喫茶店
その人に出会ったのは、まだスマホのことをケータイと呼んでいた頃だった。
目の前にあるアイスコーヒーはすっかり透明と黒の二層に分かれたカクテルのようになっていて、私はここに来るはずの相手にメールを送るふりをしながら、隣の机に座った女性のことをちらちらと伺っていた。
――私が来たときから、ずっといる。
この人も同じように待ちぼうけを食らっているのだろうか。こちらからは顔が見えないけれど、凄く綺麗な人のようなのに。
「もしもし、ちょっと僕とお話しません?」
不意に聞こえてきた声に、私はケータイから顔を上げた。小さなテーブルの向こうに、和服を着た眼鏡の青年が立っていた。
誰だお前。気持ち悪っ。ナンパなら他所へ行け。私の表情を読んだのか、「あ、自分こういうものでして」男は袂から名刺を取り出した。
「怪談……師?」
「ええ、待ち人がいらっしゃらないようでしたので、もしよかったら暇つぶしにでも一つ二つお話をお聞かせいただけないかなあと。コーヒー代くらい奢りますよ」
「はあ?」
「お持ちでしょ、コワーイお話フシギなお話」
そう言って青年は私の隣の机を指差した。
そこには誰も座っておらず――赤いハンカチが、机の隅に置かれていた。
「だってアナタ、『見える人』なんですから」




