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不人気ダンジョンと三人娘

 ダンジョンでいつものようにソロ攻略してたら突然少女三人が半べそかきながら現れた。いやどんな状況だよと思わなくもないが、実際問題それが起こっているのだから現実というのは小説より本当に奇妙なものだと思わなくもない。


「さて、色々とツッコミたいのは山々だが、とりあえず助けろってのどういうことかな?」


 俺は一先ず戦闘態勢から戻してからそう彼女たちに問いかけつつ、その姿格好を確認した。


(三人とも小学校高学年……いや、下手すると中一か?見たところダンジョンに初めて来たって感じか?)


 冒険者資格は基本的にどの年齢でも取れるよるになっているとはいえ、安全の問題と倫理上の色々の問題から、基本的に冒険者として活動するのは速くても高校生になってからというパターンが多い。

 少なくとも彼女たちのような幼い子供が来ることは殆ど無いはずだ。


(けど、そのわりに防具は確りしてるんだよな)


 三人が着てるのは俺も愛用しているスポーツブランドでも有名なNIKIの初心者冒険者用ウェアで、薄い生地のわりに頑丈で、防刃・防打・防弾性能も初心者向けにしては高水準で纏まってるハイグレード品の小・中学生用女子向けモデルだ。少なくとも普通に買えば上下合わせて1着6~7万万円はするものに、冒険者登録した際に組合から支給される簡易プロテクターと短剣と、初心者にしてはかなり充実した防具構成をしている。


「えっと、私達今日初めてここに……というより、冒険者として初めてのダンジョン攻略をしにここに来たんですけど」

「入り口から歩いて五分ぐらいの三又に分かれてる広場で白いコボルドに追いかけられまして……普通のコボルドの倍ぐらい速かったし、お守りの閃光爆弾のおかげでなんとか逃げれたけど、マッピングしてた地図も忘れて適当に逃げて……」

「迷って途方に暮れてたときに、なんか風切り音が聞こえたんで~、誰かがいると思って三人揃ってこっちに来たという次第です」

「なるほどね」


 彼女たちが出会ったのは所謂レアモンスターと呼ばれる『白犬亜人(ホワイトコボルド)』だろう。普通のコボルドに比べて脚が速くパワーもあるが、狼亜人(ライカン)に比べれば弱いモンスターだ。

 ダンジョン初攻略での初戦闘がレアモンスターというのは、かなり運が悪い。いや、むしろ稼ぎとしては良いのだろうが、実力の無い冒険者がレアモンスターにちょっかいをかけては負けて死ぬ事例は少なくない。そういう意味で逃げに徹したのは正解と言える。

 そして逃げに徹した結果、道に迷ったと。


「うん、お前ら三人とも馬鹿か!!少なくとも攻略しようとするダンジョンのマップぐらい記憶しておけ」

「うぐ」

「だいたいその荷物の少なさはどういうことだ。最低でもリュックサックをそれぞれ1つは携帯するべきところを、誰も持ってないとか事前調べが足りてなさすぎる」

「はう」

「さらに言えば武器が全員が揃って同じ初期の短剣だけとか、ダンジョン嘗めてんのか?パーティ戦の基本として同じ武器使いは多くても二人までだってのが常識だろうが。ネットで軽く調べればすぐに出てくる知識だぞ」

「ぐぬ」

「おおかた、ダンジョンに興味が湧いて防具だけは一丁前に揃えたは良いものの、それ以外の下調べを怠ったんだろ?はっきり言ってやろう、そういう冒険者はすぐ死ぬからな」


 俺がそうきっちり言うと、三人娘はいかに自分達が考え足らずだったのか分かったのか、揃って顔を青くして震えている。

 そこまでして、俺はため息を付きながら天を仰ぐ。


「たく、こりゃ今日は閉店作業だな」

「……えっと?」

「初心者に道案内してそれで終わりじゃ、こっちが目覚めが悪いんだよ。そら、さっさと立って。出口まで連れてってやるから」


 そういうと三人娘の顔が一瞬で輝いて見せた。


「言っとくが、ダンジョンで浮かれる奴はすぐ死ぬってのもお約束だからな。自分の身は自分で守ること……いいな」

「「「はい」」」


 返事だけは一丁前だと思いつつ、俺は出していた鎖を改めて握り直した。


「えっと、それがお兄さんの武器……なんですか?」


 俺が握っていた鎖に興味を示したのか、三人娘の中の一番あどけなさそうな顔の黒髪少女が聞いてきた。


「ん?あぁ、俺のスキルの関係でな。慣れれば使いやすいし、剣みたいに一々手入れをしなくても殆どなんとかなるから重宝してるんだ」

「え、お兄さんって空間収納以外にもう1つスキル持ってたんですか」

「びっくりだね~あ、でも空間収納って結構レアなスキルだって聞いたけど~一人なんだ」


 きっちり真面目そうな眼鏡っ娘は驚き、そして見た目眠そうな目をしてる少女は中々に失礼なことを言ってきたので軽く頭をグリグリとしてやることにした。


「誰がお一人様だこら、失礼なことを考える頭は修正してやらないとな」

「イダダダダ!!暴力はダメだよ~」

「安心しろ、教育的指導だ」

「それは体罰だよ~!」


 涙目になる少女を拳から解放してやると、俺はため息をつきながら答えてやることにした。


「それも俺のスキルの関係なんだよ。詳しくは言わねぇけど、好きでボッチやってるわけじゃないし、何よりここは本当に人気無いからな」


 おかげで冷蔵庫は一人暮らしなのに小型の業務用冷蔵冷凍庫で、かつ肉が大量に保存されてるがな。なんならご近所さんと大家さんにたまにお肉お裾分けしたりみんなでバーベキューしたりして消費してるくらいだし。


「……ところで、なんでお前ら三人ともこのダンジョンを最初にやろうって決めたんだ?」


 出口へと歩きつつそんなことを問えば、眼鏡っ娘が答える。


「えっと、家から近くて、かつ初心者向けであんまり人が多くなさそうな場所を選んだ結果が、ここだったんです」

「近くね……歩きか?それともバスか電車か?」

「歩きだよ~。ここならバスや電車使うほど遠くもないしね~」


 なるほど、確かにそれなら納得できる。市内のダンジョンはここか南のどちらかしか存在しないが、南はどちらかと言うと玄人向けのフィールド型ダンジョンで、下手すると引っ切り無しに敵が襲ってくるから初心者には向かない。

 対してこっちはザ・ダンジョンというような洞窟型で、モンスターもよっぽどの事がない限りわらわらと出てくることは少ない。


「出口到着っと、まぁ実際入り口からそんな離れてるわけでも無いしな」


 出入口となっている門を発見し、改めてフィールドを確認する。一応出入口の半径15mぐらいはモンスターが寄ってこないらしく、当然何も気配は存在しないし、誰かが入ってくる兆候もない。


「ほれ、お前ら三人はさっさと先に出ろ」

「あれ?お兄さんは出ないんですか」

「万が一の殿役だよ。殆ど無いが、たまにモンスターが突撃してくることがあるからな」


 ダンジョンを出るときはかなり無防備な瞬間でもあり、昔はダンジョンを出る直前に冒険者を殺して採取物を奪う手口の事件が横行していたし、今でも似たような輩が出てくることがあるという。人が殆ど入らないこの不人気ダンジョンでも万が一のその可能性を考えれば、考えすぎるぐらいで丁度いいぐらいだ。


「三人とも出たな……周りも気配はないし、出ても問題ないな」


 最後にもう一度確認し、鎖を空間収納にしまってから門を潜ると、そこは見慣れた冒険者組合の一室であり、同時に現実に戻ってきたのだと実感した。


「さて三人とも、お兄さんは買取りに行ってくるから、今のうちに着替えて帰って良いぞ」

「え、あの……良いんですか?」

「あぁ。そこを見学したいなら別に付いてきても構わないけどな。その様子だと買取りのやり方も知らなさそうだしな」


 俺の言葉に図星だったのか、そろって視線を明後日に向ける姿に可笑しく思い苦笑し、俺は付いてくる三人を連れだって買取カウンターへと歩き出した。


「おつかれさん、今日も買取頼むわ」

「あ、お疲れ様です波見様……今日は随分と賑やかなお連れ様も居るようで」


 顔馴染みの受付嬢に声をかけると、挨拶もそこそこに彼女は少女たちを見て中々に鋭い皮肉を吐いてきた。


「まぁ帰りにちょっと色々とあってな。なんでも今日が初ダンジョンデビューらしいから、買取りのやり方を見たいんだと」

「なるほど、そういうことでしたか。それで、今日の買取は以下程ですか?」


 その問いに俺は空間収納から鉄斧を2本と()()()()()()8()()、そしてそれと同じ量の魔石をテーブルのカウンターに乗せた。

 その光景に三人娘の顔が少しだけ驚いた表情をしていたが、真実に気付いたようなそれではなく、それほどの量の肉が出てくるとは思っても見なかったという感じだろう。


「コボルドの鉄斧2つに、オーク肉のバラ塊が8つ……あとそれぞれの魔石だ。そのうちバラ4つは持ち帰るつもりだ」

「なるほど……そうなりますと鉄斧がそれぞれ500円、オークのバラ塊は現在のレートですと現在のレートは7000円、コボルドの魔石は1つ1000円、オークの魔石は1つ3000円ですので、合計5万5000円でよろしいでしょうか」

「あぁ、それで構わないよ」


 俺が頷くと、受付嬢はオークのバラ塊肉を四つ後ろに持っていくと、数分程度でそれをすべてパッケージ締めにしてビニール袋に入れてオレに手渡してきた。


「3つは後ろの子達にですよね?」

「あ、やっぱり分かります?」

「ええ。私としてもここに冒険者が来てくれたほうが助かりますからね。でも、いくら空間収納内が時間が止まってるとはいえ、こういうことはあまりお薦めされませんからね?」


 どうやら受付嬢にはバレていたようで小声での注意に苦笑いで答えつつ、精算された金額を受け取って財布に納めると、少女たちに一人1つずつ、塊肉の入った袋を渡した。


「ほれ、持って帰って家で食え」

「え、あ、良いんですか?」

「う、売ればお金になったんじゃ」

「美味しそ~だけど、貰ってばかりは~」


 三人とも受け取ったは良いものの、若干戸惑っていた。まぁ普通に考えて助けて貰って、そのうえお肉まで貰ったらそうなるのも当然か。


「良いんだよ。どうせ売っても合わせて2万そこそこだし、その程度ならすぐに稼げる量だしな。それに、またここのダンジョンに来てほしいって意味での先行投資だからな」

「そう、なんですか?」

「あぁ、ここはあんまり人が来ないからな。正直他の冒険者が幾らか来てくれないとおちおち冒険ができないからな」


 ダンジョンに人が来なさすぎると、モンスターが多く発生しすぎて地上へと溢れ出すスタンピードが起こる可能性がある。もっともそれが起こるのは仙台みたいな大型ダンジョンか郡山のような準大型ダンジョンで、ここみたいな中型ダンジョンでは中々起こらないし、そうならないようにボスフロアのある15階層以前の階層のモンスターは、ここの支部の整理担当の冒険者と俺が定期的に倒して間引きを行ってるから何ともないが。


「ていうか、俺は俺でボス倒さないと冒険者ランク上げらんないから、切実に上層のダンジョンを攻略してくれる冒険者が居てほしいしな。だからそういう意味でこれ食って頑張ってくれよ」


 そう言って無理矢理三人に肉を渡した俺は、入ったお金で何を買おうかなと呑気に考えていたのだが、これが俺の人生を左右する運命の一日だったと気付くのは、もう少ししてからの事だった。

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