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精霊契約

そもそもなぜアモスさんとシンラが戦っているのか。


「二人とも取り合えず落ち着いて!」


俺がどんだけ声をあげようが2人が止まる様子が無い。


「いい加減にしろ!!」


ちょっとイライラしたのもあって二人目掛けて氷塊を落としてしまった。やってしまった後でやり過ぎたかと思ったが、アモスさんは盾で防ぎ、シンラに関しては魔法無効のスキルで特にダメージはなさそうだ。どうやら感情任せに魔法を使ったためシンラに通用するように諸々の細工ができなかったようだ。


「隼人何すんだよ!」 「隼人さん酷いです!」


「二人とも俺の話を聞かないで戦ってる方が悪い。なんで二人が戦ってるんだよ。アモスさんはペルマナと戦ってたはずだろ」


説明を求めると二人ともなんだか気まずそうな表情をしている。


「それは私からご説明します」


なんと説明をしてくれると言ったのはアモスさんでもシンラでもなく、俺たちを殺そうとしていたペルマナ本人だった。ペルマナはボロボロになったドレスでなんとか大切な部分を隠せているような状態だったが、俺たちと戦っていた時のような好戦的な態度ではない。


「説明をしてくれるのはありがたいが、あんたはもう戦う意思は無いのか?」


「はい、正確に言えば私には戦う意思はありません。その意味も込めてご説明しますがその前に」


ペルマナが手を突き出すとジュリアンヌの体に炎の拘束魔法が発動する。しかもかなり強力なもので俺でも抜け出すには相当時間が掛かるような代物だった。


「な、なんです!なぜ私にこのような」


「申し訳ありませんが今の私はあなたの知るペルマナでは無いといえばお分かりになりますか」


「っく!!」


どうやらジュリアンヌは何か事情を知っているという雰囲気だ。


「これで邪魔されることはありません。まずこのペルマナという女性のことからご説明いたします」


ペルマナはゆっくりと自分の事情を説明してくれた。

結論からいえばペルマナという女性は人間には精霊が宿っているらしい、人間が四獣の力を操るためにコーネリアは精霊に目をつけた。精霊に四獣の力を注ぎその精霊を人間に憑依させる。こうすることで高い確率で憑依された人間は四獣の力をある程度引き出すことが出来るらしい。


「そしてその精霊こそ今しゃべっている私なのです。もともと私は火の上位精霊、女神ネリスが従える四獣の一体フレイムイーグルとは相性が良かったようです。フレイムイーグルの力をこの身に移し、そのままこのペルマナという女性に憑依させられました」


自然界に存在する精霊の中には意思を持ち会話することさえできる上位精霊が存在するらしい。だが精霊自体稀な存在でましてや上位精霊ともなればもっと少ない、シンラが使役している風の精霊も中位精霊だと言っていたし、目の前で喋っているペルマナは更に高位の存在だと言える。


「そちらのアモス様がペルマナを気絶させてくれたおかげで私が主導権を奪うことができている状態です。私としてはすでに四獣と一体になってしまった身です、いつペルマナやフレイムイーグルの意識が私を飲み込むか分からない、だからアモス様に事情を説明して私をこの体ごと殺していただくように言ったのです」


「それで俺が止めを刺そうとしたときにシンラが邪魔してきたんだ」


さっきまで気まずそうにして口を開かなかったアモスさんがようやく口を開いてくれた。


「なら次はシンラだな。どうしてアモスさんの邪魔をしようとしたんだ?」


事情が事情だけにアモスさんの行動は正しいといえる。今は上位精霊の意思が表に出ているから大人しいがいつペルマナやフレイムイーグルの殺意が向くか分からない。それなら今の状態で確実に倒してしまうことが最も最善だと思う。


「だって、この精霊(人)言ったんだ。助けてって、それにシルフも精霊を助けてってお願いしてきたから、ヒーローとしては助けるのが当然であって」


最後の方は少々モゴモゴと喋っていたがおおよそ理解ができた。


「おそらくペルマナやフレイムイーグルの意思が表に出ていた際に私が助けを求める声を聞いたのでしょう。この方は精霊と深いつながりがあるようですし、中位精霊ともなれば仲間意識の強さから私を助けるように契約者である彼にお願いしたのでしょう」


精霊たちのお願いとシンラの正義感が重なった結果というわけだ。


「それでその、精霊を殺そうとしてるアモスさんを見たらとにかく精霊を守らなきゃと思って止めて、「そいつは無関係な人ですら殺すやつなんだぞ!」って言うから精霊はそんなことしないって分かってほしくて」


確かに今主導権を握っている上位精霊は人をむやみやたらと殺すような奴には見えない。だがアモスさんが言っているのはおそらく人間のペルマナやフレイムイーグルのことを言っているのだろう。


「俺もなんでシンラの奴がこいつを庇うのか分からなくて、口論してたら頭に血が昇っちまって」


「喧嘩が始まったわけですか」


「すまん」


アモスさんが怒られた大型犬みたいにシュンとなってしまった。シンラの方は今にも泣きそうな表情でなんだか俺が二人をイジメているような構図になってしまっている。


「とにかく二人に誤解があったわけですし、説明をきいたら二人ともちゃんと理解してくれたってことでいいですか」


「うん」 「ああ」


「それで上位精霊さんの方はやっぱり倒すしか選択肢はないのか?」


「はい、私の身にはフレイムイーグルの力がかなり注がれています。今は大人しくしてますが、いつこの力が暴走するかわかりませんし、一度交じり合ってしまって私たちを元に戻す手段はないでしょう」


確かに今のペルマナの体はかなり異質な状態だった。魔力感知で分かる限りでも人と精霊とその他の魔力が交じり合い不安定な状態だ。色で見るのが一番分かりやすいが本来一色しかない魔力がこの体からは3色、しかも交じり合って気持ち悪い色になっているように見える。


「隼人ならどうにかすることはできない?魔物の素材を取るときみたいに」


シンラが言っているのはおそらく“分離”という付与魔導士が使える魔法のことだろう。本来なら付与した魔法を対象者から引き剝がす魔法なのだが、俺は魔物の解体に使ってる。対象を魔法ではなく物理的な部位の指定をすることで、指定したものを文字通り分離させることができる。もちろんかなりの魔力を消費するうえに、そんなことをするぐらいなら解体を覚えてしまった方が良いというレベル。現代っ子の俺としてはさすがに自分の手で解体するような勇気がなかったので色々考えた結果この方法を思いついたというだけだ。


「無茶言うなよ。分離は確かに便利ではあるけど、対象を正しく指定しないと発動すらできないし、これだけ混じってるのを分離させるのは俺の魔力操作じゃ無理だ」


本来魔法を引き剥がす用途で使われているため憑依されたものを引き剥がすこともおそらくは可能だとは思うが、今の異質な状態の体を分離させることは俺の技術では無理だ。それこそ王国最高と言われているローゼン・クロイツ伯爵の魔力操作技術であってもできるかどうか分からない。


「良いのです。もともとフレイムイーグルと同化させられたときから消滅することは分かっていました。異質な二つの存在が共存することなど出来るはずが無いのです。最後に心優しい精霊使いを見れただけ満足です」


本当に心優しい精霊なんだと思うと同時になんとか助けてあげたいと思う。だが、俺ではこの異質な体をどうにかできる手段が思いつかない。

俺には心当たりがある。だが、頼りたくないというのが本音だ。あいつに頼むと何を見返りに求めてくるか分かったもんじゃない。


「ちなみにシンラは精霊を助けたいって意思があるのは分かったけど、アモスさんはどう?」


「俺としても悪い奴ではなさそうだし、助けられるなら助けたいと思う。だがこのまま放置する気はない」


それは助けられないなら殺すことを厭わないと言っているようなものだった。隣にいるシンラからは否定的な目を向けられたがアモスさんの意思は固いようだ。


「分かった。あまり借りを作りたくないんだが、仕方ないか」


俺はアイテムボックスからメガホンを取り出す。このメガホンには術式が刻まれており、声を拡張させる効果があるらしい。もちろんこれも西城が作ったものだ。


「皆ちょっとうるさいから耳塞いどいてくれ」


皆が耳を塞ぐのを確認すると目的の言葉を叫ぶ。


「ごーはーんーだーぞーーーーーー!!!!!!!」


このときこの場に唯一耳を塞げない人物。炎の拘束によって身動きのとれないジュリアンヌのことをすっかり忘れており、特大ボリュームで叫んでしまった。結果としてジュリアンヌは鼓膜が破れてしまったのか耳から血を流して気絶してしまたった。


「メシか!!!!」


物凄いスピードで俺の元にやってきたのは真っ黒い毛玉、ではなく元の姿に戻った大型の狼。


「コクロ、お前にちょっと相談があってだな」


「それよりメシはどこだ?」


口からよだれを垂らしながらキョロキョロを見回すコクロ。ぶっちゃけカワイイ。


「そうだよなぁ。お腹空いたよなぁ。今から作ってやるから大人しく待ってろよ」


「おお!!」


良いお返事をいただいたのでさっそく調理を・・・


「ちょっと隼人さん!コクロに相談するために呼んだんじゃないんですか?!」


おっと、可愛さに負けてせっせと料理を作ってしまうところだった。危ない危ない。


「相談に乗ってくれたらお前が食べたことない料理を作ってやるぞ」


「本当か!言ってみろ俺になんでも相談していいぜ!!」


ああ、なんてチョロい奴なんだ。そんなところも可愛い!!


俺は簡易キッチンを出して料理をしながらコクロに大精霊のことを相談した。


「3種族を混ぜるなんてひでぇことしやがる。そうだなぁ、その精霊だけなら助けることはできるぜ」


「本当!!」


「おお、だけどいいのか?女神の四獣と宿主の女は死ぬぞ」


コクロ曰く、助けることができるのはペルマナか大精霊のどちらかのみらしい。フレイムイーグルは完全に消滅させる必要があるとのことなので、問題ないのだが、人間である俺たちが精霊を優先させてよいものかと聞いているようだ。


「僕はもちろん精霊を助けます。それがシルフとの約束ですから」


「俺も見ず知らずの誰かよりも関わりのある奴を助けたいと思うな。それが人でなしと言われようが、赤の他人のために知り合ったやつを見殺しにはしたくねぇ。それが精霊だとしてもな」


俺も二人と同意見だった。ペルマナには申し訳ないが、彼女のことを何も知らない俺たちが彼女を助ける義理はない。むしろ話を聞けばペルマナ本人は自分の意思で力を求めたらしいし、話をして助けたいと思った大精霊を優先させようと思う。


「それじゃあ、あいつを呼ぶか」


コクロが地面をその可愛い前足でトントンと踏むと地面が盛り上がりそこから小さな王冠を付けた少年が現れる。


「な、なんだよ!!僕を呼び出す何て一体誰」


「よぉ、久しぶりだなぁ。オベロン」


少年はコクロの顔を見て最初は「誰だ?」という顔をしたが、徐々に顔色が悪くなり今では正座してコクロの前にいる。


「そ、それでフェンリル様がわ、私めにどのようなごようでしたでしょうか」


物凄い緊張と焦りで見てられない雰囲気なのだが、コクロの方は悪い笑みを浮かべたままだった。


「お前にちぃと頼みがあってな。そこの大精霊を俺の主が助けたいってんで力を貸してもらおうかと思ってな」


なんかコクロがヤ〇ザの親分みたいに見えてきた。


「あ、主?も、もしやフェンリル様、人間に服従されているのですか!!」


「服従なんてしねぇよ。この俺が主と認めていいと思ったやつが現れただけだ。料理と魔力以外評価するところがねぇが、なかなか面白いやつだぞ」


「なんかすっごく貶されてる気分。コクロご飯半分にするよ」


「お、面白い奴ってちゃんと良い評価してるじゃねーか!俺からしたらかなりの評価だぞ」


「まぁいいけどね。先にコクロに報酬替わりじゃないけど、これ食べながら話したら。よければえーっと、オベロン?さんもどうぞ」


オベロンと呼ばれた少年が只者じゃないことだけは俺でも分かる。一応敬意みたいなものを出すために作っていたものをオベロンに渡す。


「あ、あのこれは一体・・・・雲?」


「ああ、それは綿菓子って言うんだ」


俺が作っていたのは祭りでよくある綿菓子。専用の機械がないとできないイメージだが、魔法を使うと案外簡単にできる。

ネットショップで買ったザラメを火にかけて溶かしたあと、小さな竜巻を作ってそこに溶かしたザラメを入れる。後は細い木の棒を竜巻の中に入れて糸状になったザラメを巻いていくだけ。家庭でやるときはハンドミキサーなんかを使えばできると聞いたことがあったので、今回はその応用だ。


「よければみんなも食べてくれ」


せっかく仕入れた食材をここで消費しないために、昔使おうと思ってちょっと多めに買って使わなかってアイテムボックスの肥しになっていたザラメを使うアイディア、我ながらグッジョブ!!ザラメって簡単に溶けないから以外と使いにくいんだよなぁ。美味いんだけどさ。


「本当に雲みたいだな。それにめちゃくちゃ甘い!!」


「すごいです!!こんな食べ物がこの世にあることに驚きです!!」


アモスさんにもシンラにも好評なようで良かった。ちょっと警戒していたオベロンさんも一口食べると夢中で綿あめを食べ始め、口の周りがザラメでべちょべちょになっている。もちろんコクロにも好評だったよ。


「こんな素敵なものをいただいてありがとうございました。それでそちらの火の大精霊は一体どういう経緯でそうなったんです?」


「それは私からお伝えいたします。王よ」


オベロンが現れてからずっと頭を下げている大精霊さん。オベロンさんが大物なんだろうなと思っていたらまさかの精霊の王様だったようだ。


「なるほど、人と使い魔と精霊が合わさったね。人間はつくづく愚かなことをするね」


「それでお前なら大精霊だけ別の存在として転生させられんじゃねーかと思ってな」


前足をぺろぺろと舐めながらコクロがいうには、一度今の存在を消滅させて大精霊さんだけオベロンさんの力で転生させるという方法。


「魂を消滅させるときは別々だろうから問題ないと思うけど、触媒も無しに転生はちょっと難しいね」


「それならシンラの奴を宿主にしてやりゃいい。シルフとも喧嘩しそうにねぇし、それならいいだろ」


「それなら大丈夫だけど、君は本当にいいのかい?彼女は転生後も火の大精霊として存在し続ける、大精霊との契約は強力だけど、その分君に掛かる負担はかなり大きくなるよ。今は風の中級精霊一人との契約で体に違和感はないだろうけど、大精霊クラスともなれば人間の寿命を縮めることだってありえるよ」


「構いませんよ!」


オベロンさんからはかなり怖いことを言われているはずなのに、シンラの返答はあっさりしたものだった。


「ヒーローに苦難はつきものです。それに僕は彼女を助けたいと思った気持ちに嘘偽りはありません。僕が彼女を受け止めるだけの力を付ければ問題ありません!!」


なんだかシンラがカッコいいことを言っている。この場にいた全員がそう思ったことだろう。


「ここまで精霊を愛してくれる人間もいることに僕は喜びを感じるよ。それならなんの問題もない。あなたは彼を契約者として認められるかい?」


オベロンさんは大精霊さんに向かって最後の確認をする。


「元々捨てるはずだった命です。私が拒絶することなぞありません」


「うん、それなら早速始めよう!!」


大精霊さんの足元に魔法陣が浮かび上がりペルマナの体共々光の粒子となって消えていく。おそらく事前準備である消滅なのだろう。

それからシンラの足元に別の赤い魔法陣が浮かびあがるとシンラの目の前に小さな火の玉が現れる。


「さぁ、これが新しく転生した子だ。契約を」


「僕はシンラ・シデン。この名に誓い、君を受け入れ名を与える。イフリート」


火の玉はゆっくりとシンラの体に吸い込まれるとシンラの体からペルマナそっくりの女性が現れる。だが、先ほどまで一緒にいたペルマナと違い瞳の色は赤く、肌は浅黒くなっている。


「転生も契約も成功のようだね。その姿は元の姿に引っ張られた結果だね。特に害があるわけでもないからそのままにしておけばいいよ。それじゃあ僕はこれで帰るね。フェンリル様もあまり気軽に僕を呼び出さないでくださいね」


「おお、またなんかあれば呼ぶわ!」


コクロはすでに13個目の綿菓子に夢中でオベロンさんのことを見てはいない。


「はぁ、これだからフェンリル様は嫌なんだ。君には是非ともフェンリル様の抑止力になってもらいたいものだよ。何かあれば僕も力を貸してあげるから、フェンリル様の無茶ぶりのときは僕を助けてね」


泣きそうな顔をしながらオベロンさんは俺に小さなベルを手渡した。精霊のベルと呼ばれる聖なるアイテムで、これを鳴らせばオベロンさんを呼べるものらしい。精霊王を呼べるってそれだけでヤバいものな気がする。


「それじゃあ、またなにかご馳走してね」


ベルを返そうとしたのだが、その前にオベロンさんは帰って行ってしまった。また面倒なものを押し付けられた感は半端ない。


「主、次の綿あめをくれ!!」


俺はベルをアイテムボックスの奥深くへとしまい、せっせと綿あめづくりに精を出した。



お読みいただきありがとうございます。


少しでも面白かった、続きが気になる方は高評価コメントよろしくお願いします。

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