3 最強バディが見抜いた嘘
お手に取っていただきありがとうございます~
「じゃあ、ほかのカメラも見てみるっす」
琥南は映像を先へ進めた。フードの人物は歩道を進み、路地の先に停まっている黒っぽいセダンへ向かった。
人物が助手席側へ近づくと、車の運転席には別の人影が見えた。運転手はすでに乗っていて、人物が近づくのを待っているようだった。
「お、運転手がいるんすね」
『はい。運転席に人物を確認できます。ただし、顔は映像から判別できません』
フードの人物が助手席に乗り込む。ドアが閉まり、車は道路へ出て走り去った。
映像だけを見れば、自然な逃走経路だった。歩いていた人物が待ち合わせた車に乗り、運転手のいる車で現場を離れた。二人が協力していたように見える。
琥南は車が走り去る場面を何度か再生したあと、別のカメラ映像に目を向けた。
「この車、ほかのカメラにも映ってるんすよね?」
『はい。周辺道路の映像から、同一車両と推定される記録を抽出しています』
「じゃあ愛ちゃん、そっちも時刻順に並べてください」
『表示します』
愛が操作すると、道路沿いのカメラ映像が三つの壁面に並んだ。最初のカメラには、路地に停まった黒いセダンと、助手席へ乗り込む人物が映っている。画面の時刻は午前2時47分31秒。
次の映像では、同じ車が交差点を通過していた。時刻は2時48分43秒。そこは路地から約1.2キロ離れた交差点だった。
そして三つ目の映像には、再び初めの路地が映し出された。時刻は2時48分50秒。黒いセダンが、今まさに停車位置から走り出していた。
琥南の表情が変わった。
「……戻ってる。ちょっと待って、順番おかしくないっすか?」
蓮は防犯カメラ映像を見比べた。琥南に言われて初めて、三つの映像のつながりに目が留まった。
「どういうことだ?」
「まず、一つ目の映像では、2時47分31秒に人物が助手席へ乗り込んでる。二つ目では、その1分12秒後に同じ車が1.2キロ先の交差点を通過してるんすよ。ところが、三つ目の映像を見てください。最初の映像から1分19秒後、つまり2時48分50秒には、同じ車がまだ元の路地にいて、そこから発進してるんすよ」
琥南は壁面に並んだ映像を指で示しながら、順番に説明した。
「二つ目の映像から三つ目までは、たった7秒っす。1.2キロ先の交差点を通過した車が、その7秒後に、まだ元の路地にいて発進している。普通に走って移動したなら、こんな順番にはどうしたってならないっす」
蓮は車両の映像を見比べた。
「別の車という可能性は?」
『それはないわねぇ~』
『ナンバープレートの表示、車体形状、左側のテールランプの特徴が一致しています。同一車両である可能性は高いと判断します』
「ほら、同じ車っす。もちろん、ナンバーが偽装されていたり、映像の時刻情報が間違っていたりする可能性は残る。でも、今のところ、三つの映像は同じ車として記録されてる」
琥南はさらに時刻を確かめた。
「時計のずれなら、ほかのカメラの時刻とも食い違うはずっす。そこも確認してもらえます?」
『確認します。周辺の別の映像と照合したところ、各カメラの時刻は正常な範囲内です』
「となると、記録のどこかが書き換えられたか、映像同士が本当の出来事をつないでいないか……ってことっすね」
『現時点では、その二つを含め、複数の可能性があります』
蓮は腕を組んだまま、三つの映像を見比べた。
「俺は、歩いている人物が施設から離れていくところまでしか見ていなかった。車の映像も、逃げるために乗り込んだように見えたからな」
「そこがミソなんすよ。映像だけを続けて見れば、逃げる人と運転手が協力して逃走したっていう筋書きは、ちゃんとできてる。でも、時刻と場所を照らし合わせると、車だけが時間を飛び越えてる」
琥南は最初の歩行映像に戻した。
「こっちも同じっす。歩き方だけなら、女性かもしれないっていう程度。でも、水たまりの反射まで見ると、本人の動きと映像の中の動きが合っていない。別々に見てたら見落とすような小さな違和感が、つながると無視できなくなるんすよ」
RANが明るい声で続けた。
『あたしも、映像データのノイズ分布を比較してみるわ。水たまりの反射部分と、車両の周辺にある映像データに、通常の監視映像とは異なる傾向がないか調べる。もちろん、撮影環境や圧縮処理の影響も考慮するわよ』
『私も解析を継続します。現段階では、映像が生成されたものか、既存の記録が加工されたものか、断定できません』
「それでいい。今は、何が起きたのかを決めつけるより、どこに矛盾があるのかを洗い出すほうが先だ」
琥南は壁面の映像から目を離さず、少しだけ口元を引き締めた。
「誰かが、こっちに見せたいものを見せてるのかもしれないっすね」
その言葉に、蓮は返事をしなかった。
映像の中では、フードの人物が車に乗り込み、運転手とともに夜の街へ消えていく。逃走劇として見れば、何の不自然さもない。けれど、細部を確かめれば確かめるほど、映像のつながりには説明のつかない部分が浮かび上がってくる。
蓮は正面の壁面に視線を据えた。
「愛、信号の発信経路と制御装置の記録を、引き続き調べてくれ。映像の記録時刻と、元データの整合性も確認してほしい」
『承知しました』
「琥南は、この映像の不自然な部分を洗い出してくれ。RANも協力を頼む」
『もちろんよ。任せてちょうだい』
「そーっすね。せっかく起こされたんで、ちゃんと働きますよ」
「最初からそうしてくれ」
『あら、蓮ちゃん。琥南くんを褒めて伸ばす気はないの?』
「必要な仕事を頼んでいるだけだ」
『ほんっと、相変わらずねえ』
琥南はいいんすよと苦笑しながら、再び映像を最初から再生した。
その一方で、愛は制御系統の記録を別の画面に展開していた。異常な信号がどこから入り、どの機器を経由し、どこまで影響したのか。
記録が残っている範囲を一つずつ確認していく。施設周辺で送信されたものなのか、遠隔から送られたものなのか。現時点では、いまだどちらにも決め手がなかった。
「愛、施設の外から信号が届いたとしても、発信元の情報がそのまま送信者の居場所を示すとは限らない。中継や別の経路を使っている可能性も考慮してくれ」
『承知しました。信号の発信経路、受信側の記録、制御装置の処理履歴を分けて検証します。現時点では、送信者の位置を特定できる根拠はありません』
「よし。近くに犯人がいると決めつけるのも、遠隔操作だと決めつけるのも早い。記録から追えるところまで追おう」
蓮はそう言うと、再び大型ディスプレイに向き直った。
琥南は頭を掻きながら、何度目かになる映像の再生を続けていた。幼い顔立ちに似合わないほど真剣な眼差しで、人物の歩き方から車の位置、時刻表示まで、細かな違いを拾い上げていく。
「蓮さん。この映像ってこの近所じゃないっすか…もしかして、何かあったんすか?俺らにも話してもらえません?」
琥南は映像から目を離さないまま、いつもの軽い調子を少しだけ抑えて尋ねた。画面に映る場所がどこなのか、彼にはすぐにわかったらしい。
蓮は一度、琥南に視線を向けた。迷いを振り切るように息を吐くと、愛に指示を出した。
「愛、数分前のこの部屋の映像を出してくれ。琥南とRANにも見せたい」
映像を見終えた琥南は、ふっと表情を変えた。いつもの軽い笑みは消え、モニターを見つめる目が鋭くなる。声には、普段の琥南からは想像できないほどの冷たさがあった。
「……ああ、そういうことっすか。なるほどねぇ。これは、ちょっと許せませんね。俺も挑戦受けてやるっすよ!」
『あたしもよ!』
『同意します』
「頼もしいな。向こうがその気なら、俺たちも本気で相手をしてやろう」
蓮が全体の状況を整理し、愛が記録と技術的な裏付けを調べ、琥南が映像に潜む違和感を見つけ、RANが別の角度から解析する。
それぞれの得意分野を持ち寄ることで、ひとりでは見過ごしてしまう矛盾が少しずつ姿を現していた。
しかし、この段階ではまだ、映像が何者かによって作られたものだと断定することはできない。記録の改変なのか、映像の生成なのか、それとも別の原因なのか。確かな証拠をつかむためには、さらに検証を続ける必要があった。
琥南は何度目かになる映像を、最初から再生した。画面をじっと見つめながら、何かを探すように眉を寄せている。
「……やっぱり、何か引っかかるんすよね」
「何が?」
「それが、まだ分からないんす。でも、もう一回見れば何か出てくる気がするんすよ」
蓮は琥南の横顔を見た。さっきまでの眠そうな様子はすっかり消えている。19歳の青年が、目の前の映像から何かを掴もうとしていた。
「じゃあ、納得するまで見てみろ」
「もちろんっす」
琥南は頷き、再び画面へ視線を戻した。蓮もその隣に立ち、壁面いっぱいに映し出された映像を見つめる。まだ誰も、この映像に仕掛けられた本当の意味には気づいていなかった。
これからゆっくり個性豊かなメンツが顔を出します。
楽しんでいただければ嬉しいです。
時間配分のところ…昔見た火サスとかの新幹線&電車でのアリバイ崩しみたいで書いていて面白かったです。だがしかし…私10回ぐらい読んでやっと意味わかったんですけど。伝わるかなぁ…




