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雨ノ檻  作者: 玉響なつめ
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その はて

 なあなあ、聞いたかい。


 えっ、なにをだい?


 最近、この辺に警察が来てただろう。ほら、なんだったか芸者殺しの犯人が逃げてるってェ話のよ。


 ああ、あったねえ。なんだったっけねえ。片思いの芸者相手に無理心中、てめぇだけ生き残って有り金持って逃げ出した……だったっけ?


 そう! そう! そいつさぁ。


 そいつがどうしたってんだい。見つかってまたぞろどこかの女でも殺してたってのかい。


 いいや、いいや、そうじゃあねえよ。それだったらとっくにこの辺鄙な田舎にも新聞記者くらいこらぁね。


 ま、そりゃそうか。で、どしたい。


 その犯人がよ、どこぞの書生さんだったらしいんだけどよ。おっかさんがこっちが郷里だったってんで逃げてきたんじゃあねえかって話だったんだよ。ほらよう、この辺り、ろくでもねえ言い伝えがあるじゃあねえか。


 ああ、あれかあ……咎人喰らいの女、だろう?


 おうよ、おうよ。旅の途中で強盗に遭って非業の死を遂げた女を悼んで村人が死体を埋めてやったけれど、あまりの恨みに怨霊になっちまったからお堂を立てて……ってあれさあ!


 あれがどしたよ。


 なんとねえ、例の書生さんとやらはよ、例のお堂の跡地で見っかったんだとよ!


 へえ! そりゃぁ……そりゃぁ、一体どういうこったい。あんな場所、今じゃあ誰も住んでないだろう? いくら親戚筋を頼って逃げてきたにしたって、今じゃああそこいらは廃村になっちまって暮らすことさえ難しい。隠れるにしたってもう少し真っ当な場所があったろうに……。


 そりゃまあ、こっちにゃわからんねえ。だけどよ、奇妙なのはこっからさ。


 ええ?


 ほら、よう。見つかったは見つかったんだけどよう、死んでたんだってさあ。


 獣にでもやられちまったんじゃあないのかい。あそこいらは熊こそ出ないが野犬は出たろう?


 いいや、それがよう、あんまりにもあんまりな死にざまだったんだとよ。


 ……ええ?


 そりゃもう、肌艶いい状態で、死んでるはずなのに死んでるようには見えないくらい綺麗だったんだってよう。だけどよ、だけどだよ?


 どう、いうことだったんだい?


 全身にさ、鬼薊(オニアザミ)の棘が刺さるみたいな死に姿でよう。顔だけが綺麗に残されてたんだと。しかもその花はさ、普通は紫がかってンのによう、まるでそいつの血を吸ったがごとく、真っ赤だったんだってよう……。


 偶然。偶然だろうさあ。


 そうだねえ、赤い(あざみ)がねえわけじゃねえしよう。だけどよ、偶然ってえのはそんなに重なるもんかねえ?


 ええ? どういうこったい。


 その書生モドキがよ、殺しちまったぁ芸者の芸名がよ、「おにあざみ」ってぇんだと。強く蔓延る、棘がある、そんな綺麗な花になりてえとかなんとか言ってたらしくてよ。


 ……お前さん、それどっから聞いたんだい?


 ええ? いやあ、ほら、親戚に新聞記者がいてよう。


 そんな話、そこいらでするんじゃあねえぞ! 咎人喰らいの女が聞きつけてたらどうなっちまうんだよ。


 なんだよ、そいつはただの言い伝えだろ?


 馬ぁ鹿、あれこそ、真実さあ。真実と言えば言い伝えってのが実は……うん? いやだねえ、また雨が降ってきやがったじゃあないか。


 本当だ。


 ……そういやお前、最近彼女を連れてねえなあ。


 あ? いや、あの女とはすっぱり切れたのよ。なんせあの女、俺以外の男にも色目を使ってやがったからよ。


 気をつけろよ。


 なんだよ。


 雨に呑まれて、どっかに連れてかれちまわないように、だよ。


 はは、あんまり脅してくれるない!


 そうだな、ちっと言い過ぎか!


 ははは!

 ははは!


 ――あっはははははははは!


 ……今、高笑いしたのは誰だ?


 俺じゃあないな。


 俺でもないぞ。


 ええ?


 じゃあ、誰だよ。


 男だったか?


 女だったか?


『ざあ、ざあ、ざあ、ざあ』


 ……そうだ、雨のせいだ。


『ざあ、ざあ、ざあ、ざあ』


 そうだ、雨のせいだ。


『ざあ、ざあ、ざあ、ざあ』


 帰ろうぜ。


『ざあ、ざあ、ざあ、ざあ』


 そうだ、帰ろうぜ。


『ざあ、ざあ、ざあ、ざあ』


『ざあ、ざあ、ざあ、ざあ』


『ざあ、ざあ、ざ、ざ、ざ』




「おかえりなさい!」

お付き合いありがとうございました!


いつもの玉響とは違う雰囲気が出ていたら嬉しいなあ。

というわけで、楽しんでいただけたなら幸いです。


本編タイトルを繋ぎ合わせると……!? というところまで色々考えてみましたが、なかなか難しいものですね……!

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