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朝凪【おばけとカフェと、オーナーと】
朝起きて、顔を洗う。冷気がもったいないと思いつつ換気のために窓を開けると、まだ朝なのにむっとした熱気が室内に流れ込んでくる。ああ、今日も暑くなりそうだと顔を顰めた私は、不思議な歌が聞こえてくることに気が付いた。
――何だろう。
部屋着のまま、カフェの二階にある住居から外に出る。風のない中、高く低く、朗々とした歌声は目の前に広がる海から聞こえてくるようだ。崖下に降りる小道を辿り、歌声の元へと向かう。
――もう少し。あの岩の向こう。
「おい、朝から着衣水泳とはいいご身分だな。今日は店休日じゃねえぞ」
響いてきた低い声に、私が体を震わせるのとぱちゃりと小さい水音がするのは同時だった。
「あれオーナー、どうしたんですか? ……うわっ」
振り向いた私は、いつの間にか自分が膝下まで海の中に入っていたことに気が付いた。慌てて水から上がる。
「どうもこうもねえよ、さっさと朝メシ作れや」
「あ、はい」
言い捨ててさっさと戻っていくオーナーの後を追おうとした私の髪を、ゆるやかに吹いてきた海風が撫でていく。
もうそこには、磯の匂いしかなかった。




