第七十話 龍を殺し、氷を凍らす。
【人の怪異】としての過去回想を通して分かったことは、
「【人の怪異】はヴィランじゃなくて、ダークヒーローだったわ。」
「あ、そうなの?」
なんか、思っていた反応と違った。
別に想定していた訳じゃないけど。
さて、目の前の擬龍について考えようか。
彩花にボコられたのか、地面に立って体全体で呼吸をしていた。
「つらそーだな。ん?」
なんか、隣に立っている彩花の顔が暗い気がするし、疲れてる?
「どうした?なんかあったか?」
「それ、こっちのセリフね?なんか、軽くなった?」
「そっちもそっちで重くなったようにお見受けしますが」
はぁ、とため息を吐いて彩花は血振りをして前に出る。
「自分って弱いんだなぁって実感した。
強いのはハナ由来の力があるからで、私……新木彩花としては一ミリも100年前から成長できていないって気付いたんだよ。」
ゆっくりと近づいて来る彩花に擬龍は気圧されているのか、少し後退している。
「お前は、何にビビってるの?
どうせ、【花の怪異】としての私にでしょ?
新木彩花にはビビる要素なんて無いもんね。」
「……彩花…?」
おかしい。彩花の気配が……おかしい。
精神的に不安定になっているからか?
でも、なんで?
「私にビビる要素が無い?」
ずっと、良い子だねって言われてきた。
ずっと、親とか、大人の顔色を窺うダサい奴だった。
おとなしい子、静かな子だったのに、ただただ本が好きな病弱な女の子だったのに。
アイツが、優希が来て、私は変わった。
忍と、優希と私で、山を駆けて、川を泳いで、ゲームして……お転婆な女の子になった。
それでも、喧嘩はしないし、衝突も無い。
結局、あの二人の前でも私は顔色を窺って喧嘩しない様に立ち回ってきた。
なんか、優希には何度かキレられてた気がするけど。
つまり、そう。私は心の底からキレたりしたことないんだよ。
その様に心をセーブしてきたから。
そんな私が今、抱いている感情は何?
「わかった……ブチギレてんだわ。
ムカついてんだよ、イラついてんだよ。
怒ってんだよ!!」
「私は、【花の怪異】だけど、新木彩花なんだよ!!私を見ろよ!!私を恐れろよ!!」
気付かぬうちに溜まっていたフラストレーションが一気に爆発した。
「サクラッ!!手出しすんなよ?」
ああ。これが、新木彩花か。
知らなかった。
「任せた」
「任せろ。」
私は刀を構え、足に力を込めて全力で飛び掛かる。
ものすごい速度で擬龍を追い越し、その首に花の蔓を巻きつけ、遠心力を使って擬龍の真上に飛ぶ。
「怪異の私が爆発させた感情を乗せたこの、一太刀、お前に耐えられるか??」
刀身に力を込めて、その長い首を目掛けて振り下ろす。
「死ね。」
地面に着地して、刀を振って刀身に付着した血を払い、鞘に収める。
背後で擬龍の首が落ちた音が響き、私の勝利が確定した。
「勝った」
「甘いよ」
目の前でサクラが黒いドロドロに変わり、飛び出す。
驚いて振り返ると、首を落とされても尚、翼を広げ飛び立とうとする擬龍が目に入った。
「嘘で……しょ?」
私はドン引きした。怒りが引っ込むレベルで
「うわー……」
首無し擬龍の身体に巻き付くサクラに
「捻り殺してやるよ!!」
聞いたことのない音を響かせて擬龍が絶対に曲がらない方向に翼や四肢がひしゃげて絶命した。
ボトッて、地面に擬龍が落とされて黒い煙になって空に帰って行った。
「はい。攻略完了〜」
サクラがパンパンって手を叩いて帰ってきた。
本当に、規格外だなぁ……
ーーーーー
端末とのジリ貧バトルが終わらずに、サクラ達の戦いが終わったみたいなんだけど……
「僕って弱い?」
まぁ、いいや。
もう、完成したし。
「ーーーー凍結」
全てが凍りついた。
空も、木々も、大地も、氷の端末も…
時さえも。
凍りついた空間に向かって指を当てる。
「全部、砕けちゃえ」
ガラスが砕ける様に、空間がひび割れ、落ちる。
端末は有無を言わずに黒い煙になって空に帰った。
「あーあ、嫌な事まで思い出しちゃったし……まぁ、いいや。
これでいいんでしょ?元……僕の敵対者さん?」
『嫌な事まで思い出しちゃってさ』
夜が隣に座ってそう言った。
そうだよ、嫌なこと、僕が僕になる前の【氷の怪異】の記憶を思い出しちゃったんだよ。
特に、全世界凍結計画は黒歴史だった。
精読ありがとうございました!!
ワタクシのメモに書いてある設定を貼ると……
・西暦が始まって、夜は北極圏に留まり、人との繋がりを絶っていた。しかし、北極圏に現れた氷の怪異と敵対。まーた戦ってるよ。
世を氷に包もうと暗躍していた氷を止めたわけだが、もう、訳わかんない。
てな感じで、夜は氷の元敵対者でしたー
そして、これは氷の怪異にとって、黒歴史である。




