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不人気ダンジョンと目下の課題

 時というものはあっという間に過ぎ去るもので、初訓練の日から二週間が経過した。

 その間に分かってきた事だが、中々どうしてあの三人のパーティは噛み合えば下手な上層を主体に活動するパーティと同じレベルで動けた。いや、動けてしまったという方が正しいか。


 まず俺は初訓練後、課題と称してあの日使ったバックパックと同じ重さの、今度は単純に重石だけを詰め込んだバックパックを学校に行っている時以外は常に背負って慣れるように指示した。

 というのも、俺のような『空間収納』持ちを除けば基本的に、常にバックパックを背負った状態でモンスターと戦うからだ。特に大型ダンジョンのように下層や深層のあるダンジョンでは、その下層や深層の冒険で個人が持つバックパック1つに百kg前後入ってるなんていうことも珍しくない。

 そうでない上層や中層のダンジョンを潜る冒険者であっても、基本的なバックパックに容れる携行品は携帯食と水、ロープと鉄杭(ハーケン)、魔石を容れる袋、そして冒険中に手に入れた採取物(ドロップアイテム)の大きく分けて四つに分かれる。

 携帯食はダンジョンに潜る時間が長くなればなるほど重くなるし、たとえ半日程度で地上に戻る場合でも三日分は常に余裕をもって携帯するため、ものによってはかなり嵩張るし重たくなる。

 ロープと鉄杭は、ダンジョンによってはラペリングやクライミングをしなければ通っていけない場所があり、特に鉄杭は殆ど消耗品のため一回で十個以上持っていくなんてざらにある。

 魔石や採取物に関しては言わずもがな、俺のように『空間収納』持ちはともかく、そうでない人間が全て拾っていれば10kgなんてあっという間に超過する。

 そのためまずは最低限、それぐらいは常に背負えて、かつ背負ったままでも走ったり戦ったりできるようにというのが、俺の最初の方針だった。


 が、それはある意味で裏切られた。というのもこの三人、なんとこのたった二週間で戦闘は無理でも、それを背負って走るぐらいはできるようになっていたのだ。いったいどうして、そう思って聞いてみれば、


「これぐらいの重さならランドセルで背負ってますよ?」


 これである。どうやら三人の通う小学校はこのご時世にしてはかなり珍しい非タブレット教育……デジタル教科書やノートではなく、旧来の伝統ある紙の教科書とノートを使って授業を行う上に、教科書を教室に起きっぱなしにすることを禁止していたのだ。

 そのため三人が使うランドセルは、最高学年ということもあってかなりの量と厚さの教科書やノートを常にしまっている状態らしく、時間割によってはランドセルの中身で10kg近くなるのは珍しくなかったのだ。

 まぁそんなわけで、俺の目論みとは少しズレてしまったわけだが、それはどちらかと言えば嬉しい誤算という奴だった。おかげで指導する内容も可能な限り実践に近い形で教えられるからだ。


 そんなこんなで本日も訓練の日である。場所は会長の家の道場だ。俺も三人も家は福島駅の近くなわけだが、毎回会長のお付きの人達が三人を送迎してくれており、俺も普段は買いもの以外で全く乗らない愛車でここまで来ている。

 それでも行えるのは平日は二時間程度だ、故に訓練はかなりハードに行う。


「はい、今日は腕立て、腹筋、バーピージャンプを50回ずつからいくぞ!!」

「「「は、はい!!」」」


 訓練……というよりトレーニングは指導日の始めに必ず筋トレもしくはランニングから始める。勿論バックパックは背負った状態だ。腹筋の際には腹に背負う形でやる。

 冒険者にはどのポジションをやろうが基本的に筋肉がなければ始まらない。勿論魔石を体内に取り込むことでスキルを取れなくても常人以上のパワーやスピードは得られるが、魔石を取り込みすぎればそれに堪えきれずに死んでしまう。なので基本、モンスターを倒せば魔石は売るのだが、だからといって取らなすぎてもいけない。でなければ冒険者としての成長も無いからだ。

 ゆえに大半の優れた冒険者は筋トレや、冒険者用のスポーツジムに通って筋肉をつけるし、定期的に魔石を取り込む。俺のペースだとだいたい二週間に1度は基礎鍛練を行うし、その一週間後に魔石を一個だけ取り込むようにしている。簡単に言えば一週間ごとに筋トレか魔石かでトレーニングしてるわけだ。


 が、彼女達は一応冒険者としてスキルを得るために、魔石を1度は最低でも取り込んでいるわけだが、聞いたところその一回以来魔石を取り込むことはしていないそうだ。

 個人的には良い判断だとは思う。魔石を取り込むことは、言ってしまえば異物を体内に入れるようなもので、そのエネルギーは強い魔物から得られる魔石ほど強くなる。

 三人のような冒険者に成り立てが一番最初に取り込む魔石は基本的に『コボルド』や『ベビィスライム』のような第一階層に出てくるモンスターの魔石になるわけだが、魔石を取り込む際はできるだけ自分が取り込んだモンスターの魔石より一階層下までにするのがベターとされている。二階層以上離れると下手すれば魔石のエネルギーに肉体が耐えられずに命を落とすこともあるからだ。


 で、その肝心の三人のパワーやスピードはというと、殆ど一般人と変わらない。いや、正確には同年代の一般的な少年少女に比べれば動けてるし力もあるが、冒険者視点からすればまだまだひよっこも良いところだ。


「48……49……50!!」

「よし、5分休憩してから乱取りいくぞ。全員木刀持て」

「うぇ、いきなり乱取りなんだ~」


 三人のなかで武器の扱いが滅法下手なカメリアが呻いてるが、そういいながらもちゃっかり小太刀タイプの木刀を選んで軽く素振りしている。

 冒険者の武器として、剣は基本的にマストアイテムだ。槍使いや弓使いといった人間も、最低限短刀や短剣は必ず装備しているし、武器としては特殊なものを使う俺もトドメを刺すために短剣、投擲用のクナイ、そしてサブウェポンとして長剣を持ってる。

 三人の武器はまだ完全には決めていないが、短剣、短刀、長剣のいずれかは必ず使うため、剣の扱いを学ぶのはある意味必須だった。


「今日は一人でモンスターと相対した時のために一人ずつ行くぞ、木刀だからって直撃すれば下手したら死ぬから気を付けろ」

「なら下手に死なないところに当ててください!!」

「それじゃ訓練にならん」


 基本的に訓練は実戦のようにやるもので、本番は逆に普段のようにやれるようにするのがベストだ。故に俺は訓練だろうと攻撃は急所を的確に狙えるように動く。たとえ教え子であろうと手は絶対に抜かない。


「教育者としてそれはどうなんでしょうか」

「安心しろ唯愛、俺は教員免許も指導者資格も持ってないから教育者の観点なんてものはどうでもいいと思ってる」

「安心する要素無いんですけど」


 呆れるような一言に知らんとだけ宣う。体罰がどうだとか世間では五月蝿いが、冒険者として指導するのなら体罰はある程度は必須だ。訓練で死ぬほど痛い目にあえば、本番でそうならないように思考できる下地ができるからだ。

 そも、優しく教えたところで死んでしまっては元も子もないんだ。そして教え子が死なないようにするには、死ぬほど辛い鍛練をするのが一番だというのが、新米指導者としての意見だ。


「さて休憩時間は終わりだ、さっさと乱取り行くぞ」

「「「はーい!!」」」

「返事は端的にしろ。利き手禁止の縛りつけるぞ」

「はい!!」


 よろしい、そう一言呟いたあとすぐに乱取りは始まり、30分程ぶっ続けでやることになった。




 そんな三人との訓練を終えたあと、俺は運転をしながら少しだけ悩んでいた。


「三人の武器、そろそろ決めた方が良いよな」


 指導を初めて二週間、今はまだ基礎の段階だが、自分が使う武器に馴れるのも必要なことだと俺は考えていた。

 実際、俺が今の鎖分銅スタイルを考えたのは大体冒険者になって三ヶ月ぐらい、空間収納を手に入れてからだったが、本格的にそれを使って攻略するようになったのはさらに二ヶ月掛かった。

 それまではコボルドの鉄斧や最初に渡される短剣を使ってコボルドと戦ってはいた。が、新しい武器、新しい戦術というのは一朝一夕で成功するわけがない。他人が殆どいない『福島』だからこそ、コボルド相手にそれが通用するのか、どう動くのが最適なのか、どう動くと失敗に繋がるのか、それはもう大変な試行錯誤の連続だった。時にはそれまで楽に倒せていたコボルド相手に大怪我をしそうになることだってあった。


 だからこそ、自分が本番で使う武器の扱いというのは学ぶ必要があり、訓練ではそれを扱えるように鍛練する。俺のように危険と隣り合わせで試行錯誤するより、まだ小学生の三人には安全なところで学べる内容は学んだほうが良いと思ったのだ。

 それひ冒険者にとって自分の武器とは、自分がどういう戦い方をしたいかを、これまた信念を司る象徴みたいなものだ。特に最初の武器というのはその現れのようなものだ。

 もちろん最初に使う武器なんて大概すぐに壊れたり、冒険者として成長した際に切り替えたりするものだが、それでも思い入れというのは必ずある。

 それに武器を決めれば、その武器を扱えるように鍛練できるし、俺も指導がしやすくなる。


「まぁ三人とも自分がやりたいポジションが決まってるから、そこはまぁ問題ないんだけどな……」


 今日の訓練の際にそれとなく聞いてみれば、唯愛が中衛の指揮役、茅音が前衛のダメージディーラー兼タンク、カメリアが前衛での遊撃兼回避盾と、俺の予想とはさほど離れてない配置だが少し攻め寄りのポジション希望にちょっとだけ驚いた。

 特にカメリアはできるならスリングショットとショートソードの二刀流にしたいと言っていた。ポジション的には的確だし納得な武器だが、流石に二つとも買ってやれるほど俺の資金は多くない。


「安い鉄の剣ですら10万は下らないからな~流石に子供に自腹切らせるわけにはいかないし」


 本当は三人が両親に頼んで買ってもらうのが一番だが、聞いたところ武器は最初に渡された初心者武器で良いと思っていたらしく、防具にお金をかなりかけてしまったそうだ。

 それについては俺も最初みたときに感じたことではあるが、実際最初に渡された武器で戦えるのなんてせいぜい一階層か良くて二階層、俺が使う『福島』ならオークが出現する第三、第四階層ぐらいがギリギリだ。それ以降だとそもそもまともにダメージを与えられるかも疑問だ。

 

 その時、突然スマホに着信が入ってきて、そこに映し出された名前に少し驚くと、すぐにハンズフリーのスピーカーモードで繋げる。


『やぁ、久しぶりだね結弦。今大丈夫かい』


 聞こえてきたのは若い男の声であり、同時に微かに何か金属を叩くような音が聞こえる。


「そうだな康成、半年前のお前の結婚式以来か」


 佐賀沼康成(さがぬまやすなり)、俺の高校時代の数少ない友人であり、今は『会津』の準大型ダンジョンをメインに活動している冒険者だった。


『ありゃ、音の聞こえ方から察するに運転中だったか?』

「あぁ、けどハンズフリーにしてあるから問題ないだろ」

『なら良いか』


 相変わらずどこか楽観してるような態度ではあるが、これで『会津』のダンジョン協会支部期待のホープと言われてるのだから、実力は折り紙つきだろう。


「で、会津のホープのお前が俺になんのようだ?」

『あー、悪いが会津のホープは返上しちまってな』

「は?」


 俺の皮肉に対するまさかの返答に少し呆けてしまったが、すぐにやつのことを思い出して納得する。


「もしかして『魔剣鍛冶』のスキルに覚醒したのか?」

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