追いかけっこ
目の前の緑髪少女は、不気味な笑みを浮かべ両方の手のひらを天に向ける。
「わーっはっはっは! まず手始めに、お前たちの記憶を奪ってやる! 出現せよ、グレート・ボート」
無数の茶色い子舟が彼女の上方に出現する。大きさはバラバラで、5mから10mもの船が視界に移る。そして、船の出現と共にあたりが真夜中のように真っ暗となる。
「船たちよ、精霊の力により奴らの記憶を奪い去れ!」
『精霊流し!!』
彼女が技名を唱えるとともに、船が二列に並びゆっくりとゆっくりと私たちに襲い掛かる。
船としては小さいけど、攻撃としては大きすぎる。二列になった茶色い船が、真夜中となった町内にて少しづつ追い詰めてくる。私達が二手に分かれると、船の列も二手に分かれ私たちを追跡してくる。
「クロメぇっ! 頑張って!!」
背中からカオリンの必死な声が聞こえる。
ゆっくりと動く長い一列の船がこちらに近づいてくる。向こうでは、カオリンが必死になって船と空中戦を繰り広げている。カオリンって飛べたんだ……
一方私は、地上で船と追いかけっこ。互角の戦いを繰り広げている。どうやら、遅いな~と思っていた船の速度は、私が走る速度と同じようだ。はあ、はあ、ちょっと疲れてきたな。
あたりが真っ暗なのにもかかわらず、私の前方に真っ黒に染まった影が。船がもう、すぐ近くまで来ているみたい。
「もう、疲れたよ」
私は思わず弱音を吐いてしまう。いくら走っても距離を離せない。疲れにより、走るスピードがどんどん落ちてしまっている。もう、ダメかもしれない。
「スズネ、あなただけでも逃げて」
「コ、コ~ン……」
私の走る速度に合わせて進んでくれていた黄色いキツネさんを、私は先に行かせる。私はもう、逃げ切れない。
私の背中に、変な感覚が伝わってきた。この感覚は何だろう?
半透明の、船? 私のお腹を、貫通しているのかな。ゆっくりと私の体を……体を……
「クロメ! 起きて」
「コォォン……」
何やら声がする。女の子と、動物の。
「わーっはっはっは! 1人は失敗したが、もう一人は成功したようだな。はっはっは~ 私は満足じゃ」
小さい子供の声も聞こえる。一体ここはどこなんだろう。
「ふわぁああ!」
大きなあくびをしながら私は起き上がり、周囲を見渡す。すっかり夜中になっちゃっている。建物がいっぱいだ。カフェみたいなのも何件かあるみたい。ここは、夜の街かな? 私は、何をしていたのだろうか?
「クロメ、大丈夫?」
「コン……」
可愛い女の子とキツネさんだ。可愛いもの同士、絵になるね。
「わーっはっはっは!」
ちょっと離れたところで、小さな緑髪の女の子が変な笑い声を上げている。あの女の子のお友達かな?
「ホワン、ホワン、ホワン」
ところで、私の近くを浮遊しているこの茶色いのは何なのだろうか。そして、私の目の前を天に向かって一列に進んでいる船の群れは何なんだろう?
「クロメ、あれを取り戻しに行くよ!」
「コン!」
女の子とキツネさんが、私に呼びかける。彼女が示した先には、船の群れが。よく見てみると群れの真ん中に、謎の球体がある。
「クロメの記憶」
何か文字が書かれている。あれを取り戻せばいいのか。でも、どうやって?




