第七十六話 混沌夜戦 その五
「昔の僕はどうだった?
彼の意志の力が強すぎて僕が押しつぶされてたから戦いは見えなかったけど体に残る疲労感と痛みで激しい戦いだったことは感じているよ。」
「うーん、【氷】は仲良くなれないタイプだったけど、うまいこと和解はできた。
でもそれは、レンが頑張っていたから辿り着けた和解だった。
俺はあそこからガチのバトルが始まると思ってたのに、アイツが急に戦う気を失って、話し始めたから驚いたよ。」
「よくわからないけど、良かったー」
その表情は本当に疲弊しているようだった。
レンの頭を撫でて上で見ていた【夜】の方を向く。
『やっと取り戻したか?郡山レンを
やっと手に入れたか?【氷】の力を』
【夜】が空から降りてきてそう聞く。
「ああ。取り戻したし、手に入れた。
だから、もう終わらせようぜ?」
『よし、本気で行くぞ?』
目の前に【夜】が降り立ち、身体を伸ばす真似事をする。
俺はレンを下がらせ、前に一歩出る。
「レン、お前は休んでいろ。」
振り返り、レンを見て言う。
「うん!」
疲れ切った顔だけど、屈託のない笑みでレンは答える。
【夜】の前に立ち、刀を握りしめる。
「彩花、歯ぁ食いしばれ」
『ああ!行くぜ!!』
一手目は俺がやる。
【夜】の能力は一ミリも分かっていないが、奇襲紛いの攻撃で始めることで有利に動けるはずだ。
「概念武装ーーーー」
手に入れたばかりの力を完全な練度で振るえる。それが【花】の大きすぎる強みだから……
は?なんで……【夜】は笑っている?
『来いよ……』
「ーーー大氷河時代」
周囲が凍りつき、あらゆるものが停止する。
「……決まったよな?」
何かが割れる音が聞こえ、振り向く。
【夜】が笑いながら拳を振り上げ迫ってきている。
「は?」
『成功とか、失敗とかじゃない。
始まる前から見ていたからなぁ!!』
言葉の意味を呑み込めず、反応も遅れ、【夜】の拳がぶつかった。
大した威力じゃないのに吹き飛ばされた。
「なんだ……」
何かに引き寄せられるように吹き飛ばされた際の速度を落とさずに飛んでいく。
蔓を身体に巻き付けて抵抗するが、その蔓ごと飛んでいく。
「ん?……真っ直ぐじゃない…」
気がついたのは軌道だ。
てっきり、後ろに真っ直ぐ飛んでいるだけだと思った。気がついた時には、目の前にいた【夜】は左側に見える、あいつを中心にーー
『オレの周りでグルグル回っとけ。』
それはどういうことだ……?
『……公転?』
「星の?」
星の公転について、俺は詳しく知らない。
ただ、それが重力によって起こる現象であるのは知っている。
「抜け出し方は知っているか?」
『え?えっと……ごめん、わからない!』
「……いい返事。」
なら、俺の足りない頭で賭けに出るか……
体の一部を解いて、細い糸のようにして地面に刺して蔓を生やす。それを【夜】に巻き付けて、蔓を切り離し自分にも巻き付ける。
ピンと蔓が張り、それを無理やり縮めていく。
『へぇ……やっぱり、【花】は"見えない"からなぁ……攻撃に移行するかぁ
隕石。』
サクラとは違う軌道に乗り、隕石がサクラに迫る。
「は?」
『衛星にスペースデブリの衝突は付き物だろ?』
何度も隕石がぶつかるが、それでも蔓を縮ませて【夜】に近づく。
『まぁ、この程度で止まらないのは見えてるから……』
【夜】が次の一手の為に姿勢を落とす。
「万花万蕾の太刀ーー」
サクラの手に太刀が収まる。
それを目にした瞬間、【夜】はため息をつく。
『……それは見えないんだよなぁ…』
「収束終焉……」
『さらに見えなく……』
【夜】は万永春天に変わった太刀を見た瞬間、恐怖によるものなのか、反射的に"公転"を解除してしまう。
蔓の張りが無くなったのを感じてサクラは大きく踏み込み、【夜】の懐に入り込む。
「急にどうした?見透かしてるような態度だったのに、焦っているように見えるけど」
『焦ってるからな』
【夜】の身体を下から上に袈裟斬りにする。
『っぐ…』
【夜】から血ではなく、宇宙のような煙が溢れ出す。
『ーーーその刀はマズいな……終焉の力の影響で星間視覚が誤った情報を映し出す……』
星間視覚は星の演算機構を使った計算による高度な未来視だ。
その為、星がカウントしない事象は演算できないという大きな欠陥がある。
この世界においてそれは、【花】が持つ"終焉"の力だ。
"終焉"の力は計算できず、穴を埋める為に星間視覚は良い加減な未来を映してくる。
『切るか……ステラを…』
「さぁどうした?次の一手を見せてくれ」
『まだまだ手数はある。
この程度で体力は削れない。
ただ、そうだな……分かりやすく言うなら、お前はオレのチートを一つ無効化したんだよ。無意識だろうがな。』
「へぇ、それは都合がいい。」
ご精読ありがとうございました。
星間視覚の誤った情報ってのは、【花】の終焉の力が星に知覚されなくて、大きな穴が開くから、それをAI補正で補うみたいな感じですね。
嘘すぎるのに、それが視界に薄らと映るのでなるなかキツい筈。
【夜】が持つチートで、今回の戦闘向きなのはあと二つか、三つ。




