VSジュリアンヌ
2人には十分な広さをもつ結界内に入ってもらう。この結界は空間そのものを隔離するもので、どんなに暴れようが結界内であれば全てを元に戻すことが出来る。強力な結界なのだが、結界維持のため術者が動けなくなることがデメリット。もし敵が結界の外にいたら俺が集中砲火を食らうだろう。
「屋敷の様子を見る限り仲間みたいなのはいないと思う」
だがフラグというものは何度も回収するものだ。
「あれ?お姉さまが戦ってらっしゃる!」
結界が展開している裏庭に現れたのは俺たちに指名依頼を頼んできたジュリアンヌだった。村で見かけたときのような綺麗なドレスを着ているのだが、その手にはこれまた見知った男が引きずられている。俺がツンデレ受けと称したB級冒険者のハンスだ。
「その人は一体どうしたのかな?お嬢さん」
結界の維持には動くことは出来ないが、魔法を使うことはできる。自分に春の息吹と夏の光源を付与して臨戦態勢をとる。
「もちろんお姉さまのおやつに連れてきたんだけど、我慢できなくてちょっとつまみ食いしちゃった♡」
とても無邪気な笑顔でとんでもない事を言われた。手に掴んでいたハンスを俺の方に放り投げると白目を剥いた状態で軽く痙攣を起こしている。どうやら死んではいないようだが、危険なことには変わりないだろう。
「魔力の方はそこまでじゃなかったけど、この子結構私好みの血をしてたからちょっと食べすぎちゃって」
よく見るとハンスの首元に噛み後のようなものがある。顔も血の気が引いたように白くなっているところをみると血を吸ったというのは本当らしい。
「お前人間じゃないのか?」
「あなたたちとは違う存在という意味では人間ではないということなのかしら。自分の存在なんて深く考えたことなかったから答えに困ってしまうわね」
コウモリの翼に赤い瞳、伝説上で知られるヴァンパイアのような姿だった。
「ご挨拶が遅れましたわね。私はジュリアンヌ・V・クロイツ、しばしの時ではありますがあなたがこの世にいる間は覚えておいてください」
物凄いスピードで俺を殴りに来たが夏の光源の効果で俺への攻撃は防がれた。
「私の攻撃でも割れない障壁、思ったよりも実力者だったようですわね」
この場でジュリアンヌを制圧するのはかなり難しい。第一に今の俺は結界の維持のため動くことが出来ない。防御魔法で防ぐことはできるだろうがいつまで持ちこたえられるか分からない。第二に背後にある建物だ。せっかくアモスさんたちの戦いで被害を出さないように結界を張ったのに俺が壊したりしてたら本末転倒。それにジュリアンヌは全く周りの被害を考えていない。さっきから何度か殴りかかったりして障壁を壊そうとしているがその余波で屋敷の壁が一部壊れかけている。威力としては相当高いのだろう。そして第三に足元で気絶している冒険者。正直こいつにとびっきり強い防壁張ってその辺に転がしておきたいのだが、今にも死にそうなこいつを放っておけない。
「(鑑定が使えればこいつの状態も分かるが、目の前のジュリアンヌから目を離したら命取りだ)重化」
ジュリアンヌの周りに重力増加の付与。さらにジュリアンヌの攻撃で壊されかけている障壁を修復させる。時間稼ぎなら大の得意、このままアモスさんたちの決着が付けばアモスさんが増援に来てくれる。最悪アモスさんが動けなくても結界の維持がなくなるのだから俺にとってはプラスでしかない。
重化で動きを制限させてひたすら障壁を修復し続けること数回。ジュリアンヌの行動が変わった。
「埒が明きませんね。あまり使いたくは無いのですが」
ジュリアンヌは自分の腕を切り裂くと大量の血が噴き出す。だが決して自決してるわけでないようだ。噴き出した血は彼女の周りで球状の玉と変わっている。
「私のスキル血呪文ですわよ。血を操り、他人の血すらも自らの糧とする力」
つまり彼女から出た血は操作が可能ということ。おそらくだが血を一滴でも流せば彼女の支配化になりかねない。血は魔力の触媒としても扱われるほど純度が高く詰まっているらしく、魔力を回復させる薬には高魔力保持者の血液を使っているという話も聞くぐらいだ。
血の塊が玉となり障壁を削る。夏の光源の障壁を削るとなるとかなりの高威力、まともに受ければ容易に皮膚を貫通するだろう。
「その邪魔な障壁もここまでですわ。針」
血が針となり障壁を貫いた。
「重化!」
迫りくる血の針を無理やり地面に押さえつける。だが一度に数か所の魔法展開は俺にはできない、つまりジュリアンヌに掛けていた重化を解くしかなかった。
「エスタ」
「遅いですわ!」
夏の光源を再展開しようとするが間に合わなかった。魔法の展開よりも先に無数の針が俺の腕を貫く。
「ぐぅ!!」
幸いにも貫通しているようだが傷自体は大きくない。腕から指に掛けて血がタラリと流れ落ちるぐらいだった。
「あなたの血は最高ですわね!こんな少量でここまでの魔力は初めてですわ!!」
俺を貫いた針をペロリと舐めて大変ご満悦なご様子。
「その体に宿っている膨大な魔力全て私が吸い尽くして差し上げます!」
俺の血を舐めてかなり強化されてしまったようだ。先ほどよりもスピードもパワーも上がっている。
「一舐めしただけでこれだけの力が手に入るなんて!あなたに興味が湧きました。半殺しにして、一生血を提供する道具にしてさしあげますわ」
なんかサイコパスなことを言われてしまって少々悪寒が走る。
「誰がそんなもんになるかよ!土壁」
アモスさんがよく使っている土の城壁を真似て作った土壁。かなり魔力を入れたから簡単には破壊されないはず。
「切り裂く血」
「あれを一撃で切り裂くってどんだけだよ!」
再度土壁を展開する。
「何度やっても同じことよ」
もちろん切り裂かれるのは承知の上。
「起爆」
土壁にさらにもう一つ付与、それが起爆。切り裂かれた壁の全てが爆弾となる超危険な付与。本来なら人に向けて扱う付与ではないのだが、相手は人を辞めてるような存在なのでそこは許してもらおう。
「けほ、やってくれるわね」
「ダイナマイトイメージして付与してんのに、それだけのダメージとかどんだけだよ!」
正直これで行動不能ぐらいにはできると思ってたのになんでそんなピンピンしているのか意味わからん。
「私他人の血を取り込んでいるおかげでかなりタフなのよ。血を流しても武器にも使えるし、体内に戻すこともできる。逆にどうやったら私を倒せるのか聞きたいぐらいよ」
今の話が本当なら斬撃や打撃は致命傷にならない。魔法で燃やし尽くしたり氷漬けにして砕くとかなら倒せそうだけどそんな火力は出せないし、毒や麻痺なんかの異常状態も耐性があるようで何回か試したが付与ができない。
「君本当にちぐはぐな強さですね。魔力が強いのに魔法の威力はそこまででもない、だからって簡単に殺せるかといえば全く攻めきれない。防御に関しては大したものだと思いますけど、脆いところを攻めれば立て直すのに時間が掛かる。まるで暴走している馬を無理やり制御しているみたい」
ジュリアンヌの言っていることは正しい。俺がこの世界に来て3年、Sランク冒険者と言われるほどにはなったが、俺自身の強さはむしろ弱くなっている。理由は単純、鍛錬をしていないからだ。
Sランク冒険者になって直ぐに紅葉の家で定食屋を始めた。それから最低限の依頼しかこなしてはいないし、鍛錬を欠かさず毎日やっているかと言われるとNOだ。その結果ステータスはむしろ下がっており、俺自身も最低限を維持するだけに留めている。上がったのなんて毎日使っている魔力ぐらいなものだろう。
さらにいえば俺が保持しているスキルをまるで扱いきれていないのが現状だ。スキルとは何十年もかけて極めていくもの、俺自身一番得意な付与ですら達人と呼ばれる人の技量に全く届いていない。俺の保有しているスキルのほとんどは神から授かった超レアスキルだ。それだけに扱うには相当な修練がいるものばかり。正直スキルに振り回されていると言われてもしょうがないし、スキルの3割も真価を発揮できていないだろう。
「確かにあんたの言う通りだよ。俺が他人より秀でているものなんてほとんどない。才能だってなければ、この力だって借り物みたいなもんだ。その借り物を扱いきれてもいない、暴れ馬って例えは間違いじゃないな。だけど、それでお前より弱いということにはならねぇよ!空間構築!!」
俺の使用できる数少ない奥の手、正直こんなところで使いたくはないがこのままだと俺が負けないまでも、周りの被害が甚大すぎる。
「なんですの、これはまさか“世界”!!魔術の終着点ともいえる奥義をあなたが!」」
確かに周りの景色が変わっていく、だがこれは世界ではない。俺の実力で世界を発動させるにはまだまだ修行不足、魔力だけなら何の問題もないが、エネルギーだけ保持していても世界は使えない。これはその紛い物。
「これは世界じゃなくて空間構築、俺には世界を作り出せるだけの魔力はあるが、そんな精密な魔法を構築する技術がない。これは世界を元に俺が偶然作れた紛い物だ」
紛い物だが能力はえげつない。まず空間構築を展開しているエリアでは俺の魔法制限がある程度解除される。そしてその解除された魔法を発動する材料を生み出す魔法がこの空間構築だ。
「お前も聞いたことあるだろ、その威力から禁呪として指定されている魔法の数々。原理や魔術構築は分かっていても発動することが出来ない魔法だ。この空間では禁呪の使用が解禁される。被害はこの空間内だけで済むからな」
「その禁呪があなたの切り札というわけですね。でも私だって禁呪は知識としていくつか知っている。あなたが発動できるということは当然、私もそれが使えるということでしょ」
禁呪とは世界の理、それを曲げるような魔法なのだから俺だけ禁呪が発動できるというようなことはない。もちろんこの空間内なら誰であろうと禁呪は使える。その知識と魔力さえあれば。
「それなら試してみるか?この空間で俺と禁呪の打ち合いを」
それを聞くとジュリアンヌはあることに気づき顔色が青くなる。
「ようやく気付いたか。禁呪を使えたとしても乱発するにも限度がある。俺に最も足りないのは相手を制圧するだけの魔法が無いことだ。お互い同じような破壊魔法を使えれば魔力量の多い方が勝つのが当然だろ。あんた俺に魔力量で勝てると思ってるのか?」
俺には元々の膨大な魔力量に加えてMP自動回復のスキルまである。禁呪は確かに多くの魔力を消費するがこの二つがあるかぎり、魔力消費勝負で俺が負けることはあり得ない。
「禁呪以外を使ってくれても構わないぞ。得意の魔法で禁呪が止められればな」
誰も使えないのだから禁呪は練習のしようがない。そのため技術としてはみな一緒。それなら残る勝敗は魔力量での多さだけになる。完全に俺が優位な空間を作り出すのがこの空間構築という魔法の正体だ。
「さて、この魔法もそこまで長く持続しないしさっさと決着をつけないとな」
ここで補足しておくが俺は禁呪を使うことは出来ない。なぜなら付与魔法以外の魔法がなぜか使えないから。だが禁呪がどのような魔法か知っているので、付与魔法で似せて禁呪っぽくすることはできる。つまり俺はこの空間でなくても禁呪らしき現象は起こせる、と知ったらなぜかロキに禁止された。「そんな裏技みたいなの発見しないでよ!」と怒られた。
「氷結大塊」
氷結大塊:禁呪
氷の塊生成させて相手にぶつける魔法。ただし、出来上がる氷塊は永久氷塊と呼ばれる決して溶けることも砕けることもない氷。海や湖などの水が多いところほど威力があがり一国をも破壊する大魔法。
「この場では君を圧死させるほどの大きさしか作れないけど問題ないだろ」
もちろん本物の氷結大塊ではない。氷塊を作り出し持ちうる限りの付与を何重にも掛けて強度と耐久を実現させている代物だ。
「響け咆哮、汝の息吹は何物をも溶かす紅蓮・・・・」
ジュリアンヌは負けじと禁呪の発動のため詠唱を始めるが、これも俺が優位な理由の一つ。どんな凄腕の魔導士でも禁呪を詠唱無で唱えられない。高速詠唱や詠唱破棄のスキルを持っている大魔導士といえども2,3節は必ず唱える必要があるらしい。俺の場合やってることは通常付与だけなので無詠唱で魔法名すらいらない。そもそも魔法名違うしね。
「我が前の敵を焼滅ぼせ、新星砲」
律儀に詠唱を待っているとジュリアンヌの禁呪も完成したようだ。
新星砲:禁呪
炎熱系の頂点ともいわれる魔法。破壊のみに特化させ地表すら焼き尽くすと言われている。隼人が使う太陽光レーザーに性質は似ているが、瞬間火力はこちらが上。
結果でいえばお互いの禁呪は消滅、氷雪系最強と炎熱系最強がぶつかればこうなるだろう。ジュリアンヌは禁呪一発で魔力をかなり消費した様子、立っているのもやっとといった感じだ。
「次はこれだなジ・ハード」
禁忌とされる魔法の中でもとびきりヤバい魔法がこのジ・ハードだ。全てを吹き飛ばす爆発プラス空気汚染とかやっちゃう現代化学兵器に似ている禁忌魔法。西城が奥の手として原爆もどきを作ってたのを思い出して似せて作ってみた魔法だ。
「そ、そんな魔法あなたまで命を落としかねないものよ」
「その辺は問題ない、ちゃんと防御魔法で防げる程度には威力を抑えてる。だけど爆発は耐えれても空気汚染までは耐えられないだろ」
こちらも空気中に麻痺毒と爆発の付与で似せて作る。流石に有毒ガスとか即死するような劇毒物とかそんなものは付与しない。あくまでも動きを止めるために使うだけだ。
「流石に私の負けのようね。だけどただで死ぬつもりは」
ジュリアンヌの言葉を遮ったのはガラスが割れるような音。俺が展開している空間拒絶結界と空間構築が解除された。なぜかアモスさんと仮面を付けたシンラのせいで。
「お前ら何やってんだ!!」
なぜか二人が戦っていた。
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