第七十五話 混沌夜戦 その四
混沌夜戦 その四
迫る冷気を【龍炎】で押し返す。
今回はオーストラリアの時と違って、無理やりレンを引き摺り出すことはできない。
だから、殴って呼び起こす。
「目覚めろ!!」
【氷】の顔に拳を叩き込む。【氷】は殴られた勢いのまま吹き飛ぶ。
ゆっくりと立ち上がり、【氷】は笑う。
「めざ……めろ?何言ってんだよ、俺と……えっと、郡山……レン?の人格は完全に溶け合って消えた。もう、目覚めるとか関係はない。」
「ふぅん、じゃあ、お前が消えたくなるぐらい殴れば終わりかなぁ?『私もそれがいいと思うなぁ』」
「じゃあ、うるさい雑魚が居なくなるまで凍らせ続けてやろうかな……」
周囲の空気が凍りつく。
身体のパフォーマンスが著しく落ちるのを感じる。
「芯から凍る感じだな……『私に案がある。』」
彩花がそう言うと身体が芯から温まり、落ちたパフォーマンスが低下前よりも向上するのを感じる。
「どう言う理屈だ?
『【炎の怪人】が使う、熱強化を龍炎で再現した。超強いよ。』
なるほどね……代償は?
『多分、龍炎が使えない。
まぁ、私達はちょっとだけ龍炎に頼りすぎてたかもだし、大丈夫だよね?』
おーけー……了解だ。じゃあ、あれをやるかな。」
体をほぐし、息を吐く。
逆に周囲が熱で包まれる。
「忌々しい熱だ。
だが、それでどう戦う?龍の炎を捨てて、俺を倒せると思うのか?」
【氷】が嘲るように言う。
それに対して俺は淡々と話す。
「俺が吸収した怪異は【龍】と【死】。
【龍】は使い勝手が良くて多用しているけど、【死】はイマイチ使い勝手が悪くて使わない。」
「それがなんだ?自分の技量の足らなさ棚に上げているのか?」
「それは、そうなんだけどさ……
やっぱり、使えるようにならないとね。
だから、実験台になってくれよ?」
身体が黒く溶ける。
粘ついた闇が空へと広がり、やがてそれは空を覆う巨大な“眼”へと変わった。
「甘美なる死は無い……だっけか?」
「……なるほど
【死】に変身したのか…」
「死を享受しろっ!!『享受しろ!!』」
無数の“死の手”が、空間そのものから生まれるようにして【氷】へと殺到する。
「いいのか!?この身体は郡山レンのモノだぞ!!」
胸に手を当てて【氷】はそう叫ぶ。
「なんだ?怖気付いたか?」
まぁ、それで死の手は緩ませることはないですが。
「ちっ……」
迫り来る死の手を【氷】は能力で構築した剣で次から次に切り伏せていく。
やはり、レンの身体を失うのは嫌なのか?
つーか、レンもろとも死ぬんだよな。
しかし、レンの人格を引き出す方法は思い浮かばないな……
『私に一つだけ案がある。花の根による人格の抽出だよ』
パリで俺を抽出して送り込めたように、相手の人格を抽出できるのかって話か……
「やる価値はあるか。」
俺は閃光と共に体を四散させる。
「なんだ……?」
黒いドロドロが雨のように降り注ぎ、辺り一面が黒い鏡のようになる。
「どういう……ことだ?」
ーーー花よ……咲け
一面が花畑に変わる。
「……そうか……もう…ダメか…いや……」
【氷】が何かを言おうとした瞬間
「『レンを返してもらうよ』」
瞬く間に【氷】の体に花の根が纏わり付く。
「抽出を始める!!」
ーーーーーいや、
ーーーーーまだだ、
ーーーーーまだ、ここからだ。
「概念……武装……」
【氷】が呟く。
「ーーーー大氷河世界……」
周囲が凍りつく。
時間が止まる。
何もかもが動かなくなる……
「ーーーーりゅ……う……え…ん」
氷が地面を覆い、放出先を失った龍の炎は暴発して爆発が起きる。
爆炎の中で黒いドロドロが一つに集まり、人の形になる。
「残念だったな……お前の概念武装じゃ、俺達は倒せない……」
「……あぁ…そうみたいだな……
最奥を……自分で掴んだのに、こんな小娘の人格に負けているなんて……
何が悪い?何がおかしい?
分かったんだよ。」
「ベラベラと……なにが分かったんだ?」
「……この世界は……
正義に甘くて、敵対者に厳しい。
お前の力……【人の怪異】はそんなに万能じゃなかった。何故だ?
【龍】の炎、それは無差別に敵も味方も焼き殺す最悪の炎だ。なのに、お前のソレは的確に敵だけを焼く。何故だ?
そこに、世界の秘密があるはずなんだよ、だけどな、分からないこともある。」
【氷】が身体の向きを変え、北を向く。
「何を見ている?」
「……あれはなんなんだ?
あの国に居座る神擬きは……
【罪の怪異】はあんな力を持っていない。
アレは神になれる器じゃない。
アレは人に敵対する存在、なのに力を持っている。なぜだ?」
「理由が知りたいと?
なら、その理由は俺の中で、ミケ本人に聞け。」
「最後に、少しだけ、話を聞いてくれ。
俺の行動原理……世界の神についてだ」
「創世か?」
「世界を壊し、世界を創り変える力。
それが、神の力だ。」
「なんとなくだけど、知っているよ。」
「その神座を狙うものは大勢居る。
なのに、その情報源は誰も知らない。まるで、本能に刻まれているかのように……」
「……たしかに、その情報源はずっと、気になっていた。お前は、なんだと思うんだ?」
「……その返答の前に、【死】の記憶をお前は見たか?」
「いや、吸収した怪異の記憶は覗いていないし、覗ける気がしない。多分、精神がイカれる。何千年もの記憶を一気に覗く事はソレなりのリスクが……」
「なるほど、理に適っている。
なら、この言葉は知らないな?
【悪神】と【全神】。」
「なんだ?それ、」
「世界を創世する神とは別……いや、もっと上、この世界を覗いている最上位の存在の名だ。分かるのはそれだけ、だが、大きなピースになり得る。
俺は、世界を知りたいが為に人に敵対した。
いつしかその理由すらも見失った。
ようやく思い出した。
俺は人が嫌いだ。だけど、真実を知れるなら、その気持ちを捻じ曲げても良いと思った。
まだ、この小娘に負けたくないとも思った。だから、お前の中で、郡山レンを超え、真実を知る手助けをさせろ。」
「分かった。ありがとう。」
ーーーー【氷】を手に入れた。
「……おはよう、サクラ」
「おはよう、レン。」
ご精読ありがとうございました。
夜戦……夜要素は!?
悪神、全神ねぇ……




