非労働系魔法少女ニト エピローグ
ヤヌスはオスです。大事なことではないけど……
どこかの街のビルにあるとある会議室にて、女性達がネコミミの少年の話を真剣そのものの表情で聞いていた……
「……以上が、理想郷の創世を目指したアンノウンによって起こされた事件の顛末です。」
「……ふむ、アンノウン共が結束し、そのような事を企んでいたのか……」
「幸いにも、不動ニト……ボクの相棒の活躍によって、被害は最小限に抑えられました……」
不動ニト、その名前が出ただけで一部の参加者がわずかながら反応を見せる。
「最小限、か……具体的な被害は?」
(チッ、報告書を読めば分かるくせにいつもいつも……)
「一部の建物がわずかに破損したことを除けば他に被害はありませんでした……」
心の中で悪態を付きながらもちゃんと答えている辺り、ヤヌスは自分の立場をちゃんと分かっているようだ。
「これで報告は……」
「そういえば、君の相棒の不動ニトはかなりのお転婆娘のようじゃないか……魔法を悪事に利用するような事になる前に早めに我々に」
「あいにくボクの相棒はそんな事をして生活に荒波をたてるよりも静かに暮らす方を選ぶので、その必要はありません。では……」
ヤヌスの言葉によって、会議は半強制的にお開きとなった。
「……まったく、なんでボクがこんな目に……」
「それは君が弱いからだよ」
人気のないビルの屋上で悪態をついていたヤヌスに、後ろから女性が声をかける。
女性は、紺色の髪という事とネコミミがないという事を除けばヤヌスをそのまま大人にしたような印象がある。
「私の相棒と一緒に戦ってみてはどうかな?」
「……個人的にあの人は……苦手だから」
「ああ、確か彼女は犬派だったか……君が苦手とするのも仕方がないか……」
「………………」
「………………」
2人の間が不自然な程の沈黙に包まれる……
「君が私の後を追ってこちら側を目指してもう2年か……いい相棒を持ったな、君は……」
「確かにいい相棒だよ、ニトは……一緒にいると退屈しないし、それに……退屈しないし、あと……退屈しないよ、うん……」
「私の教育が悪かったのかな? 君の語彙が少ないのは……」
「いや、ニトの長所がもう思いつかなかったんだけど他に何か考えようとした結果なんだよ……」
ニトと初めてあった日からの出来事の数々を思い出し、苦笑いしながら言った。
「……退屈はしない、か……気が向いたら君の相方に会ってみる事にしよう……『娘をよろしくお願いします』……と言うためにね」
「……母さん、ボク男なんだけど?」
「………………ウチの子をよろしくお願いしますと」
「いや、意味が分かんないよ……」
「……もしや反抗期か?」
「このくらいで反抗期ならボクは年がら年中反抗期だよ」
「…………本題に入ろう。君らは一体空に浮かんだ城からどうやって脱出し、かつ城の市街地への落下を防いだのかな?」
「城は脱出するときにニトが木っ端微塵にして……あと、脱出は普通に……飛んで?」
「……レポートは所々曖昧な書き方をしてありましたが、あれを読む限りではアンノウンを倒す為に魔力のほとんどを消費したように思われたのですが?」
母親の追求を誤魔化せないと判断したのか、ヤヌスは口を開く。
「……城に関しては曖昧にしておいたから補足として説明するよ。城はニトの知り合いが物理的に消滅させた……これが真相だよ」
「城を物理的に消滅させた……? 冗談はそのネコミミと尻尾だけにしてください」
「ボクのチャーミングポイントを全否定!?」
「大丈夫です。あなたは私の可愛い娘ですから。たとえ虚言癖があろうとも」
「えっ……酷くない? あとボクは男だし……」
「ほへ~そういう経緯があったの~」
「色々酷かったんだよ! 武器ばっか覚醒するし、今度こそわたしが覚醒するかと思いきや敵の方が覚醒するしさ……結局わたし覚醒しないし」
「あれ~? 落下するときに覚醒してなかった~? 『その時不思議な事が起こった』みたいな感じで~?」
「……落下する時…………そういえば、わたしってどうやって助かったんだろ……? 記憶がスッポリと、まるで助かる過程を無視して助かったっていう結果だけを残したように抜けてるんだけど……」
ヤヌスに聞いても知らない覚えてないの一点張りだし……やっぱり覚醒時の強さがあまりにもチート過ぎるからヤヌスは封印しようとしてるのかな? だとしたら……
「おのれヤヌス! この悪魔! 鬼! ちひろ!」
「ちひろは言い過ぎですよ~流石に」
やっぱりちひろは言い過ぎか……でも某ソシャゲー民のほぼ全員の感想だと思うんだよ。ちひろさんが悪魔だっていうことは……Pに嫁のSR化という希望を与えてそれを鬼畜な排出率やイベントの上位報酬という高い壁で奪っていくし……気狂みの時とかアリスファイトの惨劇は絶対に忘れない。
「まあ、記憶がなくて良かったと思いますよ~端から見てもドン引きするような状態だったので~」
「わたしに一体何があったの!? 管理人さん! いや、ゼウスさん!」
あ、ちなみに管理人さんはギリシャ神話における最高神のゼウスだよ。
ボ……随分のんびりしてるけど。正座でお茶をのんびり飲むほどには日本慣れしてるけど。アマテラスちゃんを妹みたいに可愛がってるけど。それでもギリシャ神話の最高神のゼウスです。
活躍しなさすぎてここひと月の活躍がわたしを(肉体言語で)説教、天空の城を物理的に消滅ぐらいしかないけど。のんびりとし過ぎるのも問題だよ。
「…………ズズズ……ふぅ~……何の話でしたっけ~?」
「……イラッとくるね」
鶏でも三歩あるくまでは覚えているのにこのア……アウス(?)ときたら……
「ああ~そういえば舞さんの部屋の住人が変わりましたよ~」
「露骨に話を逸らすな、コラ」
「舞さんが実家の道場を継ぐことになったらしいですよ~丁度希望者がいたので素早く撤収してもらって素早く入ってもらいました~」
「……タイミングが良すぎて何者かの意思を感じるんだけどさ~知らない?」
若干喋り方が移っているけど、とりあえず聞かざるを得ない。
「……一応姉弟で住んでいるので仲良くしてくださいね~」
「うん、ちょっと用事が出来たからもう帰らせてもらうね? じゃ」
こんなにもタイミング良く普通の姉弟が、しかもわたしの隣に引っ越して来るはずがない。
ひょっとして……というかひょっとしなくてもかぐや達の可能性が……
「おお、ニト! 無事じゃったか! ほれ、引っ越しそばとやらじゃ。なにやらこれが日本の礼儀らしいのう」
部屋の前で、かぐやがそばを片手に待っていた。あと、一応かぐやの後ろに隠れるように人の姿になっているチューザもいるが。
「…………なんでいるの? 一応聞いておくけど?」
「ひっ……姫様ぁ……やっぱり仁兎さんの隣の部屋は危険ですよぉ……」
「狼狽えるなツクヨ! ニト1人分の殺気、どうということは…………質量を持った殺気じゃと!?」
へぇ……チューザの本名はツクヨ(月夜? 月読?)っていうのか……じゃあちゃんと墓標にはそう刻んでおくよ……あと姫の方はかぐや姫でいいよね?
「王牙超絶斬を使わざるを得ないね!」
「ダメだよ!」
「いいや、限界だ! 斬るよ!」
「やめて! 使わないで!」
一触即発の殺気と殺気が飛び交う戦場の中、颯爽と現れたのは……
「うるさいですの! 何故人の部屋の前で騒いでいるんですの!」
訂正、『颯爽と』は取り消しで。
「ああ、ジェニーか」
「なんですの! その目は!」
「いや……チケットでチビっ子珠ちゃんを引いたような目?」
「意味が分かりませんの!」
流石に分からないか……まあいいや
「紹介するよ、わたしが『聖域の不労働者』のリーダー、そしてこの子が一番下っ端のジェニー」
「その扱いは納得できませんの! いったいなんなんですの!? この究極の吸血鬼の末裔たるこのワタクシが一番下っ端とはどういうことですの!? それとあとニトさんは早く報酬の血をさしだすんですの!」
「ああ……アンノウンの血を採取して出そうと思ってたのにさ、気が付いたら倒しちゃってたわけね? うん……あとは察して」
「最初から意味が分かりませんの! ニトさん、あなたの血を要求したはずなのになんでアンノウンの血が出てきますの!」
「あ~……すりかえようと思ってたんだけど……まあ、吸いたいなら……あ、ちょっと待ってて……」
この場……というかジェニーから逃げる準備をするから……
「あら……空腹で目眩が……もう我慢出来ないんですの……ああ、吸いすぎたらワインで返しますの……フフフ」
「おおそうじゃった、言い忘れておったのじゃがニト……確か、エジプト、スペイン、南極、アメリカ、インドにそれぞれ居ったはずじゃ……アンノウンが」
「それを先に言えぇぇェェェェァァァァ!」
貧血で……意識が……朦朧と……ちょ、ジェニー、吸いすぎだから……離せジェニー……ヤバい、死にそう……あ、これ多分しぬね……ざんねん、わたしのぼうけんはここでおわってしま……
「大変だよニト!」
ああ……天使が見える……青い……知識の天使が……
あっ……ありのままの事を話すよ。ジェニーに血を吸われて死にそうになっていたと思ったらいつの間にかジェニーを投げていた。……何が起こったのか分からないと思うけど、私にも何が起こったのかは分からないよ。紅王とか時歩きとかそんなチャチなモノじゃなくてもっと恐ろしい事が……
「ニト起きてる?」
「ヤヌス? いつの間に?」
「いや、さっきニトが意識を失う直前に……いや、やっぱなんでもないよ……」
「それで誤魔化せるのは一部の難聴主人公だけだろうけど……まあ、聞かなかったことにする」
何が起こったのかを小一時間問いただしてみたいものの、流石に開けてみないと分からない黒箱を開けるのはどうかと思ったのでやめておく。若干嫌な予感がしたし。
「かあさ……本部から指令があって、『アンノウンの秘密を知ったことは不問にするが、速急に世界のアンノウンの指令格を全滅させよ』って……場所は確か」
「アメリカインドスペイン南極エジプトの五ヶ所?」
「……よく分かったね」
「…………こうなったらわたし1人でも戦ってやるよ!」
世界一周できるよ! やったねニトちゃん! ……ポジティブになろうと自分で言ってみたけど全然……虚しくなってきた……死にそう……
「あ、そういえばニト、報酬は通常通りに振り込まれるみたいだから、月末に」
「ブラック過ぎる……どんなブラック企業よりも……」
まあ、その分ほかの職業よりも給料は(歩合給とはいえ)多いので、文句は言っていられない。
減収とかそういうのどころか、逆に給料を増やすチャンスをもらったと考えればこれはスゴい事じゃないかな?
「……かぐや、ツクヨ」
「なんじゃ?」
「なんですか?」
「一週間ほど留守にするけど、その間頼んでいいかな?」
「い……一週間じゃと!? 世界各地の強力なアンノウン5体をじゃぞ!」
世界一周を一週間というキ○ガ○じみたスケジュール、ただの旅行でさえキ○○イじみているのにただの旅行じゃなくて遠征だ。
でも、わたしは一週間でやってみせる……なぜなら、わたしは最強の魔法少女だから……
「そういえばニト、パスポートは?」
「……密入国じゃダメかな?」
「絶対ダメだよ!」
「まあ、パスポートあるんだけどね」
「じゃあ密入国なんて考えないで!」
最後の最後までニトさんはこんなです




