風呂が欲しい
聖国内で適当な宿を取ったがそれほど悪くなかった。部屋はしっかりと清掃されているし、料理も聖国独特の香辛料を使ったお肉は美味しく、サラダには俺が商品登録して西城が売り出しているドレッシングが掛けられている。値段も手ごろだったしいうことないほど良い宿だった。だが俺にとっての唯一の欠点は・・・・・・
「風呂に入りたーーーーい!!」
「風呂なんて贅沢品は高級な宿か貴族の家ぐらいしかねーよ。お湯がもらえるだけありがたいだろ」
なんとこの世界湯舟に浸かることは贅沢・至高とされており、一般的に入浴するという習慣がない。なので一般的には井戸水で体を拭いたり、良い宿ではお湯を用意してくれるのでそれを使って体を拭く。
「これまでも我慢してきたけどまさか聖国にも湯舟が無いなんて・・・・・」
帝都では一般人でも入浴できるように公衆浴場を作った(西城が)。聖都ほどの大都市になればそれぐらい真似しているものとばかり思って期待していたが、まさか公衆浴場どころか入浴の習慣すらないなんて・・・・・・かなりショックだった。
「確かに風呂は気持ちいがちょっと前まで無いのが当たり前だったからな。ほら、早く体拭かないとお湯冷めるぞ」
すでに体を拭き終えたアモスさんがお湯の入った桶を俺に渡す。こんな量のお湯じゃ足りない!!
「もういい!!無いなら作る!!!!」
これ以上は我慢の限界だ。道すがらもお湯を魔法で出して体を拭いたり、クリーンという生活魔法で清潔さを保ってはいたが、それとこれとは別問題。すでに1週間以上湯舟に浸かっていない。日本人としてこれは我慢の限界だ。
「おいおい、確かに隼人なら風呂ぐらい作れるだろうが、勝手に作って大丈夫なのか?」
確かに勝手に風呂をこの宿に作るのは申し訳ない。魔力探査で地脈を探ってみるが聖都内に温泉の水脈なども無いようだ。
「人工的な湯舟を作れば行けるか・・・・ちょっと宿の女将さんに許可もらってくる!」
思い立ったが吉日、必要なのは十分な広さの土地。この宿の裏は空き地になってるはずなのでそこを借りられないか交渉してみよう。せめて一晩だけでも借りられれば土魔法で湯舟を作って出たら土くれに戻せばいいんだし!!
「女将さんちょっとお願いがありまして!!」
「あら、確か隼人さんだったわね。何か用かしら?」
この宿の女将さんであるルーシーさん。ちょっと男勝りな性格らしいのだが、料理も宿の管理も全てこなしている仕事の出来る人だ。旦那さんは商人で各地で商売をしているらしく、今は行商に出かけているらしい。
「あの、裏庭を借りられないかと。ちょっと作りたいものがありまして、俺が使い終わったらすぐに元に戻しますから!!」
「なんだか分からないが、裏庭なら好きに使って構わないよ。ちょいと雑草が茂っちゃいるが、それでも問題ないかい?」
「はい!ありがとうございます!!なるべく静かに作業しますので!!!」
許可が下りたので早速裏庭に行って湯舟を作ろう!!!
「まずは土魔法で湯舟だろ。着替える場所も土壁で区切って、せっかくならひのき風呂みたいにしたいな」
大体の土台は土魔法で形を作ってそこに石や木で補強。木や岩は付与魔法で造形を付与してロッカーや扉を作る。炎の魔石と水の魔石をセットして蛇口のようなものを作ってお湯を出す。排水は地下に穴を開けて外の川に繋げるか。聖都内で処理すると色々と面倒になりそうなのでちょっと大変だったが門の外まで排水の道を作る。
「あとは冷蔵庫に牛乳と、鏡なんかをセットすれば」
「おい隼人!流石にこれはやりすぎじゃないか!」
アモスさんの声で周りを見渡すと立派な現代風の露天風呂を作ってしまっていた。
「や、ヤバい・・・湯舟だけ作るつもりだったのにやりすぎた!!」
「これ帝都の公衆浴場と同じぐらい設備が充実してねぇか?広さは流石に向こうの方が大きいけど」
鬱憤が溜まるとやりすぎてしまうことがよくある。異世界転生ものの漫画を読んでいて主人公たちがやりすぎてしまったと言っている気持ちが良く分かってしまう。
「とにかく誰かに見られる前に余計なものは消して」
「一体これはどうなってるんだい!!!」
すでに遅かった。チラッと外を見ると女将さんが驚いた表情で建物を見ている。
「申し訳ありませんでした!!!!!!」
俺のスライディング土下座を披露するのは久しぶりだ。ここ最近は落ち着いて来てこんな失敗をすることも少なかった。だがこちらの世界に来たばかりのころは常識が分からずやりすぎることが多々あった。その度にスライディング土下座をかましていた。
「あんたがこれを作ったってのかい?この短時間で」
「いや、え~っと・・・・た、建物を作るに適した魔法とスキルを持ってまして・・・・・本当は入浴をしたくて浴槽だけ作るつもりだったんですけど・・・・・作り出したら止まらなくなってしまいまして・・・・・・す、すぐに片付けますので!!!」
ほとんど俺の魔法と手持ちの素材で作ってるので解体するのも簡単だ。一旦全部片づけて当初の予定通り仕切りと浴槽だけ作ればいいだろ!!
「待ちな!!これって帝都にある公衆浴場ってやつかい?」
「は、はい、あれよりは大分小さめですし、男湯女湯で分けてないのでまるっきり同じではないですけど」
帝都の公衆浴場は現代の温泉施設を再現しており、フロントやくつろぎスペースなど西城こだわりの施設となっている。ちなみに帝都では『男湯』『女湯』『凛湯』が存在している。本人曰く「私が男湯に入ると大変なことになるでしょ!」と言っていた。確かに見た目は美人な女性なのだが、体はしっかりと男らしい。なぜ俺が知っているのかというと元の世界でも温泉に行ったことがあるからだ。あの時は施設のスタッフさんに怒られ、入るならラッシュガードを着て入浴するように言われてしまった。それでも周りの男たちから物凄い視線を向けられて全然くつろげなかった。
「中をみせてもらってもいいかい?」
「別に構いませんが・・・・」
女将さんは恐る恐る中を確認していく、最初はおっかなびっくりといった感じだったが湯舟の説明をしているところから大分テンションが上がっていった。
「こりゃ素晴らしいね。お貴族様でもこんな立派なのは持っちゃいないよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。では、見学も終わりましたし早速建物を解体しちゃいますね」
「ちょっとお待ち!!こんな素晴らしい建物を壊すっていうのかい!!」
「ええ、作ってしまって言うのもあれですが、本来は俺自身が湯舟に浸かるためだけに作ったものなので。裏庭もこんなに占領してしまってますし、一度全部片づけて小さな湯舟だけ作ってしまおうかと」
俺の言葉で女将さんの表情がどんどん変わっていく。
「こんなすごい施設を壊してしまうなんてとんでもないよ!!ちょっとお待ち・・・・ウチで買い取るなんてできるわけないし、いっそこの辺りの住人から金を集めて施設を買ってしまうか、あるいは取締役たちと相談して・・・・」
「あの、別にこの建物が邪魔じゃなければ差し上げますよ」
俺の言葉で女将さんが物凄い表情をしてこちらを見ている。正直使ったのは廃材ばかりで特別高価なものは使ってない。強いて言えば魔石ぐらいだが、あれも等級はそれほど高くないものだ。
「今明かりは俺の魔法で灯してるので半日ぐらいで消えちゃいますし、お湯を出す魔石自体も等級は高くないので2,3回湯舟を溜めれば使えなくなります。維持費をそちらが持ってくれるならこのまま差し上げてもいいですよ」
「ちょ、ちょっとお待ち・・・・・確かにあんたが作ったもんだからくれると言われれば是非とも頂きたいものさ。だけどこの価値をあんたは分かってるのかい?」
「俺からしたら建物や内部で使った素材は廃材ばかりですし、デザインとかも帝都にあるものを少し似せて作ってるだけです。さっきも言った通り俺たちが使い終わったら片付けるつもりのものでしたから。必要なら譲っても問題ありませんよ」
「そう言われちゃうと甘えたくなるが、私も商売人だ。タダでもらうわけにはいかない。ここは別途使用料を取って売り上げの半分をあんたの口座に振り込むってのはどうだい?」
提案をされたがそこまでしてもらうのは申し訳ない。本当にそこまでの価値ある建物として作ってるわけじゃないのだ。
「それでいいじゃねーか。隼人だって凛のやつに金を返さんといかんのだろ。だったら少しでも足しになるなら貰えるもんは貰っとけ」
アモスさんにも言われたが西城に返せと言われた金額はまだある。結構返してるはずなんだけど、未だに借金が残ってると言われて魔道具づくりの手伝いをしている。
「そ、そうだな。女将さんがそれでよければお譲りします。でも本当にそこまでちゃんとしたものじゃないので、不安なら建築士さんとかに相談して補強をしてくださいね」
「ああ、分かったよ。それじゃあ契約書を作っておくから用を済ませたら私のところまできておくれ」
よほど公衆浴場が嬉しかったのか鼻歌交じりで戻っていく女将さんだった。
「はぁ、とりあえず俺はゆっくり風呂に入るか」
「お!それなら俺も一緒にいいか?さっき見せて貰ったら結構広いから俺が一緒に入っても大丈夫だろ」
「い、いいけど・・・・・大丈夫かな?」
「何がだ?ほらさっさと行こうぜ」
俺とアモスさんが一緒に風呂に入ったなんて知られたらまたウチの残念犬が残念なことになりかねない。しっかりと魔力感知でハクトの位置を確認し、こちらを観察していないことを確認して俺は安心して脱衣所に向かう。
・・・・・・・・・・・・・・
「っふ、甘いですわね、主様!こんな絶好の萌えポイントを私が逃すと思っておいでですの」
偽装は完璧。
魔力で作ったダミーを遥か遠方に配置。
気配遮断の結界に魔力遮断の結界の二重結界。
気付かれないギリギリの位置取り。
視力強化と記録用の魔石も準備OK(盗撮は犯罪です)
「さぁ、湯舟の中でくんずほぐれつのあ~んなことやこ~んなことなんかをして、二人の愛はより深まっていくのですわ~~~~!!!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・
なんだか一瞬悪寒がしたが気のせいだろうか。湯舟に浸かっているのに。
「どうしたんだ?」
「いや、なんだか嫌な悪寒がしたんだ。風邪かな?」
「疲れてんじゃねーか。ここ数日は野宿も多かったしな」
ちょっと離れたところでくつろいでいるアモスさん。自分の体と比べると自分がいかに貧相な体をしているかが分かってしまう。
「(いや、俺が貧相なわけじゃなくてアモスさんが鍛えすぎなだけだ!!)」
だってどこもかしこもでかすぎる。俺が勝っている箇所が一個も見つからない。
「主殿にもそういった感覚があるのがちと不思議じゃのぉ」
「俺だって、その、男としてカッコいいとか考えることだってあるよ。ただ、アモスさんに関しては見た目だけじゃなくて中身も完璧すぎて見習いたいと思わないけど」
「確かにアモスさんほどの殿方はなかなかおらんじゃろうなぁ。欠点らしい欠点が無い、強いてあげるなら平等に優しすぎると言ったところじゃろうか。じゃが主殿は聖獣様を上回る魔力をお持ちで強さという括りでならアモスさんなど楽勝じゃろうに」
確かになんの制限もなく戦えば間違いなく俺が勝つ。トウカにだって、ヒスイやハクト、コクロにだって勝てると思う。
「なんかそんな強さがあっても虚しいだけだなと思ってさ。自分と周りを守れる力だけでよかったし、それに授かった能力の半分も使いこなせないってヤバいだろ」
ロキから貰った力はもっと強大なものだった。
「それこそ主殿は分をわきまえていると思うがのぉ。強大な力が集まりすぎるといつか身を滅ぼしかねん。何事もほどほどが一番じゃ」
それができたら苦労はしない。ほどほどの仕事でほどほどの報酬をもらい、ほどほどに料理を作って、ほどほどに楽しむ。そんな生活を目指しているはずなのに、問題ばかり舞い込んでくる。
「な~に辛気臭い顔してんだよ!せっかくの風呂なんだから楽しまないと損だろ!!」
「アモスさん!重いって、それに風呂はゆっくり浸かるものであって楽しむものじゃ」
「細かいことは気にするなって!!」
アモスさんが俺の首に腕を回して無理やり自分の体に寄せ付けてくる。視線をずらすとグラスに入った酒があり、アモスさんの顔がほんのり赤くなっている。
「っちょ!風呂で酒なんて飲むからそんな酔っ払いに」
「俺は酔ってらいぞ!ヒック、酒らんて飲んでらいぞ~」
完全な酔っ払いになってしまっている。だがアモスさんがこんなに酔ってるなんて珍しい。結構酒には強くていつもガブガブ呑んでいるのだが。
「それは童の酒じゃな。九尾秘伝の酒で酒精がかなり強いのじゃよ。昔人間が飲んで天にも昇ると言っておったのぉ。そのまま倒れて動かくなったが・・・・死んではおらなんだよ」
っちょ!!それってかなりヤバい類の酒ではないのだろうか。アモスさんが飲んでいた酒に顔を近づけるとそれだけでかなりの度数だということが分かる。
「これって気化したりしないよな」
「安心するのじゃ。これにはちと魔法を使って製造しておっての。酒精を圧縮したものを水に溶かし、味を調えておる。圧縮した酒精は空気に溶けることがないので長い間外に出しておっても大丈夫なんじゃよ」
それって高濃度のアルコールが常に溶けだしてる状態なんじゃ。
「は~や~と~、なんらか気分がめっちゃ良くなってきらぞ~!!」
アモスさんのテンションがどんどん高くなってきてる。俺ではもう止められない。
「にゃ!!!」
不穏な鳴き声で入口を見るとオケアノスが絶望の表情でこちらを見ていた。
「ちが、違うからな!アモスさん酔っぱらってるだけだからな!!!」
「にゃ、にゃ~~~~ん!!!!」
オケアノスが俺の顔を引っ掻き、腕を噛み、頭を蹴る。散々だった。
「平和じゃのぉ」
「あーはっはっはっはっは!!!」
笑い上戸になってるアモスさんの隣でトウカは優雅に酒を飲んでいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、アモス様と主様があんなにくっついて!!!!さ、最高ですわ!!!!!こ、この後はやはりお楽しみ、酔っぱらってあんなことやこ~んなことをやらかしてしまい、主様は仕方が無いとアモス様をうけ、受け入れて・・・ぶ、ぶほぉぉぉぉぉ!!!!」
別の場所でも赤い水が吹き上げていた。
お読みいただきありがとうございます。
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