きを放とうとしたユウキであったが――


「そこまでッ!」


 審判をしていた聖騎士団の団長――クライスに止められてしまった。


 ユウキはピタリと体を止めて剣を降ろす。対し、盾を破壊された聖騎士は荒く呼吸をしながら膝から崩れ落ちた。


「うむ。ユウキ殿。様になってきましたな」


 聖騎士相手にこれほどまで戦えるとは、とクライスは腕を組みながらユウキを褒める。


「ありがとうございます。もう外で戦えますか?」


「そうですな……。次は本物の魔獣と戦う場を用意しましょう」


 クライスは手で顎髭を触りながら少々考えた後に次の訓練内容を提案した。


「魔獣……。魔獣を倒せたら先生達を追いかけてビッターを助けに行っても良いですよね?」


 ユウキは真剣な表情をクライスに向ける。


「魔獣戦に慣れたら、です。ユウキ殿、焦りは禁物。焦りはいらぬ傷を増やしかねません」


 ユウキの焦りを知るクライスは強く念を押すように告げた。


「はい……」


 クライスの強い眼差しと言葉を受け、ユウキは手をギュッと握って唇を噛み締める。


 異世界に召喚された少年少女達はまだこの世界に住む凶悪な魔獣との戦闘は未経験。まだ訓練場で指導を受けている段階だ。


 そんな自分が1人で外の世界を歩けるほど強くはない。その自覚があるからこそ、焦るユウキであった。


「……今日はこれまでにしましょう」


「ありがとうございました」 


 ユウキはクライスに礼をした後に他のメンバー達と共に訓練場を後にした。



-----



「おつかれ~い」


 訓練場の壁際でユウキ達の訓練風景を見ていた聖騎士団員数名が、先ほどユウキと戦っていた聖騎士の男へと歩み寄る。


「おう。お疲れ」


「いや、しかし……お前に演技の才能があったなんてなぁ」


 先ほどまで膝を床について疲労困憊といった様子を見せていた聖騎士はスッと立ち上がって床に転がる斬れた盾を拾った。


「はは。演技指導受けたしな。しかし、本当に斬れたと思ったのかね?」


 ユウキの斬った盾の断面を見る聖騎士の男。彼は特殊な素材で作られた『鉄盾』の『模造品』を手でグニャリと曲げてみせた。


「思ってんじゃないか? すっげえ真剣にやってたし」


 ははは、と馬鹿にするような笑い声が周囲から複数聞こえる。


 すると聖騎士の1人が剣を構えるようなポーズを取り――


「ホーリーセイバー!」


「ブフォッ!」


 ユウキのワザ名を叫ぶと周囲から噴出すような笑い声が。


「シャイニングブレイドッ!」


「や、やめろ! マジで笑い堪えるのに必死だったんだからな! ふひ! はははははは!!」


 ユウキと戦っていた聖騎士の男は遂に我慢できなくなり、脇腹を抑えながら笑い転げる。


「ほんと、馬鹿だよな。腕輪の機能でそれっぽく見えてるだけなのに。ワザの名前とか真剣に考えてよ。マジでウケル」


「あの手甲のヤツもな。ちょっと細工したアルミ製なのに『か、軽い』とか言ってよ。そりゃそうだよ。本体のほとんどアルミだもん」


「ぎゃははは!! もうやめて!! はははは!!」


「女の使う魔法もただの演出だしな。魔法はイメージなんだってよ」


「もう、だめ……ブフォ、はははは!」


 訓練場には楽しそうな笑い声が木霊するが――その笑い声は少年少女達の耳には当然届かなかった。



-----



 ベリオン聖樹王国の王であるキュリオと娘であるクリスティーナは聖樹のある神殿最奥――聖樹の間にて片膝をつきながら頭を垂れる。


『それで? 王は生まれたのかい?』


 2人の頭上から響く声は少年のように若々しい。


 その声は目の前にある聖樹から発生しており、声の主はこのベリオン聖樹王国の主とも言えるモノ。


「はい。我が神よ。神脈が2つ解放されました。どちらも大戦時に残しておいた生物兵器が守護する場所。失敗作である生物兵器ですが、あれを撃破する魔族はそうそうおりません」


「王を排除した後に解放される兆しはありませんでした。であるならば、新たな王が生まれた可能性が高いと思われます」


 キュリオがつい先ほど観測所から齎された情報を述べ、それに付け加えるようにクリステーナが発言。


『そうか。それは喜ばしいね。王の魂は美味しいから作業が捗るよ』


 王と姫が報告を終えると、クスクスと楽しそうに笑う声が神殿内に木霊する。


『異世界人の魂も美味しいんだけどね。この世界のシステムを上書きするには、この世界に生まれる王の魂を喰らうのが一番効率が良い。奴等を生かしておいて正解だった』


「さすがは我が神」


「さすがにございます」


 頭を垂れたままの2人が賛辞を述べると聖樹に生える枝が風も吹いていないのにガサガサと揺れた。


『捕獲する為の策はあるんだろうね?』


「勿論にございます。しかし、まだ確証が取れていないのも事実。現在、確証を得る為にファドナを動かしております」


 キュリオが現在進行中の作戦を説明すると再び枝が揺れる。


『小さい神脈とはいえ、2つもエサに使ったんだ。必ず捕獲する事。いいね?』


「はい。お任せ下さい」


 主の念押しにキュリオはさらに深く頭を下げた。


『残りの異世界人はどうだい?』


 続いて異世界人の話題に移るとキュリオではなくクリスティーナが口を開いた。


「はい。()の実験に2~3人使おうかと。また、今回持ち込まれた異世界技術も解析を始めております」


()の実験、まだやってるんだぁ。進捗はどう?』


「やはり、我が神が神力を使って実らせたモノと同様の効果は認められず……。大戦時に使用していた生物兵器よりも性能は勝りますが、まだ完全に制御できないのが残念なところです。データ収集に努めておりますし、研究所が別のアプローチも考えております」


『あれは魂の混ぜ物よりは失敗しないハズなんだけどねぇ。ま、頑張りなよ。異世界の技術はどうだい?』


「はい。こちらが新作のスマートフォンです。機能面では魔力通信速度のアップと処理速度の向上。技術的には前回行った異世界召喚から得た技術に似ており、劇的な変化は求められないとの事です」 


 クリスティーナは今朝研究所より受け取った改良された通信端末を胸元から取り出し、頭を下げたまま両手を差し出して見せた。


『そっか。まぁ、有効活用しなよ。そうだ、異世界人はあと2人ほど喰うから残りは君達にあげるよ。好きに使って。ご褒美』


「ありがたき幸せ」


「ありがたき幸せ」


 キュリオとクリスティーナは深く頭を下げたまま感謝の言葉を述べた。


『それじゃあ、私は作業を続けるから。また進展があったら来るように』


「はい。承知致しました」


「我が神よ。失礼致します」


 キュリオとクリスティーナは三度頭を下げた後に立ち上がり、立ち上がった後にもう一度深々と礼をしてから聖樹の間から退出していった。


 2人が退出すると巨大な扉は音を立てながら閉まる。


 シンと静かになった誰もいない聖樹の間には声が響く。


『さて、王は何人生まれたかな? ふふふ。早く世界を上書きして……。あのお人好しの顔が歪むところをまた見たいなぁ』


 ふふふ、ふふふ。


 少年のような笑い声と同調するように、聖樹の枝が風も無くガサガサと音を立てて揺れ続けた。


読んで下さりありがとうございます。

次回更新は日曜日です。

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