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運命の人  作者: K-ey
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~プラネタリウム~

「達矢さん、そう言えば達矢さんの誕生日はいつなの?」

当日券を手に入れ、プラネタリウムの上映開始を待つ間、待合室にある

グッズショップを覗いている時ふと彼女に尋ねられた。

「来月の20日だよ。」

「20日ってもうすぐじゃないっ、プレゼント何がいい?何が欲しいの?」

彼女は慌てた様子で矢継ぎ早に言った。

「‥ん、何ってそれは…」

「言って、何?」

「…だから、その、君が‥」

「えっ?」

「だから、‥君が欲しい。君がすぐ近くに居てくれればそれでいい。」

「えっ…」

「………。」

「………。」

言ってしまった。



誕生日か…、去年の誕生日は誰も「おめでとう」と言ってくれなかった。

厳密に言えば、付き合っていた女はいたことにはいたが、

それはまあ単なる遊び相手で、別に好きでもなくましてや愛してなど

いたわけでは到底なく、ただ単に一緒に居ただけのこと。

つまり、そういう相手だった。

だが、今年は違う。本当に心から “ 好き ” と言える相手と一緒にいられる。

こんなに幸せなことはない。“ プレゼントは涼子さんでいい。” というのは

冗談なんかではなく本心なのだ。心から “ 君が側にいてくれればいい ”

そう思っている。


俺はどうしてこんなにも彼女のことを好きになったのだろう?…

女なんてそれこそ掃いて捨てるほどいる。見た目のいい女だって沢山いる。

それこそ金を与えればついてくる女なんて探せばいくらだっている。

だが、彼女だけは違う。そんな不粋な気になど一切なれず

初めて出逢った瞬間から俺の中の何かが “カチッ ” とハマってしまって

自分でも何が何だかよく分からないけれど、“ 時空を越えて ” とでも

言おうか、“ デジャヴ ” とでも言おうか、何か本当に運命めいたものを

感じずにはいられなかったのだ。

その彼女と自分の誕生日を祝えるなんて、まるで夢を見ているような

感じなのだ。



「‥さん、達矢さん⁈」

俺は彼女に揺さぶられハッと我に返った。

「んもう‥プラネタリウム始まるよ。」

会場内が完全に暗転し、いよいよ宇宙への旅が始まった。

始めは目が慣れずあまりよく見えなかったが、徐々に自分たちが

満天の星空の下にいることが実感できた。

リクライニングの肘掛けを上げ、手を繋いで、しばしの宇宙旅行。

会場全体から臨場感たっぷりの大音響が響いてきて、迫力満点だった。


[ 古代ギリシャ時代ー

アンドロメダ姫が怪物に生贄とされそうなところをペガサスに乗った

勇者ペルセウスが姫を見事救出し、ふたりはめでたく結ばれる。]

という壮大なストーリーや


【秋の四辺形】の解説などを

臨場感たっぷりの大音響や特殊映像、歌などで盛り上げていた。


「すご〜い、きれえぃ…。天の川ってこんなにも沢山星があるんだね。

こんな天の川見たことない‥」

彼女が目をキラキラさせながら小声でこっちを見て言った。

「今度は本当の星空が見たいね。」と返すと彼女は

「うん。」と言って小指を差し出した。

俺は小指を絡ませて

「約束だよ。」と言うと彼女を見つめて頷いた。




「あー楽しかったあ。ずっと来たかったのプラネタリウム。

子どもの頃はね、よく通ってたの。市の文化センターで週一くらいの

ペースで上映されてたからよく見に行ってたの。

だから今日はあの頃に戻ったみたいで凄く嬉しい!ありがとう。」

と若干、興奮気味に言った。

「ねえ、もうちょっといい?」

彼女はそう言うと急に走り出して、待合室にあるちょっとした体感ゲームで

遊び始めた。俺はそこにあったパンフレット手に取ると彼女に近づき

「面白い?」と聞くと彼女は返事もそこそこにゲームに没頭した。


パンフレットを読みながらソファーに座って彼女を待っていると

「ねえ、今度はこっち、」と言って

俺をソファーから引き上げて再びグッズショップに連れて行った。

「ゆっくり見ていい?」と聞くと

アロマオイルや星座盤など、次々と手に取り始めた。

「あなたは蠍座かあ‥ねえ、これなんかどう?」そう言って

蠍の形をしたピアスを俺の耳にあてがった。

「‥バカっ、」

俺は真っ赤になって手で払うと

「じゃあ、これは?」と言って

月の形をしたイヤリングをあてた。

「やめろよ」と笑いながらそれを取り上げると、乙女座のピアスを見つけ

今度は彼女の耳にあてがって

「乙女座のがあるよ。」と言うと

「うん‥でもピアスだから…私、穴開けちゃおうかなぁ」と真顔で言った。

俺は苦笑いしながら「これがいいんじゃない?」と言って

片方は月、もう片方は星の形をしたアシンメトリーのイヤリングを見せた。

「あ、可愛い。どこにあったの?これがいい。可愛い。」

そう言って彼女は受け取った。


結局彼女は、アロマオイル、イヤリングなどを買い、俺にも蠍の形をした

キーホルダーを買った。

「ほんとにありがとう。楽しかったあ。」

彼女は子どもみたいに大はしゃぎで俺の腕を取り歩き始めた。

「ほんとにありがとおー。」俺が呆れて笑っていると

「ほんとに、ほんとにありがとう。」と俺の腕を揺さぶった。




「さあ、もう帰るよ」と彼女に言うと

「ヤダあ」と言って腕組みをした。

俺は彼女の腕をほどいてシートベルトを通すと

「行きますよ。」と言ってエンジンをかけた。



趣味が合うというか、好きなことが一緒というのはとてもいい。

いくら美人でスタイルが良くたって、楽しいのか楽しくないのか

よく分からないような女じゃ一緒にいてもつまらない。

一見華やかで、傍目にはいい女を連れてるなんて誇らしくなるかも

しれないが、そんなのは本当に一時的なもので何の意味もない。

俺はそんなこと経験上、嫌というほど身に染みて感じていた。

その点、涼子さんは可愛くておまけにスタイルも良く、性格も良い。

こんな女の人、そう簡単には見つかるはずもなく、俺は本当にラッキーな

男だと幸せに思っていた。




「達矢さん、達矢さんの誕生日には私もう働いてるんだね。

ねえ、土曜日か日曜日、どっちか空けておいてね。私も都合つけるから」

彼女はそう言うとシートベルトを外した。そしてドアを開けると

「あー寒いけど、空が綺麗。でも秋の夕暮れ時ってどこか淋しそうで

ちょっと苦手かなぁ…。綺麗なんだけどね」

そう言って、空を仰いでから振り返り、少し笑って手を振った。


“ 俺はこの瞬間、彼女の一連の動作がスローモーションのように見え

何か不思議な違和感のようなものを感じていた ”


ピッ ピッ というクラクションの音で我に返り、振り返ると

駐車場を出て行く彼女の車が視界に入り、それを目で追いながらも

言い知れぬ不安を感じていた。


『行っちゃダメだ !』 『引き留めなくちゃ !』

そんな声が心の奥の方から湧いてきて、ざわざわと胸が騒ぎ

徐々に落ち着きを失っていく自分に動揺していた。


「涼子さんっ…」

思わず彼女の名前を呼んで、 そして しばらく 呆然としていた。





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