7つの大罪
ヒスイのお品書き
ヒスイ「お姉ちゃんが絵本を読んでくれるの!!前までは意味がよく分からないところがあったけど今はとっても楽しいの!
本日のお品書き
・セブングリード
・Sランクパーティー
でも時々分からない内容があるの鬼畜眼鏡攻めってなんだろう?」
その後紅葉亭は変わらず大繁盛。とりあえず一週間日替わりの定食を作り続け、料理組も一通り作れるようになったので、作る分には問題なくなってきた。2交代制にしたことで、余裕も出てきて初日のように倒れることもなくなったのだが、ここで更なる問題が発生。
「休みが取れないわね」
今この店の人員はギリギリの人数で回している。当初の予定ではキッチン組とホール組でそれぞれ1人ずつ休みをとっていくスタイルだったのだが、予想以上の集客でどちらも1人でも抜けると回らなくなってしまう。接客組はオスカー様が臨時で来てくれる日には1人分余裕が出るが、それもいつ呼び出されるか分からない人を基準にしてはダメだ。あくまで助っ人なので接客組の常駐組とカウントしてはいけない。それはアリスにもいえることで、彼女は護衛として雇われている。毎日店の手伝いばかりさせていてはギルドに依頼した仕事と異なって契約違反になってしまうので、彼女が店を手伝えるのは週で4日だけ。結果双子とハイネは常に働いている状態になってしまった。
「人を増やすか、定休日を作らないと駄目ね。この場合どちらがいいかしら?」
簡単なのは人を増やす方だろう。正直この店の味を知りたい料理人や人気にあやかりたいと考える従業員が結構いる。募集を掛ければすぐにでも適任者は見つかる。だが、今ここで働いているメンツは西城が厳正に下調べをして問題ないと判断した人たちだ。料理人に関しては一定以上の料理スキルと人柄。接客に関しては礼儀作法や一定の知能レベルが必要とされている。ぶっちゃけ西城がOKを出したのがハイネとオスカー様だけだからな。ハイネは前世の記憶があるため、この世界での知能レベルは高い。オスカー様も王族だけあって料理の説明や礼儀作法の覚えはよかった。アリスに関しては本業が冒険者なため、免除されているところが多いが本店からカイとリーナを呼んでいることから、西城の合格基準に達するものがいなかったのだろう。
「お前が合格を出す人材がまだいるのかが不安だが、人を増やした方が良いんじゃないか。今後店を大きくするにしろ、店舗を増やすにしろ今から人材育成をしたほうがなにかと便利だと思うけどな」
「そうね。だけど接客はともかく、料理に関しては条件が厳しくせざるを得ないのよね。誓約魔法でいくら口外できなくしたりしているとはいえ、技術やレシピを自分のものにしたらそのままとんずらしちゃうような輩だっているわけだし」
かつて西城が開発した魔道具や薬のレシピを覚えた弟子が他国に逃亡したことがあった。もちろん全て西城の名で登録されているものだったため、西城の許可がないかぎり商売には使えないのだが、逃げた弟子はその薬や魔道具を自分なりにアレンジして販売をしていたそうだ。ただ、薬も魔道具もちゃんとした試験を繰り返し安全だと保障されなければ商品として出すものではない。それなのに弟子はろくな試験もせず薬を販売。結果数十人の人から拒絶反応や体調不良を訴える人が現れたらしい。結果弟子は国家を陥れようとした罪で捕らわれ死刑となった。
「私やあんたみたいな技術職の場合ただ教えればいいだけじゃないからね。教えた後のことまで面倒をみてこそ責任がある。だから厨房に立たせる人はちょっと厳しめに選んだんだんだけど」
「分かってるよ。なにより自分たちが広めた薬や料理で死人とか事故を起こされたらいい気分しないしな」
人々の生活に馴染み深いものだからこそ、こういうことは慎重にならなければいけない。俺も西城もそこんところはちゃんとしている。
「とにかく接客スタッフにはうちの商会で働いてる子を何人か手伝いに来させるわ。厨房スタッフはもう少し時間を頂戴。なんなら週2で定休日を入れることも視野に入れていきましょう」
結局その後も店の繁盛具合は止まらず。結局定休日を設けることに決定した。とはいえ、厨房スタッフたちは料理に少しは慣れてきているし、各々オリジナル料理を作ってみたいと意気込んでいた。もしかしたら遠くないうちに3人でも厨房は問題ないくらいにはなるのかもしれない。
当初の契約とはだいぶ違ってしまったため、ここ数日俺は店にかかりっきり。その間紅の家への客は0、まさかここまで来ない日が続くのも珍しい。これまで週1ペースでは客が来ていたが、まさか3週連続0とまでくるとちょっと心配になってくる。
「この森周辺で何かあったか?別に特別変な気配はしないけど」
俺が頭を悩ませているとコクロがため息交じりに近づいてきた。
「あのなぁ。ここの客って珍しい料理が食べたくて来る奴が多いのに、帝都であんな飯屋を出したらみんなそっちに行くだろ。わざわざ危険なダンジョンを通ってこなくていいんだから」
何を当たり前なことをとでも言わんばかりにコクロが呆れている。確かに、ここの売りはこの世界にない飯を出すこと・・・・・だけど、帝都で出してるのはこの世界で手に入る食材のみ、ここでならこの世界にはないもっと珍しい料理だって。それにお悩み相談だって受け付けてるよ。
「確かに主の飯を食べるためならここに来るやつらもいるだろう。だけど、帝都で出してる揚げ物だってこの世界では革命的な調理法なんだろ。そんでもって味もそこそことくれば、そっちに流れるのは当然だろう。悩み相談だって大体が珍しいアイテムの入手だったり、もっと強くなりたいだったり、主にしか叶えられないような相談をしてくるやつなんてこれまでにいなかったろ」
確かに俺だって帝都でそんな店ができてたら、危険な森ダンジョンなんて行かずそっちで済ます。それに悩み相談もギルドに依頼を出せば大体叶うようなことばかりだ。
「も、もしかして、この店ってお役御免?」
「まぁ帝都の店が落ち着くか、世界が魔王にでも侵略されれば嫌でも来るんじゃねーか」
興味なさそうに欠伸をしているプリチードック。別にこの店が繁盛して欲しいわけではないのだが、誰も来なくなるのは少々寂しい。
「こうなったらダンジョンの入口からこの店まで道を作るしか」
「バカいうなよ。ダンジョンは地に溜まった高魔力で日々形を変えてるんだぜ。そんなところに道作ったってすぐになくなっちまうよ。それとこのダンジョンに挑める奴が少ないってのも原因だろうな。如何せん人間ってやつは一部を除いて弱すぎる」
このダンジョンは特別難易度が高いダンジョンではない。その理由が罠の類が物凄く少ないこと、高難易度ダンジョン特有のエグイトラップなどはほとんどなく、ただ単純に高レベルの魔獣たちが多いことだけがネックなダンジョンなだけだ。
「たまにDランクやCランクも抜けて来てるし、そこまで酷いダンジョンじゃないはずなんだけどなぁ」
「お前なに言ってんだよ」
次に声を掛けてきたのは修行のため外に出ようとしているアモスさんだった。
「確かに隼人からみたらこのダンジョンの魔獣たちは大したこと無い奴らだろうが、ここのやつらは生態系がおかしいからな。緑の森に雪山にしか生息しないブリザードドラゴンだったり、砂漠にいるデススコーピオンだったりがうじゃうじゃしてるから有効打が無くて全滅の可能性だってあるんだから。お前みたくどんな相手にも最適な攻撃ができるやつばっかりじゃないんだぞ」
アモスさんからド正論を言われてしまった。冒険者としては大先輩のアモスさん、大抵のことは大雑把に片付ける性格だが、こと討伐系に関しては結構細かい。
「魔獣によって武器を使い分けるアモスさんのスタイルだって珍しいと思うけどね」
アモスさんは魔獣によって有効的な武具に変化させながら戦う。俺みたく力でゴリ押すタイプとは逆にしっかりとした知識を活用して討伐するタイプなのだが、何十万といる魔獣の特徴をほとんど暗記しているアモスさんみたいな人の方が異常だと俺は思う。
「そうしないと生きていけないならやるしかないだろ。お前らの詠唱を覚えるのと対して変わらねぇよ。10章節以上の魔法詠唱なんて覚えられる気がしねぇよ」
うん、それは俺も同感。暗記科目はそこまで得意ではないので、俺が本気で詠唱をするときは絶対にカンペが必要になる。
「俺だって長い詠唱のときはアイテムボックスにある魔術書に書かれているのを使うから、暗記しているとは言えないな。そもそも詠唱だってイメージを固めるための作業なんだから、正しい詠唱とか本来ないって聞いたぞ」
「魔術師関係のことは俺もよく知らないが、正しい詠唱を覚えて、反復して使いこなせるようになって初めて詠唱破棄ができるってのが一般的な考え方だ。隼人の考えも分からんでもないが、一般常識をいきなり覆せと言われても納得するやつはいないんじゃねーかな」
珍しくアモスさんと知的な会話をしてしまった。確かに俺に魔法を教えてくれたのはコクロやハクト、それに師匠だ。この世界に来た当初はもちろん恥ずかしかったが詠唱も魔法名も叫んでいたが、詠唱や魔法名が必須ではないことを教えられ、それから叫ばないことが自分の中で当たり前になってきている。
「つまり俺が凄いのは暗記とかそういった基礎能力じゃなくて、イメージする力が強いってだけだよ」
俺の魔法はほとんど現代兵器や家電をイメージして発動させているものが多い、この世界の当たり前に固執しない考え方こそ俺の一番の強みと言えるのかもしれない。
「確かにお前の魔法は面白い使い方ばっかりだからな。初見で見抜ける奴はまずいないだろうな」
今日はやけにご機嫌なアモスさん。そういえばいつもならとっくに森に入っている時間なのに今日はまだ鎧も付けずまだラフな格好だ。
「アモスさんは今日森に行かないのか?いつもならとっくに準備して向かってる時間だろ」
「おお、今日は森じゃなくて町に行ってこようと思ってな。新しい盾も新調せんとならんし、ギルドにも顔を見せてないから今日はオフにした。ついでにアノスの装備とかも少し見てみたいしな」
久しぶりのオフ、冒険者にとっては毎日がオフみたいなものだが、仕事や修行を考えずプライベートに過ごす時間が確保できるということはやっぱりウキウキしてしまうらしい。アモスさんの膝の上で丸くなっているオケアノスもかなり上機嫌だ。
「せっかくなら隼人も一緒にどうだ?お前だって今日はオフなんだろ」
さすが朴念仁アモスさん。その言葉でオケアノスのご機嫌が一気に悪くなる。さっきまでゴロゴロと喉を鳴らしていた彼は俺に威嚇のポーズをとっている。
「せ、せっかくだけどオケアノスとのデー、じゃなくて買い物にお邪魔するのは悪いし、俺たちは」
「もちろんご一緒致しますわ!!」
ウチのプリチードック2号が現れてしまった。さっきまでヒスイに絵本を読み聞かせてくれていたはずだったのにいつの間にか俺の隣に座っている。ヒスイは一人で絵本を読んでいるようだ。まさか一人で読めるようになるなんて成長したなと親心を刺激される。
どうやら新しく覚えたスキルはヒスイの言語理解能力を飛躍的に高めてくれたようで、書いてある字などもちょっとずつ覚えてきているらしい。今ではハクトが先生になって字のお勉強までしている。
「主様せっかくのお誘いです、お受けしないなんて末代までの恥ですわ。それに主様もギルドに顔を出しませんと、ギルマス様が大層ご立腹のお手紙をさんざん送られてきていたではありませんか」
以前溜まっていた依頼をある程度消化したはずだったのだが、俺が町に戻ってきたと噂が流れてしまったようで俺への依頼が前以上に殺到しているらいし。
「情報漏洩はギルド側の落ち度だろ。俺が怒られるのは筋違いだと思うんだけど、それにギルドに行ったら絶対依頼回されてアモスさんと買い物なんてできないぞ」
「そこは問題ありませんわ。アモス様はご自分の武具とオケアノスの装備をご覧になりたいのですわよね。主様のご依頼をお手伝いしてその報酬の一部、特殊な素材をアモス様に差し上げるのはいかがでしょう」
確かに俺への依頼はSランクだけあって、報酬の品も希少性が高いものが多い。だが、そんな都合よく素材が手に入る保証はない。それにオフの人間に働けというのはちょっと酷だと。
「いいなそれ!パーティー組んでまだ一回も依頼受けたことないし、せっかくならパーティー初任務と行こうぜ!!」
なぜこの人はオフを潰されたのにこんなに元気なんだろう。珍しく働き詰めだったこともあって今日は一日のんびりと家で過ごすつもりだった俺の計画が崩れ落ちた。
家にあるドアから王都にある店に移動して冒険者ギルドを目指す。アモスさんは鎧や盾は自前のマジックバックがあるのでそこに収納している。ウエストポーチ型のマジックバックの容量は家一軒分ほどの容量がある。あのサイズからしてかなり高価な代物なのだが、アモスさんに聞いてみると西城の頼みを聞いたときにお礼としてもらったものらしい。確かにあんな形のポーチに付与魔法を掛けた覚えがある。そんなアモスさんと歩くとやはり視線が痛い。今はシンプルなシャツにズボンとどこにでもいる男性の恰好なのだが、一目を引く体格に爽やかなイケメン顔、おまけに肩には愛らしい猫がじゃれている。道行く女性はもちろん男性からも熱い視線を送られている。方や俺は幻影の面といつもの羽織、姿こそ騙せているのだろうが、人によって送られる視線は様々。中には嫉妬のような視線さえ送ってくる者すらいる始末。
「アモスさんもう少し自重しないとそのうち争いがおきるよ・・・・」
「何言ってんだ??」
相変わらず自分に寄せられる視線や行為に鈍感なアモスさん。さっきから何人もの女性にお誘いや告白を受けているのに爽やかな笑顔で笑うと女性陣はどんどん離れていっている。
「女性はみんな積極的だよな。突き合ってくれくれなんて、綺麗な服着てるのに鍛錬を申し込むなんてよっぽど鍛錬相手がいないのか?それにお茶に誘われてもお茶程度じゃ俺の腹は満たせないのにな!ガハハハッ!!」
相変わらず女性たちの心を折ることに容赦がない。いや、これは素でやっているので余計に質が悪い。肩に乗っているオケアノスは女性を威嚇していたが、後半はアモスさんに甘え続けるだけになっていた。
だが、この後が大変だった。冒険者ギルドに着くとギルド内にいた冒険者がアモスさんに殺到。やれパーティーを組んでくれだの、やれ鍛錬相手になってくれだの、俺の愛を受け取ってくださいだの・・・・・待て!最後のは誰だ!!その後に待ってるストーリーを草場の影から見守りたいのだが!!!
結局ギルマスの一言「お前ら仕事に行け!!!!!!」で冒険者たちは蜘蛛の子のように散っていった。
「全く、お前はもう少し静かに入ってこれんのか。毎度怒鳴る俺の身にもなってくれ」
ギルマスも大変なんだね。あとで労いの言葉でも掛けてやろう。
「そんなことよりお前ら、ちょっと部屋まで来い」
前言撤回、絶対に何か言われる・・・・・・正直かなり面倒。
「お前ら正式なパーティー組んだってのは本当か?」
ギルマスの部屋で第一声に聞かれたのはパーティーのことだった。
「本当もなにも王家からちゃんと説明があったんだろ?」
陛下は俺とアモスさんが聖獣の加護の関係でパーティーを組むことや俺が王都の店で働いていることを説明すると言っていたはず。
「いや、確かに書類で渡されてパーティー申請を受理したのは俺だが、お前らが組むって反則じゃないのか?元の能力的にも相性が良すぎて臨時パーティーの時も最強なんて言われてたし、なにより今はアモスも聖獣の加護があるんだろ」
守りに特化したアモスさんと後方で支援を担当する俺の戦闘能力的相性は最高。お互いの欠点をほぼ補い合える編成だ。
「反則とか言われても俺の場合はほぼ脅しみたいなもんだったし、それにアモスさんだって選択肢はなかったんだよ」
「確かにな。隼人とパーティー組むか王族で俺を匿うかとか言ってたもんな」
それだけ聖獣の加護は脅威であり、問題の種になる存在なのだ。
「まぁお前がいるなら自然と凛の奴も関わってくるだろうし悪くはないんだが、お前ら二人がパーティーを組んだことを発表するかが問題なんだよ」
「なにか問題があるのか?」
「お前らお互い自分たちの評価をもっと自覚しろ!方やSランクにしてなんでもできる万能の二つ名持ち、方やギルドに入れば人気大爆発の冒険者。そんな二人がパーティーを組んだと知れればどれだけの暴動が起きると思ってるんだ」
確かにアモスさんも俺もパーティーの誘いは五万とある。だが、お互いソロで活躍していたからこそ暴動なども起きずにすんでいたらしい。そこに二人がパーティーを組んだと知られればこれまで二分していた誘いなどが合わさり大変なことになるらしい。
「なら先手を打って無理難題の条件でパーティー募集でも掛けてみるのはどうだ?うちの全戦力に勝てたらパーティー加入を認めるってので」
全戦力とはもちろん俺とアモスさんだけでなくコクロやハクト、オケアノスにヒスイも含まれる。正直これだけのメンバーなら負けることはないと思ってる。
「た、確かにそれだけのメンバーなら勝てる奴はいないだろうが・・・・それなら暴動は起きずに済みそうだな。正直公表をやめて秘密裡に進めようかという話もあったんだが、これで問題はなさそうだな」
ギルドの決まりとしてパーティーを組んだ場合ギルド証に必ずパーティーの情報が記入される。ギルド証はギルドだけでなく身分証替わりにもなるので、他の町に入る際などに必ず提示するのでここに記していなければパーティーだとバレることはないのだが、身分証の替わりとなるものを偽る行為はもちろん犯罪。だがそれを犯してでも俺たちのパーティー結成を隠そうとする意見もあったそうだ。
「これで問題の一つは片付いた。それでお前らパーティー名はどうするんだ?提出された書類には無記名だったから特に名は付けてないが、パーティーを正式に組むには必要なもんだぞ」
炎帝の牙のようにパーティーを組む際はそのパーティーの名が必要になってくる。特に名前に決まりがないので、みな仰々しい名前なんかを付けることが多いのだが正直パーティー名なんてどんなんでもよかった。
「特に決めてないけどアモスさん適当に付けといてくれます」
「おう、任せとけ!俺たちにぴったりの名前を考えとくからよ」
オケアノスの名づけの時のことを思うとちょっと心配だったが、ギルマスも一緒に考えてくれるというので問題はないだろう。俺はとりあえず万能宛に届いている依頼を確認していく。
「今回は特に難しい依頼はないな。遠出するようなもんもないし、これだけなら手持ちとここでどうにかできそうだ」
俺が取り掛かるのは暗号の解読依頼と必要素材の入手依頼。この二つは結構な確率ですぐに達成できるものが多いので担当の職員さんを呼んでその場で依頼を達成していく。
「た、確かにご依頼の21件全て達成です。受理してまいりますので少々お待ちください」
相変わらず一回での依頼達成量が半端ないようで大変そうだ。だが一つ気になる依頼があった。解読系の依頼だったのだが、古代語で書かれた文献の翻訳の手伝い。書かれている内容が魔人の復活に関わる記録というものだった。翻訳した内容はギルドのでも審査されるので特別気にはしなかったが、依頼してきた者は一体どこであんなものを手に入れたのだろう。
「魔人の復活ね、確かに平和な内容じゃねーな。調査なんかはギルドでやるから心配ないが、なんかあったときは手ぇ貸してくれ」
こういった怪しい文献の翻訳は時々あるのだが、書かれている魔人が女神ミスラと同じ名だったことで少し警戒していた。依頼主も読めないから俺に依頼してきたわけだし、内容を読めば危険だと理解してくれることを祈ろう。
「それで俺たちのパーティーってどうなった?」
「おう!ぴったりの名前だぞ!!」
満面の笑顔で言われてしまったがその顔と言葉に物凄く不安を覚える。恐る恐る更新のために預けておいたギルドカードを確認するとパーティー名には“セブングリード”とあった。
「これってもしかして七つの大罪か?」
「そうそう、俺たちにぴったりだってギルマスが考えてくれたんだ!」
七つの大罪は漫画やゲームでよく題材にされる人間を罪に導く七つとかじゃなかったかな。キリストとかカトリックが定義したと昔少し調べた覚えがあるが、詳しいことまでは覚えていない。確か罪は「傲慢」「強欲」「嫉妬」「憤怒」「色欲」「暴食」「怠惰」だったはず。
「怠惰は隼人だろ。暴食はヒスイ、色欲はハクト、憤怒はコクロ、嫉妬はオケアノス、強欲がアモスで傲慢が凛。ピッタリじゃねーか」
突っ込みどころ満載で何から言っていいのか分からない。
「そもそも、パーティー名なのにこんな物騒なのでいいのか?それになにより西城はパーティーメンバーじゃない!!」
「そんなことはないだろう。確か提出された申請書にはお前ら3人の名があったぞ」
机の引き出しから出された申請書には確かに西城の名が入っている。
「な、なんで?」
「隼人が借金のことで凛と話してる最中陛下たちがなんか言ってた気がするけど」
「主様だけでは心配なのでお姉さまもメンバーに入れちゃえ!だったと思いますわ」
陛下とオスカー様ならそんなことを平気でやりそうだ。だがパーティーは全員が承認しないと登録されない。つまりパーティーとして承認されてるってことは西城もパーティーメンバーになったことを承諾したことなる。
「一応あいつも冒険者として登録だけはしてるからな。ランクは全く更新してないから一番下のFランクだが」
確かに俺も商人ギルドに登録だけはしているが、全く商売をしていないのでランクは一番下だったはずだ。どちらのギルドも年一で依頼なり、物の売り買いなどをして報告すれば剥奪されることはない。期限が近づくと各々連絡をしてくれるので、お互いメインで活動している方で助け合っている。
「凛の奴更新が近づくとFランクの依頼から薬草集めを取ってきやがって店で仕入れた薬草を納品しやがる。規則違反じゃないが、あれは承認印を押すのをためらっちまうよな」
なんせその依頼は西城の店でだしているものだ。つまり西城は自分の店で買い取る薬草を自分で仕入れて納品しているだけなのでただただお金を無駄にしているだけ。本人は「契約更新料とでも思っておけばいいんじゃないかしら」なんて言っている。
「凛からしたらはした金だもんな。それよりこれでパーティー名も決まったし初依頼でも探しに行くか!」
全く納得できないパーティー名だが一度受理されてしまうとそう簡単には帰ることができない。仕方ないのでこのままにするしかない。俺以外はみなピッタリの罪だしね。
「ちょっと待て!お前ら二人が一般の依頼ボードにある依頼なんて簡単すぎるだろ!!こっちの特別依頼をやってもらう」
「それってパーティーランクかクランランクが最上位の奴らがやるような奴だろ。俺たちそれ用の試験受けてないし、パーティーランクは自動更新可能なBランクだろ」
「確かにパーティーランクやクランランクのA以上は特別な試験がいるんだよな。臨時パーティーの時はお互いのランクの平均をとってランク決めしてたよな。あのときの臨時Aパーティーだったはず」
「お前ら二人にかぎってBランクなんかに置いておくわけないだろ!!実際この国で最強のパーティーなんだから問答無用でSランクにして」
「いらん!!面倒!!!!」
ちょっと食い気味にギルマスの話を断った。
「お前なぁ!!またそうやって昇級を断りやがって、なにが不満なんだよ」
「面倒ごとが増える、注目を浴びる、ギルマスの小言が増える以上」
「お前らのパーティー結成発表すればそれ全部付いてくるんだから諦めろ。こちとら前例がないことを無理やり通すように陛下に言われちまって大変だったんだぞ!!」
すでに陛下からパーティーランクに関しては申請されてしまっていたようだ。抜かりない奴め。
「そんな面倒までやって俺たちがSランクパーティーになる意味あるのか?」
アモスさんの言う通りSランク冒険者は世界に4人しかいないが、Sランクパーティーはそれなりに数がいる全国に展開しているギルドでも確か10組ぐらいはいたはず。一人ではSランクの力に足りないが、集団でならSランク冒険者にも匹敵する力を持つと認定されたパーティーだ。
「Bランクのパーティー依頼なんてお前らには簡単すぎるもんばかりだ、ギルドとして実力のあるパーティーにはきっちりとそれ相応の依頼を受けさせる。それもギルドの仕事だ。そもそもパーティーランクのB以上は実力や連携が伴わない奴らに対する試験だ。臨時パーティーの時に功績を出している奴らは免除されることもある。今回はその最たる例で押し通した」
すでにギルドカードにもパーティーランクはSと書かれてしまっているため、ここで文句を言っても覆ることはなさそうだ。
「それで俺たちにやらせたいパーティー依頼ってのは?」
「隼人はあんまり王都を空けられないなんだよな。だったら王都内でやれる依頼となるとこれだな」
依頼内容はAランクパーティーの昇級試験官。以前俺が受けたSランク昇級試験のパーティー版だ。正直俺一人でも達成可能な依頼なのだが、Sランク冒険者が捕まらないことが多すぎるので、パーティー依頼として出ているらしい。
「正直隼人一人で達成可能な依頼なんだが、お前らの実力もみたいと上が言ってな。お披露目みたいな形で申し訳ないんだが受けてもらえるか」
正直ギルド上層部がなにか企んでいるような予感がするのであまり気乗りはしないが、アモスさんとパーティーを組むにあたり連携やオケアノスの実力を確かめておく必要もある。Sランクに上がる手前のパーティーなら実力も申し分ないだろう。
「分かった。アモスさんが問題ないのならこの依頼受けよう」
「おお、俺もいいぞ!」
「ただし、今回の報酬について交渉したい」
「交渉?」
「ヒヒイロカネかオリハルコンを使った武器と防具、それか素材そのものを貰いたい」
俺が欲しいものは基本食材。だが、ギルドで手に入るような食材はあらかた持っている。手に入れたい食材は西城が散策してもらっている。なら今回の報酬はアモスさんが求めているものを貰いたい。
「うーん、Sランクパーティーの報酬としては妥当だと思うが、さすがにそこまで希少性の高い素材や武器となるとな」
こういう交渉はどうも苦手であらかた西城がやってくれるもんだからこの後どうしようか悩んでしまう。
「だったら今回の依頼に魔の森で手に入れた素材の一部をギルドに良い値で卸してもいいぜ。それなら採算合うだろ」
まさかアモスさんが交渉に入ってくるとは思わなかった。アモスさんの提案でギルマスはすんなり報酬の条件を受けてくれた。
「アモスさんってああいう交渉もできたんですね」
「俺だって長いこと冒険者やってんだからそれくらいはな。そもそも隼人の交渉が下手すぎるんだよ」
確かにこれまでギルドでの交渉は西城や臨時パーティーの奴が行っており、俺自身が交渉することがほとんどなかった。どちらかと言えば、珍しい食材が欲しいと依頼の報酬よりも価値を下げる様な交渉しかしておらず、西城にはいつもため息をつかれていた。
「それじゃあセブングリードに冒険者ギルドからの依頼だ」
セブングリードとして初依頼を受けることになる。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも面白かった、続きが気になる方は高評価コメントよろしくお願いします。




