ウエストランドに向けて
ヒスイのお品書き
ヒスイ「主たちの旅は楽しいなぁ~!美味しいご飯に見たことのない景色!!
本日のお品書き
・強さを求めて
・悪の王子と捕らわれの姫
お姉ちゃんを救うために頑張るぞぉ!!」
道のりはいたって順調。馬を操れるのが俺だけだったため、アリスとベイカーには夜間の見張りをお任せすることにした。二人ともCランク冒険者なだけあって見張りもお手の物らしい、ベイカーはともかくアリスもちゃんと冒険者として活動しているようだ。
「それでもこんな料理を外で食べれることは異常です」
「だよなぁ。普通は干し肉や木の実、狩ができればそれを焼くぐらいしかできないよな」
俺のモットーは食事に妥協は許さない。どんな場所だろうがちゃんとした食事を取らなければ力は出ない。
「そんなこと言われてもこれが俺らの普通だからな。ほら、こっちもできたぞ」
俺が作ったのはチキン南蛮。この世界では手に入らない調味料をふんだんに使ってしまったが、西城の暴走のせいでこんなことになってしまったストレスを発散するために作ってしまった。俺の好物でもある。
「あの、これって唐揚げでしょうか?それにしてはすごくツヤツヤした光沢がありますし、掛かっている白いソースはなんでしょう?」
「これはチキン南蛮って料理だ。唐揚げにさらにひと手間加えてこのタルタルソースで食べる料理なんだ」
揚げたての唐揚げを醤油、はちみつ、酢でつくった南蛮酢にくぐらせ、ゆで卵とマヨネーズ、らっきょうと玉ねぎで作った特製タルタルソースで頂く。本当はピクルスで作るのだが、らっきょうの方が辛みが強く揚げ物にも相性がいい。
「とにかく食べてみろよ。千切りの葉野菜に南蛮酢がからんでうまいぞ」
俺が一口チキン南蛮を食べるのを見て2人も口に運ぶ。口に含んだ瞬間に南蛮酢のさっぱりとした味わいにマイルドなタルタルソースが口いっぱいに広がり、一口噛めば唐揚げの肉汁が洪水のように押し寄せてくる。
「やっぱりいいよなぁ。手間はそれほどだけど、こっちだと手に入らない調味料ばっかり使ってるから店だと出せないんだよなぁ」
醤油やお酢はこの世界でまだ流通はしていないし、お酢を使うマヨネーズも当然この世界には存在しない。これらをちゃんと流通させればもっと調理の幅が広がるのだが、ネット通販で頼むととてもじゃないが高すぎて手が出せない。特に借金を背負ってからはネットで購入するものは最低限にしている。今回使ったのは昔購入してアイテムボックスに入れてあったものだ。
「とても不思議な味わいですね!噛めば噛むほど色々な味わいが口に広がってとても楽しいです」
「こんなにうまい料理があるんだな。さすが賢者と呼ばれているだけはある」
「その呼び方止めてくれないか。俺自身賢者と名乗ったことはないし、隼人で構わない」
「そういえば前にもそんなことを言っていたな。それなら隼人と呼ばせてもらう」
「そうしてくれ。ところでベイカーは女性が苦手だったはずなのにアリスとは大丈夫なのか?」
「流石に子供なら平気だ。それにアリスは他の女たちと違って俺に対して変な目を向けたりしないからな」
女性嫌いなベイカーなのにアリスと仲がいいのはちょっと不思議だったが、なるほどアリスは同業者に特別を作る気はないと言っていたのを思い出した。
「それにこいつの兄貴や親父さんが怖ぇ」
それにも大いに納得。今回アリスを連れ出すためだけに国家を敵に回したほどだ。アリスが大事なのは分かるが過保護すぎにも程がある。
「お父様もお兄様も例の事件があってからさらに過保護度が増した気がします。私としては肩の荷がおりたようでスッキリしてるのですけど、お二人とも何かにつけて危ないと言って私を見張ってます」
うんざりといった表情をしたアリス。こんな顔を見たら二人とも泣き崩れるだろうけど、自業自得だ。
「まさか今回の旅にも監視つけてないだろうな!」
不安に思い魔力感知で周辺の魔力を確認する。2人とも魔力量が多いからちゃんと探れば嫌でも見つけられるだろう。
「ひとまず見張りはいないみたいだな。逆にあの2人が監視も無しによくアリスの旅を許したよな」
「そこはちゃんと言い聞かせてますので。次仕事を放り出して私に付いて来ようとすれば家出しますよって」
だから伯爵は旅に出る前に止めようとあんなに必死だったんだな。
「それより隼人、お前に頼みたいことがある」
突然ベイカーが真剣な表情で俺に頼み事をしてきた。
「あんたが高ランクの冒険者なのは理解している。グラトニースライムをテイムしているうえに魔の森に住む賢者とまで言われたあんただ。もしかしたらSランク冒険者の誰かってのもあるかもしれねぇ」
めっちゃ鋭い!!せっかくBランク冒険者って設定作ったのに全くの無駄だった。
「おっしゃる通り、俺はSランク冒険者“万能”だ」
「今更驚くことはないが、面と向かって言われると雲の上の存在と会った感覚だ。そんなあんただからこそ頼みたい。俺に修行をつけてくれ。今回の依頼に同行したのもあんたに修行をつけてもらおうと思ったからだ」
ベイカーがやけにあっさり同行を承諾したのはこれが理由だったのか。確かに強さに固執しているようだから強者の教えを乞いたいのは分かるが、俺の場合。
「申し訳ないが、俺ではベイカーの相手はできない。第一に俺は術者であって剣士じゃない。前衛職の教えはできないし、剣技も多少ならできるがベイカーの方が上だろう。第二に俺の戦い方は魔力に依存してるところが大きい。俺が他より優っているものは人より多い魔力量しかない。それ以外は苦手なものがないってだけの器用貧乏にすぎない。第三に俺の本領は集団戦。そして一人でも強力な前衛をテイムしている点だ。魔獣契約は運の要素が強い、魔獣の相性と人間の相性が良くなければ契約なんて結べないからな」
俺の強さは全てチートスキルの賜物だ。膨大魔力による人より多い魔力と自動回復による尽きることのない魔力。魔獣とも話ができるため一般的な従魔契約を必要としないなどなどだ。
「どれもこれもベイカーが強くなるために必要なものとは思えない。俺とお前では立っている土俵が違いすぎる」
「それでも俺は強く、強くならないといけないんだ!」
必死に訴えかけられても俺に教えられることは本当にない。今回の依頼のために付いて来てくれたので力になってあげたい気持ちはある。だが、俺にできることなど高ランクの前衛職を紹介するぐらいしかできない。ベイカーに簡単な付与魔法を教えることはできるが、正直身体強化のスキルを持っているなら不要なレベルだ。
「主様、ベイカー様に足りないものを素直に教えて差し上げてはいかがです」
ずっと沈黙をつらぬいていたハクトが馬車からぴょいっと地面に着地する。
「ベイカー様はまず魔力の底上げからですわね。主様から伺ったところ魔法武装を使えるとか、それがあなたの切り札ならば発動時間と持続時間をあげるために魔力の底上げ、次に体力や力、最後に剣技などの技術面でしょうか。はっきり言って基礎の土台もできていないのに強さを求めても自滅するのが関の山ですわ」
「魔力の底上げぐらいなら俺が教えれるからまずはそこからだな」
「・・・・・分かった」
強くなるために近道など・・・・・・あるにはあるが、扱いきれなくて宝の持ち腐れになる可能性の方が強い。俺だって貰ったスキルの半分も使いこなせていない。きっとベイカーの求めていた答えはこんなことではない。だが、専門家でない俺が教えれることなんてかぎられている。
俺はウエストランドに着くまでの間ベイカーの魔力の底上げ訓練を続けた。やってることはいたって簡単、魔力は筋肉と同じで使えば使うだけ最大魔力量が上がっていく、毎回限界まで魔力を絞り出してもらう。ただ放出するだけでは魔力が勿体ないので魔力を蓄積できる特殊な石にベイカーの魔力を貯めていく。ただこの石大変貴重なもので俺でも数個しか手持ちがない。蓄積できる魔力の総量自体はかなり多いので一つで数日分の訓練には使えるのだが、溜まった魔力の使い道が思いつかない。
「お姉さまでしたらよろこんで買い取ってくださると思いますけど」
「確かに」
魔力も指紋と一緒で誰一人として同じ波長の魔力は存在しない。大好きなベイカーの物だと言えばあいつは金を惜しまないだろう。むしろこれで俺の借金がなくなるかもしれない!
数日の馬車の旅だったがベイカーの鍛錬以外特に何もなくウエストランドの帝都に到着した。
「問題はどうやって中に入るかですね。王国軍でも潜入は出来なかったようですし、中から手引きしてもらうこともできませんよ」
「いや、多分問題ないだろう」
俺は何の迷いもなく帝都門へと向かい帝都に入る列に並ぶ。
「ちょっと隼人さん!こんな堂々と中に入れるわけがないじゃないですか!」
「アリスは西城を分かってないな。あいつのことだベイカーの身分証を見せればすんなり通してくれるだろ」
その予想は大当たり。門番がベイカーのギルドカードを見るとまるで貴族待遇かと言わんばかりに丁寧な対応をされた。
「王城までの道は空けておきましたのどうぞお通り下さい」
門番の中でも特に大柄な中年の男性が頭を下げる。おそらくこの門を管理している軍の隊長かそれに近い人なのだろう。彼に言われた通り道を進むと王城へ続く道に全くの障害物がなく、町の人々は誰もその道だけ歩いていない。
「なんだこの異常な光景は・・・」
門から王城まで一直線なのだが、その一直線の通りだけ人っ子一人いない。だが左右をみれば町の人たちは何事もなかったかのように生活をしている。
「あの、これってどういうことなんでしょうか?私たち歓迎されているように見えます」
「なんで誘拐した奴を助けに来た俺たちが歓迎されるんだよ。明らかに罠かなんかだろ」
いやおそらく違う。西城のやつ、ウエストランド王家を完全に自分の手ごまにしてやがる。どんな手段を使ったかまでは分からないが、この町、いやウエストランドという国自体西城の手中に収まっていることだろう。だが、そんなことを2人に説明しても信じてくれるわけがない。うん、諦めよう。
「多分大丈夫だ。罠だろうがなんだろうが俺がどうにかしてやる!!」
任せろといって無理やり前へ進む。もちろん罠なんてあるわけがない、だが二人とも常に臨戦態勢で緊張感が伝わってくる。本当にごめんなさい!そんなに身構えなくてもこんな往来で西城がベイカーに危害を加えるわけない!!
王城の前までなんの問題もなくたどり着くと王城のテラスにウェディングドレス姿の西城とやたら豪華な衣装を身に着けた青年が立っている。
「よく来たな!凛姫を取り返したくばこの城の最上階まで登ってくることだ!!だが、中には様々な罠が張り巡らされている。貴様らに真の愛があるのであれば、私から凛姫を取り返してみるがいい!!」
「ああ、私のために皆が危険にさらされるくらいなら私が生贄となりましょう!勇敢なる者たちよ、どうか私に構わずお逃げになって!」
どーしよ、三文芝居にも程がある展開だ。しかも悪役の青年が棒読みだし、相方の西城は迫真の演技すぎてバランスが悪すぎるしでツッコミどころしかない!!
「あれが捕らわれの姫なのか?生贄とか言ってるけどヤバいんじゃないか!」
ベイカーも素直に西城のセリフを受け止めている本当に素直な子だ。
「もうお家帰りたい」
「気持ちは分かりますけどしっかり姫を助け出してください。ほら中に入って来いって門が開きましたよ」
唯一まともなアリスがいてくれることだけが救いだ。ベイカーとヒスイは姫(西城)を助けるためにやる気満々。城の最上階ではいまだに三文芝居が続いている。ハクトなんてウエストランドに入った瞬間に紅の家に戻ってしまった。「なにか面白いことが起きましたら呼んでください」と言い残して。
「でも王城で一体何をさせるつもりなのでしょうか?」
「あいつの手紙にあった試練じゃねーかな。この国の奴らが作ったなら何の問題もないが西城が手を貸してたら物凄く厄介だぞ」
西城には店構築というスキルがある。このスキルは自分が店と定めた建物を好きなように改造することができる。もしこの城を店と認識してしまったら、そこまではいかなくてもあいつのことだから罠や仕掛けの類は嫌らしさの塊を押し付けてくるに違いない。
「落とし穴とか巨大鉄球とかの一般的なトラップだといいんだけどなぁ」
「トラップに一般的なものなんてあるんですか?」
アリスは知らないかもしれないが、ダンジョンのトラップお約束というものがある。落とし穴や鉄球なんかはその最たる例だろう。
「とにかく中に入るぞ。大方のことなら守ってやれるが、各々自己防衛はしっかりな」
ダンジョン“愛の試練”への挑戦が始まった。
なにこの名前?!
お読みいただきありがとうございます。
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