W 010話 調達、調達、また調達(国外編)
193◯年◯月◯日 『アメリカ グッドイヤー飛行機会社本社 接客室』
「では我が社の船を6隻もお買い上げになりたいと」
「そうです。条件が揃えば我が国は是非とも御社の建造する船を購入したいと考えております」
グッドイヤー飛行機会社の社長は来客に対し努めて冷静に応対していた。だが、内心ではこの来客の持って来た話に揉み手をせんばかりだった。
ウォール街に端を発した世界大恐慌が始まって数年。状況は悪くなるばかりで会社の業績は落ちる一方だ。
頼みの綱のアメリカ海軍の契約もうまく取れていない。
このままでは会社の縮小、人員整理、会社資産の一部売却まで考えねばならない処まで来ていた。
そんな時だ。東洋の島国、日本から自社の製品、それも船を買いたいという打診があったのは。
それも大口契約だ。
日本については満州を属国化し国際秩序を乱した事から、あまり良いイメージは無いが、今はそんな事は言っていられない。
会社の存続と社員達の生活のためにもこの話は是非ともものにしたかった。
この話は神がお与え下さった救いの手だとも社長は思った。
これからは、もっと教会に行って感謝の祈りを捧げようとさえ考えた。
ただ問題は目の前の人物が言った「条件が揃えば」という問題だ。
「条件が合えば」ではなく「揃えば」と言うところに問題がある。
日本が我が社の船を購入するには厄介な問題が一つあるのだ。
社長は単刀直入に切り出す事にした。
「その揃えなければならない条件で一番大きいのは、やはりガスの問題ですかな?」
「はい。お国の政府はヘリウムガスを戦略物資として輸出に制限をかけています。お恥ずかしながら我が国ではヘリウムガスを国内生産するのは難しく……」
「いいでしょう。それはこちらにお任せ下さい。何とかいたしましょう。お客様に不自由をおかけするわけにはまいりません」
「おぉそれは有り難い。船は欲しいがヘリウムガスはどうしたものかと悩んでいたのですよ」
「我が社のアフターサービスは万全です。万事お任せ下さい」
日本の使者が会社を辞した後で、営業部長が社長に懸念を表した。
「社長、よろしいんですか? ヘリウムガスは簡単には行かないのでは?」
「大丈夫だ。幸い兵器輸出を管轄する上院軍事委員会の委員長にはコネがある。
選挙区の票と選挙資金でいつも助けているのだからな。こんな時に役立ってもらわんと。だいたいこんな未曾有の不況の中で、他に誰が我が社の船を大量に買ってくれるというんだ。
海軍の奴らは建造前には調子の良い事を言っていた癖に、たった2隻で購入を打ち切りやがって。
設計から部品製造まで手間暇かかっているんだぞ。
しかも2隻とも試験運用という事で細部に違いを出しているから余計に大変だったんだ。
それなのに、採用打ち切りとは、これじゃあ割りに合わんよ。
だいたいだなあ……」
あぁまた社長の長い愚痴が始まった。と、営業部長は内心思ったが表情には出さなかった。それが賢いやり過ごし方だ。
社長の愚痴は留まる所を知らなかったが、ともかくグッドイヤー飛行機会社は大口の契約をものにする事になる。
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193◯年◯月◯日 『イタリア バグジェット造船会社』
三人の男が会話していた。
一人はバグジェット造船会社の社長であり、二人は日本人だ。
一人は閑見商会の社員であり、残る一人は日本陸軍のイタリア駐在武官だ。
「では、これで契約は締結という事で」
「ええ有り難うございました。良きお取引きができました」
「技術者の派遣、宜しくお願い致します」
「はい、確かに」
そう言って三人は握手を交わす。
バグジェット造船会社と魚雷艇の建造とライセンス生産権について契約が交わされたのである。
日本において、この取り引きは献納という形で閑見商会が資金を出し、陸軍の為に購入した事になっている。
イタリア側の認識としては、日本陸軍と関係の深い国策会社が窓口になって自社製品を購入したという認識だった。
陸軍が魚雷艇を購入する事について同席している駐在武官は不思議には思わなかった。
何故なら日本陸軍は以前にも魚雷艇をイギリスから購入した経験を持つ。
その魚雷艇を元にして陸軍は高速艇甲を開発製造した経験があるからだ。
高速艇甲は上陸作戦時の偵察や連絡を任務としている。
今回の取り引きについて閑院宮総長から直々の連絡によって閑見商会に協力して取り引きを纏めるよう駐在武官は指示を受けた事から、陸軍で使用する新たな小型艦艇の開発製造にでも関係する物なのだうと勝手に思い込み、疑問に思う事は無かったのである。
そして、同じ頃、同様な契約が閑見商会とドイツのリュールセン造船会社でも結ばれていた。
こちらも契約したのは魚雷艇の建造とライセンス生産権についてである。
閑院宮総長と伏見宮総長から指示を受けた閑見商会が着々と外国での兵器の買い付けを進めていた。
それは全てある計画の為である。
その全貌を知っているのは閑院宮総長と伏見宮総長の二人のみであった。
【続く】




