Sランクパーティー昇級試験
ヒスイのお品書き
ヒスイ「人はなんで体を細くしようとするんだろう?大きい方が得なのに!
本日のお品書き
・ダイエット
・円卓の騎士
ヒスイはスマートにもボンキュボンにもなれるよ!!」
前回の昇級試験同様試験内容やルールを再確認して正式に依頼を受理したのだが、ここで一つ問題があった。
「主様、その、大変言いにくいんですが、お体の方は大丈夫でしょうか?」
「体?」
「いえ、その最近少し丸くなったように思いまして・・・・」
ハクトに言われて急いで自分のステータスを確認する・・・・・酷かった。
ステータスは魔力以外軒並み6割減。ここ数週間鍛錬や魔物相手に戦っていなかったことが原因だ。仕事に追われ、家に帰って従魔たちのご飯を作るとすぐに寝ていた。家事は料理以外ユーリが担当してくれているので問題ないが、現実のブラック会社勤めのサラリーマンみたいな生活だった。
身体が鈍ればステータスは落ちる。今でもこの世界の一般から見たらステータスは高いものを維持しているのだが、筋肉が落ちて脂肪になっているのだろう。つまり太った!!
「今の状態ですと現役冒険者に体力的に負けてしまう恐れもありますわよ」
太ればもちろん体力を多く消費する。いくら人並み以上の体力があったって消費が多くなってしまっては本末転倒だ。
「た、鍛錬しないと!!」
この日から俺の特訓が始まる。
基本ダイエットには運動と食事制限。だが食事制限は俺にとってストレスでしかないので、運動を増やす。コクロとハクロとの模擬戦に加え、コクロのお散歩(ダンジョン探索)にもつき合って森を走り回る。付与魔法で体の付加を上げてより自分を追い込んでいく。
「はぁ、はぁ、はぁ、やっば、これ辛い・・・・」
いきなり運動量を増やしてしまい体への付加が半端いないことになっている。自動回復のスキルがあるので倒れることはなかったが、精神的にもかなりつらいものだった。
「俺としては楽しいくらいだけどな!こう自分の体をイジメる感じが燃えてこないか!!」
ダイエットに付き合ってくれているアモスさんはとってもいい笑顔。スキル“マゾヒズム”の影響で辛い鍛錬も楽しさに変わってしまうアモスさんはやっぱり生粋のドМなのだろう。しかもこの状態になってくると暑苦しさも倍増。
「そんな爽やかな笑顔で暑苦しいこと言わんでください。こちとら日々筋肉痛に悩まされてるんですから」
身体を酷使した結果筋肉が悲鳴を上げている。魔法で能力を上げてはいるが筋肉自体が成長しているわけではない。強い付与魔法を掛ければ掛けるほど体への負担が大きくなり、一定を超えれば壊れてしまうのは当たり前だ。逆を言えば、体さえ耐えられればいくらでも付与を重ね掛けできるということ。
「今が2重の付与ですけど、これでここまでの筋肉痛ならあと数日はこの付与を継続ですね。試験本番までに間に合えばいいんですけど」
試験自体は2週間後。王都の店はすでに俺なしで営業を始めているので、俺の仕事は営業前の仕込みの手伝いや新メニューの相談。営業後の売上の計算や残り食材のチェックなどだ。それ以外はほとんど鍛錬などに当てている。
「普通ならあの体型からここまでにするのにも1か月はかかるんだけどな。やっぱ隼人はすげぇな!!」
これも全てチートスキルの影響だろう。だが、怠ければ怠けるほどいくらチートスキルがあってもステータスは下がり、体に影響が出てくる。
「とにかく体を元に戻して、戦闘の勘を取り戻さないと」
よくよく思い返してみるとここ最近は魔力でのごり押しばかりで本格的に戦闘をしたのはローゼン・クロイツ伯爵とトライドル婦人と模擬戦をして以来だ。あれからすでに数か月、体が鈍っても仕方がないと反省をする。
それから時間の許す限り模擬戦や戦闘を繰り返し、なんとか試験当日までにステータスを元に戻すことができた。ちなみに一緒にやっていたアモスさんはまた一回り大きくなったようだ。それだけでどれだけの運動量をこなしてきたか分かる。
「お前この2週間でそこまで体型が変わるって異常だぞ」
2週間ぶりに訪れたギルドでギルマスからの第一声。
「自分でもよくやったと褒め称えたいぐらいですよ。運動不足気味だったとはいえ、少々やりすぎました」
元の世界ではありえない運動量をこなし、たった2週間で体型を元に戻すなんて普通ならできない。いや、この世界でも難しいだろう。
「俺としちゃ冒険者であんだけ太る奴も珍しいと思うがね。体が資本の俺たち冒険者なんだから少しは気をつかえよ」
好きで太ったわけではないのだが自分の管理不足もあるためなにも言い返せなかった。
「そんで今日昇級試験を受けるパーティーなんだが、もう地下の練習場で待機してる。お前らの準備がいいのであればすぐにでも始めたいんだが」
もちろん準備は万端。地獄のような2週間の減量の成果を見せてやる!
「っとその後なんだが、お前らのパーティー加入希望者と一戦やってもらいたいんだが」
「「はぁ!!」」
俺とアモスさんが同時に叫んでしまった。
「試験監督の後でやるのか!それはいくらなんでも急じゃないか」
アモスさんの最もな意見に「そうだそうだ~~!!」と相槌をうつ。
「俺だってこんな急にやるつもりなかったんだよ。お前ら、特に隼人は全く捕まんねぇからギルドにいるときに一遍に用事を済ませようとしたらこうなったんだ」
確かに俺たちの活動しているところは魔の森だ。ギルマスといえど冒険者がどこでどんな活動をしているかすべて把握しているわけではない。特に高ランク冒険者はその能力ゆえに思いもしらないところで活動していることもある。
「嫌だったらもう少し頻繁にギルドに顔をみせやがれ。最近じゃアモスもあんまりギルドに来ねぇから仕方なくだ」
アモスさんも魔の森でオケアノスと修行をしている時間が多いためどうしてもギルドに行く時間が前よりも減っているようだ。
「そう言われると頷くしかないけどどうするか・・・・」
「俺が相手してやってもいいぜ!」
悩んでいたところで今日の同行者であるコクロが尻尾を振りながら答えた。
「珍しいなお前が人相手に遊びたがるなんて」
「どうせ試験ってのには俺は出れないんだし、せっかく来たなら人間どもがどれほど力を付けたか確認してやろうってな」
めっちゃ悪い笑顔を浮かべてますうちのワンコ。ここ最近は俺の相手をしてもらって手加減も大分うまくなってきてるから死ぬことはないだろう。
「おい、大丈夫なのか?フェンリル相手なんて死にに行くようなもんだろ」
「うちの子お利口さんなので手加減ってのを最近覚えてくれたんですよ!それにパーティーメンバーを増やす気ありませんから」
正直これ以上パーティー関係で面倒ごとを増やすつもりはない。今いるメンバーで十分。というよりこれ以上増えても管理しきれません。
「それならいいが、試験も含めてお前らちょっとは加減をしてくれよ」
ギルマスは心配してくれるが、俺だって色々と経験してきた上位ランクの冒険者だ。空気ぐらい読める。
「うぉぉ!!マジであの二人が一緒にいる!!!!」
「アモスさん今日も素敵!!」
「兄貴!!俺をパーティーにいれてくれ!!!!」
前言撤回、空気を読めなくていいからこの場からすぐに立ち去りたい。
「おお!!すごい観戦だな。見学用の席が埋まってるどころか入口が人でいっぱいになってる」
地下訓練場には見学用に席が設けられている。だがコロシアムのように観戦がメインではないため、あるのは20席ほど。それでも見学用のスペースには人が溢れかえっている。
「隔離結界」
さすがに耐えられなくなったため訓練場に結界を張った。観客(野次馬)たちを結界の外に出し、必要な人だけを中に残す簡単なものだ。
「なにも隔離までしなくてもよかったんじゃ」
「あんな五月蠅い中で試験なんてやってられるわけないでしょ。俺たちを見世物かなにかと勘違いしてるんじゃないのかね」
結界に残ったのは俺たち試験官組と受験者男女4人、ギルマスとあと観客席に数人。おそらく俺の隔離結界をすり抜けてきた奴らだ。それをできるだけで正直Aランク相当の実力があるんじゃないかと思う。
「それじゃあ改めて自己紹介だ。俺はSランク冒険者中条隼人、そんで相棒はスライムのヒスイ」
「( `・∀・´)ノ」
「俺は隼人とパーティーを組んでるアモス冒険者ランクはA、相棒はシーキャットのオケアノスだ」
「にゃ~」
「円卓の騎士のリーダーシュバルツです。冒険者ランクはA」
「同じくノーブルよ。冒険者ランクは同じくA」
「ヒプノスだ。万能がお相手してくれるとは光栄だな」
「もう、ヒプノス失礼よ。私はマリナよろしくお願いします」
装備や武器を見る限り前衛にシュバルツとヒプノス、中衛にノーブル、後衛にマリナといったフォーメーションだろう。なかなかバランスがとれたパーティーだ。それにしても男女4人のパーティーってことはこいつらもしかしてカップルでパーティー組んでるのか?俺としては真面目なシュバルツと強気なヒプノスコンビ、クールなノーブルと礼儀正しいマリナこのカップリングの方が美味しい。
などと考えているのをヒスイに感づかれてしまった。触手を伸ばして俺の頭をビシビシと叩いている。これは失礼。
気を取り直して今回の受験者たち“円卓の騎士”に今回のルールを説明する。
「まず試験内容だが、俺たちセブングリードと模擬戦。こっちは従魔含めて4体で相手をする。もちろん死ぬような攻撃や後遺症が残るような攻撃はNGだがそれ以外は特に決まりはない。アイテムも魔道具も全て使って構わないが、危険なドラックの類は冒険者としてというより人としてダメなので問答無用でアウト。勝敗の有無での評価ではなく、あくまで戦闘レベルを計るためのものだと思ってくれ。俺からは以上だけどアモスさんからはなにかあるか?」
「そうだな、訓練場から外に出るのはアウトにするか。行動範囲はあくまで訓練場のフィールド内、時間は30分ってとこか。それより前にパーティー全員が戦闘不能になるかフィールドから出たら終了ってことでどうだ」
俺の説明とアモスさんからの補足で納得したように円卓の騎士の面々は頷く。
お互いに距離をとって作戦会議。俺たちの方は特に話し合うこともないのでお互いの従魔と戯れているだけ。相手からしたら「お前ら相手に作戦なんて必要ない」と挑発しているようにとられるかもしれないが、お互いの役割をしっかり理解していれば作戦なんて立てる必要はない。それに戦いはすでに始まっている。今更用意しているようじゃ準備不足といわれてもしょうがない。
「俺たち相手ってのは事前に伝えてるよな。今更作戦のおさらいか?」
「隼人が思ってたのと違うから混乱してるのかもな。今日はあの面付けてこなかったんだろ」
幻影の仮面であらぬ噂がいろいろ立ってしまっているので当分はあの面を付けることをやめた。
「また噂をうのみにされてたら本当にヤダ!ってかアモスさんもなんでそんな噂があるの教えてくれなかったんだよ!!」
「お前気にしないと思って」
「そりゃ他人の言ったことなんて気にしないけど、世間の評価があらぬ方向へ行ってるなら訂正するだろ!なんだよ絶世の美男子って!!」
「どっちかと言えば隼人は可愛い顔だもんな。美男子のもいいが、可愛い方が似合うと思うぞ」
相変わらず歯に衣着せぬ物言い。これはさすがに俺が恥ずかしくなってしまう。
「な、なに言って!!」
「あ、あの、お待たせしました・・・・」
そんなやり取りをしていると円卓の騎士のリーダーシュバルツが声を掛けてきた。どうやら作戦会議はとっくに終わっていたらしい。
「あ、ああすまん。それじゃあ始めよう」
ちなみこの時紅の家にいたハクトがコクロの目から今の光景を覗いており身悶えしていたことは言うまでもない。
戦闘はなんの合図もなく始まる。俺が相手の視界を遮るように霧のエンチャントを発動させると後方で待機していたマリナが懐から透明な水晶を取り出した。
「全ての効果よ消え去れ!」
水晶を地面に叩きつけると俺が発動させていた全ての付与魔法が解除された。あの水晶はおそらく霧払いの水晶。ダンジョンで見つかるマジックアイテムの一つで、水晶を割ると半径数キロメートルで発動している変化魔法を解除するというもの。使い捨てのわりに攻撃魔法には対応できないのでハズレアイテムと呼ばれているが、俺にとっては最も相性の悪いアイテムだ。
「やってくれるじゃん!」
解除されたのなら再度展開するだけ。だがそれを許してくれるほど相手は甘くない。
「雷月輪!!」
「疾風双斬!」
「光破槍!」
雷を帯びたチャクラム、風をまとった双剣、光り輝く槍が俺めがけて襲い掛かってくる。
「おっと!!」
もちろんそう簡単に攻撃が通るわけがない。3方向からの攻撃をアモスさんの盾が全て弾く。
属性も武器も違う3つの攻撃をいっぺんに防ぐにはかなりの技術が必要とされる。その辺りアモスさんの技術力の高さが伺える。
「アモスさん20秒頂戴」
「おう!城塞壁!!」
アモスさんが地面に盾を叩きつけると俺たちと円卓の騎士たちの間に天井まで届く土壁が現れる。
「にゃーー!!」
さらにオケアノスが土壁に氷の息吹を当てると壁はより強固なものに変わる。壁向こうでは壁を壊そうと物凄い音が聞こえるがこの壁はそう簡単には壊れない。その間俺がやることはアモスさんの身体強化。だがいつもの「春の息吹」ではない。ここ数週間で俺が会得した新しい強化魔法。自分の肉体に負荷を掛けることで筋肉の動きやどういう負荷を掛ければ効率がいいかを学ぶことができた。ようはそれと逆のことをすればいい。
「筋力強化、持久力強化、瞬発力強化、柔軟性強化、敏捷性強化、魔力強化」
もっと細かくアモスさんの体に強化魔法を付与する。結果として春の息吹以上の身体能力強化に加え、術で無理やり強化した反動も軽減される。
「すげぇな、これまでの強化魔法とは別格だな」
「その代わり発動まで時間は掛かるし、対象の体内構造を熟知してないと無理、おまけに対象は一人と使いにくい魔法ではあるけどね」
数日前にアモスさんの体を隅々まで調べさせてもらった。ハクトはずっと妄想が止まらないようで悶えていたがそういう意味合いで調べたわけではなく、筋肉の動きや大きさ、可動域などどのある程度相手の体を知る必要があった。
「まぁ傍から見たら男の体をじっと観察する変態なんだけど・・・・・確か整体師もののBLでそんな展開もあったような気が」
などと考えていると土壁が壊された。強化魔法は発動済み、なら俺がやることは強化魔法を剥がされないように警戒することと有利な環境を作ること。
「マリナ、もう一度霧払いの水晶!!」
土壁で断絶されていた間に付与魔法を施していると瞬時に判断された。いい判断だが一手遅い。
「柔化」
水晶を割る一番手っ取り早い方法は地面に叩きつけること、地面に落ちる前に水晶周辺の空気の属性を変化させる。
「わ、割れない!」
「叩き割れ!!」
こちらも判断が早い、地面に落として割れないなら何かで叩き割ればいい。もちろん物理障壁を水晶に展開したので後衛職の女性が割れるわけがない。それにそっちに意識を向けていると。
「攻撃の手が緩くなってるぞ」
身体強化したアモスさんのスピードとパワーには誰も追いつくことができなかった。3体1にも関わらず圧倒している。大盾でノーブルを吹き飛ばし、オケアノスが作り出した氷塊がシュバルツとヒプノスを近づかせない。
「食らいやがれ!!」
距離があったがヒプノスが懐から何かをアモスさんに投げつける。赤い魔石がチラッとみえたのでおそらく爆発系のマジックアイテム。結果は正解、アモスさんは盾で弾いたが盾に触れた瞬間に爆発。土煙でアモスさんが見えなくなる。
「やったか・・・」
それフラグ。
「なかなか面白い道具を持ってるようだが、その程度では効かんな」
なんとアモスさんは無傷。いや、正確に言えば無傷ではない。肩に乗っているオケアノスの前足に軽い焼けどの跡がある。
「従魔がダメージを肩代わりした?!」
「それだけじゃねーな。あの猫傷がどんどん塞がってやがる」
リヴァイアサンの加護が与える能力は回復。この世界には回復魔法が存在しない。それは女神グランディーネの加護が無くなったからだと言われている。だが聖獣たちは神がこの世界に現れる以前から存在していたとされている。つまり神の加護で魔法を使っているわけで、回復魔法が使えるのも当然らしい(ハクトより)。
さらに従魔契約には双方のダメージを肩代わりするという技もある。俺はほとんど使ったことはないが、本来は体力が高い従魔を盾替わりにする技らしい。結構残酷な使い方だと思いこれまで使わなかったがアモスさんがこんな技を使うのは以外だった。
「っふっふ、残念だが肩代わりの秘術ではない。俺たちが使っているのは感覚共有、アノスのダメージを俺にも共有する技だ!!」
あ、違った。アモスさんオケアノスの攻撃分のダメージすらも感覚として共有してマゾヒズムを発動させてる。つまりどちらに攻撃してもダメージは共有せれる。ついでに言えば回復も共有される。
「アノスの回復と俺のスキルでこれまで体力の限界までしか快楽を味わうことができなかったが、これで思いっきり楽しめる!!」
ヤバい、味方なのに目の前に恐ろしい怪物でもいるような感覚。
「あ、アモスさん、ほどほどにしてくださいね」
今現在アモスさんの身体強化はほぼマックス、これ以上はアモスさんの体が持たない。だが、マゾヒズムは体の限界すらも超越して力に変えることができる。もちろん使いすぎれば壊れてしまうのだが、オケアノスが常に回復魔法を施している。本当に体が爆散でもしない限り力は増していくだろう。本当に恐ろしい。
「心配無用だ。これぐらいの攻撃ではまだまだ足りん!さぁ、もっと強い攻撃を俺に向けてこい!!」
大分テンションが上がりまくっているご様子。あの状態になったアモスさんに何を言っても聞かない。せめて相手が手遅れになる前に止めるように努力しよう。
「アモスさんが変貌してきたな。ああなると痛みとかでひるんだりしなくなるし、攻撃を当てれば当てるだけ強くなってく。アモスさんへの攻撃は最低限にとどめて、動きを阻害することに集中しよう。ノーブルまだ行けるか?」
「さっきので左腕をやられた。アモスさんと近距離戦は無理だね。霧払いの水晶であの状態解除できないのかい?」
「霧払いの水晶は残りあれだけ、隼人さんの物理障壁で手だしができない。多分シュバルツとヒプノスが二人で数分間攻撃すれば障壁を壊せるだろうけど」
「そんな暇はないな。ならアモスさんは俺が抑える、その間にノーブルとヒプノスで隼人さんを倒す。マリナは俺をサポートしながら隼人さんの付与魔法に警戒」
短い作戦会議、その間わずか十数秒。ちゃんと不測の事態にも対応できてるみたいだし、なかなか評価は高そう。作戦通りシュバルツが一人でアモスさんと対峙しているが、あの状態のアモスさんを一人で抑えられるか?
「双旋風!!」
車ぐらいある竜巻が2つ俺に向かって飛んでくる。魔力障壁でガードするが竜巻の中からヒプノスが現れる。振り下ろされた双剣を棍で受け止める。
「危ないことするねぇ。下手したら怪我だけじゃすまないよ」
「不意でも突かないとあんたには勝てそうにないんでね。ノーブル!」
俺の動きが止まっている今がチャンスと4枚のチャクラムが向かってくる。ヒプノスもろとも俺にダメージを与えるつもりだろうがここにはもう一匹いるのを忘れている。
「(≧▽≦)!!」
腕輪に擬態してたヒスイが楽しそうに触手でチャクラムを叩き落とす。だがそれも想定内だったようだ。
「雷陣」
地面に落ちたチャクラムは帯電するとお互いを雷の線が繋ぎ四角形をつくる。
「悪いが俺と我慢比べといこうか」
四角で囲まれた内部で物凄い雷が降り注ぐ。魔法障壁である程度は防げるが、武器同士が密着しているためヒプノスに流れている電流が俺にも流れてきている。痛みとしては針で体中を刺されているようなものなので長くは耐えてられない。
「ヒスイ食え!!」
ヒスイは魔法の核となっているチャクラムの一つを体に取り込むと美味しそうに消化した。
「嘘!!」
「こいつ、ただのスライムじゃねーな」
俺と違い雷が直撃したはずのヒプノスは所々肌が焦げているが特別ダメージを負っているようには見えない。その代わりに彼の懐から焦げた紙切れが地面に落ちる。
「電雷の護符か。なるほど霧払いの水晶といい君たちの中に相当腕がいいアイテムマスターがいるんだな」
マジックアイテムは物に魔力を込めて作られた道具。魔道具との違いは核に魔石を使用しているかしてないかの違いだけらしい。そのマジックアイテムを作り出し、アイテムの力を十二分に発揮できる者のことをアイテムマスターと呼ぶ。俺の付与魔法にしてもさっきの雷の技も護符や水晶で無効化できるようなものではない。だが実際には無効化されていることを考えればおそらくメンバーの一人がアイテムマスターなのだろう。
「二人とも離れて!!」
そしてそれは常に後方でアイテムを使用しているマリナ。足元に転がってきたのは赤いボール。確か爆裂弾って呼ばれるマジックアイテム。小さな爆発を起こすだけのアイテムなのだが、アイテムマスターの手にかかれば火の上級魔法ともいえる火力がでる。
「爆裂弾でこの威力はすごいな」
だが俺には鉄壁のヒスイちゃんがいる。さっきは肉薄していて雷は防げなかったが、相手と距離さえあればヒスイの防御は破れない。
「あのスライム魔力の類が効かないうえに、金属も溶かす溶解液、伝説のグラトニースライムかってぐらい突破方法が思いつかない」
そのグラトニースライムなんだよ!とは言えない。
「それじゃあ定石通り狙いに行くか」
フィールドに霧を付与させる。ただし、いつもの目くらましの霧じゃない。
「は、隼人さんが増えた!!」
ミスティーミスト、霧に幻覚効果を付与した魔法だ。正確にいえばそんな名前の魔法を付与魔法で再現しているだけだ。空気を属性変化、さらにそこに幻覚効果をエンチャントと実に面倒な手順と多くの魔力で使用している魔法で、集団戦ではこういった魔法が効果的だ。複数の俺の虚像で相手をかく乱する。
「待って!今風で霧を吹き飛ばす」
マリナは鞄から風のマジックアイテムを使用しようとしたようだが、声をあげるということは居場所が敵にもバレるということ、つまり。
「これでゲームセットだ」
居場所を突き止めたマリナを拘束の付与で動きを封じる。声を聞かなくても魔力感知で居場所は分かっていたが、あえて感知系能力を使わずにマリナの居場所を探り当てた。俺で出来るということは歴戦の冒険者なら大体できるということ。
同時に一人でアモスさんの相手をしていたシュバルツも地面に倒れる。荒い呼吸を繰り返しているところを見ると体力の限界になったようだ。おそらくアモスさんは防戦に徹してシュバルツがどれぐらいまで動けるか見極めたかったのだろう。
「そんなもんでは俺を満足させられんぞ!骨を折り、肉を断つほどの攻撃でないと俺は満足できん!!」
違った。アモスさんはただ楽しく攻撃を受けていただけだった。
「さて残り二人、一人は左腕負傷、一人は軽減されていたとはいえ雷撃の直撃、その状態で俺たちを相手にするか?」
もちろん円卓の騎士は降参を宣言するしかなかった。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも面白かった、続きが気になる方は高評価コメントよろしくお願いします。




