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運命の人  作者: K-ey
21/91

~一緒に~

「ちょっと頭が痛い‥」

「バカだなぁ、ろくに呑めもしないのに呑むから‥」

俺たちは映画を観に行った帰りに寄ったイタリアンレストランで

遅い昼食を済ませた。

彼女は「少しだけ。」と言って、昼間からグラスワインを口にした。

口当たりが良いことを理由に調子に乗っておかわりし、

普段アルコールをほとんど口にしない彼女は少し酔っていた。

「ほらっ」

店から出て、表に出ると彼女のヒールが段差に引っ掛かり、咄嗟に俺が

手を出すと彼女は俺の腕を引っ張り頬にキスをした。

「‥ったく、今度はどこ行くの?」と彼女に聞くと

「もう少し歩きたい。」と言った。

彼女は俺の腕をしっかりと抱いて歩き始めた。


「あーもうすっかり秋だね、寒いね。」と俺が言うと

「うん、でも一緒だからあったかい。」そう言って俺を見上げた。

俺は彼女の髪にキスをすると「ほら、手」と言って彼女の手を握った。

「ねえ、私がもし突然あなたの前からいなくなったらあなたどうする?」

と突然彼女が言い出し

「あ、さっきの映画の話?んー俺は…そんなこと考えたくもないよ」

と言うと

「ふーん、でももし私だったら、もしあなたがいなくなったら

私はたぶん生きて行けない…」と言った。

「ほら、そんなくだらないこと言ってると、またつまずくぞ。」

と俺がたしなめると

彼女は「はーい。」と言った。


“ そんなこと考えただけで怖くなるよ。君がもし僕の前からいなくなったら

僕はきっとおかしくなってしまう。気が狂ってどうなるかわからない…”


俺は少し不機嫌になって無口になると、彼女は俺の腕を引っ張って

「ねえ怒ったの?」 といたずらっぽく言った。

「別に怒ってなんかないよ、」と言うと

「ねえ、機嫌直して‥」と言い

真面目な顔をして俺の前髪に手を伸ばし、そっと直すと微笑んだ。


俺たちは市外に出ていて、ちょっとした小旅行にでも来ているような

感覚で街並みを歩いていた。

「あっ、」彼女が突然声を上げた。

「可愛い。」

俺の手を離し小走りに駆け寄ると、店先に並べてある小さな黄色いうさぎの

入れ物を手に取った。

「何これ?あっ、香水?」

見本の蓋を開けると鼻を近づけ

「うわあ、いい香り。金木犀。」と言った。

「ほら」 差し出された入れ物の匂いを嗅いでみると

懐かしいあの甘い香りがした。

「いい匂いだよね、これ。涼子さんみたい。」と言うと

「えっ?ほんと?」と少し照れながら言った。

「買ってあげるよ。あとは?」

「うん、ちょっと待って。あとはねえ…」

彼女は少女のように浮かれて

「あ、これがいい。」と言った。

小さな白い花と赤いリンゴがぶらさがったイヤリング。

それを自分の耳にあてがって「どう?」と見せると目を輝かせた。

「うん、よく似合ってる。可愛いよ。」そう俺が言うと

嬉しそうにイヤリングを揺らした。

彼女は早速、プレゼントしたイヤリングをつけると

「ありがとう。お守りがまた一つ増えちゃった。」と

俺の目を見た。

俺は笑顔で頷くと手を繋いでまた歩き始めた。


平日の昼間だから主婦や子供を連れたお母さんなどが多い。

その中で嬉々として歩いている二人は場違いだったに違いなく

通りすがる主婦などにジロジロと見られることもあった。

「ねえ、暗くなるの早くなったね。なんか急かされてる感じがするね。

早く帰りなさーいって‥」と彼女が呟いた。

「んー?帰りたいの?」と茶化すと

「違う、違うってば」とムキになって否定した。

俺は彼女の肩に手をまわし、「コーヒーでも飲んで帰ろうか。」と言うと

彼女は仕方なさそうに、少し怒ったように頷いた。


駅ビルにあるコーヒーショップに入ると、学校帰りの学生やビジネスマン、

主婦のグループなどがいた。

「んーいい匂い。あなたは何にするの?私はチャイラテにしようかな‥」

俺はすかさず 「男は黙ってブラックでしょ。」と言うと

彼女は「はいはい」と半ば呆れ顔で笑っていた。

飲み物を受け取ると、奥の方にちょうど席を立つ人が見えて

そこに座ることにした。本当は窓際が良かったが流石に占領されていた。

一口飲むと彼女は「あー美味しい。」と言ってカップを手にしたまま

俺の目を覗き込んだ。


俺は最近あった風変わりな客の話題や同僚の話、新台の話題などで

盛り上げた。

やがて隣の席に若いカップルが座り

「ごめんねこんな席で」と 男が女の子に言うのを聞いて

俺たちはお互いに目を見合わせ苦笑いした。

女の子が「仕方ないよ」と言うと男は女の子の額にキスをした。

俺はコーヒーカップをテーブルの上に置くと彼女の靴に自分の靴を当て

注意を引いた。彼女は俺をたしなめるような目で見ると

手を伸ばして指を絡ませてきた。俺たちは顔を見合わせると見つめ合って

「乾杯‼︎」とカップを上げた。



そうこうしているうちにカップルが席を立ち、俺たちも帰ることにした。

エスカレーターを降りて改札口に向かう連絡通路を歩いていると

隅の方で壁にもたれ掛かって抱き合っている男女が見えた。

女の人を慰めている様子で、俺たちはそれを見て少し立ち止まった。

「そろそろ帰ろうか…」と彼女に声を掛けると 「うん‥」と言った。

俺は人の目も気にせず彼女を抱き寄せると ぎゅうっと力を込めた。


“ このまま時が止まればいい。彼女が完全に自分のものになるのは

いつなのか、なぜ帰さなければならないのか ”


そんなことを考えていた。



「ありがとう。」

俺たちはこれからの待ち合わせ場所に決めたあの花火大会の公園まで来ると

握っていた手を離した。

「今度はいつ逢える?」

彼女がシートベルトに手を伸ばした時、俺がそう声を掛けると

「うん、昼間なら土・日を抜かせばほぼ大丈夫。」と振り向いた。

「昼間…」

「う、ん。昼間じゃイヤ?」

「イヤじゃないけど、たまには夜から朝まで一緒にいたいな…」

そう本音を漏らした。

「ほら、紅葉を見に行きたいし京都に‥」そう俺が言うと

「あ、うん、そうだね。」

ちょっと困ったような複雑な顔をして相づちを打った。

「行きたいよね⁈京都。」と聞くと

「それは私だって行きたいに決まってる、でも…」そう言った後

口をつぐんだ。

俺は少し強気になって

「どうしてダメなの?俺と一緒にいたくないの?好きなんじゃないの⁈」

と口走ると彼女は困ったような顔をして

「好きに決まってる、私だって一緒にいたい。あなたと一緒にいたい。

でも、でもそれはまだ出来ないって分かってるでしょ」 と言った。


俺はイライラして車に置いてあるタバコを出すと火をつけた。

彼女は驚いたような顔で俺を見た。

(彼女がタバコ嫌いなのを知っているから、一緒にいる時は決して吸わなかった)


俺は一口吸うと窓を開けて煙りを吐いた。

彼女はそれを黙って見ていたが、やがて諦めたように

「帰るね。」と言うとドアに手を伸ばした。

俺はすかさず彼女の手を引くと無理矢理キスをした。

すると彼女は俺を力いっぱい遠ざけると泣きそうな顔で見つめた。

俺は「ごめん、でも好きなんだ、一緒にいたいんだ。」と訴えると

彼女はポロっと涙をこぼした。

「私も好き、一緒にいたい。でも…」そう言ってうつむいた。


俺はタバコを投げ捨てるとハンドルを力いっぱい叩いた。


















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