誘拐
ヒスイのお品書き
ヒスイ「誘拐ってなんだろう?主がとっても疲れた顔をしている(>_<)
本日のお品書き
・アフロディーテ商会
・オネエの園
主はどうしてあのオネエさんたちが苦手なんだろう?」
油断していた。珍しくなんの面倒事も起きないで家に帰れ、美味しいお菓子をみんなで食べる平和な時間。これまでこんな平和な時間が起きれば、必ずと言っていいほど面倒事が舞い込んできていたのに俺は油断をしていたんだ。
「隼人さん大変です!!会長が、会長がウエストランドで誘拐されました!!!」
営業終了後の閉店作業を手伝っていると接客スタッフリーダーのリーナが慌てて店に飛び込んできた。
「リーナ!え?会長が誘拐?!」
どうしよう本気で関わりたくない。
「さて、カイ今日の売上の計算だけど」
「そんなことやってる場合じゃありませんよ!隼人さんすぐにでもウエストランドに行ってください」
「昨日よりも売り上げが伸びてるのはやっぱりとんかつの影響かねぇ。昨日は季節の天ぷら定食だったから、やっぱり肉がメインになる日の方が売上伸びるんだなぁ」
「隼人さん!!」
「あーあーあー、聞こえない、俺は今大切なお金の計算をしてるから」
「それなら俺が代わりにやろうか?」
入口を見るとイケオジことオスカー様が満面の笑みでこちらを見ていた。
「オスカー様に代わりにやっていただくような仕事じゃありませんよ!これは俺の仕事ですし、オスカー様はもっと、も~っと大事なお仕事があるでしょ」
「ああ、ウエストランドで誘拐された凛の捜索をせにゃならん。あいつが誘拐されたとあっちゃ国の国益にも関わってくるし、何よりあいつの商会が黙ってないからな」
西城が作った商会“アフロディーテ”元の世界で美の女神、その名を店名として付けている。その社員たちの結束は固い。全従業員が西城に惚れこみ、一切の不満なく西城をトップに据えている一大勢力。店の経営から敵情視察、物流の動きまで監視する西城が育て上げた超人たちがひしめく集団だ。
「国としてもアフロディーテが本気で動かれると手に負えん。あいつら国の諜報機関よりも優秀だからな」
「それって全部国絡みの事件じゃないですか。俺には関係ありませんよ。それにウエストランドだったら陛下やオスカー様が声を掛ければ協力して助けてくれるんじゃないですか」
国のいざこざには関わらない。それを承諾して陛下と友好の証を立てた。
「そ、それがだな。凛を誘拐した犯人がだな、その、あれだ」
珍しくオスカー様が言いよどんでいる。
「オスカー様たちですら太刀打ちできない相手なんですか?そんな人この国にいないでしょ」
「・・・・・・・ウエストランド王家だ。凛を誘拐したのは」
「はぁ!!」
まさか王家の人間が商人を誘拐するとは思わなかった。
「いや、それだって陛下たちならウエストランドにむけて命令できるでしょ。今は属国なわけですし、それこそ西城を誘拐したとして捕らえることだって」
「これ読んでみろ」
オスカー様から渡された手紙。王家の間で使われている通信用の魔道具だ。
「えっと
陛下へ
御機嫌ようアフロディーテ会長の西城凛です。
実はウエストランドに商談に行ったら王家の人に誘拐されちゃいました(てへぺろ)
第二王太子が私を妻にしたいと求婚してきたんですけど、私には心に決めた人がいるのでお断りしました。ですが、私を誰にも渡さないって王宮から出られなくなっちゃいました。
美しいって罪ね。
そんなわけで助けに来ていただきたいです。ってか来なさい。このまま私が動かないと流通の6割が止まるわよ。
でも久しぶりのお休みを満喫したいので、助けに来るのは10日後ぐらいにしてもらえると嬉しいわ。
それじゃあ助けに来てくれるのを待ってます。
PS:一緒に送った手紙を中条に渡して必ず読むように言ってください。絶対ですよ・・・・
何これ?あいつ余裕だな」
手紙から読み取れる西城はバカンスを満喫しているように思う。
「これ助けに行く必要ないでしょ。本人バカンスを満喫してますし、帰ろうと思えば自力で帰ってきます」
あいつにはそれだけの能力がある。
「いや凛の方は問題ないんだが、アフロディーテ商会の社員たちが暴動を起こしそうな勢いでな。王国軍が出ないなら自分たちがウエストランドに攻めると武器を買いあさり始めてるんだ」
「なんて面倒なことを!!あの商会が本気になれば王国軍も真っ青な軍隊が出来上がっちゃいますよ!早く西城を連れ戻してきてください」
「それはこっちを読んでからにしてくれ」
オスカー様から渡されたもう一枚の手紙。そういえばさっきの手紙のPSに俺への手紙もあるようなことが書かれていた。
「とっても嫌な予感がすので読みたくないんですけど」
「読め!」
オスカー様からの圧もあり渋々西城からの手紙を読む。
「中条へ
捕らわれの姫を助けるには王子様が必要よ。そして私が姫ならもちろん王子は」
ここで読むのをやめた。
「うん、こんな奴放っておこう」
「待て待て待て!!凛のやつウエストランド王家を掌握してこっちの命令を一切聞こうとしねぇ。おまけにこっちが差し向けた部隊は全滅、隠密部隊を編成してウエストランドに忍び込もうとしても何故か見つかって迎撃されちまう。その手紙にあるとおりベイカーってやつとお前が行かないと国にすら入れねぇんだよ」
あいつは一体何をしてるんだ。確かにあいつなら王国側の戦力を熟知しているし、迎撃も可能だろう。それにしたって悪ふざけがすぎる。
「もしかしてあいつ変なスイッチ入ってるんじゃ
中条へ
捕らわれの姫を助けるには王子様が必要よ。そして私が姫ならもちろん王子はベイカー君!捕らわれの姫を助けるため数々の試練を突破してたどり着いた先に真実の愛があるのよ!!
ってことであんたベイカー君を連れて私を助けに来なさい。ベイカー君以外何人たりとも私を助けることは許されないわ!そこから目くるめく愛の物語が・・・・・・」
そこからは手紙4枚分にも及ぶ西城の妄想が書かれていた。
「あいつ誘拐されたことをいいことにベイカー以外助けに入れないようにしやがったのか!馬鹿じゃねーのか!!」
「凛のやつが好意を寄せてるやつに変なことをしてるのは報告を受けていたが、まさかここまでやらかすとは思わなかった。しかも国益に関わることだから軽率に行動できんから質が悪い」
王国側からは何もできず、西城が戻らなければ流通が止まり、このままだと商会の人間たちが暴動を起こす・・・・・
「お家帰る」
「俺がそれを許すと思うか?」
オスカー様が指を鳴らすと一瞬にして手足が拘束された。魔力で出来た縄で縛りあげられたが使用された魔力以上の力でなら破ることはできる。だが、込められている魔力が尋常じゃなく高いため、この拘束を破るにはかなりの時間が必要になる。
「どんだけ土地の魔力使ってるんですか。職権乱用ですよ」
「その拘束で捕らわれてのんきに喋れるやつ相手にしてんだから土地の魔力をあてにするしかねーだろ。普通なら気を失うほどの魔力濃度だぞ。それにお前には俺のスキルが通用しないからこうするしかないんだよ。守り人としての力をな」
“王家の守護者”オスカー様が保有しているチートスキルだ。外敵から王や民を守る盾であり剣、その力は王が収めた土地でなら無尽蔵に魔力を扱うことができるスキル。無尽蔵といっても土地やそこに住む住民たちの魔力を使えるということらしく無限ではないらしい。だが、土地の魔力は聖獣の魔力を凌駕する。さらには王として民に命令権も有しており、このスキルを使って発した言葉は国の中では現実となる。だが、この力はあくまでも土地や民に縛られる。結果オスカー様は国から出たとたんに弱体化する。
「俺の命令権ではお前を従わせられないからな。力づくってのは性に合わないが聖獣もいない、万全の装備でないお前なら押さえつけられる」
俺は王国の民ではない。スキルで命令できるのはあくまで王国に属している人や物にかぎってのことだ。さらに俺は店の締め作業をするためだけに王国に来た。コクロもハクトも紅の家にいるし、恰好も作務衣、耐魔力は多少あるにしろ戦闘用の装備ではない。
「だ、だけど俺を拘束したところで素直に言うことを聞くと思うか?」
自慢じゃないが西城の面倒事に巻き込まれるのは西城本人が脅してきたときが多い。しかし、今回は手紙。オスカー様たちが手紙を見せてこなかったと言い張れば西城からの嫌がらせは来ない。面倒事に巻き込まれるのはうんざりなので、このまま拘束された状態を維持してオスカー様の精神と体力が消耗したときを狙って脱出を試みればいい。
「俺がなんの対策も取ってないと思ったか?おーい、こいつの相手をしてやれ」
オスカー様の声で現れたのは悪夢の人たち。
「隼人ちゃんお・ひ・さ♡もぉ~お店に全然来てくれないからあたしたち寂しかった~♡」
西城が経営しているおかまバー“オネエの園”の従業員&ママさんが現れた。ごついマッチョな親父たちがフリフリのドレスや浴衣、煌びやかなドレスを見に纏っている。何人かは自分の肉体美を自慢したいのか厚化粧にビキニパンツ一枚と犯罪者まがいの者すらいる。
「ギャーーーーーーー!!!!!お、お、オスカー様卑怯!!こいつら連れてくるとかマジ鬼畜!!命令権使ってまで人を動かして最低最悪!!」
「人聞き悪いこと言うなよ。俺の命令権はなにも人を自由自在に操れるわけじゃない。俺の命令権はあくまで互いに命令を承諾したとき力を発揮するものだ。つまりオネエの園の皆さんは心から俺に強力してくれてるんだよ」
確かにオスカー様の命令権は拒否することも背くこともできる。だが、命令を発し心からそれを承諾したときその命令を遂行するために本来の力以上の力を与えることができるらしい。
「さて、皆さんはいつも以上にお前を可愛がってやるらしいぞ。俺の命令が受理されてるから以前よりも大変なことになっちまうかもなぁ」
以前西城のお願いを完全拒否したときオネエの園に2日間放り込まれた可愛がられた。もう、精神が壊れるかと思った。精神耐性のスキルを持っている俺でもあれは耐えられなかった。それがあの時以上・・・・・・駄目だ、死なんて生ぬるい、もっとひどい悪夢。
「今のあたしたちなら隼人ちゃんをも~っと可愛がってあげられる」
「この前は途中で止められちゃったけど今日は逃がしてあ・げ・な・い」
「隼人ちゃんのあーんな顔やこーんな顔を見てたらお姉さんもう、すぐにでもいっちゃいそうよぉん!!」
「ぎぃやーーーーーーーーーー!!!!!わ、分かった!行く!行きます!!!」
「あたしたちのところに♡」
「ちがーーーーーーう!!!西城を助けに行きます!!だからこの、こいつらを早く!!」
「最初から素直にそう言ってくれればいいんだよ。すまんなオネエさま方、隼人は俺とこの後眠れない夜を過ごさにゃならねーんでね。せっかく集まってもらったのに悪いんだがお引き取り願えねぇかな」
「「「「まぁ♡♡♡」」」
「オスカー様と隼人ちゃんはそういう関係だったのね。残念だけど今回はオスカー様に譲ってあ・げ・る♡人の恋路の邪魔をするほど野暮なオネエじゃないのよ。さぁあんたたち帰ってお店の準備を再開するわよぉ。隼人ちゃんもオスカー様もいつでも遊びに来てねぇん♡」
どうにか悪夢は去ってくれた。だがもう疲れて起き上がる気力もわかない。
「それじゃあ眠れない夜を過ごすとしますか」
「オスカー様それ面白がってるだけですよね。せめて俺じゃなくて別のイケメンに言ってくださいそっちなら全力で応援します」
「お前もブレねーな。あ、逃げようなんて思うなよ。そんなことしたらあのオネエ様方に隼人に捨てられたって泣きついてやるからな」
満面の笑顔でなんて爆弾発言を放ってくれやがりますかこの野郎!!
「分かってますよ。そんな悪夢は嫌なので早く拘束を解いてください」
指をパチンと鳴らすと拘束が消える。結構強い拘束だったので腕に縄みたいな跡ができてしまった。
「ったく、西城以上の嫌がらせをしてくるとは思いませんでした。それにオスカー様がこんな方法をとることも」
「言っとくがこの計画は俺じゃなくて陛下の考案だからな。俺も陛下もあの店の常連だから話が滅茶苦茶スムーズにいった」
あんの糞陛下!!さすが西城と知能戦を張り合うお人だ。しかもお二人とも店の常連とかなにしてますのん!!
「もう、いいです。色々諦めました」
とにかく疲れた。そういえば俺がピンチなのにヒスイがなんの反応もしなかったのはなぜだ?
「ヒスイもご苦労さんだったな。主のためにこんなに尽くせる従魔はなかなかいないぞ」
オスカー様の足元で滅茶苦茶ご機嫌なヒスイがいる。
「うちの可愛いヒスイちゃんに何を吹き込んだ!」
「別に大したことは言ってないぞ。ご主人が叫ぶほど楽しいことをしてるから邪魔しないように外で見張りを頼んだだけだ。ついでに店全体を包んで声が外に漏れないようにしてもらってた」
うちの純粋無垢な子になんてことを教えてくれちゃいますか!!
「ヒスイいいか。今度からオスカー様たちの言うことを聞いちゃ駄目だ。あの人たちは俺を虐めて楽しんでる悪い人たちだからな」
「(´;ω;`)」
「ち、違うお前が悪いんじゃなくて、利用しようとしたオスカー様たちが悪者だからな。こんど変なことを言われたらまず俺に相談するんだぞ」
心優しいヒスイちゃんは自分が悪いことをしたと思ってしまったらしい、こんな純粋な子を利用するなんて大人って汚い。
「酷い言われようだな。ヒスイ違うぞ。俺たちは凛のやつを助けるためにやってるんだ。お前の主は素直じゃないから、こういう手段を使って素直にさせてるんだ。心の中では大切に思ってるのに素直になれないからチャンスを失う。俺たちはそんな隼人を助けてやってるんだ」
「そんないい人みたいな言い方しないでください!!」
ヒスイは俺たちが喧嘩していると思ったのかどうしていいか分からず、オロオロと2人の間を移動している。最終的には俺たち二人をくっつけて仲直りさせようとヒスイの触手が俺とオスカー様にまとわりつく結果となってしまった。
ヒスイをなんとか落ち着かせて俺たちはベイカーを探すことにした。西城の注文通りベイカーを連れていかないときっとウエストランドに入れてはもらえないだろう。
「それでベイカーはどうするんです?あいつ西城とは顔見知りですらないですよ」
「え?でも凛のやつあいつのこと好きとかなんとか」
「本人がベイカーのことを好きすぎて話しかけることもできないんですよ。あいつ自分の恋愛になるとポンコツになりますから。今回だって・・・・」
「確かにな。凛のやつ誘拐されたとしても自力でどうにでもできそうだし、誘拐を利用しようとしたとしても、こんな馬鹿げた行動は起こさないよな。陛下も凛が何を考えてるか分からないって頭抱えてた。でも見知らぬ奴を助けに行けと言うのもな」
ギルド側で指名依頼でも出してもらうか。いや、Cランク冒険者に指名依頼なんてするやつはほとんどいない。俺から依頼に誘うのもあいつと会ったのも1回きりだし、接点が少ないのに誘ったら怪しまれる。
「なんかいい方法ないかなぁ」
「良い方法がありますわよ」
いつの間にか現れていたハクロ。ちょこんとお座りをして俺とオスカー様を交互に見ている。
「何やらとても良いネタ、ではなくお悩みの気配を感じて惨状いたしましたわ」
「今ネタって言ったな。お前まさかさっきの状況を一部始終見てたんじゃないだろうな!」
なんのことやらと意味深な笑顔をみせるハクト。こいつ絶対さっきのやり取りを見て楽しんでやがったな。俺だって対象が俺じゃなければ楽しんで眺めてた。誰が良いかな・・・・
「そんなことより、ベイカー様へのお誘いですがアリス様からお誘いいただくのはいかがでしょう。同じCランク冒険者ですし、以前ご一緒に依頼を受けたことがあるとお聞きしましたわ」
確かに2人とも帝都を拠点としているCランク冒険者。しかもお互いソロで活動している者同士、接点があっても不思議じゃない。
「でもアリスのやつを巻き込むことになるぞ。あの家族を説得できるか?」
「そこは任せろ。さすがに俺から言えばローゼンクロイツ家も文句は言わんだろう」
自信たっぷりのオスカー様にちょっと不安を感じたが流石に大丈夫だろう。
「お断り致します!」
オスカー様と共にローゼンクロイツ家を訪れ、伯爵であるロベルトに娘であるアリスの強力を仰ごうとしたら断固拒否された。
「ろ、ローゼン・クロイツ伯爵。事は国益に関わる一大事、それは貴公も分かっていることだろう。ご息女に頼るのは心苦しいが国の一大事である今こそ、貴族であるそなたたちを頼りにだな」
「例えオスカー様の頼みであろうが陛下の命令であろうが、国益に関わることであろうが、大事な娘を男と一緒に旅立たせるなどと許すわけがありますまい!!」
なんだか伯爵様親馬鹿具合に拍車がかかってないか。
「ただでさえ、凛殿の店で用心棒をしていることさえも許しがたいのに、男どもだけの旅に娘を同行させるなど、国を裏切ってでも阻止致します!!」
確かにこのままだと俺とベイカーとアリスの3人が行くことになるので女性はアリス一人。
「で、でしたらご息女に護衛を付けるというのは」
「あの子は護衛を嫌います。己の力で依頼を達成しないと意味が無いと昔怒られまして、3日間口を聞いてくれなかった・・・(泣)」
思い出しただけで泣き始めちゃいました。
「オスカー様この人滅茶苦茶面倒ですよ。どうするんですかあんなに自信満々に任せろとか言ってたのにこれじゃあベイカーを誘えませんよ」
「お、俺に言うなよ。最近アリス嬢ちゃん店の方に出てばっかりで伯爵の相手をしてないって言ってたからな、それが積もりに積もってこうなっちまったのかね」
「あの子を無理やりにでも連れていくというならローゼンクロイツ家が総力を挙げて阻止致します。たとえ陛下であろうと我々は」
「もうお父様いい加減にして!!」
勢いよく開けられたドアからアリスが飛び込んできた。
「オスカー様がこんなに言ってるのにそれを無視するなんて、国家反逆罪で殺されてしまいますよ!それに私は冒険者なんです、依頼を受けるかどうかは私が決めることでお父様たちには関係のないことです!!」
「あ、アリス、だ、だがな、年端もいかない女の子が男たちと何日も旅するなんて危険すぎる。男はみんな狼なんだぞ!パパ心配で心配で」
「一緒に行くのは隼人さんとベイカーさんですよ。隼人さんのことはお父様も信頼なさってるでしょ。ベイカーさんは凛さんの想い人です。私に手を出すような方ではありませんよ。なにより私自身が行くと決めたのです」
「そ、そんなぁ・・・・い、いや駄目だ!お前は冒険者である前に私の娘、娘を守らぬ父などこの世にはいない!」
「お父様お願いします」
ウルウルした瞳で盛大にぶりっ子アピール。一体そんなのどこで覚えてきたのだろう。
「お父様は私のお願いを叶えてはくださらないのですか?」
悲しそうにシュンと俯いてしまうアリス。それを見た伯爵は大慌て。
「そ、そんなわけないだろ。パパはアリスのことなら何でも叶えてやるぞ。もちろんお前のことを尊重してるぞ」
「でしたら私がお二人と一緒に凛さんを助けに行っても問題ありませんね。それじゃあ隼人さんオスカー様、ベイカーさんを誘いに行きましょう!」
アリスに手を引っ張られ物凄い勢いで部屋を出て屋敷から出てしまった。
「アリス、伯爵様あれでいいの?」
「あれ以上あそこで問答をしている時間がありませんでしたので。オスカー様も申し訳ありません、父が不敬な発言をしてしまいまして」
「いやいや、ローゼン・クロイツ伯爵の子煩悩っぷりは貴族の間で有名だからな。ある程度予想はしてたさ。予想以上だったが」
何はともあれアリスの強力を得られたことでアリスからベイカーに依頼の誘いをしてもらうことになった。
「それで隼人さんはどうしましょう?流石にC級依頼にSランク冒険者が同行するのはベイカーさんも怪しむんじゃ」
「ベイカーの奴俺のことSランクの万能だと分かってなかったみたいだし、B級冒険者ってことにでもして話を合わせればいいさ。どうせウエストランドの検問なんかは西城が細工してるだろうし変に勘ぐられるよりもそっちの方がいいだろ」
俺はBランク冒険者として2人に同行していくという設定。依頼内容自体はBランク依頼でギルドに受理してもらうようにオスカー様から根回ししてもらった。あとはアリスと一緒にベイカーを誘いに行くだけだ。
「それにしてもベイカーさんの住居なんてよくご存じでしたね。私は依頼をご一緒することは多かったんですけど、お家まではしりませんでした」
「うん、まぁ、偶然な」
まさか西城がストーカー行為を働いて彼の住居を探り当てたなどとは言えなかった。ベイカーの泊っている宿屋でベイカーを呼んでもらう。
「珍しい組み合わせだな。アリスにしては珍しい奴と組んでるじゃねーか」
薄い部屋着だけで宿屋の受付まで来てくれたベイカー、アリスがいることは知っているだろうに随分と二人とも慣れてるようだ。
「隼人さんには色々と助けてもらってて、今回偶然Bランクの依頼を受けるっていうから勉強のためにご一緒させてもらうことになったの、それでベイカーさんも良ければどうかと思って」
正直これだけでベイカーが頷くとは思ってない。ベイカーを釣る餌はまだまだ用意している。
「ああいいぜ。出発はいつだ?遠出するなら色々買いこまないと手持ちがないぞ」
まさかのあっさりOK。ちょっと肩透かしを食らった気分になってしまった。
「旅に必要な物は俺の方で全員分用意してる。自分の装備や道具だけ準備してもらえれば問題ない。出発はできれば早い方がありがたい」
「ならすぐ用意してくるからちょっと待っててくれ」
ベイカーは立ち上がるとすぐに自分の部屋に戻って準備を始めたようだ。
「なんかあっさりしすぎてて怖いんだけど」
「私もです。ベイカーさん討伐以外の依頼はあまり受けない人なんですけど、今回は依頼内容も聞かずに承諾してくれて、こんなの初めてです」
ベイカーの真意はともかく素直に付いて来てくれることはありがたい。これで後はベイカーを西城の前まで連れて行けば万事解決。
「ウエストランドまでどうやって行くんですか?今から馬車の準備は流石に難しいんじゃ」
「その辺はオスカー様が何とかするらしいけど俺も詳しくは知らないんだよなぁ」
手持ち無沙汰になったのでヒスイのぷよぷよボディをなでなでする。これ実は癒し効果抜群でひんやりした温度とぷにぷにの感触が癖になる。
「待たせたな。それで依頼の内容を聞きたいんだが」
軽鎧に双剣、最低限の荷物が入っている小さなリュックを手にベイカーが下りてきた。
「それじゃあ今回の依頼の説明を」
ヒヒーーン!!
突然宿の前に馬の鳴き声、この宿は中央から離れているので馬車などが止まることがほとんどない。そんな場所にも関わらず複数の馬の鳴き声。不安しかない。
「なんだよこの馬車!」
ベイカーが驚くのも無理はない。馬が3頭で引く大型馬車が宿の前に止まっていた。こんな馬車を使うのは貴族や王族、大商人なんかの金持ちぐらいだろう。
「待たせたな!これを使えば目的地まで最短で」
パチコーン!!
ツッコみを入れずにはいられなくなり、アイテムボックスにしまっていた紙のハリセンでどついてしまった。
「お、お前仮にも王族に向かってなんてことしやがる!あ、でも音の割にはそこまで痛くないな」
「オスカー様!何考えてます!!こんな馬車使えるわけないでしょ。こんなのに乗ってたら金持ち集団で狙ってくださいと言ってるようなもんですよ!!」
「これでも大分小さいものを選んだんだがなぁ」
腐っても王族。この人たちに普通を期待した俺が馬鹿だった。
「アフロディーテ商会に相談しよう。西城を迎えに行くと言えば適当な馬車を貸してくれるだろう。もちろん刺激しない程度にな」
今のアフロディーテ商会は西城が攫われたことで暴動を起こしそうな勢いだ。それでも話を聞いてくれる従業員はいるはずだ。
恐る恐るアフロディーテ商会本部まで来てみたが思った以上にいつも通り。本部の一階は店舗となっており今日も遅い時間なはずなのに大勢の客たちが出入りをしている。
「表から見る限り普通ですね。逆に不気味なくらいです」
「だよなぁ。正直面倒だが、攫われた張本人が何かしら手を打っていると願いたいね」
店舗の受付で話を聞くとすぐに馬車が用意された。なんでも俺がベイカーを連れてきたら用意するように伝言が残されていたらしい。どんだけ用意周到なんだよ。
「なぁ、攫われたのってここの会長なんだろ。あんたとどういう関係なんだ?」
「同郷で腐れ縁ってだけだよ」
これ以上詳しく説明も面倒なので借りた馬車でウエストランドを目指すことにする。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも面白かった、続きが気になる方は高評価コメントよろしくお願いします。




