↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文19年(1550年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

547/2282

第五百四十六話・太原雪斎

Side:織田信秀


 少しやつれたか? 守護様とわしの前で深々と頭を下げる太原雪斎にそう感じた。わしが会うたのは昨年の夏だ。僅か一年あまりで、身に纏《まと》う威《い》が変わった気がする。


 秋も深まるこの時期、この男が少数の供だけで尾張に参った目的は、おおよその見当はついておる。


「用件はなんじゃ?」


「天下太平のため、そろそろ和睦をしては、いかがかと思い、参上致しました」


 『今川家にこの人あり』と言われる太原雪斎にしては、ありきたりな言葉だな。


「左様か。ならば遠江を返すがいい。それと謝罪で和睦はなろう」


 くだらぬ。天下太平など天下を真の意味で見ておらぬから言えるのだ。体裁を気にする以上はこちらも遠慮してやる義理はない。


 守護様も左様判断されたのか、遠慮なく遠江を返せと言われた。わしには取り返せとは言われぬが、遠江を奪った今川に和睦などと言われて面白うはずがない。演技もしておられるとは思うが、不快そうな面相で人に会うのは珍しい。


「遠江はお返しできませぬ。今川家には今川家の言い分がございます。されど代わりに三河一国を明け渡すことでいかがでございましょうか?」


「それで? 今度は甲斐を攻めるゆえ、指を咥えて見ておれということか?」


「さにあらず。斯波家と織田家はこの先、天下を目指すのでございましょう。それは東が落ち着かねば、叶うことではありませぬ。和睦がなった暁には、斯波家、今川家、北条家の東海三家で同盟を結んではいかがかと愚考致しました」


 それなりに考えてきたということか。とはいえ少し今川に都合が良すぎる。確かに畿内に進むならば、東が落ち着いてほしいのは確かだが。それでも昨年の熱田で、わしが日ノ本から戦をなくす策を問うたことを考えてのことか。


「加えて斯波様には、良き時を見計らって、今川家より管領に就任されるべくお力添え致します」


 ほう、ここで管領など持ち出すか。さすがは太原雪斎だな。


 管領自体にたいした力はない。とはいえ零落《れいらく》した斯波家の権威回復と畿内に介入する口実にはなるか。しかし守護様を知らぬということが可哀そうになる。


「要らぬ。管領など不要だ。知らぬのか? 斯波家では過去に管領を辞退致したこともあるのだぞ。それに公方様が京の都から逃れて近江におる現状で、今更管領などになって何ができるのだ? それに細川はいかがする? 今川が押さえて納得させてくれるのか?」


 太原雪斎の表情が僅かに強張った。守護様は明らかに不快を表に出した面相になり、この場で即決にて否定された。この流れは考えてなかったか。


 確かに実権までは与えておらんのだ。使える手を勝手に潰すと、我ら織田が怒《いか》るとは思わなかったのか? だが意思疎通はしておる。


 織田には管領など必要ないし、そもそも尾張では守護様が一番管領と足利を嫌っておるのだ。それを知らなかったのが失策だったな。


 もっともこの件は尾張でも、ごく限られた者しか知らぬこと。知らぬのも無理はないが。


「……では美濃の守護職でいかがでしょうか? 斯波家が尾張、美濃、三河の三か国を得るために、今川家もお力添え致しましょう。その上で東国との商いをする者への優遇と船の保護も致します」


 失策を悟った雪斎の切り返しは早かった。この辺りはさすがだな。然れど、美濃守護か。


「雪斎。そちは昨年、弾正忠に問われた答えを持ってきたのか? 今川は日ノ本をいかに考え、いかに致すべきだと思うのだ? 甲斐の武田が信濃で敗けたゆえ攻めるのか? それでは獣と同じではないか」


 守護様の顔色が少し変わり、こちらへ視線のみで、わしを見た。多少検討するに値する話ではある。ちょうど蝮の臣従の話があるからな。


 とはいえ守護様は今川との和睦や同盟には、本意は元より利を考えての賛意もないらしいな。今川がなにを考えておるのか。そしてなにを目指すのか。それを確かめようとされた。


「今川家は天下を求めず。ひたすら天下の安寧に助力する次第でございます」


「その言葉、今川でなくば信じられたかもしれんな。とはいえ少し考えたい。今日は下がれ」


 雪斎の返答は悪くはなかった。状況次第では助力もするし従うとも取れる。まあ言質を取られるような愚か者ではない。


 そのまま受け取れば足利に従い、天下の安寧を願うだけでも嘘にはならぬな。


 さて、いかがするか。




Side:久遠一馬


「どうなるかね?」


「武田と潰し合うか、武田を滅ぼすなら一時的に見逃す価値はありますよ」


 屋敷の縁側にてエルの膝枕でのんびりとしていたところに、太原雪斎が清洲城に入ったという知らせが届いた。


 まあオレたちが会うわけではないからね。決めるのも信秀さんだ。


 一方で斎藤家の臣従に関しても条件の話し合いをしている。無条件で臣従と言っても粗末には扱えない。とはいえ臣従するには身代《しんだい》が少し大きすぎるのが問題にもなっている。


 最近はおとなしいが、暗殺の噂があった略取者(りゃくしゅもの)として有名だ。織田家中には抵抗感がある者もいるし不安視する者もいる。


 いつ裏切るかわからない斎藤家の臣従を信用していいのかという意見も根強い。ウチもそこまで斎藤家の臣従を後押ししているわけではないからね。


 あと地味に問題になっているのは嫡男義龍さんの奥方が浅井家の女性だということと、嫡男の子、世子《せいし》が数え歳で三歳になることか。名を喜太郎君。史実の斎藤龍興だ。


 浅井家って、微妙に貧乏神とかの厄神《やくしん》的な何かの様な気がするのはオレだけか? あんまりイメージ良くないんだよね。


 六角や朝倉や京極などの周囲の勢力バランスと過去の妥協により存在する浅井家だが、なんというか微妙な存在なんだよね。この時代では。


 現在は六角に臣従しているが、浅井家中はそれがおもしろくないらしいし、どこか松平宗家と似てないか?


 織田家中には義龍さんに対して正妻である近江の方との離縁と、喜太郎君を仏門に入れるか浅井に送れという意見もある。


 斎藤家が力を付けたところで、浅井と組んで裏切るのではと考える人もいるんだよね。その可能性が高いとは言わないが、過去の道三さんのやってきたことをみるとあり得なくもないから困る。


「むにゃむにゃ……える……かじゅま」


 どうなるかなと考えていたら、お昼寝中のお市ちゃんが寝言を口にした。


 心配しなくても浅井家には嫁(とつ)ぐことにはならないって。この世界の浅井家にそんな価値はない。って心配してるわけじゃないか。


「発言権が大きくなるのも難しいね」


「織田家は過渡期にあります。皆が意見を交わして言葉で互いに理解して考えることが必要なのです」


 少しもどかしいところもあるが、オレたちは発言権が強くなり過ぎた。織田家の改革に関しては主導しているし、家中もそれを概ね認めてくれている。


 ただその分だけ、みんなの意見を聞き、議論する方向に導かないといけない。


 少し前にエルからそんなことを言われて以降は、議論の誘導をすることはあっても阻害や抑制をすることはなるべくしないようにしている。


 特に今川家との問題や斎藤家の臣従は、必ずしも絶対に正しい答えなんてない。道三さんにしても、今は違っても、いつか隙があれば自分の天下をと狙っても別におかしくはない。


 みんなで議論して考えることはこの先のために必要だ。斎藤家の問題は、斎藤家側も議論の場、それを求めている。全てを織田が決めて命じられる。そこまで粗末な扱いを受けるとは思ってないようだが、きちんと話したいことはあるみたいなんだよね。


 特に織田の改革は、あちらの家臣たちには理解ができてないところが多いらしい。


「くーん」


「くんくん」


 いろいろ考えていると眠気が襲ってくる。エルの膝枕は柔らかく、暖かみの残る秋の日差しが差し込むとうとうとしてしまうが、大人になっても甘えん坊なロボとブランカが自分たちも混ぜてと駆け寄ってきた。


 一緒にお昼寝でもするか?


 というかお昼寝というテンションじゃないね。遊んでほしいのか。仕方ないなぁ。





太原雪斎。今川家の黒衣の宰相

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

f32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_b3h407nu97vpxj6mn46wo16nzbyfl_a86_gp_on_d1i3l8a7jekdaacv9fwp2m0w2eaxh_l5t_140_1mj58tiewczhgh6e0rrl48o4mhrhy3h_wmh_16e_1pqf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_b

書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] まあ、名門意識に凝り固まった今川家なんていらん罠w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。