非労働系魔法少女ニト 第四羽
すごく長いです。実際長い
「……姫……いや、こう呼んだ方が良かったのかな? かぐや姫さん?」
「ふむ……チューザめが喋りおったのか……?」
「いや、兎から続く一連の流れからなんとなく?」
正直、兎と鵺の時点で犯人はかぐや姫という仮説があったのだが、流石にそれが姫だとは……獰猛「覇」における財力と現実成分ぐらいにしか思っていなかった、うん。
遠回しに言わずに率直に言わせてもらうと、なんとなくそんな予感はしていた。
その予感は、姫を追う上でボコった量産型並みのアンノウン数体によって確信に変わったのだが。
「ああ、一応言っておくのじゃが……ぬえはわらわとは無関係じゃぞ?」
「えっ? ……じゃあ?」
いったい誰が……あのぬえを……?
姫の指摘により、わたしの26ある欠点の1つ、『推理の間違いを指摘されるとどんな状況だろうとBKフリーズしてしまう』が発動してしまった。
「かかったなアホが!」
一瞬構えを解いたわたしに対して空から突っ込んでくる姫……なるほど、さっきのはブラフなわけか……
まあ、一瞬で思考を切り替えて……右に避け……
「っ!?」
「っ!」
……避けきれなかった
結局わたしの右手……と右手を添えていた腰の刀の柄と姫の腹部……具体的には鳩尾の辺りがぶつかったわけだが。
痛っ!ゴキっていった!……病院に行きたい。骨が痛い。マジで痛い。帰りたい。帰ってテレビを見ていたい、最近アニメが面白い。怪我したので早退したい。あ、実写ドラマ化はziraiなのでいいです。あと帰らせろ。
『えっ……ひどくない?』って? 飴くれ……実写ドラマ化こそ、愚かなるディレクターが考え出した欲望の象徴だから仕方がないね。とりあえず帰りたい。ビブリア……とかの惨劇を忘れたか!
何はともあれ休みを求めて今日も明日も昔のすねをかじりたい。
「ニトの26個以上ある欠点の1つ、『少しの怪我ですぐへこたれる』と『不労黙示』が同時に発動しちゃったよ……」
「ヤヌス……26個だし。26個以上じゃなくて26個」
AtoZまで当てはめられたハズだからちゃんと26のハズだ。
ギリシャ文字まで組み込んだ可能性がわずかながら存在してるし、26超えてるかもしんないけど。
「……わらわの負けじゃな……」
わたしに特攻したと思ったら刀の柄でクリティカルヒットして勝手に自滅したかぐやが、うつ伏せのままそういった。
「うすしお並みにあっさりと終わったね、かぐや姫さん……」
「……おおかた、そこのネズミがわらわとぜになんちゃらとを引き剥がす為にお主とわらわを戦わせたのじゃろう? 分かっておるのじゃ……チューザがわらわの心配をしておることぐらいのう」
うつ伏せの状態から正座の状態になりながら、かぐやが足元にいたチューザに問いかけた。
そして、かぐやに駆け寄っていたチューザが、観念したかのように口を開く。
「……僕は……いえ、僕の一族は先祖代々かぐや様に使えていましたから……いくら天頂の力が強大な物であろうとも、誰かの力に対してひれ伏すかぐや様は見たくありませんでしたから……」
「ふむ、やはり主はわらわの真意を読み切れぬよのう……ニト殿よ、お主はわらわがただあやつらに従っていただけと思うか?」
「じゃあ情報プリーズ」
「ちょっとストップニト、ボクにもちゃんと理解出来るように会話のキャッチボールをちゃんとしてよ、一段飛ばしじゃなくて」
「うむ、ゼニスはアンノウンの親玉というだけあって強大なアンノウンのようなやからもおるのじゃ」
「でもってなんで会話が成り立ってるの!?」
会話に付いて来れないヤヌスが騒いでいるけど無視して会話を続ける。
「アンノウン剛種じゃないゼニスはどんな奴がいるの?」
「もういいよニト……会話が成り立ってないのにはもう何も言わないから……」
「確か……触手が蠢いているような者やら吐き気を催す色をした霧やら……」
「犯人はN、はっきり分かるんだね」
「そうじゃった、シャングリラとかいう奴がリーダー格じゃ!」
「シャングリラ……って理想郷だっけ?」
「ニト、ボクに聞かないでほしいんだけど……?」
シャングリラって理想郷だったような……まったく、使えないネコだよヤヌスは……
「む? 理想郷? 確か、シャングリラの側近はユートピアじゃったと……」
「シャングリラにユートピア……? どちらも意味は理想郷……」
頭がこんがらがってきた。名前に意味はないとは思うけど……何だろう、この謎の胸騒ぎは……?
「あくまでもそう名乗っておるだけじゃろうに、意味は無いはずじゃ」
「……そういえば、アンノウンの親玉どものの基地は?」
「……オゾンより下なら問題ないじゃろ? はるか空じゃ」
「帰りたい」
帰りたかったのにアンノウンの基地に送り込まれてしまった。おのれ姫、この悪魔め……右手だけでオラオラやらない限り、ぶっ潰しても! ぶっ潰しても! わたしの怒りはおさまりそうにない。わたしが攻撃するのは……『月』だ!
「そうと決まれば! ヤヌス、ちょっとわたしの魔力をぶっ放す砲台になってくれないかな?ちょっと月を破壊したいから」
「宇宙の! 法則が! 乱れちゃうよ!」
「チッ、分かったよ。こうなったらわたし1人でやるから……マクロコスモ…………スラァァァァァッ」
「待ってニト! 一体何をするつもりなの! あとニトは超至近距離特化型の魔法だったよね! どうやって月を砕くために」
「あっ、そっか……」
ひとまず発動を解除して、少し考えてある結論に達する。
「……わたしが覚醒して金色になればオゾンより上でも問題なくなるよね?」
「それで問題がなくなるのは絆パワーのレアでドMな蟹だけだよ!」
「ああそっか…………上位報酬のSR+だもんね、わたし……」
「うわぁ…………」
ヤヌスにどん引きされてしまった。……超至近距離攻撃でワンキルしちゃおうかな?
不穏な雰囲気に気付いたのか、ヤヌスが口を開く。命拾いしたようだね……
「あ、そういえば、右手の怪我はどうなったの?」
「ああ、多分折れてるけど大丈夫だよ、なんか痛みが麻痺してきたから」
「全然大丈夫じゃないよね!?」
「あとさっき転送された衝撃でアバラの2、3本も持ってかれたかも」
「もうボク1人で戦ってくるからニトはそこで休んでて! あとニトの刀貸して!」
「まあ、嘘だけどね」
「ボクの心配を返せ!」
これには流石にヤヌスも、苦笑い……苦笑いどころか少し怒ってるけどね。
「アバラは少し打っただけだから大丈夫だよ。右手は痛くなくなってきたし、なによりこの状態……この魔法少女の状態なら多少の痛みは気になくなるからね……羞恥心で」
「……前にボクの前で堂々と着替えてたニトのセリフとは思えないね」
「正直自分でも『うわ、きつ……』って思ってるからね、この格好は……」
「きつ……なに?」
「きつつき?」
実際2@歳の少女がこんなフリフリした服を着て戦っているのは正直自分でもどうかと思う。魔法少女にあるまじき戦い方をしてきた理由も、2割はそんな理由だ。
残りの8割は……効率が3割と数割の優しさとその他で構成されている。まあ、5割がその他なのだが。
「まあとにかくさ、いつもと同じようにぶちのめして解決しようか……ヘシンッ!アルティメットフォーム!」
「いや、ニトには少なくともまだ第2形態なんて……」
「カオスエクシーズ! ランクアップマジック! デルタアクセルシンクロ! 覚醒! 進化! V覚醒リンク! 超融合! えぇっとあとは……アドバンス召喚! ほら! 思いつくだけでこんなにパターンがあるのに!」
「ニト、覚醒もランクアップもカオスエクシーズもランクアップもする気配なかったよ……でもって超融合と覚醒リンクとアクセルシンクロはどうするつもりだったの……更にV覚醒リンクは負けフラグだからね……?」
「おかしい……深夜アニメだったらもうそろそろ覚醒してもおかしくないはずなのにね……」
「これ以上ニトが強くなったらと思うとすごい怖いんだけど……」
「大丈夫だよヤヌス! わたしが力を悪用するような人間に見える? 見えないよね? 思えないよね?」
「そんな人間に見えるしニトならやりかねないと思っちゃうんだよねぇ、これが」
ヤヌスにどこぞの名探偵のような返しをされた。心臓麻痺で死なないように気をつけた方が良さそうだね……ヤヌスは
「……さてヤヌス、なんでこの辺には何にもいないんだろうね? 仮にも天空の城の壁をハカイシ破壊してダイナミックお邪魔しますしたのに」
「何もいないわけじゃないみたいだよ……だってあっち側の入り口の周りに弱そうなのが2体……弱そう? いや違うかな?」
「オゥケィ、じゃあ早速……」
ヤヌスが指(というか手?)を向けた方向の扉に向かい……盛大に横一文字に斬った。
『ェェエエィア!』
『デンナ!デンナスニゼデンナ!』
「……うん、ボクはもうニトの戦い方にはなにも言わないよ……扉の後ろに敵が隠れてるからってまさか扉の両隣の壁もろとも一閃したけどなにもいいたくないよ……あと刀だけ若干パワーアップしてるけど気にしないよ……」
遠回しにヤヌスに見ろと言われて刀を確認すると、白い炎のようなモノが纏わりついていた。
「なに……これ……」
思わず口に出た言葉に対し、ヤヌスが答える。
「その炎の事は全く分からないけど、これだけは言えるよ……ニトの武器がランクアップしたんだよ……ほら、ゲームとかであるよね、敵と戦い続けたら武器がパワーアップするようなシステムが」
「無双3の武器システムは黒歴史だから死体蹴りはやめたげて……」
にしても武器が……というか、武器『だけ』がパワーアップしたか……
「ところでヤヌス、わたしのパワーアップはまだなの?」
「……雑魚を片っ端から斬っていけばそのうちパワーアップするんじゃないかな? 敵の方が」
もうこいつ穴からインザスカイさせてもいいよね?
無心になり、目の前に現れた敵を斬り続ける……斬り続け、更にまた斬り続けた先にきっと道があるから、わたしは斬り続けるのをやめない……
たとえそれを誰かがただの奇行だと罵ろうとも……
自分でもただの無駄骨だと悟ろうとも……
「テイッテテッテテテテティッ! 「覇」ァ! 王牙超絶斬、「爆」! テイヤァッ! ……命とは投げ捨て」
「もういいよニト……なんでザコ敵相手に格ゲーというかスポーツ化した格ゲーにありがちな無限コンボを入れてたの……? あと名前が詰め込みすぎて明らかにおかしいよ」
「鬼修羅流友情破断剣弐の型 《覇王牙超絶斬・「爆」》だけどなにか?」
わたしがいうのもなんだけど、わたしの技の中で、ツッコミ所の多さでは多分この技が一番だとおもう。
「確かにこれが格ゲーだったら友情は破断するけどさ……魔法少女として明らかにおかしいよね? 戦い方が」
「わたしこんな戦い方しか分からないから……ね?」
「……別に肉弾戦をするのはいいよ。最近は○と×ま○とかそういう魔法だけでは戦わない魔法少女が多いからね……でもさ、敵を切り刻んでミンチにしちゃえ魔法少女なんてありえないよね? ……ニトは満足町に住んでた現実主義者じゃないよね?あと、なんで弐の型なの? 壱の型があるの? 更にさ、覇・王牙超絶斬「爆」だっけ? 長いよ。絶対覇か爆を削った方がいいよ」
「ヤヌスのツッコミも十分長いよ……」
「でもってさ、無双するにしてももうちょっと爽快感を」
「分かった、見てて爽快感がある無双をすればいいんだね?」
「ヒャーッハハハ! 踊れ踊れェ! 死のダンスをねェ!」
「ェェエエィア! デンナ! デンナクゾンマデンナ!」
「爽快感以前に残虐すぎるよ! なんでニトは方向転換したらはるか斜めの方向に射出されていくの!」
「最近の俺TUEEEEEEEEアニメの需要をみる限り、そんなに残虐じゃないと思うんだけど?」
「ニトは魔法少女なんだし、せめて自分で残虐って認めるような事はやらないで……キ『 (°□°;) 』のポッポの『 友愛 』並みにやっちゃいけないことだから……」
「じゃあ先人に見習って」
「ボクを投げたり武器を投げたりするのは却下ね? あと魔法で敵を跡形もなく消し去るのも」
ヤヌスはわたしの発言先読みしたと思ってるけど甘いね。甘いよ。マックスコーヒー……のパチモンとしてジェニーが遊び半分作ったマックスウォリアーコーヒー並みに甘いよ。
マックスコーヒーは練乳にコーヒーを入れたって些喩されるけどマックスウォリアーコーヒーは小さじ1のインスタントコーヒーを大量の練乳でコーヒーの味を感じる限界まで薄めた代物のような恐ろしい程の甘みがしたものだ。思い出しただけであの恐ろしい甘味が蘇ってくる……最後はちゃんとスタッフ(ヤヌス)が飲み干したのだが。
「ニト、思いつかないのなら」
「屠殺場の豚を見る目で敵を爆殺する魔法少女とかはどうかな?」
「確かにそんな魔法少女はいるけどやめて! そもそもニトは遠距離攻撃使わないで!」
遠距離攻撃自体を禁止されてしまった。無茶いうな~ヤヌスは……
「じゃあ分かったよ……屠殺場の豚を見る目で魔法使って爆殺でも跡形もなく魔法で消し去るのもやらないから……この戦い方以外ならいいんだよね?」
「ちゃんと残虐な戦い方も除外してね?」
ですよねー……流石はヤヌス、鋭い……もとより誤魔化せるとは思ってなかったけどね。
「分かってるから……じゃああとで見せるから、そっちの影からきそうなザコは任せた」
「はいはい……って任せないでね!? なんで相棒のボクに戦えって言うの! ニトは!」
「え? フィール的にはヤヌス2体分の戦闘力だから大丈夫だと思うんだけど?」
「ボク2人分の戦闘力が必要な奴の相手なんか任せないで!」
「大丈夫だと思うよ、『そのとき不思議なことが起こった』ってゆう感じで覚醒すれば……戦闘力10の壁はなんなく乗り越えられるよ……多分」
「なにを基準にしたらボクの戦闘力が……ああ、いや……まあいっか……」
一体何の事かは分からないが、自己解決したようだ。
にしても誰なんだ一体……わたしと一緒に戦うのかとかそういう流れじゃなくてこの頭がおかしいような構造をした城を考えた奴だ。
物陰からの不意打ちアンブッシュで侵入者を滅☆殺しようとしているのがバレバレだ。バレバレバレンタインだ。
関係ないけど、ニンジャの間では一度だけアンブッシュ……つまり、不意打ちが認められているらしい。ニンジャ……の小説にも書いてある。
「ちょっと休んでるからチャチャッと片付けちゃってね~」
「まったく……ニトは人使いが荒過ぎるんだよ……それだからいい歳なのに彼氏がいな……」
「凡人には分からないんだよ、わたしの価値がね……」
「……行ってくるよ……」
空気の重さに耐えきれなくなったヤヌスが戦場に赴く……それが、彼の人生の分岐点でした……まあ、冗談はさておき、ヤヌスならきっと勝てるよね?
「ァァァァァァワヌ!」
「ふふんっ! ボクが第2形態になるまでもなかったよ」
「あーはいはいお疲れー」
「えっ……酷くない? その扱いは」
「いや、わたしなら無傷で倒せるような相手だったし……ねぇ?」
戦闘時の声を聞く限りでは蛇……のタイプでもそれなりの強さを持つ大蛇だったのだが、わたし基準だとどうしても蛇のタイプの中での強さのランクの差があってないようなものになっている。
わたしに認めてもらいたかったら不死鳥やらオーディンを倒してからにしてもらいたい。あ、一応バハムートでも可だ。
「にしても、いったいどこまでこの道を進む必要があるんだろうねぇ? もうこのさい手っ取り早くこの城ごと粉微塵になるまで王鬼刀で切っちゃっても……」
「ニト、一体何度言ったら分かってくれるのかな……? あと、敵の密度が段々高くなってきてるからもうそろそろ敵の行る場所に着く頃だと思うよ? 多分だけど」
「あー確かにそっかー……じゃあ、シャンなんとかを城ごと破壊するのはやっぱなしにしよっと」
「ニト! シャンなんとかじゃなくてちゃんとシャンベルって呼んだ方が多分いいよ! 多分!」
「残念ながら我が主はシャンなんとかでもシャンベルでもありませんよ……」
曲がりくねった道の先からそんな声が聞こえてきた。……どうやら、わたしたちの会話を聞いていたようだ。
「ヤヌス、走るよ」
「言われなくても分かってるよ!」
急ごう……チャチャッと戦ってカカッと屠ってドッカーンと城を爆破するために……
もしくは、わたしが早く休みたいが為に……
走り抜いたその先の広い部屋には影があった……というより、人型の闇がいた、と言う方が正しいのかな?
「お待ちしておりました、魔法少女殿……とヤンスでしたかな?」
「ボクはヤヌスだ! この頭頂ユートピア!」
「頭頂ユートピアとは……愉快な言語を使うな、地表に蔓延る欲の塊は」
「あ、こいつキレた」
頭頂ユートピアってひょっとして遠まわしにハゲと言いたかったのかな? 確かにハゲだしこいつは多分ユートピアだけど、もっとやんわりと、かつ相手に伝わりやすい言い方はなかったのかな?
まあ、わたしも『お前なんか』『PaPみたいな髪の毛してるよな(笑)』ぐらいの煽り方しか思いつかなかったけど。
「あー帰りたい……ところであんたらの目的は何なの? 場合によっては魔法少女として滅殺するんだけど?」
「ふっ、それを貴様らに語ったところで何になるのだ?」
「ちぇっ、『冥土の土産に教えてやろう』とかそういう分かりやすい死亡フラグとか立てても良かったのに」
「ならばよい。私達の目的、それは………………」
露骨過ぎる尺延ばし……もとい、時間稼ぎをしているユートピア(仮)……こちら側も開いた時間で大技の準備をしておく。どうせ向こうもそれは承知のはずだしね。
「我が主の願い、それは……欲望による争いのない、平和な世界だ!」
「……あんたら本当に悪役?」
悪役であるハズの向こう側が平和な世界を望んでいるのは一体どういうこと? アニメとかでよくある『事情あって悪役やってますけど自分割と正義なんで』とかいうラスボスなの?
「そして、まずは計画の第1段階として地上に蔓延る人間を抹消」
「ハイハイ分かったよ、よくありがちな、複雑な事情がある(笑)ラスボスね」
「ニト、確かにそうだからって投げやりに言わないで……」
投げやりにならざるをえない。どうせこいつらは『人間いなくなれば欲望による争い無くならね?』とか考えた結果それを実行しようとしているはた迷惑な連中に決まっている。良かれと思って滅ぼしますみたいな奴らだ。
「黙れ小娘! 貴様ら人間の欲望によってどれだけ我の同族が生まれ、そして貴様のような魔法少女によって退治されたか知っているのか!」
『人間の欲望によって』……? ひょっとしてアンノウンの正体は欲望の塊……?
とすると、ひょっとして……
「ねえヤヌス……」
出来るだけ平静を装って、ヤヌスに話しかけ、1つ問いかける……
「これは罰則にならないよね? ノーカンだよね? クビにならないよね? というかノーカン! ノーカン!」
「……ニト、なんで今そんなことを聞いたの? あの頭頂ユートピアも唖然としてるじゃん。精神攻撃しかけたハズがまったく効いてなくて……あと、自分で模索したんじゃないから大丈夫のハズだよ………あと、なんでそんなに魔法少女じゃなくなることを恐れているの……? ああ、一応あいつとその主を倒せばそれに免じてなかったことになるかも……ね……ってニト? なんでそんなに刀に力を溜めてるの? 暴走しちゃうよ?」
「嫌だ……私は……働きたくないィ!」
「ニトはどこのヘルカイザーなの!? あれ? ……ニト! 揺れてるから! ニトの魔力が溢れ出したせいでこの城が揺れちゃってるから!」
「わたしは……勝つ!」
働きたくないという思いを心の奥深くへと沈め、心を静める……
そして、何も考えずにあいつ……そして、あいつの主にぶちかますことだけを考える……失職の事は考えない……冷静になり、心を研ぎ澄ます……見えた……ヤツの位置……そして、シャンメリーの位置が……
「問答無用……王牙超絶斬・「覇」!」
暴走寸前のわたしの力のほとんどを刀にのせ……ユートピアに向けて斬り込む……
「クッ……出よ、わが親衛隊よ!」
自分のピンチと見るや否や、小型のアンノウンが大量にユートピアを守るが為に召喚された。
今更守りを固めたところで何になる……最強の魔法少女たるわたしの攻撃を止めたかったら、就活生限定の死の呪文でも唱えればいい。わたしは場に出たゴリラのように即死するから。
「王牙超絶斬!」
技名を言ってから、斬りつけるまでの時間がかかりすぎたために斬る前にもう1回技名を言う。さっきまで足元にいたヤヌスが後ろからアホじゃないの? と言わんばかりの視線を送ってきているけど、無視だ。
「……貧弱貧弱アンド貧弱! 弱い! 脆い! 遅い!」
「ウゴゴゴゴ……無駄だ……我を倒したところで……シャングリラ様は……」
「あー、末期のセリフの最中にアレなんだけどさ……魔力余ってたから一緒に後ろに向かって大切断やったから多分一緒にやっちゃったと思うよ? 悔しいでしょうねぇ?」
「おのれ魔法少女め! この恨みは忘れぬ! たとえこの身が滅びようと、荒霊になり、貴様を呪い続ける! この先安息の時など、貴様に訪れは」
長ったらしいから弱攻撃でトドメ刺すか……とりあえずこれ斬ってもいいよね?
「えいっ」
「グォォ…………ヤハりシャングリラさマはよそウしてイタヨうだナ……我ノ死を……そのウエでサクセんを……グォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
ハゲの死が予想の範疇で作戦を組んだ? ……一体どういう事……? 確かにわたしは後ろのジェラシャンに向かって攻撃を……
「ニト! シャンデリアは死んじゃいない!」
「死んでないって……?」
「それどころか、ニトの攻撃を受けた時よりも力が増しているよ! ひょっとして、ニトの攻撃を吸収してパワーアップ……? いや、違う……進化したんだ……純粋なアンノウンから進化しちゃったんだ……ユートピアの力を吸収して……」
「ヤヌス、分かったから少し静かに」
少しだけシャングリラの姿が見えたのだが……なんというか、コメントに困るような姿だった……仮面をつけた男のような形の上半身で腰から下が戦艦と合体したような姿の闇とでもいえばいいか……それでかなりデカい。
人の欲望による争いを無くすアンノウンがの姿が、人の欲望の争いの象徴、兵器とはどんな皮肉だろうか?
「そういえばさ……こういう局面だとふつうこっちが覚醒するもんじゃないの?」
「現実なんてそんなモノだよ。ピンチの時に更なる力を得るなんて、アニメじゃあるまいし……」
少ししか見えなかったけど、明らかにあいつは大きすぎる。
ひょっとしたらこの城よりも大きいのかもしれない。
「あ……ちょっとヤヌス、こっち来て……」
ちょっとした危険を感じたので、ヤヌスを呼ぶ……
「にしても、あっちの様子が見えなくて不便だね、ヤヌス」
「やめてニト、なんか嫌な予感がしたから」
ヤヌスの嫌な予感を的中させるかのように、ビームのようなシャングリラの攻撃によって天井が無くなった。
「……ヤヌス、ちょっとインザスカイしてこようか」
「ボクは悪くないのに!?」
確かにヤヌスはそんなに悪くないよ。でもフラグを立てたのはヤヌスだ。大人しくインザスカイしてもいいんじゃないの?
『我が名はシャングリラ……欲望に満ちた世界を終わらす者……』
「欲望は世界を救うってゆー有り難い言葉があるのに、何を言ってるのか……ねえ、ヤヌス」
「いや、分かんないよ」
『かぐやとその弟君の裏切りは予想の範疇、そしてその裏切りによるユートピアの死も我が予想の範疇だ……だが、貴様のような強き魔法少女の襲撃は予想外であった……』
かぐや達の裏切りは予想内だったようだ。……うん? かぐやの弟? あとチューザは……? ひょっとして……だいたい分かった。
『貴様の存在は我が計略にとってイレギュラーとなりかねない……よって、今この場で貴様を抹消する。覚悟はいいか?』
「やけに感情豊かなアンノウンだよね、ヤヌス…………ああ、話の8割聞いてなかったけど……わたしに倒される覚悟は出来てる? シャングリラ」
「ちょっと待ってニト! 今あいつと戦って大丈夫なの!?」
「うん! ああ、ヤヌスは本気だしてね?」
今までの意味深な発言を放置するのは鈍感主人公か相当なマヌケだけだ。
ヤヌスの力については、いつも微妙に噛み合わない会話の中に現れていた。わたしがヤヌスを猫として扱うのに対して、時々ヤヌスは自分を人として扱っていた。
これだけならまだヤヌスが一応人という結論には達するのは難しいけど、ヤヌスはさっき第2形態があると言っていた。
つまり……あ、これ、可能性どまりだ。わたしの26個ある欠点の1つ、『愚か者の確信』が発動してしまった。ちなみにさっきの働きたくないという願望は『不労臥』だ。
『人が居らず争いのない新世界の神たる我に刃向かおうというのか、小娘よ……』
「2@歳なんですけど、大学も卒業したんですけど?」
「小娘ってそういう意味じゃ」
『許されざる反逆行為だ……神に刃向かいし者がいかなる末路を辿るか、その身をもって思い知れ……死ぬがよい』
とりあえず、降り注ぐビームやら闇の塊やら、弾幕的な攻撃を避けたりしながら、肩に飛び乗り乗車したヤヌスに告げる。
「さてヤヌス、開幕即覚醒して」
「無茶言わないで! まだ準備できてなくて……その……恥ずかしいし」
「え? なに? 聞こえない」
「だ! か! ら! ボクが本当の姿に戻るのは結構恥ずかしいんだって!」
恥ずかしいのか……だったら仕方がないね、うん
「ちょっとくすぐったいかもしれないけど……大丈夫だよね? 我慢出来るよね?」
「分かったよ! 変身すればいいんだよね! 変身するよ!」
肩からおりて、あとは任せたと言わんばかりにこちらを振り返った。
それに対し、無言で刀を構えて任されたと……合図せず、一気によける必要のある玉を斬った。
「ヤヌス、準備出来た?」
「……ニト、合図したのに……」
「分かった、ちょっとあの真っ黒い顔を吹き飛ばしてくる」
「ボクの話を……」
聞きたいのは山々だが、正直なところ、ヤヌスの話を聞く暇はない。とりあえずはシャングリラを止めなければいけないし、それに……実は魔力を使いすぎてあまり残っていないので、集中しないとすぐに被弾する可能性がある。
「んっ……ニト……もう……変身したよ……」
とりあえず近づくだけ近づいて斬ったので、シャングリラの体をけり、反動でヤヌスのいる場所に……
「あうぅ……その……ジロジロ見ないで欲しいんだけど……」
天使がいた。青い髪の天使がいた……そして髪と同じく青いネコミミと尻尾をもった天使がいた……誰この美少女! 誰!? ……はっ、ヤヌスか……うん? ヤヌスって男のハズだよね? つまり……
「ヤヌスは合法」
「こんな時に何を言ってるのニトは!」
「ごめんごめん、ネコのヤヌスには興味ないから」
「さりげなく酷くない!? ニト!?」
「分かったって……この戦いが終わったら結婚しよう、ヤヌス」
「それ死亡フラグだから! あとなんで唐突にボクとニトが結婚することになっちゃったの!?」
「うん……じゃあお姉ちゃんと超融合しよっか」
「もうツッコむの諦めちゃっても良いかな?」
ヤヌスが死にそうな目をしながら呟く。にしてもこっちのヤヌスは可愛いなぁもう!
『何故だ……何故攻撃が届かぬのだ……』
「……愛の力? 主にニトの」
「わたしは愛の戦士、ラブリーニトだよ☆」
「ニトは自分の年齢を冷静に考え直して! 端から見たらかなり痛々しいから!」
「え? わたしはいつでも冷静だよ? キャハッ!」
2@歳だしまだ「うわ、きつ」って歳じゃないよ?
「うわ、きつ……」
「しょぼーん……」
ヤヌスにキツいって言われたら、わたしもう死ぬしかないじゃない!
「ねえニト、猫の姿に戻っても良いかな?」
「いやだ! こっちのヤヌスじゃないと嫌だもんっ!」
「子供みたいになっちゃってるんだけど……」
わたしはいつだって女の子なんだから! アンチエイジングする必要がないくらいに女の子だよ!
「ニト……シャングリラの事忘れてないよね?」
「邪魔だから消せばいいんだよね? 分かった」
体の闇の一片すら残さないように全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部……
エンドレスオブオールデリートすればいいんだよね? 楽勝だよ!
『なにっ? 貴様の持つ力が何倍にも膨れ上がった……?』
「くっ! ニトにボクの魔力まで持ってかれた! あの量はさすがにニトには扱いきれな……」
「どーん☆」
『グォォ……』
まだまだこれからだよね? ……下半身の右半分をもってっただけだからまだまだこれからだよ?
「もうニト1人でいいんじゃないかな?」
「なんで猫に戻ってるのヤヌス!」
「ああ、いつものニトだ……よかった……」
「え? なにが? あれ? シャングリラは?」
「ニトが倒したんだけど……覚えてないの?」
「なんか記憶が飛ばされたような……紅王的な? むしろ世界? ポルポル」
変身したヤヌスを見る直前からの記憶がイマイチ曖昧になっている……ひょっとしてダークインビジとかで戦いを闇の人格に委ねたのかな?
「……覚えてないのならいいや……ニトのブラックヒストリーになりかねなかったし」
「ちょっと何があったの? 教えてくれないかな?」
そんな、まったりとしたアトモスフィアだったのに……
「そういえばニト、早く逃げた方がいいと思うんだけど……ひょっとしたら、あいつがこの城の飛行石……」
「よし、じゃあこの城を木っ端微塵に爆破……ってできないし……いつの間にか魔力がごっそり減ってるし」
「どうするのニト!? このままだと最悪の場合……」
どうするわたし……①可愛いわたしは突如として逆転の発想を思いつく。②地上にいるかぐや達が助けてくれる。③落下、現実は非情である。
そうだ、ヘッドなら……ヘッドならきっとなんとかしてくれる……
そうと決まれば早速携帯で連絡だ!
「ねえニト、なんであんなに色々派手な動きをやってたのに携帯がちゃんとポケットに……っていうのは大丈夫だと思うけど、電波届くの?」
「……もしもし?」
『ただいま電話に出ることが出来ません……』
何故か電波は届いていたのだが、聞こえてきたのは女性の声のアナウンスだった。というか、率直に言って、ヘッドの声だった。
「ちくしょうめー化けて出るぞこのやろー」
『ゾンビの声が聞こえた後、要件とお名前と願い事と居場所をお伝えください。』
「ちょいまち管理人!」
『ウソダドンドコドン!』
ゾンビじゃなくて不死者だった。
「なんでオンドゥル!? じゃなくて、ニトだけど今天空の城にいてちょっとこのままだと街が危ないからこの城をわたしに危険が及ばないようにしてから破壊して! 以上!」
『分かりました~では今すぐそちらに向かいますね~……着きましたよ~」
「早っ! 実際早っ!」
「さすが伝説の神様だ! 早くこの城を粉砕」
「はい~分かりました~」
「ちょっと待って! このままだとわたしが……」
「それぇ~」
そんな気が抜けそうなかけ声を言いながら……天空の城は跡形もなく消え去った……わたしの足場も含めて
「ヘッドォォォォォ!」
「あ、ヘッドって呼んだので助けてあげません」
「あれ? 川が見えるよ? ニト……あ……あっちに白い悪魔が……もう、なにも怖くな」
「ヤヌスぅぅぅぅ!」
惜しい相方を無くした……
「あっニト……なんだ、夢か……」
該当ワード ひょっとして:走馬灯
「助からないって確信した時ってこんなにも心が落ち着くものなんだね……もう魔力も体力もないし……助かるのは……」
「ニト…………仕方がないや、どうこういってる場合じゃないし、ボクが変身するしか……」
「ヤヌス……」
「べ、別にニトの為じゃないけど助かるにはこれしかないから……見てて! ボクの変身を!」
言うや否や、ヤヌスの体が光に包まれて……光が収まると……青い髪のネコミミ天使が…………
そこでわたしの記憶は途切れた。
覚醒ニトに関しましては……正直すいませんでした、反省してます