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第2話

 ……正直、魔王に同情した。


 いや、魔王がしてきたことを考えると許すべきではないという考えはゆるがない。

 悪逆非道、魔王軍に潰された国や街、村々は多く、魔王を倒したことは間違っていないと思う。


 ――それでも、僕のとった戦術はどうかと思った。

 結界を張って魔王を逃げられないようにし、魔王の攻撃力・防御力・機動力を魔法で半減。攻撃魔法はこちらの絶対防御魔法で防ぎ、攻撃を受けても即座に魔法で回復。あとは勇者と騎士の攻撃力・防御力・機動力を魔法で倍増させてタコ殴り。黒魔術師の高火力でとどめ。時間はかかったが、無事に魔王を倒すことができた。

 ゾンビのようによみがえる僕たちは魔王にとって恐怖以外の何者でもないだろう。

 本当ならもっと余裕を持って倒せる予定だったんだが……。


 和田守湊わだもり・みなと。それが僕の名前だ。

 異世界『トライ・グレアラント』に召喚された僕は、この異世界の女神『アフェクシオン』により

チート能力、『回復魔法の遣い手』を与えられた。

 勇者一行に白魔術師として加わった僕は勇者、騎士、黒魔術師ら仲間たちを陰日向なくサポートし、魔王討伐の目的に向かって邁進した。


 「ミナト!ミナト!ミナト~!」

 小柄な少女が僕の名前を呼びながら飛びついてくる。喜色満面のその笑みは魔王を倒した喜びか、全身から嬉しさが伝わってくる。ブンブンと振られる尻尾が見えるかのようだ。

 僕は少女を受け止めると、そのまま自分の目の前に立たせてやった。

 そして「なんで抱きしめてくれないの?」と不思議に思う少女の頭に思いっきりげんこつを食らわせる。


 「いたーーーーいっ!何すんのミナト!ここは恋人同士のあたしたちがひしっと抱きしめあうところでしょっ!」

 たんこぶが出来た頭をさすりながら不満顔の少女が僕をにらみつける。

 少女の名は『クリスティーナ・フォン・ブラウン』。この異世界の勇者だ。女神の神託により選ばれた14歳のあどけない少女であるが、こう見えても世界最大の国家ブラウン王国の姫君でもある。


 「誰が恋人同士だ。あのな、僕は言ったよな、魔王戦にはまだ早い。少なくともレベルをあと5は上げるべきだって」

 そうなのだ。本来はもう少しレベルを上げてから戦いに挑もうとと思っていた。そのための狩場も準備し、あとは時間をかけてレベルを上げるだけだったんだが……。


 「むー、しょうがないじゃん!チンタラレベルを上げる暇なんかなかったもん!早く魔王を倒して平和な世の中にしたかったんだもん!」

 クリスがプイっと顔を背けてふてくされてしまった。

 「魔王を倒す!魔王城に向かおう!」といきなり走り出して魔王城に突貫してしまったわけだが、クリスはクリスなりに平和な世の中にしたいと考えていた訳か……。僕より一つ年下だが、勇者の使命に燃えていたんだな。


 「それでー、平和な世の中になったらミナトと結婚してー、お城で一緒に暮らすんだー。あっ、子供は何人くらいほしい?」

 前言撤回。本当に勇者としての使命を自覚していたんだろうか。


 「ミナト、それぐらいにするでござるよ。姫様も戯言はそこまでにするでござる」


 白銀の髪をなびかせながら、背の高い少女がカチャカチャと鎧を鳴らしこちらに向かってくる。少女の名は『アンナ・エル・ウォルフ』。ブラウン王国騎士団に所属する勇者一行の誇り高き騎士だ。……なぜござる口調なのかは謎だが。

 「戯言じゃないもん、本気だもん」とブツブツ言うクリスを置いておいて、アンナに手を差し出す。


 「ありがとう、アンナ。君のおかげで助かった、感謝する」

 アンナは僕の手を握り返し、普段はクールなその表情を崩して、はにかみながら笑った。

 「こちらこそ、ミナト殿。貴殿のおかげで魔王を倒すことが出来た。姫様に代わりブラウン王国を代表して感謝するでござる」


 おおう。アンナの笑顔は破壊力があるな。たまにしか見れないだけに効果は抜群だ。

 …………。あれ、なかなか手を放してくれないんだけど、どうしたのかな?


 「ミナト殿、覚えているだろうか。魔王城に突入する前に拙者が話そうとしたことを……」

 あれか、よく覚えている。魔王と戦う前日の夜、見張りをしていた僕の傍にやってきて「この戦いが終わったら……」と急に話を切り出してきたやつだ。


 「魔王を倒したことだし、よくわからないが『しぼうふらぐ』というのも問題ないと思う」

 そう、言うに事欠いてアンナは死亡フラグになりかねない発言をしたのだ。僕は慌てて死亡フラグについて説明し、ジンクスみたいなものだということで何とか納得してもらった。


 アンナは顔を真っ赤にさせながらあの日の夜の続きを話し始める。

 「ミナト殿、この戦いが終わったら、……もう終わっているが、せっ、拙者と……」


 真剣な表情のアンナと握手したままの僕の背中に、突然柔らかな二つの膨らみが押し付けられた。そのまま覆いかぶさるように誰かが乗っかってくる。


 「…………(つかれた。ミナト。おんぶ)」

 「パウラ、こっちも疲れてるんだけど」


 無言で僕の背中にしがみついている少女は『パウラ・シュルツェ・リップマン』。ブラウン王国王立魔法学院に所属する黒魔術師であり、希代の天才魔術師としても知られている。高火力で敵を薙ぎ払ってきた勇者一行の攻撃の要だ。


 「パウラずるいー!あたしもミナトにおんぶ……は埋まっているからだっこしてもらうー!お姫様だっこ!姫様だけに!」

 「……ミナト殿はよくパウラの言っていることがわかるでござるな」


 おんぶとだっこを同時にだなんて無茶言うな。

 アンナの言う通りパウラは無口でほとんど喋ることがない。ただそれじゃ僕たちとの連携が図れない。コミュニケーション不足は戦闘で致命的な失敗を引き起こすかもしれない。

 そこでなんとかパウラと意思疎通ができるようになろうとした結果、顔の表情やその雰囲気、喋ろうとする意思からパウラの言おうとすることがわかるようになった。クリスとアンナの二人はドン引きしてたが。


 クリス、アンナ、パウラ。誰か一人が欠けても魔王討伐は成し遂げられなかっただろう。

 僕は三人に囲まれながら感慨深い思いに浸っていた。


 ――これでやっと地球に、日本に帰れそうだ。


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