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W 026話 開戦決定

 1941年12月1日 『日本 東京』


 御前会議にて開戦が決定した。

 近衛内閣は既に退陣しており新たに組閣された東条内閣は史実通りアメリカ、イギリスと戦う道を選んだ。


 史実では海軍の煮え切らない態度に陸軍はイライラさせられた場面もあったが、今回の歴史においては伏見宮総長が対米戦に自信を見せ、海軍内部をリードしていた事から速やかに戦争への道を歩んでいた。

 海軍軍令部総長から連合艦隊司令長官に転じた後も影響力を発揮し海軍内部をリードしている。


 開戦が決定された後、閑院宮総長が東条英機首相に面談を申し込み、今、二人だけで話している。


「首相、開戦と同時に我が軍は、アメリカ本土攻撃を行うつもりだ。心得ておいてくれたまえ」


 閑院宮総長のその言葉を聞いた東条首相は訝しんだ。

 陸軍がどうやってアメリカ本土攻撃を行うと言うのか。


 東条首相は率直に問い掛ける。

「アメリカ本土攻撃ですと? いかなる手立てを使うおつもりですかな?」

 

「君もかつては関東軍の要職にいたのだ。対ソ連用の気球爆弾の話は知っていよう」


「はい。確かウラジオストックを狙うものだったと……」


 東条首相はそこまで言い掛けてハッと気づいた。


 何年も前から大量の気球がある事に。

 気球は全て閑見商会からの献納であり、その維持と管理も全てそのまま閑見商会に任せている。

 そして閑見商会の後ろにいるのは目の前の閑院宮総長。


 まさか……との思いは強かったが、東条首相は尋ねずにはいられなかった。


「閑見商会が管理しているあの気球は……」


「流石はカミソリ東条。気付いたようだな。

閑見商会が管理している気球が阻塞気球というのは偽りだ。

その正体は対アメリカ本土攻撃用の気球爆弾だ。

既に気象台の専門家達によって気流の調査も済んでいる。

日本からアメリカへ流れる気流があり、それを利用してアメリカ本土を攻撃する。

恐らく1割がアメリカ本土に到達し爆発するだろうという予想が出ている。

既に8万基用意した。8000基は届くだろう」


「な、なんと……」


 東条首相はあまりの事に少しの間言葉が出なかった。

 しかし、それでも気を取り直し改めて尋ねる。


「お聞かせください。いつから、いつから対米戦の準備に入っておられたのですか」


「20年以上前だ。閑見商会はそのために儂と伏見宮が作った。表向きは軍に協力的な商会だが、裏の顔は儂達の対米私設軍隊だ」


 東条首相は自分でもおかしいとは思うが敗北感に苛まれた。


 自身の能力には自信があった。どんな軍務にも全力で努力して来たという自負もあった。

 この国難に皇国を正しい道に導けるのは自分しかいないという自信があった。

 陛下から首相の大命を受けた。

 だが、それでもアメリカとの戦争に勝つ道筋は厳しく、苦渋の決断であり、清水の舞台から飛び降りる覚悟で開戦を決めた。

 それが、今ここに予期していなかった要素が出現してる。


 まさか20年も前から対米戦を見越して準備に入っていたとは……


 20年前と言えば閑院宮参謀総長は、まだその職には就いていなかった筈だ。

 それなのに、こんなにも先を見通していたのか……


 自分はその頃何をしていた……

 陸軍大学の教官や参謀本部に在籍していた。だが、本格的な対米戦研究などした事も無かったし考えてもいなかった。

 だが、他にも気になる事がある。それを聞かなくては。


「では海軍も米国本土攻撃の予定を?」


「あぁしているぞ。

伏見宮と儂が組み20年以上の歳月をかけて練り上げ準備して来た作戦。

さて、どこまで通用するか。

勝負だな」


 そう言って薄く笑う閑院宮総長に対し、東条首相にはもはや言葉はなかった……


【続く】

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