不人気ダンジョンと魔剣鍛冶師
『魔剣鍛冶』、それは『鍛冶』スキルの派生スキルにして、生産系スキルのうちの花形とも言えるスキルの一種だ。
そもそも『魔剣』とは普通の武器とは違い、それそのものが因果律や物理に干渉する特殊な能力を内蔵する武器であり、その姿が槍であろうが弓であろうが盾であろうが、その全てを引っ括めて『魔剣』と呼ばれている。
またこれが服や鎧、アクセサリーとなるとそれぞれ別の生産スキルが必要になるが、今はそれはどうでも良い。
そしてその『魔剣』には、俺の持つ『デミブレイカー』のようなモンスターから極々たまにドロップする天然物と、『魔剣鍛冶』のスキルを持つ人間がダンジョン由来の素材を使い作る生産物の二種類が存在する。
が、その両方は共通して市場に流通する量があまりにも少なく、仮に俺の持つ『デミブレイカー』が店頭に並べば、その金額は俺が提示された参考売値に0が1つ増えた金額になるし、生産物の最低ランク品ですら数百万は軽く飛ぶ。
『あぁ、つい先月『魔剣鍛冶』のスキルに覚醒した。んで、今は魔剣の素材集めに『郡山』に潜ってるんだ』
「郡山は鉱石系のダンジョンだしな、確か会津のダンジョンは幽霊系のモンスターだから、落ちる素材は錆びた剣とか鎧だったか?」
『そうなんだよ。ドロップ品一個一個が嵩張るし重たいしで大変でさ、俺の奥さんがお前と同じ『空間収納』持ちだったからなんとかなってるけど、そうじゃなかったら高級品の『空間収納バックパック』を買わないといけなかったし』
大変だったとため息混じりに呟く友人にさもありなんだと思う。『空間収納バックパック』は性能によってピンキリの値段だが、最低ランクでも重量にして1トンは収納できて値段も500万程する高級品だ。大規模ダンジョンの深層域……仙台のダンジョンなら75階層の第三中間層のボスを超えたさらに下の階層のようなところを持つ冒険者の必需品であり、下手な武器更新より『空間収納バックパック』を買えというのは慣れた冒険者の共通認識だった。
「康成も『空間収納バックパック』持ってたっけ?」
『勿論、つっても俺のは15トン程度の安物だけどな』
「それでも同じ重さのトラック一台分の重量と同じ分入れられるんだから凄いけどな」
『本物の『空間収納』持ちに言われてもな』
たしかに、と思いながらもふと思った。
「まさかだが、俺に『郡山』で材料集めるためのサポーターやれとか言わないよな?」
『お、察しが良いな。来週の土曜日辺りに三泊四日でどうだ?』
聞いてみれば案の定のお誘いだった。正直、少し前の俺なら数少ない友人の頼みだから聞いてやりたいと思ってはいた……のだが、
「あー、その、なんだ、ちょっとしばらく土日は動けないんだよ」
『あ?普段『福島』の過疎ダンジョン潜ってるお前がか?ついに『福島』の最終守護者をソロで攻略する気か?』
「そんな気はまだ無いからな」
いくらなんでもダンジョンの大奥にいるボスをソロで攻略できるほど、武器も防具も資金も何もかも足りてない。
「そうじゃなくてな、なんていうか、その、家庭教師を頼まれた」
『家庭教師?なに、勉強でも教えてるのか?』
「ある意味勉強だな、小学生の子供が冒険者になりたいと、自分の爺さんに頼んで俺が選ばれたってだけだよ」
次の瞬間思わず身をすくめる程の大声がスマホから鳴り響いた。まぁ、俺もアイツと同じ立場なら多分一緒の反応をする自信がある。
『小学生のガキって、お前流石にマジか?』
「マジだよ。詳しくは守秘義務に当たるから言えないが、その子達はダンアカ目指してるらしくてな。それで地元で比較的時間の自由が効いて、かつそれなりに戦える冒険者の俺が選ばれたってわけ」
『あぁ、ダンアカ狙ってるのか。てことは、来年できる仙台のやつか?』
「話だとそこを目指してるらしい」
まぁこれ以上はなに答えてもノーコメントを貫く他ないが。
『なるほどな……確かにそれだと少し厳しいか』
「あぁ、それに三人の武器をどうするのかも今は悩みの種でな、正直、下手な武器だと逆に身を滅ぼしかねんし」
どうしたものかとため息をつくと、康成は軽く笑った。
『そういうことなら、それこそこっちに来てくれても良いぞ。親友考慮である程度は安くしてやってもいい』
「それは……俺としては願ったりだが、お前にメリットなくないか?」
正直ありがたいが、そうする理由に俺は全く意味を見いだせなかった。
『メリットはあるぞ。俺も『魔剣鍛冶』に覚醒したからって、毎度毎度それを作れる訳じゃない。言ってしまえば定期的にある程度売れて、かつ自分の鍛練になる武器も作らなきゃならねぇのは分かるよな』
「まぁ当然だな」
いくら優れた『魔剣』といえど、それを毎度買ってくれるような浪費家の冒険者は少ない。いや、正確に言うのなら、一部の武器コレクターの一面を持つ冒険者を除けば存在しない。
故に武器製造においては花形と呼べる『魔剣』は高級品として売り、そうでない普通の剣や槍といった武器も大量にストックしなきゃならない。
『んで、流石にそれを俺が毎回作るのは時間が足りない。だからそういったのを専門に作る弟子を俺も持ったわけだ』
「そっちも弟子持ちだったのか」
『おう、そいつは俺の鍛冶屋としての師匠の娘さんなんだが、その子も仙台のダンアカ目指してるらしいし、俺としては弟子に武器を打たせてやれてかつ安くてもある程度の収入が得られる。お前としても弟子の武器を安く済ませられて、かつ長期的に整備の価格を抑えることができる。いわゆるWin-Winってやつだ』
なるほど、それなら確かにメリットはある。弟子の作品は基本的に数を打たせるためのもので、価格的におおよそだが同じ性能の武器の半値程度で売られる事が殆どだ。勿論出来が良い作品ともなれば徐々に価格も上がるだろうが、それでも馴染みの武器屋、かつ公私共に知り合いともなれば使い手にあわせてのマイナーチェンジもやりやすくなるし、武器の交換や整備も言わずもがなだ。
「でも距離がな……」
福島から郡山までは、車にしろ電車にしろ片道約1時間は掛かる。別にその程度ならなんとかなるのだが、整備に出すとなれば最低でも半日、長ければ一週間近くは必須になるし金額も交通費整備費ともにそれなりだ。
なら郡山のダンジョンへ行けばということになるのだが、『郡山』ダンジョンは『福島』とモンスターもダンジョンのスタイルも性質が全然異なる。『仙台』はモンスターのレベルも種類も段違いに高いが、そのモンスターの傾向は『福島』と似たような傾向だから構わないが、普段と真逆のモンスターと戦うのは、怪我やミスに繋がるので、馴れないうちは絶対にやらせたくない。
『お前の心配も分からなくはないがな、けど冒険者として、武器屋でのマナーとかは知る必要があるだろ』
「それはそう、だが」
『そういうのを教えるためと思えば、うちは最適だろ?まだ本格的に開店はしてないが、俺とお前の中だ、そういうのは教えてやれるし、何よりうちの奥さんがそういうのに詳しいからな』
「あぁ、そういえばお前の奥さんの職業ってあれだったか」
むしろどうやってお前がそんな人を射止められたのか疑問に思うが、そういうことなら納得しよう。
「分かった。なら来週のゴールデンウィークに行くから、調整頼んでもいいか?」
『おう、任せな。ついでにお前の弟子の武器もちゃんと幾つか用意しておいてやるよ』
「くれぐれも本気でやるなよ」
分かってると軽く答えて通話を切った友人に苦笑しつつ、近くのコンビニに寄って少しお高めの酎ハイを幾つか買うことを決めた。




